SMITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ

平成25年度秋期 ITサービスマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 システムの移行に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 C社は,日曜大工用品などを扱うホームセンタを首都圏に10店舗展開している。各店舗の営業時間は10時~23時で,年中無休としている。C社の事業年度は4月から翌年3月までで,決算月の3月には毎年,全店舗で決算セールを行っており,3月の来店客数と売上高は通常月の約2倍となっている。 〔販売管理システムの概要〕 C社では,商品の売上管理・発注管理及び店舗ごとの売上情報管理のために,販売管理システムを使用している。現在,販売管理システムの本部サーバ(以下,現本部サーバという)は,Y市にあるデータセンタ(以下,Y市拠点という)で稼働している。Y市拠点は施設の老朽化が進んだことから,Z市に新設するデータセンタ(以下,Z市拠点という)に本部サーバを移転(以下,移転切替えという)することになった。Z市拠点のシステム構成は,Y市拠点と同様とする。ただし,Z市拠点には,現本部サーバよりも高性能のサーバを導入する。これによって,現本部サーバで120分掛かっている夜間バッチ処理が,Z市拠点に新たに導入されるサーバ(以下,新本部サーバという)では80分に短縮される見込みである。情報システム部では,移転切替え前にZ市拠点に新本部サーバを導入し,各種テストを実施する予定である。 移転切替え時の販売管理システムの構成を図1に,販売管理システムの処理概要を表1に示す。 図1 移転切替え時の販売管理システムの構成 表1 販売管理システムの処理概要 〔本部サーバの移転切替え方式の検討〕 ITサービスマネージャのJ氏は,本部サーバの移転切替え方式について,表2に示す二つの案を検討した。 表2 本部サーバの移転切替え方式案の概略 J氏は,案1,2のリスクと,それぞれに考えられる対策について検討した。 (1) 案1のリスクとその対策 店舗とZ市拠点との接続確認及び移転切替え日における店舗設置機器の設定変更作業における作業ミスによって,切替えができない店舗が発生するリスクがある。このリスクは,次の対策によって軽減できると考えた。 ・店舗において,設定変更作業のミスが発生しないように,情報システムに精通した技術者で構成される専門チームを店舗に派遣し,技術者が作業を行う。 ・事前に設定変更作業のリハーサルを行い,(ア)発注情報送信テストを実施した後の設定変更作業の切り戻し及び移転切替えの設定変更作業において作業員がミスをしないように,作業の習熟を図る。作業結果は,全ての店舗設置機器とZ市拠点設置機器が正しく接続されることで確認する。 (2) 案2のリスクとその対策 発注情報送信テスト及び移転切替え作業における作業ミスによって,両拠点を同時に稼働させるリスクがある。また,移転切替え日のデータ移行に漏れが発生するリスクがある。これらのリスクは,それぞれ次の対策によって軽減できると考えた。 ・両拠点にそれぞれ2人体制の作業チームを派遣し,作業ミスが発生しないように,互いにテレビ電話などで連絡を取り合いながら作業を実施する。 ・事前に切替えリハーサルを行い,データ移行に漏れがないことを確認する。 情報システム部では,リスク評価に続いて両案の作業工数面での評価を行った。その結果,両拠点間でのデータ転送機能の構築及び店舗設置機器の設定変更作業が不要な案2を採用することにした。 〔全体スケジュールの検討〕 情報システム部では,本部サーバの移転切替え方式の確定後,移転切替え日について,各機器の搬入時期,移行に伴う要員計画及び作業スケジュールを考慮して検討した。その結果,早ければ3月に移転切替えが可能であったが,4月の第4水曜日に決定した。この決定を受け,J氏は移転切替えの全体スケジュールを図2のとおり策定した。 図2 移転切替えの全体スケジュール 〔移転切替え当日の作業スケジュールの検討〕 J氏は,移転切替え当日の作業スケジュールについて検討した。J氏が策定した,移転切替え当日の作業スケジュール案を表3に示す。 表3 移転切替え当日の作業スケジュール案 移転切替え作業は2時に開始し,最初に現ルータの電源切断を行った後,データ移行を行う。移行対象データのY市拠点からZ市拠点への移送方式として,テープ媒体にデータを取得して社用車で運搬する方式が採用された。移行対象データは,表4に示す4種類である。 表4 移行対象データ テープ媒体に順次データを取得し,全ての移行対象データの取得完了後,Z市拠点へ運搬する。運搬には30分掛かるが,20分の余裕を見込んだ。 表3の作業スケジュール案をチェックした情報システム部のD部長は,J氏に対して次の2点について指摘した。 ・作業確認において,(イ)データ移行に漏れがないことをどのように判断するのか。 ・オンライン業務開始遅延のリスクを軽減させるために,移転切替え当日の作業時間の短縮を検討すべきである。(ウ)事前に移行可能なデータは,移転切替えの前日までに移行作業を完了させよ。さらに,他に実施できる作業時間の短縮策も検討せよ。 設問1 〔本部サーバの移転切替え方式の検討〕について,本文中の下線(ア)の設定変更作業の切り戻しを忘れ,Z市拠点に接続したままオンライン業務を実行した場合に,インシデントが発生する。この場合のインシデントの内容を,業務に及ぼす影響の観点から50字以内で述べよ。 設問2 〔全体スケジュールの検討〕について,移転切替え日を,3月ではなく4月に決定した理由を,55字以内で具体的に述べよ。 設問3 〔移転切替え当日の作業スケジュールの検討〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 本文中の下線(イ)を判断するための方策を,55字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線(ウ)について,移転切替えの前日までに移行可能なデータはどれか。表4の移行対象データから選び,項番で答えよ。 (3) 移転切替え当日の作業時間短縮について,(2)以外の方策を検討する。 (a) 移転切替え作業完了時刻を前倒しするための方策を,55字以内で述べよ。ただし,移行対象データの移送方式の工夫は除くものとする。 (b) (a)の方策を実施した場合,移転切替え作業完了時刻は何分前倒しできることになるか。
図1 移転切替え時の販売管理システムの構成。Y市拠点(現本部サーバ・現ルータ)とZ市拠点(新本部サーバ・新ルータ)が、店舗1~n(店舗ルータ・店舗サーバ)および本社(本社ルータ・本社業務端末)とVPNで接続されている構成図。
図1 移転切替え時の販売管理システムの構成。Y市拠点(現本部サーバ・現ルータ)とZ市拠点(新本部サーバ・新ルータ)が、店舗1~n(店舗ルータ・店舗サーバ)および本社(本社ルータ・本社業務端末)とVPNで接続されている構成図。
表1 販売管理システムの処理概要。売上情報処理(売上情報レコードの生成、23時30分~24時の売上情報集約ファイル送信、毎週月曜8時のバックアップ用売上情報ファイル送信)、発注情報処理、夜間バッチ処理(経営情報DBの更新)の概要を示す表。
表1 販売管理システムの処理概要。売上情報処理(売上情報レコードの生成、23時30分~24時の売上情報集約ファイル送信、毎週月曜8時のバックアップ用売上情報ファイル送信)、発注情報処理、夜間バッチ処理(経営情報DBの更新)の概要を示す表。
表2 本部サーバの移転切替え方式案の概略。案1:Z市拠点に別IPアドレスを付与して両拠点を並行稼働させ、店舗設置機器の設定変更やデータ転送機能の構築を行う。案2:両拠点に同一IPアドレスを付与し、VPN接続を切り替えてデータを移送・移行する。
表2 本部サーバの移転切替え方式案の概略。案1:Z市拠点に別IPアドレスを付与して両拠点を並行稼働させ、店舗設置機器の設定変更やデータ転送機能の構築を行う。案2:両拠点に同一IPアドレスを付与し、VPN接続を切り替えてデータを移送・移行する。
図2 移転切替えの全体スケジュール。12月~4月の日程表。12月に機器搬入と機器環境構築作業、12月~2月に機能確認テスト、1月下旬に発注情報送信テスト、2月に総合テスト、4月に切替えリハーサルを行い、4月下旬に移転切替えを行う。
図2 移転切替えの全体スケジュール。12月~4月の日程表。12月に機器搬入と機器環境構築作業、12月~2月に機能確認テスト、1月下旬に発注情報送信テスト、2月に総合テスト、4月に切替えリハーサルを行い、4月下旬に移転切替えを行う。
表3 移転切替え当日の作業スケジュール案。0時からの夜間バッチ処理(120分)後、2時に移転切替え作業を開始し、現ルータ電源切断、データ取得、Z市拠点への運搬(50分)、データ投入、新ルータ起動、作業確認(60分)を経て6時50分に完了、8時にオンライン業務を開始する。注記2件を含む。
表3 移転切替え当日の作業スケジュール案。0時からの夜間バッチ処理(120分)後、2時に移転切替え作業を開始し、現ルータ電源切断、データ取得、Z市拠点への運搬(50分)、データ投入、新ルータ起動、作業確認(60分)を経て6時50分に完了、8時にオンライン業務を開始する。注記2件を含む。
表4 移行対象データ。移行対象データ4種類の一覧(1 発注情報ファイル、2 売上情報集約ファイル、3 売上情報ファイル、4 経営情報DB)。注1に、売上情報ファイルはバックアップのために各店舗サーバから送信されたものである旨を記す。
表4 移行対象データ。移行対象データ4種類の一覧(1 発注情報ファイル、2 売上情報集約ファイル、3 売上情報ファイル、4 経営情報DB)。注1に、売上情報ファイルはバックアップのために各店舗サーバから送信されたものである旨を記す。
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判断の前提をそろえて考える

システムの変更を検討するときは、判断の前提がそろっているかに注目しましょう。与えられた情報がどの範囲や時点を対象としているかを確かめ、異なる前提の情報を混ぜずに考えることが大切です。

この問題で問われていること

この問題では、判断に用いる情報が同じ前提に立っているかを意識して取り組みましょう。まず対象となる範囲や時点を押さえ、その前提が検討の途中で変わっていないかを振り返ると、考えを整理しやすくなります。

視点

情報の意味は、それが置かれた前提によって変わります。自分が補った想定と、与えられた条件とを分けて捉え、判断の根拠がどの前提に結び付くかを確かめましょう。

確認ポイント

  • 判断に用いる情報の対象範囲や時点を確認できているか。
  • 与えられた条件に、自分の想定を混ぜていないか。
  • 考える途中で、判断の前提を変えていないか。
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解説

本問は、本部サーバの移転切替えを題材に、誤接続による発注業務への影響、繁忙期を避ける日程選定、データ件数による移行確認、更新周期に応じた事前移行、処理場所の変更や作業の並行実施による時間短縮を考える問題です。

問題の全体像

C社は、老朽化したY市拠点から新設のZ市拠点へ販売管理システムの本部サーバを移転します。販売管理システムは店舗から発注情報や売上情報を受け取り、本社の商品発注や経営情報の更新に使われています。移転方式には、異なるIPアドレスで並行稼働する案1と、同じIPアドレスを使い接続拠点を切り替える案2があり、工数面から案2が採用されました。公式の出題趣旨では、各種条件を考慮した移行計画、移行方式、切替えの実施方法に関する能力を問うとされています。解答では、技術的な事象を業務への影響につなげ、更新時期や所要時間に基づいて具体策を説明することが重要です。

設問1

表1の発注情報処理と、表2の案1に着目します。本来、店舗の発注情報は現本部サーバに送られ、その発注情報ファイルを本社社員が参照して仕入先へ商品を発注します。テスト後の切り戻しを忘れると、店舗からの発注情報が本番稼働前の新本部サーバへ送られ、現本部サーバの発注情報ファイルに反映されません。このため、本社で正しく商品発注を行えなくなります。公式解答例では、ファイルの更新先の誤りと、仕入先への商品発注が正しく行われない影響を示しています。50字以内の答案例は「現本部サーバの発注情報ファイルが更新されず、仕入先に正しく商品発注が行われない。」です。採点講評では、データベースが更新されないなど、システム上の事象だけにとどまる解答が指摘されています。

設問2

冒頭の、3月は全店舗で決算セールを行い、来店客数と売上高が通常月の約2倍になるという条件が根拠です。3月に移転切替えで不具合が起きると、影響を受ける顧客や売上が通常月より多くなります。4月を選ぶ理由は、この繁忙期を避け、不具合発生時の業務影響を小さくすることです。公式解答例では、売上高又は来店客の多い時期を避ける点が示されています。55字以内の答案例は「決算セールで来店客数と売上高が通常月の約2倍になる3月を避け、不具合発生時の業務影響を小さくするため。」です。採点講評を踏まえ、作業上のリスクだけでなく、顧客へのサービスや業務への影響を述べます。

設問3(1)

表4の移行対象は4種類あり、表3では取得・運搬・投入の後に作業確認を行います。移行漏れの確認には、4種類それぞれのデータ件数を移行前後で照合するという具体的な方法を示します。公式解答例では、現本部サーバと新本部サーバ、又はテープ媒体と新本部サーバの件数が一致することを確認しています。55字以内の答案例は「両拠点で移行対象4種類のデータ件数を照合し、現本部サーバと新本部サーバで一致を確認する。」です。採点講評では、単に新旧データを比較すると書くだけでなく、当日に拠点間で連絡を取りながら実施する具体的内容が不足した解答が指摘されています。比較する対象、比較項目、一致の確認を明確にします。

設問3(2)

解答は項番「3」の売上情報ファイルです。表1では、バックアップ用の売上情報ファイルを毎週月曜日の8時に本部サーバへ送信するとされています。移転切替え日は4月の第4水曜日なので、月曜日に受信したファイルは、切替え前日までに移行できます。一方、発注情報ファイルはオンライン業務中に随時更新され、売上情報集約ファイルは毎日23時30分から24時までに送信されます。経営情報DBも発注情報処理や夜間バッチ処理で更新されます。この更新周期の違いが、公式解答例で項番3を選ぶ根拠です。

設問3(3)(a)

表3では、夜間バッチ処理を現本部サーバで120分実行した後に移行し、現ルータの電源切断と新ルータの電源投入・起動確認もデータ移行と直列に実施しています。公式解答例には三つの群があります。ア群は、夜間バッチ処理をデータ移行後に新本部サーバで実行する方法です。55字以内の答案例は「Y市拠点で実行予定の夜間バッチ処理を、データ移行後にZ市拠点で実行する。」です。イ群は、現ルータの電源切断、又は新ルータの電源投入・起動確認のどちらかをデータ移行と並行して実施する方法です。ウ群は、両方を並行して実施する方法で、答案例は「現ルータの電源切断と新ルータの電源投入・起動確認を、データ移行作業と並行して実施する。」です。並行化する場合も、同じIPアドレスの両拠点を同時にVPNへ接続しない条件を守ります。採点講評では、設問で除外された移送方式の工夫を答える解答が指摘されています。テープ媒体や運搬方法の変更を提案せず、処理場所や作業順序に着目します。

設問3(3)(b)

前倒し時間は、(a)で選んだ方策と対応させます。公式解答例のア群では、夜間バッチ処理を新本部サーバへ移すことで、120分から80分になり、差の「40分」を短縮できます。イ群では、現ルータの電源切断、又は新ルータの電源投入・起動確認のどちらか一方の10分をデータ移行と重ねるため、「10分」です。ウ群では、両方の10分を重ねるため、10+10=「20分」です。公式解答例では、(a)と(b)を同じ群の組合せにすることが示されています。また、設問3(2)の事前移行による短縮時間は、この設問の計算に加えません。

学習のポイント

業務への影響まで因果関係をたどり、データの更新周期と作業の依存関係を根拠に移行計画を検討する力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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