SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

令和7年度春期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 ITサービス継続管理に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 Q社は自動車保険を販売する損害保険会社である。Q社の自動車保険部は,全国に10か所ある損害サービス拠点を統括している。損害サービス拠点では,事故対応サービスを利用して,被保険者などから事故発生の連絡を受け付け,損害金見積りなどの事故対応を行っている。事故対応サービスは,Q社情報システム部で運用される損害調査システムによって実現されている。情報システム部では,「事故受付リクエスト全件の95%に対して応答時間を5秒以内とする」ことを,事故対応サービスのサービスレベル目標としている。自動車保険部及び情報システム部は,首都圏にある本社で業務を行っている。情報システム部が運用している主要システムの概要を表1に示す。 各システムのITインフラ(サーバ,ストレージなど)は,オンプレミスで本社にある自社データセンター(以下,DCという)に配置している。情報システム部は,システム障害対策として,毎日0時時点で損害調査システム及び契約管理システムのストレージのデータを24時間間隔でフルバックアップしている。また,情報システム部では災害に備えたバックアップの方針として,フルバックアップを遠隔地にも保管することとしている。そこで,フルバックアップはDC内のバックアップ専用の別ストレージに保存し,災害に備えてクラウド事業者S社のサービス(以下,Sクラウドという)のストレージサービスにも転送して保存している。なお,Sクラウドは,Q社本社の遠隔地となる関西のS社データセンターで稼働しており,サービス対象データのバックアップを常に取り,S社データセンターに保存している。 〔現在のITサービス継続計画〕 Q社では,地震などの自然災害が発生した場合,被保険者に対して損害サービス拠点で事故対応サービスを継続する方針で,事業継続計画(以下,BCPという)を定めている。情報システム部は,BCPで想定している規模の災害が発生してDCが被災した場合の復旧措置を,ITサービス継続計画に定めている。 ITサービス継続計画では,損害調査システムを,被災後48時間以内に復旧させる計画である。復旧作業を行う場合に必要な復旧手順書の最新版は,DCの文書管理システムに文書ファイル(以下,Fファイルという)として保存していて,情報システム部の要員は,Fファイルに基づいて復旧作業を行う。損害調査システムのストレージの復旧作業が必要な場合は,バックアップしてあるストレージのデータをリストアして,更新ログを使って被災時点のファイルの内容に復旧させる手順となる。ここで,被災によって更新ログが使用不能な場合は,バックアップ時点から被災発生時点までの更新内容は,自動車保険部による再入力が必要となる。また,DCに保存してあるバックアップが被災して使用できない場合は,(ア)Sクラウドに保存してあるバックアップを使って復旧する。なお,障害復旧後のシステムの正常稼働については,情報システム部のシステム担当が自動車保険部へ業務面の確認をして判断している。 〔ITサービス継続計画の見直し〕 2024年4月にQ社は,競合他社との差別化を図るため,BCPを変更し,災害時は事故受付業務を12時間以内に優先して再開することを決めた。情報システムに関連しては,次のように変更する。 ・災害発生後に事故受付業務を再開できるよう損害調査システムを「暫定復旧」する。「目標復旧時間(以下,RTOという)は,障害発生から10時間以内」とする。 ・事故受付業務の再開時は,災害発生直前に事故受付した被保険者の対応を,損害調査システムの事故進捗管理機能を利用して継続できるように,目標復旧時点(以下,RPOという)を被災時点に変更する。 情報システム部は,BCPの変更に伴い,ITサービス継続計画の見直しを開始した。情報システム部長はITサービスマネージャのR氏に,事故受付で利用する損害調査システムのITサービス継続計画の見直しを指示した。 R氏は,これまでのオンプレミスでの復旧ではRTO及びRPOの目標達成は困難であると考え,損害調査システムの現用系システムとは別に,Sクラウドが提供しているサーバサービスを利用して待機系システムを稼働し,暫定復旧させる復旧方針案を検討した。具体的には,Sクラウドのサーバサービスを用いて損害調査システムの待機系システムを準備し,更新ログのデータは現用系システムの更新ログと常に同期をとっておく。損害調査システム復旧の手順は次のとおりである。 ・DC被災時は,Sクラウドにバックアップしてあるフルバックアップと更新ログのデータとを用いて待機系システムのファイルの内容を被災時点に更新する。 ・被災時点のファイルが準備できたら,待機系システムを起動する。 ・損害サービス拠点及び本社のPCの接続先を待機系システムに変更する。 R氏の考えた方針案は,情報システム部でレビューされた。復旧方針案は,次の2点の指摘に対応することを条件として承認され,具体的なITサービス継続計画の検討に進むこととなった。 ・情報システム部のバックアップ方針に関連して確認すべきことがある。待機系システムを使って損害調査システムを稼働させた場合,待機系システム稼働中にシステム障害が発生したときに備えて,S社の責任範囲として(イ)Sクラウドで実施しているバックアップ運用についてS社に確認を行って,必要な対策を検討すること。 ・ITサービス継続計画に基づいてテストを行うこと。(ウ)正式なRTOは,テスト結果を評価して自動車保険部と合意すること。 〔サービス継続措置の検討〕 R氏は,災害発生から全面復旧までの緊急時対応について,フェーズごとに対応内容を確認し,表2のように整理した。 次に,R氏は,ITインフラ担当と実際にSクラウドに待機系システムを準備し,暫定復旧フェーズ及び代替運用フェーズを想定し待機系システムでの障害からの復旧をテストした。テストの結果は次のとおりであった。 ・データ回復から業務復旧確認までは6時間であり,RTOを達成見込である。ただし,データ回復作業の一部で,SクラウドのS社担当者と連携して作業を進める必要がある。 ・復旧後の待機系システムで被災前時点のデータ欠落はなく,RPOを達成できる見込である。 ・待機系システムは,損害サービス拠点及び本社のPCから問題なく業務利用できることを確認できた。 ・Sクラウドのサーバサービスの制約から,待機系システムでは,事故受付リクエスト全件の95%が応答時間10秒以内に収まる結果となった。 R氏は,応答時間についてのテスト結果を踏まえ,Sクラウドのサーバサービスの能力を向上させる検討を,情報システム部長に相談した。R氏は,情報システム部長から,「能力向上の検討の前に,(エ)代替運用フェーズの目標復旧レベル(以下,RLOという)について,自動車保険部と協議すること」を指示された。 〔緊急事態発動時の体制整備〕 R氏は,検討してきた事項を取り込み,ITサービス継続計画見直し版としてまとめた。情報システム部及び自動車保険部は,R氏がまとめたITサービス継続計画見直し版を,合同でレビューした。レビューの結果,現在の緊急事態発動時の連絡体制を改定することになった。現在,BCPでは自動車保険部にBCP対策本部及び自動車保険部事務局を設置し,自動車保険部事務局で業務復旧のコントロールをすることにしている。また,情報システム部にBCP対策本部及び情報システム部事務局を設置し,自動車保険部事務局と連携してITサービスの復旧コントロールをする。ここで,情報システム部のシステム担当には,自動車保険部の事故対応サービス担当に[a]を依頼する役割をもたせ,情報システム部BCP対策本部の対策本部長及び情報システム部事務局が事故対応サービスにおける復旧状況を判断できるようにしている。現在の緊急事態発動時の連絡体制を図1に示す。 情報システム部では,今までITサービス継続計画に基づいた緊急事態対応訓練を年1回実施することで,ITサービス継続計画の評価を行い,緊急時の連絡を含む確認を行ってきた。R氏は,ITサービス継続計画の見直しに伴い,(オ)現在の緊急事態対応訓練の計画に,S社に要請して体制面の内容を追加し,訓練を実施することを計画した。 設問1〔現在のITサービス継続計画〕について答えよ。 (1)本文中の下線(ア)について,目標復旧時点(RPO)を10字以内で答えよ。 (2)現在の計画では,文書管理システムが被災して使用不能となった場合は,復旧作業に支障が出ることが想定される。必要な対策を,50字以内で答えよ。 設問2〔ITサービス継続計画の見直し〕について答えよ。 (1)本文中の下線(イ)について,確認すべきことは何か。20字以内で答えよ。 (2)本文中の下線(ウ)について,正式なRTOをテスト結果評価後に合意する目的は何か。20字以内で答えよ。 設問3〔サービス継続措置の検討〕について,テスト結果を踏まえて,下線(エ)のRLOの内容を,30字以内で答えよ。 設問4〔緊急事態発動時の体制整備〕について答えよ。 (1)本文中の[a]について,自動車保険部の事故対応サービス担当に依頼することは何か。ITサービス継続計画見直し後を想定して,25字以内で答えよ。 (2)本文中の下線(オ)について,S社に要請すべき体制面の内容を,20字以内で答えよ。
表1 主要システムの概要。損害調査、契約管理及び文書管理システムの機能と利用拠点を示す。
表1 主要システムの概要。損害調査、契約管理及び文書管理システムの機能と利用拠点を示す。
表2 緊急時対応のフェーズと対応内容。発動準備、暫定復旧、代替運用及び全面復旧を示す。
表2 緊急時対応のフェーズと対応内容。発動準備、暫定復旧、代替運用及び全面復旧を示す。
図1 現在の緊急事態発動時の連絡体制。自動車保険部と情報システム部の連絡・指示系統を示す。
図1 現在の緊急事態発動時の連絡体制。自動車保険部と情報システム部の連絡・指示系統を示す。
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判断の前提条件をそろえる

この分野を考えるときは、判断の前提となる条件がそろっているかに注目しましょう。用語の印象だけで結論を急がず、何を対象に、どのような状況を想定しているかを整理すると、考えるための軸が定まります。

この問題で問われていること

考える際には、与えられた条件と自分が補った想定を分け、判断の土台が途中で変わっていないかを確認してください。曖昧な部分はすぐに埋めず、どの条件を前提として考えているかを意識しましょう。

視点

同じ言葉でも、対象や想定する状況によって検討の前提は変わります。まず条件を短い言葉で整理し、その条件を保ったまま考えを進めることが大切です。

確認ポイント

  • 判断の前提となる条件を整理できているか
  • 与えられた条件に独自の想定を足していないか
  • 考える途中で前提条件を変えていないか
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解説

BCPの変更に合わせ、クラウドの待機系を用いて事故受付業務を早期に再開する事例です。バックアップ方針との整合、実現可能な復旧目標の合意、利用部門による業務復旧確認、S社との連携体制が要点です。

問題の全体像

Q社は、災害時の事故受付業務を12時間以内に再開するため、損害調査システムの継続計画を見直しています。システムのRTOを障害発生から10時間以内、RPOを被災時点とし、Sクラウドの待機系による暫定復旧を検討する事例です。公式の出題趣旨では、BCPと連携した継続計画の策定、目標達成に向けた課題認識と復旧方式の検討、発動から暫定回復までの実施項目の検討・評価を問うとしています。技術的な復旧だけでなく、業務上必要な水準と関係者の体制まで計画に組み込むことが重要です。

設問1(1)

毎日0時時点のデータを24時間間隔でフルバックアップし、そのバックアップをSクラウドにも保存している記述に着目します。Sクラウドに保存したフルバックアップから戻せるデータの時点は、直近のバックアップ時点です。公式解答例では「被災当日の0時」としています。本文には更新ログを使って被災時点まで復旧する手順もありますが、被災によって更新ログが使用不能になる場合も示されています。この設問では、Sクラウドに保存したバックアップが保持する時点を答えます。10字以内なので「被災当日の0時」と簡潔に示します。

設問1(2)

復旧作業に必要な最新版の手順書であるFファイルが、DCの文書管理システムに保存されている点に着目します。文書管理システムが被災すると、復旧方法を確認できず、作業に支障が出ます。公式解答例では、FファイルをバックアップしてSクラウドへ転送・保存し被災時に参照可能にする方法と、最新版の手順書を印刷して使用する拠点に配備する方法が示されています。50字以内の答案では、例えば「最新版のFファイルをSクラウドにバックアップして保存し、被災時にも参照可能とする。」のように、最新版の手順書を被災時にも利用できる対策を具体化します。

設問2(1)

確認対象は、待機系システムの稼働中に、S社の責任範囲で実施されるバックアップ運用です。Q社は既に、DCのフルバックアップを遠隔地のSクラウドにも保存しています。一方、Sクラウド自身のバックアップはS社データセンターに保存すると記されており、待機系の稼働場所からさらに遠隔地へ保管されるかは明らかではありません。公式解答例では「バックアップの遠隔地保管の有無」と「SクラウドのRPO及びRTO」が示されています。待機系稼働中の障害や災害に備え、保管場所と復旧可能な時点・時間が要求に合うかを確認する趣旨です。20字以内では、公式解答例の各確認事項を簡潔に表せます。採点講評でも、自社の災害対策方針とクラウドサービスの対応内容の整合を確認する重要性が述べられています。

設問2(2)

正式なRTOを、テスト結果の評価後に自動車保険部と合意するという順序に着目します。計画上の目標だけでは、実際の復旧作業で達成できるか判断できません。テストで復旧に要する時間や作業上の条件を確かめ、その評価を基に利用部門と合意することで、実現可能な目標を定めます。公式解答例は「実現可能なRTOとするため」です。20字以内では、この目的をそのまま簡潔に示せます。採点講評では、単にテスト結果を目標値へ反映するという説明にとどまらず、実現可能な目標を設定するための合意形成を理解することが求められています。

設問3

待機系のテストでは、事故受付リクエスト全件の95%が応答時間10秒以内に収まっています。通常時のサービスレベル目標は95%に対して5秒以内ですが、代替運用フェーズでは、業務継続に必要なサービス水準を自動車保険部と協議する必要があります。ここで問われるRLOは、復旧までの時間ではなく、復旧後に提供するサービスの水準です。公式解答例では「事故受付リクエスト全件の95%の応答時間が10秒以内」としています。30字以内の答案では、対象となるリクエスト、95%という割合、10秒以内という応答時間を押さえます。

設問4(1)

図1では、事故対応サービス担当が損害サービス拠点及び本社に対して、業務影響確認と業務復旧の確認を行う関係が示されています。見直し後は各拠点と本社のPCを待機系へ接続するため、システムの起動だけでなく、利用者が業務を行える状態になったかを確認する必要があります。公式解答例は「損害サービス拠点及び本社での業務面の復旧確認」です。25字以内では、確認する場所と業務面の復旧確認という内容を示します。採点講評では、業務影響や業務再開可否をサービス利用者側で確認する役割について、事前に合意して計画に組み込む重要性が述べられています。

設問4(2)

テスト結果の「データ回復作業の一部で、S社担当者と連携して作業を進める必要がある」という記述が根拠です。緊急時にも連携して復旧できるよう、訓練で連絡や作業分担を確認し、実際のデータ回復を担うS社の体制を確保する必要があります。公式解答例では「S社担当者の緊急事態対応訓練への参加」と「データ回復作業を行うS社体制の確保」の二つが示されています。20字以内では、例えば「S社担当者の緊急事態対応訓練への参加」のように、S社に要請する体制面の内容を具体的に示します。

学習のポイント

RPO・RTO・RLOを区別し、バックアップの遠隔地保管、復旧手順の参照性、利用部門とクラウド事業者の役割を本文から具体化する力を養いましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和7年度春期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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