SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

平成26年度秋期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 ITサービスの設計に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 X社は,全国に家電量販店を20店舗展開している。各店舗の営業時間は9時から22時までで,休業日は月1回である。X社では,情報システム部が販売システムを運用し,販売業務を支援するITサービスとして提供している。 X社では業務拡大に伴い,販売システムを再構築することになった。再構築に当たっては,必要なアプリケーションの開発を行うとともに,インフラストラクチャを更新し,新規ITサービスを提供する計画である。現在,ITサービスマネージャのH氏が,新規ITサービスに関する設計を行っている。 〔新規ITサービスの概要〕 (1) 新規ITサービスの内容及びサービスレベル目標 新規ITサービスには,店舗で店員がPOSレジを用いて行う販売業務を支援する販売支援サービスと,店長が検索端末から行う販売分析業務を支援する情報検索サービスがある。これらのサービスを利用する店舗を統括している販売部から要求されているサービスレベル目標は,表1のとおりである。 表1 サービスレベル目標 (2) 再構築後の販売システムの構成及び処理概要 再構築後の販売システムの構成を図1に,処理概要と処理の流れを表2に示す。 図1 再構築後の販売システムの構成 表2 再構築後の販売システムの処理概要と処理の流れ 販売実績レコードは,APサーバ②で毎日1時に起動されるバッチ処理によって,販売日・販売店舗・商品コード・会員番号ごとに販売数及び販売金額が集計され,販売情報集計レコードとして情報検索DB群に反映される。バッチ処理の処理時間は15分である。バッチ処理では,前日の開店から閉店までの販売実績レコードが処理される。 確認用POSレジ及び確認用検索端末(以下,これらを確認用端末という)は,店舗でインシデントが発生した場合,情報システム部がインシデントを再現して確認するための機器である。情報システム部は確認用端末を使用してインシデントの内容を確認した後,サービスレベル目標に従って販売部に障害発生連絡を行う。 〔サービスの可用性を考慮した構成検討〕 情報システム部サーバルームには機器メーカの保守員が常駐し,故障した機器を復旧させる。その際,必要となる部品はX社に常備されている。 H氏は,サービスレベル目標に従ってサービスの可用性を維持するために,機器が故障した場合に備えて,機器を冗長化する必要があるかどうかの検討を行った。機器を冗長化した場合,故障した機器は自動的に他の機器に切り替えられ,サービスを継続することができる。H氏は,複数の機器の故障が同時に発生しないことを前提に,検討結果を表3にまとめた。ここで,冗長化が必要な場合は“○”を,不要な場合は“×”を,当該サービス提供時に利用しない場合は“-”を記入した。 表3 機器の冗長化検討結果 ルータ及びSWは,当該機器の復旧完了によってサービス回復となるが,Webサーバ及びAPサーバは,当該機器の復旧完了後にアプリケーションの動作確認のために15分必要である。 その後,販売部から,販売支援サービスに“お得意様割引機能”を追加したいという要求があり,情報システム部で対応することにした。この機能は,X社の会員に対する販売業務において,店員が販売支援サービスを使用する際,情報検索DB群を自動的に検索し,過去の一定期間における購入金額累計が一定金額以上に達している場合に割引を適用するというものである。検索の際には,APサーバ②のDB検索アプリケーションを使用する。この要求を受け,H氏は機器の冗長化の必要性について見直すことにした。 〔バックアップ方式の検討〕 H氏は,ストレージ機器の故障を想定し,情報検索DB群のバックアップ方式の検討に着手した。ストレージ機器が故障した場合には,機器の復旧に40分,リストア後の確認などの回復作業に20分掛かる。情報検索DB群には過去5年分の販売情報集計レコードが格納されており,新商品の販売開始,既存商品の販売終了によってレコード件数の変動はあるものの,データ量はほぼ一定である。 H氏は,表4に示す案1と案2のバックアップ方式案を策定した。 表4 情報検索DB群のバックアップ方式案 〔応答性能確保に向けた方策の検討〕 H氏の当初の想定では,各サーバはキャパシティに余裕があり,来店客数が想定どおりの場合は,“お得意様割引機能”を導入してもサービスレベル目標に定められた応答性能を実現できる見込みであった。しかし,再構築した販売システムの稼働開始後,来店客数の増加などによって,平常時のCPU使用率が当初の想定よりも上昇した場合,当日に実施が決定されるセールの開催で突発的に業務量が増加すると,APサーバ②のCPU使用率が安定稼働の基準値を超え,販売支援サービスの応答性能が急激に悪化することが予想された。そこでH氏は,APサーバ②のCPU能力を増強することにしたが,CPU能力の増強には数か月掛かる。 H氏は,APサーバ②のCPU能力が増強されるまでの間,販売支援サービスの応答性能悪化の兆候が見られる場合には,情報検索サービスの使用を中止するよう,各店舗に対して通知するという暫定対策を策定した。 後日,H氏が策定した暫定対策は,関係者の同意を得て実施されることになった。 設問1 〔新規ITサービスの概要〕について,店舗でインシデントが発生したときに,情報システム部がインシデントを再現して確認する場合において,図1の販売システムの問題点を,構成上の観点から60字以内で述べよ。 設問2 〔サービスの可用性を考慮した構成検討〕について,表3中の[a],[b]に入れる適切な記号を答えよ。 設問3 〔バックアップ方式の検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) H氏が策定した案1と案2のどちらを採用すべきか。答案用紙の案1・案2のいずれかを○で囲んで示せ。 なお,バッチ処理中,バックアップ・リストアの実施中及び回復作業中にストレージ機器の故障は発生しないものとする。 (2) (1)の採用理由を,60字以内で具体的に述べよ。 設問4 〔応答性能確保に向けた方策の検討〕について,販売支援サービスの応答性能が悪化する前に暫定対策を実施できるように設計する。 (1) サービス運用段階でモニタリングする監視項目を,20字以内で述べよ。 (2) 監視項目として,基準値とは別に新たにしきい値を設定し,暫定対策を実施することにした。暫定対策実施の判断方法について,しきい値も含めて60字以内で具体的に述べよ。
表1 サービスレベル目標。販売支援サービスと情報検索サービスについて、サービス時間、計画停止、応答性能、サービス回復時間、障害発生連絡の各サービスレベル目標を示す表。販売支援は毎日9時から22時、回復1時間以内、応答5秒以内。情報検索は回復2時間以内。
表1 サービスレベル目標。販売支援サービスと情報検索サービスについて、サービス時間、計画停止、応答性能、サービス回復時間、障害発生連絡の各サービスレベル目標を示す表。販売支援は毎日9時から22時、回復1時間以内、応答5秒以内。情報検索は回復2時間以内。
図1 再構築後の販売システムの構成。店舗1~nのPOSレジ・検索端末がSW・ルータ経由でIP-VPNに接続し、情報システム部サーバルームのルータ・SWにWebサーバ、APサーバ①②、DBサーバ、確認用POSレジ・確認用検索端末、ストレージ(オンラインDB群、情報検索DB群)がつながる構成図。
図1 再構築後の販売システムの構成。店舗1~nのPOSレジ・検索端末がSW・ルータ経由でIP-VPNに接続し、情報システム部サーバルームのルータ・SWにWebサーバ、APサーバ①②、DBサーバ、確認用POSレジ・確認用検索端末、ストレージ(オンラインDB群、情報検索DB群)がつながる構成図。
表2 再構築後の販売システムの処理概要と処理の流れ。販売支援サービスはPOSレジの入力内容を販売実績レコードとしてオンラインDB群に記録し、情報検索サービスは検索端末からWebサーバ、APサーバ②、DBサーバを経て情報検索DB群を検索する処理を示す表。注1・注2付き。
表2 再構築後の販売システムの処理概要と処理の流れ。販売支援サービスはPOSレジの入力内容を販売実績レコードとしてオンラインDB群に記録し、情報検索サービスは検索端末からWebサーバ、APサーバ②、DBサーバを経て情報検索DB群を検索する処理を示す表。注1・注2付き。
表3 機器の冗長化検討結果。ルータ、SW、Webサーバ、APサーバ①、APサーバ②の復旧時間(20、20、50、50、50分)と、販売支援・情報検索サービスごとの冗長化要否(○・×・-)を示す表。空欄a(APサーバ①・販売支援)とb(APサーバ②・情報検索)を含む。
表3 機器の冗長化検討結果。ルータ、SW、Webサーバ、APサーバ①、APサーバ②の復旧時間(20、20、50、50、50分)と、販売支援・情報検索サービスごとの冗長化要否(○・×・-)を示す表。空欄a(APサーバ①・販売支援)とb(APサーバ②・情報検索)を含む。
表4 情報検索DB群のバックアップ方式案。案1は毎日フルバックアップを取得(40分)し最新フルバックアップから復元する方式。案2は毎週日曜日のフルバックアップと月曜日から土曜日の増分バックアップ(各5分)を併用し、順次復元する方式。増分バックアップの定義を注記。
表4 情報検索DB群のバックアップ方式案。案1は毎日フルバックアップを取得(40分)し最新フルバックアップから復元する方式。案2は毎週日曜日のフルバックアップと月曜日から土曜日の増分バックアップ(各5分)を併用し、順次復元する方式。増分バックアップの定義を注記。
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判断の前提となる条件をそろえる

検討を始めるときは、判断の前提となる条件に注目しましょう。同じ言葉でも、想定する状況が違えば捉え方が変わります。知っている用語から結論を急がず、与えられた条件を起点に考えることが大切です。

この問題で問われていること

この分野では、判断を支える条件を、明示されたものと自分で補ったものに分けて捉えることが役立ちます。検討の途中でも、経験や印象に由来する前提が入り込んでいないか、与えられた条件に立ち戻って確認しましょう。

視点

前提の整理とは、考える際の条件を確かめ、記載された内容と自分の想定を区別することです。なじみのある用語が出てきても、いつもの状況を無意識に当てはめず、その場で与えられた条件に沿って意味を捉えましょう。

確認ポイント

  • 判断の根拠にした条件は、与えられた内容に含まれているか
  • 記載された条件と、自分が補った想定を区別できているか
  • 検討の途中で、前提となる条件を無意識に変えていないか
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解説

本問は、販売システムの再構築を題材に、インシデントの再現性、復旧時間に基づく冗長化、回復時間を満たすバックアップ方式、性能悪化を予防する監視方法を、サービスレベル目標から判断する問題です。

問題の全体像

X社は全国20店舗の販売システムを再構築し、POSレジによる販売支援サービスと、店長向けの情報検索サービスを提供します。販売支援サービスには応答性能5秒以内・回復時間1時間以内、情報検索サービスには回復時間2時間以内という目標があります。さらに、お得意様割引機能の追加によって、販売支援サービスもAPサーバ②の検索処理を利用するようになります。公式解答例の出題趣旨では、顧客の要件やサービスレベル目標を踏まえた、サービス継続・可用性管理とキャパシティ管理に関わる設計能力を問うとされています。各設問では、構成や作業時間をサービスの要求水準に結び付けて判断します。

設問1

図1で、店舗の端末からサーバまでの通信経路と、確認用端末からサーバまでの経路を比較します。店舗の端末はSW・ルータ・IP-VPNを経由しますが、確認用端末はサーバルーム内のSWに接続され、IP-VPNを経由しません。この違いによって、店舗の通信経路に関係するインシデントを確認用端末では再現できないおそれがあります。公式解答例では、この接続経路の違いと再現できない可能性を挙げています。60字以内の答案では『確認用端末がIP-VPNを介してサーバに接続されず、店舗のインシデントを再現できないおそれがある。』という粒度でまとめます。採点講評でも、設問の要求を把握し、図1の構成上の観点から問題点を導くことが求められています。

設問2(a)

aは、販売支援サービスで利用するAPサーバ①の冗長化要否です。表3では機器の復旧時間が50分であり、本文ではAPサーバの復旧後にアプリケーションの動作確認が15分必要とされています。サービス回復までの時間は50+15=65分となり、表1の販売支援サービスの目標である1時間以内を超えます。冗長化すれば自動的に他の機器へ切り替えてサービスを継続できるため、公式解答例ではaを『○』としています。機器が復旧した時点ではなく、動作確認を終えてサービスが回復する時点までを数えることがポイントです。

設問2(b)

bは、情報検索サービスで利用するAPサーバ②の冗長化要否です。APサーバ②も復旧50分と動作確認15分を合わせて65分ですが、情報検索サービスの回復時間目標は2時間、すなわち120分以内です。65分であれば目標内に回復できるため、公式解答例ではbを『×』としています。複数機器が同時に故障しないという前提なので、他の機器の復旧時間は加算しません。また、表3はお得意様割引機能の追加要求前の検討結果です。追加後にAPサーバ②が販売支援サービスでも使われることと、表3の空欄を埋める判断を区別して読み取ります。

設問3(1)

公式解答例では『案1』を選択しています。比較すべきなのはバックアップ取得時間の短さではなく、障害発生後に情報検索サービスを2時間以内に回復できるかです。案1は、機器復旧40分、フルバックアップのリストア40分、リストア後の確認など20分を合わせて100分です。案2は、この100分に増分バックアップのリストア時間が加わります。土曜日の増分バックアップ取得後には月曜日から土曜日までの6日分を順次復元するため、最大で100+5×6=130分となり、120分の目標を超えます。故障はバックアップなどの実施中には起きないという条件なので、取得中の故障への対応を追加して考える必要はありません。

設問3(2)

採用理由では、案1が障害発生日時に左右されず、サービス回復時間目標を満たせる点を具体的に書きます。案1の回復所要時間は40+40+20=100分で、情報検索サービスの目標である120分以内に収まります。一方、案2は復元する増分バックアップの数が曜日によって変わり、最大130分掛かります。公式解答例でも、障害発生日時に関係なく目標内に回復できることが理由とされています。60字以内の答案例は『案1は障害発生日時に関係なく100分で回復でき、情報検索サービスの回復時間目標である2時間以内を満たすから。』です。採点講評では、顧客が要求するサービスレベル目標を達成することの重要性に触れています。

設問4(1)

本文では、セールによる突発的な業務量増加でAPサーバ②のCPU使用率が安定稼働の基準値を超えると、販売支援サービスの応答性能が急激に悪化するとされています。この因果関係から、性能悪化に先行する兆候を捉える監視項目を選びます。公式解答例は『APサーバ②のCPU使用率』であり、20字以内に収まります。APサーバ②は情報検索サービスとお得意様割引機能の両方で利用されるため、その負荷を監視することが、情報検索サービスの使用中止を判断する手掛かりになります。

設問4(2)

基準値は、超過すると応答性能が急激に悪化する水準です。その値に到達してから対策を始めるのでは、設問の『悪化する前』という条件を満たせません。公式解答例では、基準値を超過する前に対策を実施できるしきい値を設定し、セール実施時に監視項目がしきい値を超過したかを判断するとしています。しきい値は基準値より低く設定し、店舗への通知や使用中止に必要な時間も考えて、対策を間に合わせる必要があります。60字以内の答案例は『基準値超過前に対策を実施できるしきい値を設定し、セール実施時に超過したら対策を行う。』です。採点講評では、性能悪化が始まる水準にしきい値を設定する誤答が指摘され、予防的対策を講じる仕組みの設計が重視されています。

学習のポイント

機器の復旧時間とサービス回復時間を区別し、最悪時の所要時間と予防的な対策開始条件を具体的に説明する力を養いましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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