STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

令和4年度春期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 製造業の情報システム戦略の策定に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 M社は,工作機械の組立製造を事業とする中堅の上場会社であり,本社とそれに隣接する工場から成る。 〔M社の状況〕 M社は自動車製造会社など,長年取引のある複数の顧客をもち,業績は安定している。また,資材の仕入先とは強いつながりを保ったグループを形成して,これまで資材の仕入れが滞るようなことはなかった。 しかし,近年では,気候変動が原因とみられる風水害などでサプライチェーンが寸断され,資材が不足して製品製造が遅滞するなど業績の不確実性が高まっている。さらに,仕入れた資材に含まれる部品を製造した工場などで強制労働や人権侵害などの問題があれば,1次仕入先でなくとも,顧客からの取引停止や風評被害による業績への影響も懸念されるようになってきている。また,株主や顧客などのステークホルダからは,気候変動や経済格差などの環境や社会に起因する事業リスクを考慮した事業の継続性について関心をもたれている。 M社では,これまでも金利や為替の変動,輸入原料の市況変動,製品イノベーションの進展による市場変化などの事業リスクとその対応に関して,国のガイドラインに準じてサステナビリティレポートを毎年公表してきたが,新たな事業リスクも含め自社の実状に応じてより踏み込んだ報告が必要になっていると考えている。 〔仕入れの問題点〕 M社の製品は多くの部品から構成されており,組立てや塗装では石油系溶剤を利用しているので,資材の仕入先は多岐にわたる。また,1次仕入先から納品される資材はさらに2次仕入先の資材から構成されているなど,サプライチェーンは長く複雑になっている。M社と仕入先各社では,サプライチェーンの寸断を防ぐために,一つの資材を複数の事業者から仕入れてきた。しかし,近年,パンデミックなどによる海外の工場の操業停止に伴い半導体関連の資材全般が品薄状態になり,M社でも半導体とは直接は関係しない資材の仕入れも不安定になった経緯がある。M社としては,どのような状況でも製造が停止しないよう,サプライチェーンに関わる事業者でグループを組成し直し,サプライチェーン全体を通して安定的に資材を仕入れられる代替方法の確保をする必要があると考えている。 〔サステナビリティの取組における問題点〕 M社では,これまで,環境対策として,製造工程の見直しや,工場電力の再生可能エネルギー化によって,炭素排出量の削減を図ってきた。製品全体での炭素排出量を算定する最近の動向から,仕入先と共同して炭素排出量削減に取り組むために,M社でも資材の炭素排出量を含めて削減目標を設定しており,社外からも一定の評価を得ている。 仕入先である事業者は,それぞれ独自に温暖化シナリオの前提条件と計測指標を設定し,炭素排出量・削減目標を算定してステークホルダに報告している。M社では,1次仕入先からの報告内容を基にして,M社指標に合わせて算定し直してサステナビリティレポートを作成している。1次仕入先でも,2次仕入先からの報告内容を基に算定し直している。2次仕入先以降についても同様である。M社としては,現状では,サプライチェーン全体での炭素排出量・削減目標を正しく算定できていない可能性があると考え,全ての事業者の取組状況を把握することで,サステナビリティレポートの信頼性を確保したいと考えている。 M社が開示しているサステナビリティレポートの報告内容には,社内システムで登録されている一部のデータの出力・集計ができないことから,人事,財務,生産・在庫管理の各部門が手作業で集計している結果が含まれる。集計時期は期末の業務繁忙期に当たるので,集計に時間が掛かるとともに,各部門の担当者の異動によって集計されるデータの対象や範囲が都度変動してしまい,報告結果の精度が一定に保たれていないおそれがある。 〔ESG経営の取組〕 M社では,サステナビリティへの取組をさらに推進するために,ESG(環境・社会・企業統治)を重視した経営を実践することにした。これによって,中長期的な事業リスクとその対応を進め,経済的及び社会的な企業価値の向上を目指す。これに合わせて,サステナビリティレポートについてはESGの観点に沿って見直し,炭素排出量・削減目標,M社と仕入先の人権・労働衛生安全の情報,内部統制インシデント情報などの項目を追加し,より踏み込んだ報告を行う。 〔M社システムと情報システム戦略の策定〕 M社の主なシステムには,生産管理・在庫管理を行う工場システムのほか,財務システム,購買システム,人事システムがある。 M社のシステムは,子会社のS社が開発・保守・運用を担当している。S社は,M社で得たノウハウを活用して生産管理システムなどを外販している。また,ブロックチェーンを使い,データの真正性を維持しセキュアに共有できるようにした信用状や取引契約関連の電子化システム(以下,BCシステムという)も開発し外販している。 M社は,現状の事業リスクに対応し,業績の確実性を高めるために,S社の支援を受けて,次の内容を含む全社の情報システム戦略を策定することにした。 ① サプライチェーン管理システム基盤(以下,SC基盤という)の新規開発 ② 購買システムの改修 ③ サステナビリティレポート作成システム(以下,レポートシステムという)の新規開発 システム整備後のイメージを図1に示す。 図1 システム整備後のイメージ 〔SC基盤の新規開発〕 サプライチェーン全体での資材の受発注取引を管理するプラットフォームとして,SC基盤を新たに開発する。SC基盤の参加事業者は,受発注取引の都度,資材品目と受発注額を記録するほか,各仕入先で製造に使用する原材料品目と数量,製造地,及び納品物在庫量を登録する。また,各仕入先は,年次で,自社の炭素排出量・削減目標,その算定の前提条件と計測指標をSC基盤に登録し,M社と協議してESGへの取組推進を図る。零細企業などでSC基盤への参加に難色を示す仕入先に対してはM社が作業支援を行い,サプライチェーン全ての仕入先が何らかの形でESGの取組に参加できるよう計画する。 SC基盤の開発では,BCシステムを活用し,その機能をクラウドコンピューティングサービス基盤に移設して実現する。SC基盤に登録されたデータへの参照値をブロックチェーンに登録し,そのハッシュ値をQRコードにして資材に貼付することによって資材のトレーサビリティ確保や偽装防止などを実現する。 〔購買システムの改修〕 購買システムでは,SC基盤のデータから,製品に必要な全ての資材の所要量を関連付けた表(以下,サプライチェーンマトリクスという)を作成できるよう改修する。サプライチェーンマトリクスからは,製品に必要な資材や,その資材の製造に必要な資材が分かる。受発注の状況などから,特定の事業者からの供給が停滞するリスクが検出された場合,サプライチェーンマトリクスを活用して,サプライチェーンの組替えを提案する機能を開発する。 〔レポートシステムの新規開発〕 レポートシステムはサステナビリティレポートの作成を支援する。レポートシステムは,SC基盤のデータを参照するほか,工場システム,財務システム,人事システムとAPIで連携してデータ収集する仕組みにして,各部門での手作業での集計業務を不要にする。 併せて,工場システム,財務システム,人事システムにレポートシステムと連携する機能を追加開発する。 設問1 〔M社システムと情報システム戦略の策定〕について,業績の確実性を高めるために策定する情報システム戦略の対象となる事業リスクのうち,サプライチェーンに起因する事業リスクと,仕入先と顧客に起因する事業リスクについて,それぞれ20字以内で具体的に述べよ。 設問2 〔SC基盤の新規開発〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) SC基盤を新たに構築する目的には,資材のトレーサビリティの確保や偽装防止に加えて何があるか,30字以内で述べよ。 (2) SC基盤の開発でBCシステムを活用し資材のトレーサビリティ確保や偽装防止をする理由は何か,35字以内で述べよ。 設問3 〔購買システムの改修〕でのサプライチェーンの組替えの提案機能について,(1),(2)に答えよ。 (1) 提案機能を開発する狙いは何か,25字以内で述べよ。 (2) サプライチェーンマトリクスの作成は,もともとのM社グループの仕入れにおけるどのような特徴を考慮したものか,その特徴を30字以内で述べよ。 設問4 〔レポートシステムの新規開発〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 工場システム,財務システム,人事システムに追加開発する連携機能で取り扱うデータはどのようなものか,25字以内で述べよ。 (2) レポートシステムの機能と,他の各システムに追加開発する連携機能によって,解決できる問題点は何か,25字以内で述べよ。
図1 システム整備後のイメージ。工場・財務・人事・購買システムからレポートシステムへ矢印が向く。1次・2次・n次仕入先からSC基盤へ,SC基盤からレポートシステムと購買システムへ矢印が向く。M社システムの範囲を破線で示す。
図1 システム整備後のイメージ。工場・財務・人事・購買システムからレポートシステムへ矢印が向く。1次・2次・n次仕入先からSC基盤へ,SC基盤からレポートシステムと購買システムへ矢印が向く。M社システムの範囲を破線で示す。
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検討する対象の範囲を確かめる

情報システムの戦略を考えるときは、検討する対象の範囲に着目しましょう。広い話題から具体的な結論へ急がず、与えられた条件の中で、どこまでを対象としているかを整理することが出発点になります。

この問題で問われていること

考える際には、ある記述や条件がどの範囲について述べているのかを確かめてください。対象の一部についての話を、対象全体についての話として受け取っていないか、範囲を意識しながら検討を進めましょう。

視点

検討対象の範囲とは、その場で考える対象をどこまで含めるかという区切りです。話題から連想した範囲と、与えられた条件が示す範囲を混同せず、明示されていることを手掛かりに整理しましょう。

確認ポイント

  • 検討対象の範囲を、与えられた条件から捉えているか
  • 対象の一部と全体を混同していないか
  • 明示されていない範囲を、自分で付け加えていないか
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解説

本問の要点は、製造の遅滞や取引停止などの事業リスクを把握し、SC基盤、購買システム、レポートシステムの整備目的と対応付けることです。各設問では、技術の一般論ではなく、M社の具体的な問題から回答を導きます。

問題の全体像

工作機械を製造するM社は、災害やパンデミックによる資材調達の不安定化と、仕入先の人権問題による取引停止・風評被害に直面しています。また、サプライチェーン全体の炭素排出量の算定や、社内の手作業集計にも信頼性・精度の問題があります。そこで、SC基盤の新規開発、購買システムの改修、レポートシステムの新規開発を進めます。公式の出題趣旨では、製造業の事業特性を踏まえ、外部や内部の変化・制約に対応した情報システム戦略を策定する能力が問われています。各システムの機能を、事業上の狙いや既存の問題点と結び付けて読むことが重要です。

設問1(サプライチェーン)

〔M社の状況〕の、風水害などでサプライチェーンが寸断され、資材不足によって製品製造が遅滞するという記述に着目します。設問は業績に関わる具体的な事業リスクを求めているので、原因である災害だけでなく、製造への影響まで示します。公式解答例では「資材が不足し製品製造が遅滞するリスク」とされています。20字以内では、資材不足と製造遅滞の因果関係を押さえます。

設問1(仕入先と顧客)

〔M社の状況〕の、部品を製造した工場などで強制労働や人権侵害があれば、顧客からの取引停止や風評被害が懸念されるという記述が根拠です。問題がある工場は1次仕入先に限らず、上流の仕入先も含まれます。求められるのは人権問題そのものではなく、それによってM社が受ける事業上の影響です。公式解答例では「取引停止や風評被害のリスク」とされており、20字以内ではこの二つの影響をまとめます。

設問2(1)

〔サステナビリティの取組における問題点〕では、仕入先ごとに算定の前提条件や計測指標が異なり、各段階で算定し直しているため、サプライチェーン全体の炭素排出量・削減目標を正しく算定できていない可能性が示されています。SC基盤には全ての仕入先の排出量・削減目標と算定条件を登録するので、取組状況を把握して報告の信頼性を確保することにつながります。公式解答例では「サステナビリティレポートの信頼性を確保するため」とされています。30字以内では、信頼性を確保する対象を明示します。採点講評では、M社内の手作業の時間や集計精度を目的とする解答が見受けられたとされており、ここではサプライチェーン全体の正しい算定に着目する必要があります。

設問2(2)

〔M社システムと情報システム戦略の策定〕にある、BCシステムが「データの真正性を維持しセキュアに共有できる」仕組みであるという説明が直接の根拠です。SC基盤ではこの機能を活用し、登録データへの参照値をブロックチェーンに記録して、資材のトレーサビリティ確保や偽装防止を実現します。公式解答例では「データの真正性を維持しセキュアに共有できるようにしたいから」とされています。35字以内では、真正性の維持と安全な共有の二点を押さえます。採点講評では、安定的な資材確保は購買システムの改修で実現する機能であり、BCシステムを活用する理由ではないと指摘されています。

設問3(1)

〔仕入れの問題点〕の、製造が停止しないよう、サプライチェーン全体を通じて安定的に資材を仕入れられる代替方法を確保したいという記述に着目します。購買システムの提案機能は、供給停滞のリスクを検出したときに、サプライチェーンマトリクスを用いて調達経路の組替えを提案します。この機能の狙いは、供給が不安定になっても資材を確保できるようにすることです。公式解答例では「安定的に資材を仕入れられる方法を確保するため」とされており、25字以内では安定調達とその方法の確保をまとめます。

設問3(2)

〔仕入れの問題点〕の、M社と仕入先各社が「一つの資材を複数の事業者から仕入れてきた」という記述が根拠です。同じ資材を供給できる事業者が複数あるという既存の仕入れの特徴を踏まえ、資材の関係をマトリクスとして把握することで、供給停滞時の組替えに活用します。公式解答例では「一つの資材を複数の事業者から仕入れていること」とされています。30字以内では、一つの資材に対して仕入先が複数ある点を示します。仕入先が多岐にわたることや、サプライチェーンが長く複雑であることだけでは、この特徴を表せません。

設問4(1)

〔サステナビリティの取組における問題点〕では、社内システムに登録された一部のデータを出力・集計できず、人事、財務、生産・在庫管理の各部門が手作業で集計していると説明されています。追加する連携機能は、この手作業を不要にするために必要なデータをレポートシステムへ渡すものです。公式解答例では「各部門が手作業で集計しているデータ」とされています。25字以内では、データを現在の扱われ方で特定します。採点講評では、炭素排出量や内部統制インシデント情報などの具体的な項目を挙げるのではなく、M社の実際の問題を読み取るよう求めています。

設問4(2)

〔サステナビリティの取組における問題点〕の、担当者の異動によって集計対象や範囲が変動し、報告結果の精度が一定に保たれていないおそれがあるという記述に着目します。レポートシステムが各システムとAPIで連携してデータを収集すれば、担当者ごとの手作業に依存していた集計を仕組みとして行えるようになります。公式解答例では、解決する問題点を「報告結果の精度が一定に保たれていないこと」としています。25字以内では、報告結果の精度が安定していないという問題を示します。本文には集計時間の問題もありますが、公式解答例が示す要点は精度のばらつきです。

学習のポイント

システムの構築目的、技術選択の理由、取り扱うデータ、解決する問題点を区別し、本文の根拠を字数内にまとめる練習が重要です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和4年度春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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