SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

平成24年度秋期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 アプリケーションの受入れに関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 E社は、旅行代理店向けにサービスを提供する会社である。E社は、旅行代理店のシステムから宿泊予約が成立した旨の通知を受け、全国に約1万軒あるホテル、旅館など(以下、宿泊施設という)に宿泊予約者の情報を送信するサービス(以下、宿泊通知サービスという)を提供している。 〔宿泊通知サービスの概要〕 宿泊通知サービスは、旅行代理店ごとに契約している宿泊施設の宛先を、あらかじめ登録することによって、複数の旅行代理店のシステムから受信した、宿泊予約者の情報(以下、宿泊通知という)を、宿泊施設のPC及びファクシミリ装置(以下、FAXという)宛てに送信することができる。宿泊施設のPCでは、E社が開発した専用ソフトウェアを利用して、通知を受信したり、過去に受信した通知を再度取り出したりすることができる。宿泊通知サービスのシステム構成を、図1に示す。 図1 宿泊通知サービスのシステム構成 旅行代理店のシステムは、VPN経由で宿泊通知管理システムに接続する。旅行代理店のシステムからの通知を宿泊通知管理サーバが受信した後、宿泊施設に送信する。宿泊施設のPCへの通知は、VPN経由でPCの専用ソフトウェアに送信される。宿泊施設のFAXへの通知は、FAX送信サーバから公衆電話網経由で送信される。 宿泊通知管理システムは、E社のシステム部が運用している。旅行代理店及び宿泊施設からの問合せは、システム部が運営するサポートデスクで受け付けている。 〔宿泊通知サービスの機能〕 宿泊通知サービスの機能を表1に示す。 表1 宿泊通知サービスの機能 〔宿泊通知管理システムのリニューアル〕 E社では、サービス拡大のために、旅行代理店が宿泊通知の送信状況をリアルタイムに把握できる機能(以下、送信状況確認機能という)を追加することにした。宿泊通知管理システムは、利用開始から7年が経過し、その間に、接続する旅行代理店数及び宿泊通知件数が大幅に増加し、処理能力の増強やソフトウェア構成の大幅な見直しも必要となってきたので、リニューアルを行うことにした。現在の宿泊通知管理システムは、独立したハードウェアで稼働しているが、新システムではハードウェア費用を低減させるために、E社が既に運用しているサーバ上に本番環境を構築することにした。このサーバでは、E社がサービスを提供する多数のシステムが稼働している。深夜には、各サービス用システムでバッチ処理及びバックアップ処理が行われていて、ファイル書込み処理の負荷が高い。 システム部のF部長は、ITサービスマネージャのK氏に、新システムの受入れテストの実施、及びリスクが最小限となるようなシステム移行計画の作成を指示した。 〔旅行代理店のグループ分けと保有ファイル〕 宿泊通知サービスを利用する旅行代理店は、契約している宿泊施設が表1に示す蓄積データ取出し機能を利用しているかどうか、及び宿泊通知サービスに何らかのトラブルが発生した場合に旅行代理店のシステムから宿泊通知を再送できるかどうかによって、表2に示す四つのグループに分類できる。K氏は、新システムに移行するファイルについて検討するために、宿泊通知管理システムが保有しているファイルを調査し、その結果を表3にまとめた。 表2 宿泊通知サービスを利用する旅行代理店のグループ分け 表3 宿泊通知管理システムが保有しているファイル 〔受入れテストの実施〕 K氏は、新システムへの切替えが可能かどうかを評価するために、受入れテストを行った。受入れテストでは、機能確認テスト、障害テスト及び負荷テストを実施する。 K氏は、本番環境と同一の性能がある開発環境を利用して、機能確認テストと障害テストを実施した。機能確認テストでは、表1に示す機能、及び新機能である送信状況確認機能について、正常系、異常系の動作を検証し、問題がないことを確認した。さらに、旅行代理店との間で取り決めているメンテナンス日に本番環境を使って、大量の宿泊通知を送信する負荷テスト用ソフトウェアを利用し、疑似的な複数の旅行代理店のシステムからテスト用の宛先に大量のテストデータを送信し、新機能である送信状況確認機能を利用する負荷テストを実施した。現在のシステム構築時に想定した旅行代理店数及び宿泊通知件数のテストデータを用いて負荷をかけても、処理性能に問題がないことを確認した。K氏は、以上のテスト結果から、新システムは切替え可能な品質であると判断した。 〔新システムへの移行方式の検討〕 K氏は、旅行代理店向けのサービス提供に支障が出ないように、1か月程度、新旧システムを並行稼働させ、旅行代理店ごとに順次新システムに移行するシステム移行計画をまとめた。接続方式には変更がなく、宿泊施設のPCの専用ソフトウェアも変更する必要がないので、旅行代理店のシステムの接続先を、現システムから新システムに変更することで、旅行代理店ごとに移行することができる。切替え回数を減らすために、表2のグループ単位で複数の旅行代理店をまとめて新システムに移行することにした。この方式では、新システム移行後に不具合が見つかり、切戻しが必要となった場合でも、グループ単位で現システムに戻すことができる。K氏はリスクを低減するために、表2のグループについて、(ア)前半でグループ1、グループ3の順に切り替え、後半でグループ2、グループ4の順に切り替えることにした。 〔ファイル移行計画の検討〕 宿泊通知サービスのサービス提供時間は、午前4時から翌日午前3時までであり、システム移行に利用できる時間は1時間しかない。表3の全てのファイルを移行するには、1時間では足りない。ファイル移行時間を短縮するために、並行稼働開始前に、新システムに全ての宛先ファイルを移行しておき、全ての旅行代理店の新システムへの移行が完了するまで、新旧のシステムで宛先の追加、変更及び削除について同一の処理を行うことにした。また、ログファイルは新旧のシステムで形式が異なるので移行は不要と判断した。 K氏は開発環境のサーバを利用してファイル移行テストを実施し、1時間以内に移行が完了することを確認した。 〔新システムへの切替え〕 K氏は、システム移行計画をF部長に報告し、承認を得たので、新機能である送信状況確認機能と旅行代理店ごとの移行計画について、サポートデスクに説明した。サポートデスクは、旅行代理店からの問合せに対応できるように必要な問合せ対応マニュアルを整備した。 K氏は、新システムへの移行を開始した。グループ1の切替えが予定どおり終了したところで、グループ3の旅行代理店から送信状況確認機能の早期リリース要請を受けた。そこで、K氏は、F部長と相談し、システム移行計画を当初予定から1週間前倒しして、グループ3の切替えを実施した。 グループ3の切替えを行ったところ、サービス利用量が最大となる午前9時頃に処理が遅延する障害が発生した。原因を調査した結果、複数の旅行代理店が、宛先が異なるPC及びFAXに大量の通知を送信したときに、新機能である送信状況確認機能を利用したところ、処理が遅延していたことが分かった。また、この障害発生時に、サポートデスクでは一部の旅行代理店からの問合せに対して、K氏から説明された時点の移行計画に基づいて現システムの調査をしたので、回答に時間を要するなど、(イ)対応に手間取った。 設問1 〔新システムへの移行方式の検討〕について、本文中の下線(ア)のように後半でグループ2とグループ4を切り替えることにした理由を、50字以内で述べよ。 設問2 〔ファイル移行計画の検討〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1)宛先ファイルを並行稼働開始前に新システムに移行し、新旧システムで宛先の追加、変更及び削除について同一の処理を行うことによる利点を、ファイル移行時間短縮以外の観点から40字以内で述べよ。 (2)ファイル移行計画を見直すことで、切替え当日のファイル移行時間を短縮することができる。作業内容を具体的に、30字以内で述べよ。 (3)K氏が実施したファイル移行テストではテスト要件として不十分な内容がある。テスト要件として適切な内容を40字以内で述べよ。 設問3 〔新システムへの切替え〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)処理が遅延する障害が発生したのは、受入れテストに問題があったからである。受入れテストの問題点を、40字以内で述べよ。 (2)本文中の下線(イ)の再発防止のために実施すべき内容を、40字以内で述べよ。
図1 宿泊通知サービスのシステム構成。旅行代理店のシステムからVPN経由で宿泊通知管理システムへ接続し、PCへはVPN、FAXへはFAX送信サーバと公衆電話網で通知を送る構成図。
図1 宿泊通知サービスのシステム構成。旅行代理店のシステムからVPN経由で宿泊通知管理システムへ接続し、PCへはVPN、FAXへはFAX送信サーバと公衆電話網で通知を送る構成図。
表1 宿泊通知サービスの機能。PC宛て送信、FAX宛て送信、送信結果の回答、蓄積データ取出しの四つの機能と概要を示す表。
表1 宿泊通知サービスの機能。PC宛て送信、FAX宛て送信、送信結果の回答、蓄積データ取出しの四つの機能と概要を示す表。
表2 宿泊通知サービスを利用する旅行代理店のグループ分け。蓄積データ取出し機能の利用有無と、トラブル時の宿泊通知再送可否により、旅行代理店を四グループに分類した表。
表2 宿泊通知サービスを利用する旅行代理店のグループ分け。蓄積データ取出し機能の利用有無と、トラブル時の宿泊通知再送可否により、旅行代理店を四グループに分類した表。
表3 宿泊通知管理システムが保有しているファイル。宛先、送信、蓄積、課金、ログの各ファイルについて、用途と特徴を整理した表。
表3 宿泊通知管理システムが保有しているファイル。宛先、送信、蓄積、課金、ログの各ファイルについて、用途と特徴を整理した表。
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判断に使う前提条件をそろえる

受入れテストや移行、運用連携について考える際は、判断に用いる前提条件がそろっているかに注目しましょう。記載された情報をいったん整理し、異なる前提を混ぜて考えていないかを確かめることが出発点になります。

この問題で問われていること

この問題では、与えられた情報を判断の根拠にする際、その前提が対象とする範囲を意識してみましょう。ある条件の下で述べられた内容を、条件の異なる場面にもそのまま当てはめていないか、立ち止まって整理してください。

視点

情報の意味は、それが置かれた前提によって捉え方が変わることがあります。まず、明記された条件と自分が補った想定を分け、判断の根拠となる情報と結び付けて整理しましょう。

確認ポイント

  • 判断の根拠と、その前提条件を区別できているか
  • 異なる条件の情報を、同じ前提として扱っていないか
  • 明記された前提と、自分で補った前提を分けているか
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解説

安全なシステム移行には、再送可否に応じた切替え順序、切戻しを容易にする宛先情報の同期、過去データの事前移行が必要です。受入れ時には本番の高負荷や利用量の増加を考慮し、計画変更をサポートデスクにも共有します。

問題の全体像

E社は、旅行代理店から受けた宿泊通知を宿泊施設のPCやFAXへ送信しています。利用開始から7年間で旅行代理店数と通知件数が増加したため、送信状況確認機能の追加とシステムの刷新を行います。移行に使える時間は1時間で、新しい本番環境は他のシステムとサーバを共用しています。また、旅行代理店によって通知を再送できるかどうかが異なります。公式の出題趣旨では、運用開始後の利用方法を想定した受入れ基準と、安全かつ確実に切り替える移行計画の策定能力を問うとしています。各設問では、切戻しの影響、ファイル移行の工夫、本番条件に即したテスト、変更情報の共有を本文に沿って判断します。

設問1

表2の「トラブル時の宿泊通知の再送」に着目します。前半のグループ1・3は再送できますが、後半のグループ2・4は再送できません。本文では、不具合が見つかった場合にグループ単位で現システムへ切り戻せるとしています。このとき再送できないグループは、通知を再送して業務を回復することができず、業務への影響が大きくなります。公式解答例では、この再送可否によるリスクの違いを理由としています。50字以内の答案では「切戻し時に宿泊通知を再送できず、本番業務に影響するリスクがあるから。」とまとめられます。蓄積データ取出し機能の利用有無ではなく、再送できないことを根拠にするのが要点です。

設問2(1)

宛先ファイルを事前移行するだけでなく、その後も新旧システムで追加・変更・削除を同じように行う点に着目します。表3によると宛先ファイルは更新頻度が高いため、この処理によって現システムにも最新の宛先情報が保持されます。新システムの運用開始後に切り戻しても、宛先情報を新システムから移し直す必要がありません。公式解答例では、この切戻し時の移行不要を利点としています。40字以内なら「切戻し時にも宛先ファイルを移行せずに済む。」と表せます。採点講評では、新旧の内容が同一なのでバックアップとして利用できるといった解答は誤りとされており、切戻しを容易にする効果まで書く必要があります。

設問2(2)

表3の蓄積ファイルは、過去に送信した宿泊通知を記録し、旅行代理店ごとに1日1ファイル作成されるものです。過去分は切替え当日にまとめて移す必要がなく、事前に新システムへ移しておけば当日の作業量を減らせます。宛先ファイルは既に事前移行する計画であり、ログファイルは移行不要とされているので、追加の短縮策として過去分の蓄積ファイルに着目します。公式解答例でも、過去分の蓄積ファイルの事前移行を示しています。30字以内なら「過去分の蓄積ファイルを事前に新システムへ移行する。」と、対象・時期・移行先を具体的に書けます。

設問2(3)

K氏がファイル移行テストを開発環境で実施した点と、本番サーバでは深夜に他システムのバッチ処理やバックアップ処理が動き、ファイル書込みの負荷が高い点を結び付けます。移行時間帯は午前3時から4時までの1時間です。開発環境で1時間以内に終了しても、本番の高負荷時に同じ時間で完了できるとは限りません。公式解答例では、本番環境で発生する高負荷の状況でも1時間以内に移行が完了することを要件としています。40字以内なら「本番環境の高負荷時でも1時間以内にファイル移行が完了すること。」とまとめられます。実際の負荷条件と制限時間の両方を押さえることが必要です。

設問3(1)

リニューアルの背景として旅行代理店数と宿泊通知件数が大幅に増加したのに、負荷テストでは「現在のシステム構築時に想定した」数量を使った点に着目します。7年前の想定では、現在のピーク時の利用量を十分に検証できません。公式解答例では、負荷テストで旅行代理店数と宿泊通知件数の増加を考慮していないことを問題点としています。40字以内なら「負荷テストで旅行代理店数及び宿泊通知件数の増加を考慮していない。」と表せます。本文では新機能の正常系・異常系を検証し、負荷テストでも新機能を利用しています。採点講評でも、機能確認テストが不十分という解答は誤りとされており、負荷量の設定に焦点を当てます。

設問3(2)

サポートデスクには当初の移行計画を説明していましたが、その後、グループ3の切替えを1週間前倒ししています。障害発生時には、サポートデスクが変更前の計画に基づいて現システムを調査したため、回答に時間がかかりました。原因は、最新の切替え状況が共有されていなかったことです。公式解答例では、移行計画が変更された場合にサポートデスクへ最新のリリース計画を説明するとしています。40字以内なら「移行計画変更時に、サポートデスクへ最新のリリース計画を説明する。」とまとめられます。変更時という契機、共有先、共有する情報を明確に書くことが要点です。

学習のポイント

本文の運用条件を根拠に、切戻しのリスク、ファイルの更新特性、負荷テストの妥当性を判断する力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成24年度秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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