SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

平成27年度秋期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 IT資産管理に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 H社は,全国に20支店をもつ大手の建築設計会社である。約1、000人の社員には,PCが1人に1台貸与され,表計算ソフトウェア,設計支援用CADソフトウェアなどの業務用ソフトウェアが導入されている。全ての社員は,PCを社内LANに接続して業務に利用している。 H社本社の情報システム部は,PC管理システムを使って,全社のIT資産管理を行っている。IT資産管理の管理対象は,ハードウェア資産及びソフトウェア資産である。ハードウェア資産の情報はPC管理台帳に,ソフトウェア資産の情報はソフトウェア管理台帳に登録し,PC管理システムが稼働するサーバ(以下,PC管理サーバという)のストレージに保存されている。また,本社及び各支店(以下,事業所という)には,事業所ごとにPC管理者が任命されている。PC管理者は,PC管理者が所属する事業所の社員が使用するPCのIT資産管理を行っている。 〔IT資産管理の概要〕 ハードウェア資産の管理では,PCにH社で一意の番号(以下,PC管理番号という)を付与し,貸与先社員情報とともにPC管理台帳に登録している。PC管理番号は,社員にPCを貸与する際に,設定情報の一つとしてPCにも登録している。 ソフトウェア資産の管理では,ライセンスを含めた管理を行う。ソフトウェアを使用するには,使用数に応じた基本ライセンスが必要であり,使用許諾契約(以下,契約という)を締結して使用数を取り決める。情報システム部は,ソフトウェアが導入されたPCのPC管理番号をソフトウェア管理台帳に登録し,基本ライセンスの使用数を管理している。 なお,業務用ソフトウェアの基本ライセンスは,PC管理者からの申請に応じて契約を更新し,必要な使用数を追加している。また,PC管理者は,情報システム部から四半期ごとに配付される棚卸調査表に基づいて,PCの棚卸,及びPCに導入されている業務用ソフトウェアの棚卸を実施し,結果を情報システム部に報告している。 〔IT資産管理状況の監査〕 ある日,H社の内部監査室がIT資産管理状況の監査を行った。その結果,監査人から,“情報システム部では,業務用ソフトウェアの利用申請書に基づいて契約を更新し,基本ライセンスに必要な使用数を追加している。一方,ある支店では,使用されなくなった業務用ソフトウェアをPCに導入したまま,削除していない。基本ライセンスの過剰購入によって,余分な費用が発生している”と指摘された。指摘を受けた情報システム部長は,ITサービスマネージャのQ氏に調査を指示した。Q氏が調査したところ,一部の社員が業務用ソフトウェアの利用中止をPC管理者に報告していないことが判明した。 Q氏の報告を受けた情報システム部長は,監査人からの指摘事項以外にも問題点がないか,詳細調査をQ氏に指示した。Q氏が,前回実施した棚卸の実態を調査したところ,ソフトウェア管理台帳に登録されている基本ライセンス使用先のPC管理番号と,実際にソフトウェアを導入しているPCのPC管理番号の不一致が散見された。原因は,社員が業務用ソフトウェアの利用規程を遵守しないでPCに導入していたからであった。また,インターネットに接続して販売元Webサイトからダウンロードして利用する手順になっている業務用ソフトウェアを,誤って別のWebサイトに接続してダウンロードし,マルウェアに感染してしまった事例が確認された。 これらの状況から,Q氏は,(ア)IT資産管理の精度向上,業務用ソフトウェアの利用規程の遵守,セキュリティの強化,及び適切なライセンスの購入が必要であると考え,(イ)資産管理システムを開発・導入することにした。 〔IT資産管理の精度向上〕 資産管理システムは,資産管理サーバで稼働するサーバプログラムとPCで稼働するエージェントプログラムで構成される。エージェントプログラムは,PCから資産管理台帳の作成に必要な情報を収集する。資産管理台帳で管理する項目を表1に示す。 表1 資産管理台帳で管理する項目 エージェントプログラムで収集した情報は,社内LAN接続中に,資産管理システムが稼働している管理用サーバ(以下,資産管理サーバという)に送信され,資産管理台帳に登録される。社内LANに接続されたPCから,一定時間内に収集情報が送信されなかった場合,資産管理システムは警告メッセージを情報システム部に通知する。IT資産管理に関わるH社のシステム構成は,図1のとおりである。 図1 IT資産管理に関わるH社のシステム構成 情報システム部は,PC管理システムと資産管理システムを使って,日次で定刻にバッチ処理を行い,(ウ)バッチ処理結果の情報をPC管理者に通知する。 〔業務用ソフトウェアの利用規程の遵守〕 Q氏は,業務用ソフトウェアの利用規程を社員に遵守させるために,利用申請書の起案から決裁までの手順を次のように整備し,電子決裁システムとしてシステム化した。 ① 利用を希望する社員(以下,利用希望者という)は,利用申請するソフトウェアの名称,版及び導入予定のPC管理番号を入力し,上長に提出する。 ② 上長は,ソフトウェア利用の必要性などを確認し,利用申請を承認する。承認された申請は,情報システム部に提出される。 ③ 情報システム部は,申請内容を確認し,不備があった場合は利用申請を差し戻し,不備がなかった場合は[a]し,利用申請を受理する。ここで,当該ソフトウェアの使用数が,既に,契約上の基本ライセンス数に達しているときは,契約を更新し,基本ライセンス数を追加する。 ④ 情報システム部は,当該ソフトウェアの利用を許可し,ソフトウェア管理台帳を更新する。結果は,利用希望者,利用希望者の上長,及び利用希望者が勤務する事業所のPC管理者に通知される。 ⑤ 指定したソフトウェアの版を確実に使うために,通知を受けた利用希望者は,当該ソフトウェアを(エ)社内に設置されているファイルサーバからPCに導入し,利用する。情報システム部では,当該ソフトウェアの配付用写しを社内のファイルサーバに準備しておく。 なお,ソフトウェアの利用を中止する際は,決められた手順に従い,利用者は電子決裁システムを使って利用中止を上長,PC管理者及び情報システム部に申請する。上長の承認後,利用者はPCのソフトウェアを削除し,情報システム部はソフトウェア管理台帳を更新する。 〔個人所有のPCを使った社内業務の開始〕 H社では,夜間にシステム運用者の監視の下でバッチ処理を行っている。バッチ処理でシステム障害が発生し,技術的な調査が必要な場合,システム運用者は緊急時対応マニュアルに従って,情報システム部のシステム保守者の上長に連絡して,システム保守者が緊急出社して対応してもらうように依頼している。 しかし,次の理由から今後は,システム保守者が自宅から個人所有のPCを使って社内LANに接続できることになった。 ・緊急出社して対応する際に,出社までに時間が掛かること ・調査後,システム保守者からシステム運用者に指示して対応できる事象が多いこと ・H社では,出張者に出張用PCを貸与して,出張先からインターネットに接続して社内のシステムを利用するためのセキュリティが確保された接続環境を構築していること Q氏は,必要な手順を次のように整理した。 ① 使用を希望するシステム保守者は,上長経由で情報システム部長に申請書を提出する。 ② 情報システム部長は,PCが社内規程の仕様を満たしていること,申請書の内容が妥当であることなどを条件に使用を認める。 なお,使用できる個人所有のPCは,社内LANに接続できるネットワークアダプタ内蔵のノートブックPCに限定する。 申請書の項目は次のとおりである。 ・申請理由,利用者社員情報,PC機種名,OS名称,OSの版,MACアドレス ③ 申請が承認されたシステム保守者は,使用開始前にH社のセキュリティ方針に従ってPCの環境設定,マルウェア対策用ソフトウェアの導入及び[b]の導入を行う。これらの作業は,システム保守者が個人所有のPCを社内の検疫LANに持ち込んで実施する。 ④ PC管理者は,セキュリティ方針に従って作業が実施されたことを確認した後,接続環境への接続に必要なPCの設定とソフトウェアの導入を行う。 ⑤ システム保守者は,自宅から個人所有のPCを使用して社内業務を行う。 設問1 〔IT資産管理状況の監査〕について,本文中の下線(イ)を実施することによって得られる利点を,20字以内で述べよ。 なお,下線(ア)で示す内容は除く。 設問2 〔IT資産管理の精度向上〕について,本文中の下線(ウ)のバッチ処理結果の情報を,50字以内で述べよ。 設問3 〔業務用ソフトウェアの利用規程の遵守〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 本文中の[a]で情報システム部が確認する内容を,確認方法とともに30字以内で述べよ。 (2) 情報システム部は,配付用の写しを,本文中の下線(エ)のファイルサーバに準備した。指定したソフトウェアの版を確実に使うこと以外に考えられる,ファイルサーバを準備した目的を,40字以内で述べよ。 (3) 社員が利用規程を遵守しないで業務用ソフトウェアをPCに導入した場合のリスクについて,ライセンス管理の観点から20字以内で述べよ。 なお,監査人からの指摘に関わる内容は除く。 設問4 〔個人所有のPCを使った社内業務の開始〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 申請書の項目の一つであるMACアドレスの利用目的を,40字以内で述べよ。 (2) 本文中の[b]に入れる導入内容を,20字以内で答えよ。
表1 資産管理台帳で管理する項目。資産管理台帳で管理する情報と管理項目の表。ハードウェア資産はPC管理番号・ディスク容量・メモリ容量・MACアドレス、ソフトウェア資産は名称・版・導入日付、セキュリティ関連はセキュリティパッチの名称・適用日付とマルウェア感染状況。注でマルウェア対策用ソフトウェアによる感染状況の登録を説明している。
表1 資産管理台帳で管理する項目。資産管理台帳で管理する情報と管理項目の表。ハードウェア資産はPC管理番号・ディスク容量・メモリ容量・MACアドレス、ソフトウェア資産は名称・版・導入日付、セキュリティ関連はセキュリティパッチの名称・適用日付とマルウェア感染状況。注でマルウェア対策用ソフトウェアによる感染状況の登録を説明している。
図1 IT資産管理に関わるH社のシステム構成。支店1~支店nのPCがL3SWを経由してIP-VPNでH社本社のL3SWに接続される構成図。本社にはPC1~PCℓと、PC管理サーバ(PC管理台帳・ソフトウェア管理台帳)から成るPC管理システム、資産管理サーバ(資産管理台帳)から成る資産管理システムがある。
図1 IT資産管理に関わるH社のシステム構成。支店1~支店nのPCがL3SWを経由してIP-VPNでH社本社のL3SWに接続される構成図。本社にはPC1~PCℓと、PC管理サーバ(PC管理台帳・ソフトウェア管理台帳)から成るPC管理システム、資産管理サーバ(資産管理台帳)から成る資産管理システムがある。
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検討の前提となる範囲をそろえる

IT資産管理について考える際は、まず、扱っている内容がどこまでを対象にしているかに着目しましょう。知っている用語の印象だけで判断せず、示された条件から検討の範囲をそろえることが手掛かりになります。

この問題で問われていること

考えるときに意識したいのは、自分が想定している対象の範囲と、示された条件の範囲が一致しているかという点です。条件に書かれていることと、自分が補っている前提を分け、対象を広げすぎたり狭めすぎたりしていないか確認しましょう。

視点

対象の範囲は、考察の前提です。ある場面についての考えを別の場面へそのまま当てはめる前に、同じ範囲を扱っているかを確かめると、知識と条件を結び付けて整理できます。

確認ポイント

  • 対象の範囲を、示された条件に基づいて捉えているか
  • 条件にない範囲まで、自分の判断で広げていないか
  • 考える途中で、対象の範囲が変わっていないか
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解説

本問は、IT資産管理のシステム化による工数低減、申請台帳と実態情報の照合、ライセンス利用状況の確認、安全なソフトウェア配付、個人所有PCの識別と管理を問う。設問の除外条件を守り、本文の手順と管理目的を結び付けて答えることが要点となる。

問題の全体像

H社では、約1、000台の貸与PCと業務用ソフトウェアを台帳で管理し、各事業所のPC管理者が四半期ごとに棚卸を行っている。しかし、利用中止の未報告によるライセンスの過剰購入、台帳と実際の導入先の不一致、不適切なダウンロードによるマルウェア感染が発生した。そこで、PCの情報を収集する資産管理システムと電子決裁の手順を整備し、個人所有PCによる遠隔保守も管理対象に加える。公式の出題趣旨では、ライセンス管理、資産管理プロセスの手順整備及びシステム化を通じて、組織内のIT資産管理に関わる能力を問うとしている。

設問1

着目するのは、従来はPC管理者が棚卸調査表に基づいて調査・報告していたのに対し、導入後はエージェントプログラムが情報を収集し、サーバへ送信する点です。これにより、棚卸などに必要な作業工数を減らせる。設問は下線(ア)の内容を除いているので、管理精度の向上や適切なライセンス購入を答えることはできない。公式解答例では「IT資産管理に関わる作業工数の低減」としており、20字以内ではこの効果に絞る。採点講評でも、管理精度だけでなく、PC管理者の棚卸作業の工数低減を認識してほしかったと述べている。

設問2

監査後の調査で、ソフトウェア管理台帳に登録された基本ライセンス使用先のPC管理番号と、実際の導入先のPC管理番号が一致していなかった点に着目する。ソフトウェア管理台帳は申請・許可に基づく情報を持ち、資産管理台帳はエージェントが収集した実際の導入情報を持つ。日次バッチでは、両台帳をソフトウェアごとに照合し、不一致の状況をPC管理者へ通知する。公式解答例では「ソフトウェア管理台帳と資産管理台帳とのソフトウェアごとのPC管理番号の不一致の状況」としており、50字以内に比較する台帳、照合項目、結果を含める。採点講評では、マルウェア感染の有無などを答えた誤答を挙げ、二つの管理台帳を使う照合処理の内容を求めている。

設問3(1)

空欄aの直後に、使用数が契約上の基本ライセンス数に達していれば、契約を更新してライセンス数を追加するとある。この判断には、現在の基本ライセンスの利用状況を確認する必要がある。本文では、情報システム部がソフトウェア管理台帳で基本ライセンスの使用数を管理しているため、確認方法もこの台帳の参照となる。公式解答例では「基本ライセンスの利用状況をソフトウェア管理台帳で確認」としている。30字以内では、確認内容である利用状況と、確認方法である台帳の両方を押さえる。

設問3(2)

社員が販売元とは別のWebサイトから誤ってダウンロードし、マルウェアに感染した事例に着目する。情報システム部が配付用の写しを社内ファイルサーバに準備すれば、社員がインターネット上のサイトから個別に取得する必要が減り、その際の危険を抑えられる。公式解答例では、マルウェアの侵入防止、又はフィッシングサイトへ誘導されるリスクの低減を挙げている。40字以内の答案では、例えば「インターネットからの取得に伴うマルウェアの侵入を防ぐため」と、取得経路に伴うリスクと防止目的を結び付ける。指定した版を使う目的は設問で除外されている。

設問3(3)

ソフトウェアの使用には、使用数に応じた基本ライセンスと使用許諾契約が必要である点に着目する。利用規程を守らずに導入すると、必要なライセンスの確認や追加を経ずに使用され、契約違反となるリスクがある。公式解答例では、基本ライセンスに関する契約違反、使用許諾契約違反、業務用ソフトウェアの不正利用を挙げている。20字以内では「使用許諾契約違反となる。」のように、ライセンス上のリスクを端的に示す。監査人が指摘した過剰購入による余分な費用は、設問の除外条件に当たる。

設問4(1)

個人所有PCは申請と承認を経て使用を認められ、申請書にはMACアドレスが記載される。表1でも、MACアドレスは資産管理台帳の管理項目となっている。この情報を照合する目的は、社内LANに接続するPCが、申請して承認されたPCと一致するかを判断することです。公式解答例では、接続するPCと申請したPCの一致確認、又は接続中のPCのMACアドレスと申請内容の同一性の判定を挙げている。40字以内では「社内LANに接続するPCが申請したものと一致するか判断するため」と、識別対象と照合目的を示します。

設問4(2)

資産管理システムは、PC上のエージェントプログラムが情報を収集し、資産管理サーバへ送信する構成です。個人所有PCについても、資産情報やセキュリティ関連情報を継続して収集するには、このプログラムを導入する必要がある。公式解答例では、空欄bは「エージェントプログラム」としている。20字以内では、この名称を答えればよい。接続環境に必要な設定とソフトウェアの導入は後続の手順④に記載されており、空欄bは資産管理のための導入内容として読む。

学習のポイント

台帳の役割と照合対象を区別し、ライセンス管理とセキュリティ対策の目的を、字数内で具体的に説明する練習をする。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成27年度秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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