SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

平成22年度秋期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 ITサービス継続性管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 A社は,全国に営業店100店舗を展開する中堅の損害保険会社であり,主力商品の自動車保険では“事故対応支援サービス”を毎日提供している。事故対応支援サービスでは,被保険者から交通事故発生の連絡を受けると,保険契約者の情報(以下,契約者情報という)を確認して事故車両の処理の手配などを行う。A社では,3年前に構築した顧客管理システムで管理している契約者情報を,オンライン処理によってリアルタイムに更新している。 〔顧客管理システムの概要〕 顧客管理システムの構成は図1のとおりである。 図1 顧客管理システムの構成 各営業店では,PC端末上のブラウザを使って,第1データセンタ(以下,本番サイトという)のAPサーバにアクセスする。APサーバでは,DBサーバの契約者情報の参照,更新を行う。本番サイトのログサーバ1には,APサーバで処理された利用者の操作ログが,処理の再実行に必要な情報をすべて含んだ状態で取得される。また,A社の災害対策上の観点から,取得した操作ログは第2データセンタに設置されたログサーバ2にリアルタイムに反映され,1年間保存される。操作ログの主要なデータ項目を,図2に示す。 図2 操作ログの主要なデータ項目 〔契約者情報のバックアップ運用〕 現在のバックアップ運用は次のように行われている。 ・毎週水曜日の午前0時にフルバックアップを取得し,水曜日以外の曜日の午前0時に増分バックアップを取得する。ここで,増分バックアップとは,前回のフルバックアップ又は増分バックアップ以降に変更された部分だけをバックアップする方法である。 ・毎週水曜日には,当日取得したフルバックアップだけを磁気テープ媒体に格納して第2データセンタに配送し,保管している。配送時間は8時間である。 A社では,テープの搬出・搬入に伴う作業の効率向上の視点から,バックアップデータの移送を,社内ネットワークを使った方法に切り替える予定である。 なお,社内ネットワークを使った場合のデータ転送時間は,1時間と見込んでいる。 〔サービス継続方針〕 A社では,本番サイトが地震などの被災によってデータセンタとして機能しなくなった場合でも,自動車保険についてはサービス継続を目指す方針である。具体的には,本番サイト内の機器がすべて使用不可能になった場合でも,被災しなかった営業店で事故対応支援サービスを提供するために,契約者情報を確認できるようにする。 これらの方針を受けて,情報システム管理部のT部長は,ITサービスマネージャである部下のS氏に,顧客管理システムのサービス継続計画の作成を指示した。S氏は,社内の関連部門と協議し,サービス継続計画の要件を次のように整理した。 ・障害発生から3時間以内に,契約者情報を参照する機能(以下,契約者情報参照機能という)を回復させる。 ・契約者情報参照機能を利用するために,契約者情報のデータを障害発生日の午前0時の状態にする。 〔サービス継続計画の作成〕 S氏は,契約者情報参照機能について目標復旧時点(以下,RPOという)を設定した上で,現在のバックアップ運用を継続した場合に,〔サービス継続方針〕で想定した被災時にRPOを達成できるかどうかを検討し,評価した。また,契約者情報参照機能の目標復旧時間(以下,RTOという)を3時間に設定し,サービス継続計画の作成に着手した。 災害規模によっては,本番サイトの被災状況が深刻になる可能性があり,3時間以内にデータセンタとしての機能を回復できないことが考えられる。そこで,S氏は,第2データセンタをバックアップサイトとして使用することにした。 バックアップサイトには本番サイトと同じ構成の機器を設置し,本番サイトで取得した契約者情報のバックアップデータをバックアップサイトのDBサーバに手動でリストアすることにした。また,S氏は,サービス継続計画の要件を達成するために,バックアップデータをバックアップサイトのDBサーバにリストアする方式について,表1に示すX案,Y案の比較・検討を行った。 表1 バックアップサイトのDBサーバにリストアする方式の案 S氏は,表1のリストア所要時間について,フルバックアップからのリストアに1時間,増分バックアップの適用に1日分当たり10分間要すると試算した。ただし,両案ともに,契約者情報参照機能の回復までには被災状況の把握,切替え実施の判断,リストアの事前準備作業など,リストアとは別に1時間30分を要する見込みである。 S氏は,検討の結果,Y案が適切であることをT部長に説明し,T部長はY案の採用を承認した。 なお,ログサーバ1からログサーバ2への操作ログの反映は,バックアップサイト構築後も継続する。また,リストア対象のバックアップ取得以降に行われた契約者情報のデータ更新分については,バックアップサイトのDBサーバに対して更新処理を再度実行するための復旧プログラムを作成しておき,プログラムを手動で起動して復旧させることにした。 〔本番運用開始に向けた準備〕 必要な機器を設置し,主要プロダクト,オペレーション手順書などを準備して,バックアップサイトの構築は無事に完了した。A社は,サービス継続計画を4月1日から本番運用することを決定した。また,本番運用に先立って,3月1日からバックアップサイトへのバックアップデータの自動転送を開始し,S氏はサービス継続計画に関連する各種手順書を関係者に配布した。 4月1日の本番運用開始に向けて,A社では,3月15日に本番運用に即した形でバックアップサイトへの切替えリハーサルを実施することにした。T部長から,リハーサルの実施計画の検討を指示されたS氏は,表2に示す切替えリハーサル計画を作成した。 表2 切替えリハーサル計画の一部 S氏は,項番1のリストア作業で使用するバックアップデータについて,切替えリハーサル用のテストデータを作成することも検討したが,(ア)テストデータは作成せずに,自動転送されたバックアップデータを使用した方がよいと判断した。 T部長はS氏が作成した切替えリハーサル計画を承認し,A社では,計画に従って3月15日に切替えリハーサルが行われた。このとき,手順書に記載されていないオペレーション作業がバックアップサイト側で必要になり,オペレータが戸惑う場面もあったが,S氏がオペレータからの質問に迅速に回答することで予定時間内に無事に完了することができた。 なお,問題となったオペレーション作業は,1週間前に実施した本番サイトの基本ソフトウェアの設定変更に伴って追加したもので,本番サイトのオペレーション手順書は,基本ソフトウェアの設定変更後に修正されていた。しかし,バックアップサイトでは,基本ソフトウェアの設定変更を行っただけで,オペレーション手順書を修正していなかった。 設問1 〔契約者情報のバックアップ運用〕について,社内ネットワークを使った方法に切り替えた場合の期待効果を,RPOとRTOの視点から,それぞれ40字以内で具体的に述べよ。効果がない場合は,“なし”と記述せよ。 なお,外部記憶媒体の種類によるデータ入出力時間の差異については,考慮しないものとする。 設問2 〔サービス継続計画の作成〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) RPOとして設定すべき目標値を,10字以内で具体的に答えよ。 なお,バックアップ取得中に災害は発生しないものとする。 (2) 表1中の[a],[b]に入れる適切な数値を答えよ。 (3) X案においては,特定の曜日に被災するとRTOを達成できない。該当する曜日をすべて答えよ。 なお,バックアップの取得中及び転送中に災害は発生しないものとする。 設問3 〔本番運用開始に向けた準備〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 本文中の下線(ア)について,S氏が,自動転送されたバックアップデータを使用することにした理由を,30字以内で述べよ。 (2) 表2の項番4で利用する復旧プログラムに組み込むべき処理の概要を,50字以内で述べよ。 (3) 切替えリハーサルの結果を踏まえて,今後もサービス継続計画を予定どおり機能させるために実施すべき内容を,50字以内で述べよ。
図1 顧客管理システムの構成。営業店1~100のPC端末が社内ネットワークを介して第1データセンタと第2データセンタに接続される構成図。第1データセンタにはファイアウォール、APサーバ、ログサーバ1、DBサーバ(契約者情報DB)、磁気テープ装置があり、第2データセンタにはファイアウォールとログサーバ2がある。
図1 顧客管理システムの構成。営業店1~100のPC端末が社内ネットワークを介して第1データセンタと第2データセンタに接続される構成図。第1データセンタにはファイアウォール、APサーバ、ログサーバ1、DBサーバ(契約者情報DB)、磁気テープ装置があり、第2データセンタにはファイアウォールとログサーバ2がある。
図2 操作ログの主要なデータ項目。操作ログの項目として、シーケンス番号、日時、利用者ID、処理内容の4項目を並べた図。注記として、シーケンス番号にはAPサーバで実行された処理の順番が記録されることが示されている。
図2 操作ログの主要なデータ項目。操作ログの項目として、シーケンス番号、日時、利用者ID、処理内容の4項目を並べた図。注記として、シーケンス番号にはAPサーバで実行された処理の順番が記録されることが示されている。
表1 バックアップサイトのDBサーバにリストアする方式の案。X案は水曜日にフルバックアップ、それ以外の曜日に増分バックアップを取得してバックアップサイトへ自動転送し、両方をリストア対象とする案で、リストア所要時間は最大[a]時間。Y案は毎日フルバックアップを取得して自動転送し、フルバックアップだけをリストア対象とする案で、所要時間は[b]時間。
表1 バックアップサイトのDBサーバにリストアする方式の案。X案は水曜日にフルバックアップ、それ以外の曜日に増分バックアップを取得してバックアップサイトへ自動転送し、両方をリストア対象とする案で、リストア所要時間は最大[a]時間。Y案は毎日フルバックアップを取得して自動転送し、フルバックアップだけをリストア対象とする案で、所要時間は[b]時間。
表2 切替えリハーサル計画の一部。切替えリハーサルの作業内容。項番1はバックアップサイトでデータをリストア、項番2は各営業店で接続先をバックアップサイトに切替え、項番3は契約者情報参照機能の動作確認、項番4は更新処理を再度実行するための復旧プログラムを手動で起動する。
表2 切替えリハーサル計画の一部。切替えリハーサルの作業内容。項番1はバックアップサイトでデータをリストア、項番2は各営業店で接続先をバックアップサイトに切替え、項番3は契約者情報参照機能の動作確認、項番4は更新処理を再度実行するための復旧プログラムを手動で起動する。
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判断の前提となる条件の確認

この分野を学ぶときは、判断の前提となる条件がそろっているかに注目しましょう。用語の印象だけで結論を急がず、与えられた情報の範囲と、そこから読み取れる内容を分けて整理することが大切です。

この問題で問われていること

検討の焦点は、それぞれの情報がどのような前提のもとで示されているかです。明示された条件と、自分で補った想定を区別し、同じ前提で捉えられるかを確かめながら、判断の根拠を整理しましょう。

視点

前提とは、情報を解釈するときに土台となる条件です。明示された内容と、自分が補っている想定を分けると、検討の範囲を整理しやすくなります。

確認ポイント

  • 明示されている前提を把握できているか
  • 書かれていない条件を自分で補っていないか
  • 整理した内容が同じ前提に基づいているか
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解説

本問は、事故対応支援サービスを継続するために、RPOとRTOを事業要件から設定し、バックアップ方式を比較する問題です。操作ログを使った更新の再実行、本番運用に即したリハーサル、両サイトの手順書を整合させる変更管理までが問われます。

問題の全体像

A社は、本番サイトが被災して全機器が使用不能になっても、被災しなかった営業店で事故対応支援サービスを続けたいと考えています。そのための要件は、契約者情報参照機能を障害発生から3時間以内に回復し、データを障害発生日の午前0時の状態にすることです。問題では、この要件を満たすバックアップ方式の選択に加え、操作ログによる更新の再実行、切替えリハーサル、運用開始後の変更管理を検討します。公式の出題趣旨では、事業要件に沿った目標値の設定と、システム構成や保守・運用プロセスの問題を発見し解決する能力を問うとされています。

設問1(RPO)

公式解答例では「なし」です。着目するのは、変更する対象がバックアップデータの移送方法であることです。水曜日の午前0時に取得したフルバックアップを移送する運用は変わらず、取得頻度やデータの基準時点も変わりません。配送をネットワーク転送に切り替えても、バックアップに含まれるデータが新しくなるわけではないため、RPOの観点で期待する効果はありません。答案は設問の指定どおり「なし」とします。

設問1(RTO)

公式解答例では、磁気テープ媒体の配送とデータ転送の時間差である7時間を削減できるとしています。根拠は、配送時間が8時間、社内ネットワークによる転送時間が1時間という記述です。必要なバックアップデータが第2データセンタに届くまでの時間を、8−1=7時間短縮できます。外部記憶媒体による入出力時間の差は考慮しない条件なので、移送時間の差に着目します。40字以内の答案では「配送から転送への変更で、データ移送時間を7時間削減できる。」とまとめられます。これは移送に関する短縮効果であり、リストア処理自体の時間短縮を意味しません。

設問2(1)

公式解答例では「障害発生日の午前0時」です。サービス継続計画の要件に、契約者情報のデータを障害発生日の午前0時の状態にすると明記されています。RPOは復旧対象とするデータの時点なので、この要件をそのまま目標値にします。「3時間」は機能回復までの時間であり、RTOの値です。答案は空白を入れずに「障害発生日の午前0時」とすれば10字に収まります。

設問2(2)(a)

公式解答例では、aは「2」です。X案では水曜日のフルバックアップに、その後の増分バックアップを順番に適用します。増分は前回のバックアップ以降の変更分だけなので、最新の増分だけでは復旧できません。最大となるのは火曜日の午前0時の状態へ復旧する場合で、木・金・土・日・月・火の6日分を適用します。フルバックアップのリストア1時間に、10分×6=60分を加えて、最大2時間です。表1はリストア所要時間を問うため、別途必要な1時間30分はここには加えません。

設問2(2)(b)

公式解答例では、bは「1」です。Y案は毎日フルバックアップを取得して転送するので、障害発生日の午前0時の状態へ復旧するために、その日のフルバックアップだけをリストアします。増分バックアップの適用は不要であり、本文に示されたフルバックアップのリストア時間である1時間が答えになります。機能回復までの全体時間は、これに別途必要な1時間30分を加えた2時間30分で、RTOの3時間以内に収まります。

設問2(3)

公式解答例では「日曜日、月曜日、火曜日」です。RTOとの比較では、リストア時間に、被災状況の把握や切替え判断などの1時間30分も加えます。X案の所要時間は、1時間30分+フルバックアップのリストア1時間+増分の適用数×10分です。土曜日は木・金・土の3日分を適用して合計3時間となり、期限内です。日曜日は4日分で3時間10分、月曜日は5日分で3時間20分、火曜日は6日分で3時間30分となり、3時間を超えます。取得中と転送中には災害が発生しない条件なので、その待ち時間は追加しません。

設問3(1)

着目するのは、リハーサルを「本番運用に即した形」で実施するという方針と、バックアップデータの自動転送が既に開始されていることです。実際に取得・転送されたデータを使えば、本番と同じ条件でリストアを試し、バックアップと転送の正常性も確認できます。また、そのデータに対応する操作ログを使って、更新処理を再実行する復旧プログラムをテストできます。公式解答例では、これらを理由として挙げています。30字以内の答案では、例えば「バックアップと転送処理の正常性を確認するため。」と一つの理由を具体的に示します。

設問3(2)

本番サイトの操作ログには処理の再実行に必要な情報が含まれ、第2データセンタのログサーバ2へリアルタイムに反映されています。また、図2ではシーケンス番号がAPサーバで実行された処理の順番を表すとされています。公式解答例では、ログサーバ2の操作ログを参照し、リストア済みの最終シーケンス番号より後の更新処理を実行すること、又はシーケンス番号順に更新処理を実行することを示しています。復旧済みの更新を重ねて適用せず、元の処理順を保つ点を押さえます。50字以内では「ログサーバ2の操作ログから、リストア済み最終番号より後の更新をシーケンス番号順に再実行する。」とまとめられます。

設問3(3)

リハーサルでオペレータが戸惑った原因は、基本ソフトウェアの設定を両サイトで変更したのに、バックアップサイトの手順書を修正していなかったことです。公式解答例では、変更対象にバックアップサイトのオペレーション手順書を加えること、又は本番サイトとバックアップサイトの不整合を防ぐ変更管理を実施することを示しています。今回の手順書を直すだけでなく、今後の変更でも関連する手順書を更新する仕組みが必要です。50字以内では「本番サイトの変更時に、バックアップサイトの手順書も変更対象とする変更管理を実施する。」とまとめられます。

学習のポイント

データの復旧時点とサービスの復旧時間を区別し、増分適用の計算、ログの順序、変更管理の対象を具体的に整理することが重点です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成22年度秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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