SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

平成23年度秋期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 ITサービスの障害管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 S社は,自社の保有設備を用いて,システム運用のアウトソーシングサービスを提供している。また,T社はIT製品販売会社で,T社の会員向けにIT関連製品の情報を紹介するWebサイト(以下,Tシステムという)を,S社のサービスを利用して公開している。Tシステムの運用は,S社のITサービス部が担当している。ITサービス部は,10名で構成されている。 〔S社のインシデント管理〕 インシデントとは,サービスの中断・品質低下を引き起こす障害を指す。 会員が異常を発見し,T社に連絡すると,T社はS社にインシデントの対応を依頼する。S社ITサービス部では,要員の中からインシデント対応の責任者を割り当てる。責任者は,サービスの回復を確認するまでインシデントの解決状況を追跡する。また,責任者は,インシデント管理システム(以下,管理システムという)を使用して,インシデントの状況を記録する。 (1)インシデントの対応プロセス ① 記録 受け付けたインシデントを分類し,発生事象に基づいて管理システムに登録する。 ② 優先度の設定 全てのインシデントに優先度を設定する。優先度は,回復策の緊急度を表し,“最高”・“高”・“中”・“低”のいずれかを設定する。障害の状況に応じて優先度判定ルールが定められている。 ③ 調査・診断 サービスを可能な限り迅速に回復させるために,インシデントの調査・診断を行い,解決を試みる。過去に類似のインシデントが発生していないか,回復策があるか,などを調査する。 ④ 障害回復処理 優先度に応じた目標復旧時間(インシデントの受付からインシデントの解決までの最長時間)を目安に対応を行う。 ⑤ 段階的取扱い(エスカレーション) 次のような場合,責任者は専門部署に回復策の検討を依頼する。 ・自らの知識・技能では回復策を見いだせない。 ・目標復旧時間内に,回復できないおそれがある。 ⑥ 解決 T社によるサービスの回復確認をもって,インシデントの解決とする。 ⑦ T社とのコミュニケーション インシデントに関する受付,障害回復処理の開始・完了を,T社に通知する。また,障害回復処理の進捗状況について,T社に最新情報を提供する。 (2)重大なインシデント 優先度が“最高”又は“高”に設定されたインシデントは,重大なインシデントとして取り扱い,S社のインシデント解決エキスパートに通知される仕組みとなっている。インシデント解決エキスパートは,回復に必要な全ての調整・管理を行い,必要な技術専門家を招集する権限と責任,上位マネジメント層にエスカレーションを行う権限と責任が与えられている。 〔Tシステムのインシデント対応〕 ある日,特定の地域の会員数名からT社に対して,“Tシステムにアクセスできない”という連絡が入った。S社では,Y氏をインシデント対応の責任者として割り当てた。Y氏は,インシデントとして対応する旨をT社に通知し,直ちに調査を開始した。インシデント対応での経緯は,次のとおりである。 (1)特定の地域の会員に限ってTシステムにアクセスできないという連絡内容から,Y氏は表1のTシステムの優先度判定ルールを参照し,インシデントの優先度を“中”と判断した。 表1 Tシステムの優先度判定ルール (2)Y氏はインシデントの内容を管理システムに記録した後,検索ツールを使って過去のインシデント情報から類似事象を検索した。 (3)抽出されたインシデント情報を順次確認した結果,インシデントの受付から15分後に,一部地域で発生した類似インシデントの存在を突き止めた。原因は既に解明されていて,根本対策としてTシステムの通信プログラムの修正が必要であり,修正後の通信プログラムは,数か月後にリリースされる計画であることが分かった。類似インシデントに対しては,暫定対策としてTシステムの通信プログラムの参照先テーブル情報を修正していた。Y氏は,この暫定対策を適用してよいかどうか,すぐには判断できなかった。 (4)Y氏は別の回復策がないか,抽出された残りのインシデント情報を確認し,上記類似インシデントの原因と同様か,究明を続けた。 (5)インシデントの受付から3時間後に,T社から“Tシステムの障害回復は,その後どのような状況になっているか。(ア)本日は割引キャンペーンの実施日(以下,キャンペーン日という)であり,キャンペーン情報を掲載するので,迅速な回復をお願いしたい”という依頼があった。そこで,Y氏は通信プログラムを担当している専門部署に相談し,対応を検討した結果,類似インシデントの暫定対策を採用することになった。 (6)(イ)Y氏は回復策による処置が正常に終了したことを確認し,当該インシデントの解決を管理システムに記録し,サービスの回復をT社に報告した。その時点で,既にインシデントの受付から5時間が経過していた。T社からは,“サービスが回復しているかどうか,これから会員に確認する”という回答があった。しばらくして,T社から,“障害の連絡をしてきた会員は,Tシステムを正常に使用できている。他の会員からも障害の連絡は入っていない。ところで,会員から障害回復などに関する問合せが何度もあったが,対応状況が分からず,返答に困った。報告が遅すぎるのではないか”というクレームがあった。 〔その後の判明事項〕 その後の調査で,次の事実が判明した。 (1)業務特異日の対応 Tシステムを利用する業務には,キャンペーン日などの業務特異日がある。このような業務特異日にインシデントが発生した場合は,通常日よりも1ランク高い優先度を設定し,対応することが,T社とS社で合意されていた。 T社はS社に対して,前日までにキャンペーン日を通知していた。S社では,当日がキャンペーン日であることをY氏に口頭で連絡していたが,Y氏は障害回復において,キャンペーン日を考慮していなかった。 (2)障害の緊急回復策 Y氏が後日,専門部署と打合せを行った結果,今回のインシデントに対しては,システムを利用する側のPCの電源断/再投入によってサービスを回復できることが,S社のサービスを利用している他社類似システムの暫定対策から分かった。 〔障害に関する月次報告書の改善〕 T社から“最近,障害発生件数は減少しているが,同じような障害が何回も発生している。障害回復までに時間が掛かる上,根本的な対策が打たれているのかどうか疑問であり,不安である”という指摘を受けた。具体的には,障害に関する月次報告書の内容の改善要望であった。現在の月次報告書の内容は,図1に示すとおりである。S社は今後,T社に報告すべき内容を整理し,障害に関する月次報告書を改善することにした。 図1 障害に関する月次報告書の内容 設問1 〔Tシステムのインシデント対応〕における障害回復処理について,(1)~(3)に答えよ。 (1)T社から障害の連絡を受けた後のY氏の障害回復処理において,下線(ア)への対応に関する問題点を,30字以内で述べよ。 (2)(1)を引き起こした根本原因を,30字以内で述べよ。また,この再発防止策としてS社が検討すべき内容を,30字以内で述べよ。 (3)〔S社のインシデント管理〕中の⑤段階的取扱い(エスカレーション)のプロセスと照らし合わせて,Y氏によるインシデント対応の問題点を,30字以内で述べよ。 設問2 〔Tシステムのインシデント対応〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)下線(イ)に関する問題点を,40字以内で述べよ。 (2)T社からの“報告が遅すぎるのではないか”というクレームに対して,S社として考えられる改善策を,50字以内で述べよ。 設問3 〔障害に関する月次報告書の改善〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)障害に関する月次報告書に追加すべき内容を,30字以内で具体的に述べよ。 (2)会員からT社に障害連絡が入った際に,T社が会員に対してサービス回復を支援できるようにするために,S社が行うべき提案内容を,30字以内で述べよ。
表1 Tシステムの優先度判定ルール。Tシステムの障害状況を優先度「最高・高・中・低」に分類し,各優先度に対応する目標復旧時間を示した表。
表1 Tシステムの優先度判定ルール。Tシステムの障害状況を優先度「最高・高・中・低」に分類し,各優先度に対応する目標復旧時間を示した表。
図1 障害に関する月次報告書の内容。障害に関する月次報告書に含めるインシデント一覧,各インシデントの対応内容,インシデント管理のKPIを示した構成図。
図1 障害に関する月次報告書の内容。障害に関する月次報告書に含めるインシデント一覧,各インシデントの対応内容,インシデント管理のKPIを示した構成図。
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検討する対象の範囲をそろえる

この分野を学ぶ際は、まず検討対象の範囲に注目しましょう。示された情報が何について述べているのかを整理し、自分が考えようとしている対象と重なっているかを確かめると、論点を落ち着いて捉えられます。

この問題で問われていること

問題に取り組むときは、判断の対象となる範囲を意識してください。広い話題から思い浮かべた知識をそのまま当てはめず、与えられた条件の中でどこまでを考える必要があるのか、対象の広さを確かめてみましょう。

視点

対象の範囲は、同じ話題でも条件によって異なることがあります。何を含めて考えているかを言葉にし、示されている範囲と自分の理解が一致しているかを整理しましょう。

確認ポイント

  • 検討対象に含める範囲を言葉にできるか
  • 与えられた条件より範囲を広げていないか
  • 考えている途中で対象の範囲が変わっていないか
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解説

業務特異日を考慮した優先度設定、早期の専門部署との連携、T社による回復確認、連絡と調査の分担が要点です。月次報告には根本原因と再発防止策の実施計画を追加し、T社の回復支援には暫定対策を整備して提示します。

問題の全体像

S社が運用するT社の会員向けWebサイトで、一部地域からアクセスできない障害が発生した事例です。Y氏は過去事例を調査しましたが、キャンペーン日の優先度設定、専門部署との連携、解決の判断、T社への情報提供に問題がありました。公式の出題趣旨では、JIS Q 20000の解決プロセスを題材に、迅速なサービス回復のための記録・追跡・終了までの管理と、報告内容の改善を問うとされています。各設問では、定められたプロセスと実際の対応との差を捉え、顧客の業務への影響を踏まえた改善を考えます。

設問1(1)

下線(ア)のキャンペーン日という情報と、〔その後の判明事項〕の業務特異日の合意に着目します。通常は特定地域の利用不能なので表1の優先度は「中」ですが、業務特異日には1ランク上げるため、今回は「高」とする必要がありました。公式解答例では、この引上げを行わなかったことを問題点としています。「高」の目標復旧時間は4時間で、重大なインシデントとして扱われるため、優先度設定は対応体制にも関わります。30字以内の答案では「業務特異日なのに優先度を1ランク上げなかった。」という要素を押さえます。

設問1(2)(根本原因)

S社は当日がキャンペーン日であることをY氏に口頭で連絡していました。したがって、日付の情報が届かなかったことを原因にはできません。公式解答例では、業務特異日の取扱いが周知されていなかったことを根本原因としています。着目すべきなのは、業務特異日には優先度を上げるという対応ルールの周知です。採点講評では、問題文の事象を転記しただけの解答が散見されたとされています。「Y氏が考慮しなかった」という行動の説明から一段掘り下げ、30字以内で「業務特異日の取扱いが周知されていなかった。」とまとめます。

設問1(2)(再発防止策)

Y氏は表1を参照して優先度を判断しましたが、表1には業務特異日の取扱いが記載されていません。公式解答例では、業務特異日の対応を優先度判定ルールの中に明記することを再発防止策としています。実際に判断に使うルールへ、通常日より1ランク上げる条件を組み込むことで、担当者が判断時に確認できるようにします。30字以内では「業務特異日の対応を優先度判定ルールに明記する。」とし、何をどこに明記するかを具体的に示します。

設問1(3)

⑤段階的取扱いでは、自らの知識・技能で回復策を見いだせない場合などに、専門部署へ検討を依頼すると定めています。Y氏は受付から15分後に類似事例を見つけましたが、暫定対策を適用できるか判断できず、その後も原因究明を続けました。専門部署への相談は、3時間後にT社から連絡を受けてからです。公式解答例では、原因究明を続けたため専門部署との連携が遅れたことを問題点としています。30字以内では「原因究明を続け、専門部署との連携が遅れた。」とし、迅速な回復に向けた連携の遅れを示します。

設問2(1)

⑥解決の条件は「T社によるサービスの回復確認」です。一方、下線(イ)では、Y氏は回復処置が正常に終了した段階で解決を記録しています。その後にT社が「これから会員に確認する」と回答しているため、解決判断の時点では必要な確認が済んでいません。処置の正常終了と、利用者がサービスを利用できることの確認は別の段階です。公式解答例では、T社にサービス回復結果を確認する前に解決と判断したことを挙げています。40字以内では「T社によるサービス回復確認前に解決と判断した。」とまとめます。

設問2(2)

T社は会員から何度も問合せを受けましたが、対応状況が分からず返答に困っていました。⑦では進捗の最新情報を提供すると定めているものの、Y氏は調査を続け、T社から状況確認を受けています。公式解答例では、Y氏のほかにITサービス部員を割り当て、T社とのコミュニケーションと調査・診断を分担する改善策を示しています。採点講評では「進展があった時点で報告する」といった解答は改善策にならないと指摘されています。50字以内では「Y氏の他に部員を割り当て、T社との連絡と調査・診断を分担する。」とし、報告を支える体制を示します。

設問3(1)

T社の不安は、同じような障害が繰り返され、根本的な対策が実施されているか分からないことです。図1の月次報告書には障害内容、影響、暫定対応、回復時間、発生件数などがありますが、根本原因と再発防止策の実施計画はありません。公式解答例では、この二つを追加して報告するとしています。採点講評でも、インシデント管理の報告に加えて根本原因や再発防止策を報告する必要性が示されています。30字以内では「障害の根本原因と再発防止策の実施計画を報告する。」とし、原因と今後の対策を組み合わせます。

設問3(2)

〔その後の判明事項〕では、利用者側のPCの電源断・再投入で回復できることが、他社の類似システムの暫定対策から分かりました。ここから、回復に役立つ暫定対策を整備してT社へ提示すれば、T社が会員を支援できると考えます。公式解答例は、早期回復のための暫定対策を整備し、提示するという提案です。採点講評では、単に会員へPCの再起動を試してもらう解答は、S社が行うべき提案として不適切とされています。30字以内では「早期回復のための暫定対策を整備し、T社に提示する。」とし、今回の操作だけでなく、回復支援に使える対策の整備と提供を示します。

学習のポイント

本文の対応ルールと実際の行動を照合し、個人の行動上の問題から、周知・ルール・役割分担という管理上の改善へ結び付ける読み方を学びます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成23年度秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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