STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

令和4年度春期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 AIを利用した気象予測システムに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 C社は,電力会社向け監視制御システムの製造メーカである。親会社である電力会社D社向けに,発電所,変電所などを遠方から監視し,刻々と変わる電力需要に見合う電力を必要な地域に供給できるように遠方から制御するための,発変電遠方監視制御システムを納入してきた。 C社の発変電遠方監視制御システムは,D社管内を網羅するD社所有の有線及び専用無線通信ネットワークを利用している。 現在のD社の設備更新によってC社の当面の売上は期待できるが,C社は,将来を見越し,何らかの手段で売上を維持することが必要となっている。 D社は,電力自由化によって電力の販売価格が下がり,販売電力量も減少してきている。このためD社は,災害時を想定した保守体制,地域に根ざした営業力の強みを生かした新たな事業を模索している。 〔電力市場の状況〕 国は,3年ごとに見直す“エネルギー基本計画”を次のとおりまとめた。 ・2030年度に向けて,電源構成における,太陽光,風力,水力などの再生可能エネルギーの割合を“36%~38%”と,前回の計画“22%~24%”から引き上げる。 ・2030年度に向けて,温室効果ガスを2013年度に比べて46%削減する。 この基本計画は,電力会社が,主力電源として再生可能エネルギーへの切替えを急ぐ必要があることを示している。 〔電力事業における気象予測の必要性〕 蓄電池の技術が発達した現在でも,電力は貯めることが難しいエネルギーとされ,常時需要に見合った電力を発電して供給する技術が重要である。 電力の需要は,気候・気象と密接に関連しており,特に気温は発電計画の重要な要素として扱われてきた。今後,電源構成における再生可能エネルギーの割合が大きくなると,電力の供給においても気象の影響をより大きく受けるようになる。 そこで,気象の変化を予測して,再生可能エネルギーの発電出力の変動を相殺するように,火力発電などの発電出力を遅滞なく制御する必要がある。 さらに,電力会社間での電力の融通量を計算する情報システムにおいて,今後は,電力の融通量の算出に気象要素を含めることで,全国規模の効率化を図ることが求められている。 〔気象災害の激甚化〕 近年,地球温暖化が進んだことで,気象災害が激甚化するようになり,自治体による地域防災をはじめ,公共インフラ,交通機関,イベント事業,小売業など,地域企業で,局地的な気象に対する課題が大きくなってきている。 中でも“ゲリラ豪雨”と呼ばれる局地的な激しい降雨は,都市型の気象と考えられているものもある。都市開発によって土地の起伏や構成要素(田畑,森,工場,ビル,家屋,道路,鉄道など)が変化し,都市型の気象は,頻繁に変わる土地の起伏や構成要素と密接に関係する。 〔局地的な気象を予測するシステムの検討〕 C社のITストラテジストであるE氏は,再生可能エネルギーの発電出力の変動を地域ごとに予測する技術の重要性が高まると考え,気象予報士でもあるシステムアーキテクトのF氏に,現在の気象予測技術の調査と,太陽光発電や風力発電などにおける局地的な気象を予測するシステム(以下,局地気象予測システムという)の検討を依頼した。 F氏は,局地気象に詳しい大学教授の文献も参考にして,E氏に調査結果及び検討結果を次のように報告した。 (1) 現在の気象予測技術の調査結果 ・気温,風向,風速などの地上の気象データを約17キロメートル間隔で10分ごとに自動計測して,ラジオゾンデ,レーダ,気象衛星画像などの上空の気象データと併せて,スーパーコンピュータで今後の変化を一日数回算出することで,気象予測をしている。 ・台風,梅雨前線,高気圧・低気圧など,水平スケールが大きく寿命が長い気象については,現在の気象予測技術で予測可能である。 ・竜巻,積乱雲,局地的豪雨など,水平スケールが小さく寿命が短い気象については,現在の気象予測技術で場所と時間を特定した予測は一般化されていない。 ・観測成果を発表するための気象観測に使用する気象データ(気温,風向,風速,気圧,湿度,日射量,降水量など)の計測器(以下,気象測器という)には,検定に合格したものを使用しなければならない。 ・気象測器を販売しているメーカは多いが,検定に合格した気象測器を販売しているメーカは数社に限られており,いずれの気象測器も高価である。 (2) 局地気象予測システムの検討結果 ・気象測器を1キロメートル間隔程度の高密度で多数設置して,10秒ごとの短周期で気象データを連続的に収集し,既存の上空の気象データと併せてAIで分析することで,場所と時間を特定した局地的な気象予測は,理論上可能と言われている。 ・局地的な気象予測の実証例は,確認できなかった。 ・局地的な気象は,土地の起伏や構成要素に影響を受けるので,局地気象予測システムは,搭載した地理情報システム(以下,GISという)と連動させる必要がある。 ・気象測器の台数は,1キロメートル間隔程度の高密度で設置するとD社管内で数万台に上ると想定される。 ・気象測器は,故障に対する修理対応や交換を伴う定期的保守が必要となる。 ・C社だけで,気象データを収集して分析するアプリケーションソフトウェアの開発は可能だが,気象測器の開発は難しい。 ・気象測器の設置に当たっては,周囲の環境を考慮するとともに,電源と通信手段を確保する必要がある。 〔システムの開発方針〕 E氏は,あらかじめ,50台程度の限定した数量の気象測器を使用して,局地気象予測システムの実効性を確認する必要があると考えた。また,実効性を確認する時点では,検定に合格した気象測器を用いなくてもよいと考えた。 E氏は,C社で気象データを収集して分析するアプリケーションソフトウェアを開発することを前提に,F氏に,局地気象予測システムが気象業務法をはじめとする法制度に抵触することがないか調査を依頼した。 〔市場展開の検討〕 E氏は,まずD社の再生可能エネルギー発電所の設置箇所周辺に気象測器を高密度で多数設置することを想定して気象測器の台数を3、000台と試算した。 気象測器3、000台の購入を条件に,検定に合格した製品を販売するX社と,検定に合格した製品をもたないZ社に,製品価格と,予備器の保有,保守交換作業及び製品修理を含む10年間の保守費の見積りを依頼した。 見積りの結果は,Z社が新規開発する検定合格品の価格は,X社の検定合格品の約半額と魅力的だった。しかし,Z社の製品修理価格は安価だが,10年間の保守契約の価格は,別メーカに予備器の保有と保守交換作業を委託するので割高だった。 E氏は,Z社に2%の予備器を追加した3、060台の製品価格と,予備器の保有及び保守交換作業を除く,製品修理だけの保守契約の見積りを再度依頼した。 また,地域企業向けに,都市部に気象測器を高密度で多数設置する段階では,情報更新の頻度が多いGISの地図データを扱う企業と提携する必要があると考えた。 E氏は,C社だけで地域企業の新規市場開拓は難しいと考え,次のような事業戦略を策定した。 〔事業戦略の策定〕 E氏は,局地気象予測システムの運用においてD社と次の役割分担の下,協業することを考えた。 ・C社は,F氏の調査結果に基づき,気象業務法における予報業務の許可を受けた上で,予報業務内容に従い定められた人数以上の気象予報士を雇用し,自社のサーバで収集した気象データをAIによって分析して,気象予報士が判断した予測結果を,D社をはじめとする利用者へ配信する。 ・D社は,気象測器の設置場所の確保,伝送路の準備・提供,及び保守交換作業を行い,局地気象予測システムの予測結果を再生可能エネルギーの発電出力の変動予測に利用するとともに,自治体,地域企業を対象に市場開拓を行う。 さらに,E氏は,局地気象予測システムに外部の情報システムと情報連携を図る機能を追加して,ほかの電力会社へも導入するよう働きかけるべきと考えた。 設問1 〔システムの開発方針〕と〔事業戦略の策定〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) E氏が,局地気象予測システムの実効性を確認する必要があると考えた技術面の目的を,30字以内で述べよ。 (2) E氏は気象測器の設置において,通信手段をどのようにして確保すると考えたか,30字以内で述べよ。 (3) E氏は,F氏に依頼した法制度に関する調査結果を受け,組織体制面でどのような対策を考えたか,25字以内で述べよ。 設問2 〔市場展開の検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) E氏が,Z社に予備器を追加した製品価格と,製品修理だけの保守契約の見積りを再度依頼したのは,予備器の保有及び保守交換作業をどのようにすることを見込んだ結果か,25字以内で述べよ。 (2) E氏が,都市部に気象測器を高密度で多数設置する段階では,情報更新の頻度が多いGISの地図データを扱う企業と提携する必要があると考えた理由を,40字以内で述べよ。 設問3 〔事業戦略の策定〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) E氏が,市場開拓をD社の役割としたのは,D社のどのような特徴を考慮した結果か,15字以内で述べよ。また,市場のどのような状況を考慮した結果か,35字以内で述べよ。 (2) E氏が,局地気象予測システムに外部の情報システムと情報連携を図る機能を追加すべきと考えたのは,どのような社会的な要求に応えるためか,40字以内で述べよ。
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判断の根拠と前提の対応を確かめる

この分野を学ぶ際は、ある判断がどの前提に基づいているかという対応に注目しましょう。もっともらしい表現だけで納得せず、与えられた条件と判断の根拠がつながっているかを丁寧に確かめる姿勢が大切です。

この問題で問われていること

検討の焦点は、判断を支える前提を、与えられた情報から確認できるかという一点です。自分の知識から補った前提を混ぜていないかを意識し、根拠として示された条件に立ち戻って考えてみましょう。

視点

前提は判断の出発点となる条件、根拠はその判断を支える情報として整理できます。判断の内容を検討するときは、根拠がどの前提に結び付いているかを意識すると、考えを整理しやすくなります。

確認ポイント

  • 判断が置いている前提を確認できたか
  • その前提を支える情報を確かめたか
  • 自分で補った前提を根拠に混ぜていないか
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解説

理論段階の局地気象予測を実証し、D社の通信網、保守体制、営業力を活用して事業化する問題です。都市部の地図更新や電力会社間の情報連携まで、技術上の条件と社会・市場の要求を結び付けて読むことが要点となる。

問題の全体像

C社は電力会社向け監視制御システムの製造メーカであり、将来の売上維持に向けて局地気象予測システムを企画している。再生可能エネルギーの拡大は発電出力の変動予測を必要とし、気象災害の激甚化は自治体や地域企業の需要につながる。一方、予測技術の実証、気象測器の調達・保守、法制度への対応が事業化の条件となる。出題趣旨では、社会状況と技術動向を基にした製品企画、開発方針、市場展開、協業・提携を含む事業戦略の策定能力を問うとしている。

設問1(1)

〔局地的な気象を予測するシステムの検討〕にある「理論上可能」と「実証例は確認できなかった」を結び付ける。高密度・短周期の観測データをAIで分析すれば予測できるという理論が、実際に成立するかは未確認です。そのため、50台程度で実効性を確認してから多数の測器を設置する方針となる。公式解答例では「理論上可能と言われている局地的な気象予測を実証するため」としている。30字以内では、理論段階の局地気象予測を実証するという技術面の目的を押さえる。

設問1(2)

冒頭の、D社管内を網羅する「D社所有の有線及び専用無線通信ネットワーク」に着目する。既存の監視制御システムがこの通信網を利用しており、〔事業戦略の策定〕でもD社が伝送路の準備・提供を担う。これらを結び付けると、気象測器の通信手段としてD社の既存通信網を利用する方針が読み取れる。公式解答例では「D社所有の有線及び専用無線通信ネットワークに接続する」としている。30字以内で、通信網の所有者、種類、接続する行為を示します。

設問1(3)

〔事業戦略の策定〕のC社の役割から、組織体制面の対策を選ぶ。本文には予報業務の許可取得と、予報業務内容に従い定められた人数以上の気象予報士を雇用することが示されている。この設問で問われるのは人員体制なので、人数要件を満たす気象予報士の雇用が回答となる。公式解答例でも「定められた人数以上の気象予報士を雇用する」としている。25字以内で、必要人数と雇用を押さえる。採点講評では、組織体制面でない対策の解答も一部に見られたと指摘している。

設問2(1)

Z社の保守契約が割高になる原因は、予備器の保有と保守交換作業を別メーカへ委託することです。E氏は予備器を追加購入し、この二つを除いた製品修理だけの見積りを依頼している。D社には災害時を想定した保守体制があり、〔事業戦略の策定〕では保守交換作業を担当する。公式解答例では「D社で予備器を保有し、保守交換作業も行う」としている。25字以内で、D社が担当することと、予備器の保有・保守交換の両方を示します。

設問2(2)

〔気象災害の激甚化〕にある、都市型の気象と「頻繁に変わる土地の起伏や構成要素」との密接な関係に着目する。局地気象予測システムはGISと連動するため、都市部への展開では土地の変化を反映した地図データが必要となる。これが、更新頻度の多い地図データを扱う企業と提携する理由です。公式解答例では、都市型の気象が頻繁に変わる土地の起伏や構成要素と密接に関係するからとしている。40字以内でも「頻繁に変わる」という特徴を残す。採点講評でも、この点への言及がない解答を指摘している。

設問3(1)(a)

冒頭に示されたD社の強みのうち、市場開拓という役割に対応する特徴を選ぶ。D社の「地域に根ざした営業力」は、自治体や地域企業を対象に新たなサービスを広める際に活用できる。公式解答例では「地域に根ざした営業力」としている。15字以内では、この特徴を簡潔に示せばよい。保守体制もD社の強みだが、本設問の市場開拓に直接対応する根拠は営業力です。

設問3(1)(b)

〔事業戦略の策定〕で示された市場開拓の対象は、自治体と地域企業です。この対象に対応する市場状況を〔気象災害の激甚化〕から探すと、地域企業で局地的な気象に対する課題が大きくなっていることが分かる。公式解答例もこの状況を示している。35字以内では、対象である地域企業、局地的な気象、課題の拡大を押さえる。採点講評では市場状況の正答率が低かったとして、市場開拓の対象を考慮して解答するよう求めている。

設問3(2)

〔電力事業における気象予測の必要性〕の、電力会社間の融通量を計算する情報システムについての記述に着目する。本文は、融通量の算出に気象要素を含め、全国規模の効率化を図ることが求められているとしている。局地気象予測システムに外部システムとの連携機能を追加し、ほかの電力会社にも導入する方針は、この要求に対応する。公式解答例では「電力の融通量の算出に気象要素を含めることで、全国規模の効率化を図る」としている。40字以内で、融通量の算出、気象要素の利用、全国規模の効率化を結び付ける。

学習のポイント

目的・手段・組織体制を区別し、協業先の強みと市場の課題から役割分担や必要機能を導く練習をする。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和4年度春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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