SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

平成30年度秋期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 リリース及び展開管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 W社は,家具販売会社であり,東京に本社がある。W社では,海外で日本製家具の需要が高まっていることから,昨年,欧州支社を設立した。今後も事業のグローバル化を積極的に推進していく方針である。 〔情報システム部の概要〕 情報システム部は,東京本社にあり,システム開発課とシステム運用課で構成され,W社の社員が利用する受注管理サービスを提供している。 ・受注管理サービスの利用は,定期保守の作業時間帯以外であれば,休日,夜間も可能である。最多利用時間帯は平日の8~18時である。 ・受注管理サービスは,受注管理システムで提供される。受注管理システムの構成を図1に示す。 図1 受注管理システムの構成 システム開発課は,システム開発及びソフトウェア保守を行っている。システム運用課は,システム運用,SCのビルド及びPGのデプロイを行う。PGのデプロイとは開発環境,保守環境又は稼働環境にPGを展開し,利用可能な状態にする作業のことである。システム開発課とシステム運用課の役割を表1に示す。 表1 システム開発課とシステム運用課の役割 〔ツールによるデプロイの自動化〕 欧州支社の業務が本格化してきたある日,欧州支社から情報システム部に,“東京本社の22時は欧州支社では14時であり,業務に影響を与えるので,PGを稼働環境にデプロイする時間帯を変更してほしい。”という要望があった。W社では,欧州支社の1時間の休憩時間帯の開始時刻に当たる東京本社の20時に作業の開始を前倒しする案を検討した。しかし,この作業を1時間以内で完了させることはできないことが判明した。また,システム開発課からは“SCのビルドの作業頻度と,PGをテスト用サーバにデプロイする作業頻度を増やしてほしい。”という要望があった。 これらの要望に対して,システム運用課のITサービスマネージャであるY氏は,ビルドとテストを反復してシステム開発できる環境を整えることが重要だと考えた。そこで,Y氏はシステム開発課と協力し,PGのデプロイを自動化する支援ツールを開発・運用することにした。ライブラリ管理サーバで支援ツールを運用することによって,要員による作業ミスの防止,作業品質の向上も期待できる。 開発・運用する支援ツールについて,表2に示す。 表2 開発・運用する支援ツール AP展開ツールの処理手順を表3に示す。 表3 AP展開ツールの処理手順 〔受注管理サービスの変更〕 W社では,販売条件に関する業務ルールを改正することになり,受注管理システムの適応保守が必要になった。新たな業務ルールは11月から適用されるので,稼働環境の受注管理サービスは10月末までに変更しておく必要がある。W社の変更管理プロセスでは,変更諮問委員会が変更の影響について助言を与え,変更を承認する。また,緊急に変更しなければならない場合は,緊急変更諮問委員会が変更の受入れ及び承認に関する決定を行う。受注管理サービスの変更について,システム開発課で調査した結果,請求プログラム及び共通プログラムの修正が必要であることが分かった。 システム運用課では,次のように対処した。 ・修正されたSCをビルドツールでビルドして,PGをテスト用サーバの指定環境にデプロイするまでを完了した。 ・データベースに影響を与えない変更なので,AP展開ツールを使用して,10月12日(金)10時に稼働環境にデプロイする変更計画(以下,業務ルール変更計画という)を立案した。 10月3日(水)の変更諮問委員会で,業務ルール変更計画が承認された。 〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕 10月4日(木)13時に,受注管理サービスでインシデントが発生した。対応完了までの経緯は,次のとおりである。 ① インシデントの内容を確認し,原因を調査したところ,売上プログラム及び共通プログラムに不具合があることが判明した。特定部署の業務に対して限定的な影響を与えるだけなので,受注管理サービスは停止していない。また,プログラムの不具合によって,DBサーバの在庫管理ファイルの一部に誤りが発生しており,在庫管理ファイルの誤り修正作業が必要であることが判明した。システム開発課は,プログラムの不具合を修正した。 ② 在庫管理ファイルの誤り修正作業は,APサーバからDBサーバへの通信が発生しない状態で行う必要がある。そこで,不具合を修正したプログラムについて,AP展開ツールを使用して稼働環境にデプロイした後,LBの閉塞処理,(ア)在庫管理ファイルの誤り修正作業,LBの閉塞解除処理の順で作業を実施することにした。 ③ 修正されたSCをビルドツールでビルドして,PGをテスト用サーバの指定環境にデプロイ,PGのテストまでを完了し,10月4日(木)18時に緊急変更諮問委員会を開催した。 ④ 変更要求では10月4日(木)22時から一連の作業を開始する計画であった。しかし,緊急変更諮問委員会に出席したY氏は,サービス利用者への影響を少なくするために,(イ)計画した作業を10月4日(木)20時に開始するよう提言し,計画は変更された。開始時刻が当初の計画よりも2時間早くなるので,必要な準備を急ぐことになった。 ⑤ 10月4日(木)20時から,不具合を修正したプログラムについてAP展開ツールを使用して稼働環境にデプロイする作業を開始し,20時30分に完了した。その後,在庫管理ファイルの誤り修正作業を開始し,20時50分に完了した。 〔業務ルール変更計画の実施〕 10月10日(水)に業務ルール変更計画に関する緊急変更諮問委員会が開催された。緊急変更諮問委員会は,10月3日(水)の変更諮問委員会で承認されたときにテストを完了していたPGに対し,(ウ)追加で実施した修正,及び(エ)追加で実施したテストが問題なく完了していることを確認し,業務ルール変更計画を承認した。そこで,システム運用課では,10月12日(金)10時にAP展開ツールを使用して,請求プログラム及び共通プログラムを稼働環境にデプロイした。 設問1 〔ツールによるデプロイの自動化〕について,AP展開ツール導入の利点を,40字以内で述べよ。 なお,欧州支社及びシステム開発課からの要望の実現,反復的なシステム開発の実現,作業ミスの防止及び作業品質の向上は除く。 設問2 〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線(ア)の修正作業について,不具合を修正したプログラムをAP展開ツールで稼働環境にデプロイした後に実施する理由を,30字以内で述べよ。ここで,要員・システム資源は不足していないものとする。 (2) 本文中の下線(イ)について,Y氏が作業開始時刻の変更を提言した理由を,40字以内で具体的に述べよ。 設問3 〔業務ルール変更計画の実施〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) システム開発課がテストできるように,〔受注管理サービスのインシデント発生と対応〕の対応完了後,システム運用課が速やかにテスト用サーバに対して実施すべき内容を,40字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線(ウ)について,システム開発課が追加で修正すべき内容を,25字以内で述べよ。 (3) 本文中の下線(エ)について,システム開発課が追加でテストすべき内容を,40字以内で述べよ。
図1 受注管理システムの構成。社員PCがIP-VPNとFWを経由して接続する受注管理システム。稼働環境のLB,APサーバ3台,DBサーバ,Sorryサーバと,ライブラリ管理サーバ及びテスト用サーバの構成を示す。
図1 受注管理システムの構成。社員PCがIP-VPNとFWを経由して接続する受注管理システム。稼働環境のLB,APサーバ3台,DBサーバ,Sorryサーバと,ライブラリ管理サーバ及びテスト用サーバの構成を示す。
表1 システム開発課とシステム運用課の役割。システム開発課とシステム運用課の役割を整理した表。開発・保守とテストの担当,SCのビルド及びPGのデプロイの実施時刻,稼働環境への展開時のサービス停止方法を示す。
表1 システム開発課とシステム運用課の役割。システム開発課とシステム運用課の役割を整理した表。開発・保守とテストの担当,SCのビルド及びPGのデプロイの実施時刻,稼働環境への展開時のサービス停止方法を示す。
表2 開発・運用する支援ツール。ビルドツールとAP展開ツールの処理概要を示す表。SCの登録・ビルドとテスト環境への展開,APサーバへの順次展開,所要時間及びデータベース変更時の使用可否を説明する。
表2 開発・運用する支援ツール。ビルドツールとAP展開ツールの処理概要を示す表。SCの登録・ビルドとテスト環境への展開,APサーバへの順次展開,所要時間及びデータベース変更時の使用可否を説明する。
表3 AP展開ツールの処理手順。AP展開ツールの7手順を示す表。APサーバ1号機の閉塞,サービス停止,PGのデプロイ,サービス起動,閉塞解除を行い,2号機と3号機に繰り返す。異常終了とセション解放の注記を含む。
表3 AP展開ツールの処理手順。AP展開ツールの7手順を示す表。APサーバ1号機の閉塞,サービス停止,PGのデプロイ,サービス起動,閉塞解除を行い,2号機と3号機に繰り返す。異常終了とセション解放の注記を含む。
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手順を捉える前提条件の確認

手順について考えるときは、その手順がどのような前提条件の下で扱われているかに注目しましょう。知っている事例をそのまま当てはめず、示された条件を手掛かりに、今回の状況に沿って考えることが大切です。

この問題で問われていること

今回意識するのは、考える際の前提が与えられた条件と合っているかという一点です。判断に迷ったら、自分が当然だと思っている条件を振り返り、実際に示されていることと自分の推測を分けて確かめましょう。

視点

前提条件は、考えを組み立てる際の土台です。自分の経験から無意識に条件を補うこともあるため、判断の根拠にしている条件が、与えられた情報のどこに対応するかを確認しましょう。

確認ポイント

  • 考える際に置いている前提条件は何か
  • その前提条件は与えられた情報に示されているか
  • 経験から別の条件を付け加えていないか
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解説

AP展開ツールによるサービス停止の回避、時差を踏まえた作業計画、不具合修正とデータ修正の順序を理解する問題です。さらに、適応保守と是正保守で共通プログラムを変更する際の環境整備、修正内容の反映、想定外の影響の確認が問われます。

問題の全体像

W社は、東京本社と欧州支社で利用する受注管理サービスを提供しています。従来の一斉停止を伴うデプロイから、APサーバを1台ずつ更新する自動化へ移行し、その後、業務ルール変更による適応保守とインシデントによる是正保守が重なります。公式の出題趣旨では、利用者や開発者の要求に対応する改善能力、適応保守・是正保守に対する環境管理能力、リリース及び展開計画に関する能力が問われています。本文の時系列と表1~3を結び付け、誰が、どの環境に、何を実施するかを整理することが解答の軸です。

設問1

表1では、従来の稼働環境へのデプロイ時に要求をSorryサーバへ振り分け、全APサーバのサービスを停止しています。一方、表2・表3のAP展開ツールは、対象サーバを閉塞して1台ずつ更新するため、ほかのAPサーバでサービスを継続できます。公式解答例では、稼働環境へのデプロイ時にサービスを停止しなくて済む場合があることを利点としています。ただし、データベースのテーブル定義変更などでは停止が必要なので、常に無停止とはいえません。40字以内では「稼働環境にデプロイするときにサービスを停止しなくて済む場合がある。」とまとめられます。設問で除外された作業ミス防止や要望の実現は答案に含めません。

設問2(1)

インシデント対応①では、プログラムの不具合が在庫管理ファイルの誤りを生んだと説明されています。また、表3の手順5では、AP展開ツールが更新後に閉塞を解除し、要求の受付を再開します。先にファイルだけを修正すると、その後の展開中に未修正のプログラムが要求を処理し、再び誤りを発生させるおそれがあります。そのため、全APサーバへの修正版の展開を終え、改めて閉塞してからファイルを修正します。公式解答例では、誤りが再発することと、ツールがLBの閉塞解除を行うことの二つの記述が示されています。30字以内なら「プログラムの不具合によって再度誤りが発生してしまうから」と表せます。要員や資源の不足ではなく、処理順序が生む問題に着目します。

設問2(2)

〔ツールによるデプロイの自動化〕にある、東京本社の22時は欧州支社の14時であり、東京本社の20時から1時間は欧州支社の休憩時間帯という記述に着目します。今回の作業は、AP展開ツールによるデプロイに加え、サービス要求を遮断して行う在庫管理ファイルの修正を含みます。22時開始では欧州支社の業務時間に影響するため、休憩時間帯に合わせて20時へ前倒しします。実際の作業は20時50分に完了しています。公式解答例でも、欧州支社の利用者が利用中の時間帯であり、業務に影響することを理由としています。40字以内では「22時は欧州支社の利用時間帯に当たり、業務に影響するから」と具体化できます。

設問3(1)

問われているのは、開発課がテストを行えるように運用課が実施する環境整備です。図1の注では、適応保守のテストは開発環境、是正保守のテストは保守環境で行います。インシデントで修正した売上プログラムと共通プログラムを開発環境へ展開し、業務ルール変更のテストに使える状態を整える必要があります。公式解答例では「売上プログラムと共通プログラムをテスト用サーバの開発環境にデプロイする。」としています。この表現は40字以内です。採点講評では、運用課の役割に着目せず、開発課が行うソースコード修正やテストを書いた誤答が多かったと指摘されています。対象プログラム、展開先の開発環境、デプロイという作業を押さえます。

設問3(2)

業務ルール変更では請求プログラムと共通プログラムを修正し、その後のインシデント対応では売上プログラムと共通プログラムを修正しています。両方の変更に共通プログラムが含まれる点が重要です。10月3日にテストを完了していた業務ルール変更用の共通プログラムには、10月4日の不具合修正がまだ含まれていません。そのまま展開して修正内容を失わないよう、業務ルール変更用の版にも反映します。公式解答例では「共通プログラムの不具合修正内容を反映すること」としており、25字以内では、対象を共通プログラムに絞ってこの内容を示します。

設問3(3)

表1の開発課の役割には、新しいPGの誤りを検出するテストに加え、PGの更新によって想定外の影響が出ていないかを確認するテストが示されています。業務ルール変更用の共通プログラムに不具合修正を追加したため、以前のテスト結果だけでは変更後の影響を確認できません。追加修正によって、それまで正常だった処理などに影響が生じていないかを確認する回帰テストが必要です。公式解答例でも、不具合修正による想定外の影響の有無を確認するとしています。40字以内では「不具合修正によって想定外の影響が出ていないことを確認する。」とまとめられます。採点講評では、不具合が直ったことの確認だけを指摘する解答は誤りとされており、確認範囲を修正箇所以外への影響まで広げることが要点です。

学習のポイント

表に示された担当部署と環境の用途を区別し、作業順序の理由と共通プログラム変更後の回帰テストを説明できるようにしましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成30年度秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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