SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

令和7年度春期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 高可用性システムの信頼性向上に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 U社は,一般のインターネット利用者に動画配信サービス(以下,Tサービスという)を24時間365日提供している。Tサービスは,W社のパブリッククラウドサービスを使ったTシステムによって実現されている。稼働環境と試験環境が存在し,稼働環境では高い可用性が求められている。Tサービスは,現在T1からT5の五つのマイクロサービス(以下,T1~T5サービスという)で構成されている。 〔Tサービスの開発と運用における課題〕 U社情報システム部は,開発課と運用課で構成され,開発課は開発課長の下でTサービスの開発を,運用課は運用課長の下でTサービスの運用を担当している。情報システム部では,スクラムによるアジャイル開発を採用し,開発課と運用課が連携してリリースサイクルを短縮することを目的にDevOpsを推進してきた。スクラム開発によってリリース頻度が高まる一方で,運用課の受入準備が追い付かないといった事象が度々発生するようになった。また,停止時間は僅かではあるがサービス停止の事象も何回か発生しており,システムの信頼性が確保された安定した運用が求められている。 そこで,情報システム部のX部長は,SRE(Site Reliability Engineering)の考え方を取り入れ,開発から運用までのライフサイクルに関わり,稼働するTサービスの信頼性に責任をもつ組織を作る必要があると考えた。X部長は,U社の経営層から了承を得て,暫定的なSREチーム(以下,Sチームという)を作り,3か月後に正式なサービス開始を予定しているTサービスの一つのマイクロサービス(以下,T6サービスという)を対象として,検証を行うことにした。検証期間の間,情報システム部は,開発課,運用課及びSチームの三つの組織構成とし,SチームはX部長が直轄する。 T6サービスは,今後も反復アプローチに基づいた開発が継続する状況にあり,開発課は機能追加の開発に専念する必要がある。X部長は,チームの編成に当たって,開発課長及び運用課長と調整を行い,開発課と運用課から(ア)開発経験と運用経験をともに有する要員をSチームに参画させることにし,T6サービスを含むTサービスに関する役割分担を表1に整理した。 〔Sチームの目標設定〕 サービスの信頼性には,スループットや可用性などが該当し,サービスの信頼性を示す指標には,SLI(Service Level Indicator:サービスレベル指標)とSLO(Service Level Objective:サービスレベル目標)がある。SLIは,信頼性の目標が守られているかどうかを評価するために使うサービスレベルの計測値のことである。SLOは,SLIで計測されるサービスレベルの目標値のことである。 Sチームは,T6サービスにおけるSLIとSLOについて検討を行った。その結果を表2に示す。ここで,稼働率は算出式に基づいて毎日算出することにし,対象期間は対象日を含む過去30日間とする。 また,Sチームは,エラーバジェット(以下,EBという)の運用を採用することにした。EBとは,サービスの信頼性が一定程度損なわれても許容できる時間を示す指標のことであり,定期リリースや緊急リリースの展開に伴って発生する稼働停止の時間及びエラー対処に要した時間をEBから消費させていく運用を行う。T6サービスのEBはSLOが未達状態とならないサービス停止時間の最大値とする。具体的には,SLOが表2の場合,対象日を含む過去30日間の対象期間の中で15分をEBの最大値とし,その範囲でのサービス停止を許容した上でサービスを運用する。 EBの消費がひっ迫した場合は,開発課と協議を行い,更なる信頼性低下のリスクを抑えるためにリリース作業と機能追加開発作業を凍結し,サービスの安定性を重視した信頼性回復のための作業を優先して行うことにする。EBの消費ひっ迫をEBが3分以下(EBを12分消費)となった場合と定め,信頼性回復作業はSチームと開発課が主体的に取り組む。Sチームで検討したEBの運用ルール案を表3に示す。 Sチームは,X部長に運用ルール案を報告したところ,項番2について(イ)リリース作業の凍結については,例外規定を設けることを検討するように指示を受けた。Sチームは,検討した結果をX部長に提案し,X部長は提案内容を含めて運用ルール案を承認し,試行運用を開始するようにSチームに指示した。 〔試行運用の開始〕 Sチームは,4月1日からEBの試行運用を開始した。T6サービスは,2月1日からサービス開始に向けた準備を進めて稼働環境で稼働しており,3月はリリース作業などによるサービス停止の停止時間は発生していない。したがって,4月1日開始時点でのSLIの稼働率は,対象日を含む過去30日間のサービス稼働予定時間である43、200分から算出された100%となり,EBは15分である。試行運用開始後の結果を表4に示す。ここで,EBは,次の計算式に基づいて計算される。 当日のEBの消費とは「当日発生したサービス停止時間のこと」であり,当日のEBの回復とは「過去に発生したサービス停止事象が対象日(当日)を含む過去30日間から外れたので,EBに追加する当該事象のサービス停止時間のこと」である。例えば,4月2日のEBの計算では,前日のEBが15分,当日のEBの消費が1分,当日のEBの回復が0分であり,計算結果は14分となる。 また,Sチームは,(ウ)4月26日に信頼性回復のための改善活動を開始した。改善活動を開始するに当たって,Sチームは,開発課と,EBの推移を示して議論を行い,T6サービスの信頼性についての認識を合わせた。改善活動の候補を議論したところ,稼働環境へのリリース方法について,(エ)T6サービスを停止することなくリリース作業が可能となる方式が実現できないかどうかの検討に取り組むことにした。 〔試行運用の振り返り〕 X部長は,試行運用の振り返りと今後の本格運用に向けた改善点などについて,Sチームにヒアリングを行ったところ,次の意見が出された。 ・開発課と[b]の実施判断について,EBを使って効果的な議論を行い,T6サービスの信頼性低下のリスクを抑えることができた。 ・4月11日は,「数名の利用者が,問合せリクエストへの応答がないので再度リクエスト入力したという報告」を受けた対策をしている。調査したところ,プログラムでエラーが発生していて,リクエストが失敗となっていた。稼働時間を基に算出する稼働率のSLIだけでは,十分でないように感じる。そこで,サービス利用者からの客観的な評価を反映したサービスの信頼性指標として「T6サービスが受け付けた総リクエスト数に対する[c]の割合」をSLIに追加した方がよい。 X部長は,今後の本格運用に向けて,改善計画を策定することにした。 設問1〔Tサービスの開発と運用における課題〕の本文中の下線(ア)について,運用だけでなく開発の業務経験が必要な理由を,30字以内で答えよ。 設問2〔Sチームの目標設定〕の本文中の下線(イ)について,例外規定を設ける理由を,30字以内で答えよ。 設問3〔試行運用の開始〕について答えよ。 (1)表4中のaに入れる適切な数値を答えよ。 (2)本文中の下線(ウ)について,4月26日に信頼性回復のための改善活動を開始した理由を,25字以内で答えよ。 (3)本文中の下線(エ)について,サービスを停止することなくリリース作業が可能となる方式に変更することで得られる利点を,SLOの観点から30字以内で答えよ。 設問4〔試行運用の振り返り〕について答えよ。 (1)本文中の[b]に入れる適切な字句を,15字以内で答えよ。 (2)本文中の[c]に入れる適切な字句を,リクエスト数に着目して,15字以内で答えよ。
表1 Tサービスの役割分担。T1〜T5サービスとT6サービスの担当組織を示す。
表1 Tサービスの役割分担。T1〜T5サービスとT6サービスの担当組織を示す。
表2 T6サービスにおけるSLIとSLO。稼働率の目標値、算出式及び注記を示す。
表2 T6サービスにおけるSLIとSLO。稼働率の目標値、算出式及び注記を示す。
表3 EBの運用ルール案。EBの上限、凍結開始条件及び凍結解除判断を示す。
表3 EBの運用ルール案。EBの上限、凍結開始条件及び凍結解除判断を示す。
表4 試行運用開始後の結果。日付ごとの稼働率、EB、停止時間及び発生事象を示す。
表4 試行運用開始後の結果。日付ごとの稼働率、EB、停止時間及び発生事象を示す。
エラーバジェットの計算式。当日のEBを前日のEB、消費及び回復で算出する式。
エラーバジェットの計算式。当日のEBを前日のEB、消費及び回復で算出する式。
解き方のヒントを見る

検討に用いる前提を整理する

サービスの信頼性や開発・運用の連携を考える際は、判断の土台となる前提に注目しましょう。与えられた条件と、自分が補っている想定を区別して整理すると、知識だけで結論を急ぐことを防げます。

この問題で問われていること

検討の焦点は、考えようとしている内容がどの前提に基づくかを確かめることです。示された情報に戻り、根拠のある条件と追加の想定を分けて捉え、その違いを曖昧にしたまま判断していないか確認しましょう。

視点

前提とは、検討を進めるときに土台として置く条件や想定です。明示された情報と、自分の経験や知識から補った内容は、いずれも前提になり得ますが、その出所を区別して整理しましょう。

確認ポイント

  • 判断の土台にしている条件を言葉にできているか
  • その条件は与えられた情報から確認できるか
  • 自分で補った想定を、示された条件と混同していないか
正解と解説を見る

解説

本問は、SREの担当業務と開発経験の必要性、EBに基づくリリース判断、過去30日間の対象期間によるEBの回復を問います。無停止リリースによるSLO達成への利点と、利用者の体験を反映するSLIの追加も重要な論点です。

問題の全体像

U社は、24時間365日提供する動画配信サービスで、リリース頻度の増加に伴う受入準備の遅れやサービス停止に直面しています。そこでSREの考え方を取り入れ、T6サービスを対象にSチームを設けて信頼性向上を検証します。稼働率のSLOは99.965%、EBの最大値は過去30日間で15分とし、残量に応じてリリースや改善活動を判断します。公式資料の出題趣旨では、EBに基づく作業の進め方、運用の自動化、SREチームの組織のあり方などを通じて、信頼性を向上させる技術と能力を問うとしています。解答では、SREの一般論を述べるだけでなく、T6サービスの担当業務、停止実績、運用ルールを根拠にします。

設問1

表1の項番8に着目します。T6サービスでは、稼働しているアプリケーションプログラムの不具合の改修をSチームが担当します。一方、本文では開発課が機能追加の開発に専念する必要があるとされています。Sチーム自身が不具合を改修するため、運用経験に加えて開発経験が必要です。公式解答例では「アプリケーションプログラムの不具合の改修を実施するから」などが示されています。30字以内の答案では、不具合改修を担当するという具体的な理由を押さえます。採点講評では、開発から運用までのライフサイクル全般に関わる点だけに着目した解答が多かったとされており、T6サービスでの具体的な担当業務に結び付けることが重要です。

設問2

本文のリリース作業を凍結する方針と、表1の注にある定期リリース・緊急リリースの区別に着目します。EBが少なくなった際に全てのリリースを凍結すると、故障対応などに必要な不具合修正の緊急リリースまで実施できなくなります。そのため、緊急リリースを行える例外規定が必要です。公式解答例では「故障対応などの緊急リリースを行う必要があるから」と示されています。30字以内では、故障対応と緊急リリースの必要性を簡潔に述べます。

設問3(1)

公式解答例の数値は「3」です。本文の計算式「当日のEB=前日のEB-当日のEBの消費+当日のEBの回復」を使います。表4では5月1日のEBは2分で、5月2日の停止時間は0分です。5月1日の対象期間は4月2日から5月1日までですが、5月2日には4月3日から5月2日までとなり、4月2日に発生した1分の停止が対象期間から外れます。本文の定義に従い、この1分がEBの回復として加算されるので、5月2日のEBは2-0+1=3分です。稼働率の値から推測するのではなく、過去30日間から外れる停止事象を特定して計算することがポイントです。

設問3(2)

表3の項番2では、EBが3分以下となった場合、協議を行って翌日から稼働環境へのリリースを凍結し、信頼性回復のための改善活動を開始すると定めています。表4では、4月25日に定期リリースで1分、リリース戻し作業で2分、合計3分の停止が発生し、EBが5分から2分に減っています。このため翌日の4月26日に改善活動を開始しました。公式解答例では「4月25日にEBが3分を下回ったから」と示されています。25字以内では、基準に達した日付とEBの残量に関する条件を押さえます。採点講評でも、4月25日にEBが3分を下回った点を答えることが求められています。

設問3(3)

表2のSLOは稼働率99.965%であり、稼働率はサービス停止時間が増えるほど低下します。また、本文と表4の注記では、定期・緊急の区別なく、サービス停止によってEBを消費するとされています。サービスを停止せずにリリースできれば、その作業に伴う停止時間が発生せず、EBの消費や稼働率の低下を防ぐことにつながります。公式解答例では「リリース作業でのEB消費を防止できるから」「稼働率が低下することを防ぐことができるから」「障害復旧時間を短縮することができるから」が示されています。30字以内の答案では、例えば「リリース作業でのEB消費を防止できるから」と、SLO達成につながる利点を述べます。問題文には具体的な無停止リリース方式が示されていないため、実現手段を補わず、得られる利点を説明します。

設問4(1)

本文では、Sチームが開発課とEBの推移を示して議論し、T6サービスの信頼性について認識を合わせています。表3では、EBの残量を基に稼働環境へのリリースの凍結を判断し、凍結解除も両者で協議するとしています。したがって、EBを使って実施判断を議論した対象は稼働環境へのリリース作業です。公式解答例では、bに入る字句を「稼働環境へのリリース作業」としています。この字句は15字以内に収まります。採点講評では、「信頼性回復の改善活動」とした解答が多かったとされており、EBによって実施を判断するリリース作業に着目します。

設問4(2)

4月11日の事象では、プログラムのエラーによってリクエストが失敗し、利用者が応答を得られず再入力しています。サービスの稼働時間に基づく稼働率だけでは、このようなリクエストの失敗を十分に捉えられません。そこで、受け付けた総リクエスト数に対し、成功したリクエスト数が占める割合をSLIに追加します。公式解答例では、cに入る字句を「成功したリクエスト数」としています。この字句は15字以内に収まり、サービスが利用者の要求を正常に処理できた割合を表します。

学習のポイント

役割分担から必要な経験を導くこと、EBの消費・回復と判断基準を区別すること、利用者視点のSLIを理解することを重点に学習します。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和7年度春期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

関連する過去問一覧

IPA Advancedは非公式の学習サイトです。解説にはAIによる補助生成を含む場合があります。公式の問題冊子・解答例・採点講評を優先し、誤りは確認後に訂正します。運営・編集方針