SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

平成30年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 IoT,AIを活用する海運用コンテナターミナルシステムの開発に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 X社は,コンテナの積卸し(以下,荷役という)機械のメーカである。X社では,大型クレーンとその制御システムを中心に,レイアウト設計も含めてコンテナターミナルシステムとして受託している。 近年,コンテナによる貨物輸送量の世界的な増加に加え,輸送費の値下げ競争が相まって,コンテナ輸送船の大型化が進んでいる。それに伴い,コンテナ輸送船が出入りする港湾では,貨物量の増加・集中に対応するための荷役作業の迅速化・効率向上,及び荷役機械のオペレータの確保,コンテナの陸上輸送用のトレーラを連結したトラクタ(以下,トレーラ連結車という)の運転手の確保が課題となっている。そこで,コンテナターミナルでの荷役作業にIoT,AIを活用して作業効率向上を目指す取組が進められている。 〔X社のコンテナターミナルシステムの概要〕 これまでにX社が設計・施工したコンテナターミナルシステムの例を図1に,コンテナターミナルの設備・荷役機械などの概要を表1に示す。 図1 X社が設計・施工したコンテナターミナルシステムの例 図1中の設備・荷役機械を用いた荷卸しの工程は,次のようになる。 岸壁用コンテナクレーンは,荷卸しするコンテナをコンテナ輸送船から岸壁へ移す。 コンテナ運搬車は,岸壁に置かれたコンテナをつり上げて自身の荷台に積載し,レーンへ搬送した後,レーンでコンテナを地表に降ろす。トランスファクレーン(以下,Tクレーンという)は,レーン内のコンテナを仕分したり,搬出するトレーラ連結車にコンテナを積載したりする。 表1 コンテナターミナルの設備・荷役機械などの概要 〔従来のコンテナターミナルシステムの問題とその解決方針〕 ・コンテナ運搬車の運転手の確保が急務となっている。 ・Tクレーンは,管理棟に設置された監視端末の操作卓で遠隔操縦する。Tクレーンの運転は,ほぼ自動化されているが,トレーラ連結車との荷役には,オペレータが安全を確認しながらの手動操縦が残っている。 ・荷役作業の増加・集中に対応するために,Tクレーンを高速化してきたが,コンテナの揺れを抑える必要性から,荷役作業の大幅な時間短縮が期待できなくなっている。また,自重が大きいので,高速化によってエネルギー消費量が増大している。 ・道路の渋滞によって,トレーラ連結車の受付ゲートへの到着が,スケジュールよりも遅れ,荷役作業が滞ることがある。 ・設備・荷役機械は故障が多いので,稼働停止時間が長くなってしまう。 X社では,これらの問題を解決するために,IoT,AIを活用する新コンテナターミナルシステム(以下,NCTシステムという)を開発することにし,その取組方針を次のとおりまとめた。 ・荷役作業の迅速化・効率向上と同時に,コンテナヤード内の無人化を図るために,荷役方式を見直す。ただし,レーン内のコンテナの多段積みをなくすことは難しいので,Tクレーンは使用する。 ・エネルギー消費量の増大,荷役スケジュールの遅延などの問題についても,改善を目指す。 〔NCTシステムの概要〕 NCTシステムの開発を担当することになった,X社のシステムアーキテクトであるY氏は,NCTシステムの開発項目を次のように設定した。 (1)荷役方式の見直しと新たな無人コンテナ運搬車の開発 Tクレーンとトレーラ連結車が,直接コンテナを受渡しすることをやめる。自律走行する新たな無人コンテナ運搬車(以下,NCTキャリアという)を開発し,岸壁とレーン間,及びレーンとトレーラ連結車間のコンテナ搬送を,NCTキャリアが行うようにする。 (2)積替えゲートの新設 トレーラ連結車は,新たに設置する積替えゲートに停車して,NCTキャリアとコンテナの受渡しを行うようにする。 (3)NCTシステムに対応する管理・運営システムの構築 Tクレーン及びNCTキャリアの走行・荷役に関する走行管理は,管理棟の管理・運営システムで一括して行う。また,従来システムのデータ処理機能の更新,必要となる機器の選定,データ通信環境の構築,サーバの性能アップなども行う。 (4)荷役スケジュールの組替えの高頻度化 トレーラ連結車の到着予測時刻の精度を上げ,トレーラ連結車の予測到着順序を基に,荷役スケジュールを現行よりも短い時間間隔で組み替えられるようにする。 (5)設備・荷役機械の稼働停止時間の短縮 Tクレーン,NCTキャリアなどの故障を予測した保守によって,できるだけNCTシステムの設備・荷役機械の稼働停止時間を短縮できるようにする。 NCTシステムの概要を図2に示す。 図2 NCTシステムの概要 〔開発項目の検討結果〕 NCTシステムで開発又は更新される設備・荷役機械の仕様・機能を表2に示す。 表2 NCTシステムで開発又は更新される設備・荷役機械の仕様・機能 Y氏は,各開発項目について検討し,結果を次のとおりまとめた。 (1)荷役方式の見直しとNCTキャリアの開発 NCTキャリアを導入することによって,Tクレーンの完全自動運転化とコンテナヤード内の無人化を実現する。また,NCTキャリアによるコンテナ搬送をメインにして,Tクレーンがコンテナをつり上げて走行する距離をできるだけ短くする。 NCTシステムがコンテナをトレーラ連結車に積載する工程は次のようになる。 トレーラ連結車は,受付ゲートを経由して積替えゲートで停車する。Tクレーンは,搬出するコンテナの位置まで走行してコンテナをつり上げ,NCTキャリアとの受渡し場所へ搬送し,地表に降ろす。NCTキャリアが地表からコンテナをもち上げて積替えゲートへ搬送し,トレーラ連結車のトレーラ部分に降ろす。 (2)積替えゲートの新設 積替えゲートの数は,扱うコンテナの量によって決める。積替えゲートの設置位置及び数は,稼働実績データを基に解析して見直すようにする。 (3)NCTシステムに対応する管理・運営システムの構築 NCTシステムに対応する管理・運営システムの機能を表3に示す。 表3 NCTシステムに対応する管理・運営システムの機能 なお,荷役スケジュールの組替えの高頻度化及び設備・荷役機械の稼働停止時間の短縮は,管理・運営システムの荷役管理・スケジューリング機能を用いて実現する。 設問1 荷役方式の見直しについて,(1)~(3)に答えよ。 (1)NCTキャリアの導入によってコンテナヤード内の無人化が実現された。無人化のためにコンテナヤード内から排除したことを,二つ答えよ。 (2)NCTシステムで荷役のエネルギー効率向上に必要な,NCTキャリアとTクレーンの運用上の考慮点を,35字以内で述べよ。 (3)NCTキャリアとTクレーン間で直接コンテナを受け渡さないことによって作業効率が向上する。その理由を35字以内で述べよ。 設問2 荷役管理・スケジューリング機能について,(1),(2)に答えよ。 (1)トレーラ連結車の到着予測時刻とスケジュールされた到着予定時刻との差が大きければ荷役スケジュールを組み替える。この差以外に,トレーラ連結車の到着予測に関連して荷役スケジュールの組替えを検討すべき要因は何か,25字以内で述べよ。 (2)トレーラ連結車の到着予測時刻の精度を向上させたい。収集したコンテナターミナル周辺の気象情報,道路規制情報及び路面情報以外に有効となるデータを,25字以内で述べよ。 設問3 NCTシステムについて,(1)~(3)に答えよ。 (1)NCTシステムのサーバの性能アップを行う背景として考えられる要因は,AI機能の導入のほかに何があるか。荷役管理・スケジューリング機能に関連した視点をもとに,20字以内で述べよ。 (2)NCTシステムの稼働期間が長くなると,設備・荷役機械の故障を予測する精度はどのようになるか。NCTシステムの予測の仕組みを考慮し,その理由を含め25字以内で述べよ。 (3)コンテナヤード内でのNCTキャリア同士の衝突事故を防止するために,NCTキャリア側ではセンサによる障害物の検出を行う。これと並行して管理・運営システム側で行う事故防止のための方策を,35字以内で述べよ。
図1 X社が設計・施工したコンテナターミナルシステムの例。岸壁、コンテナヤード、レーン、Tクレーン、コンテナ運搬車、トレーラ連結車、管理棟などの配置を示すシステム構成図。
図1 X社が設計・施工したコンテナターミナルシステムの例。岸壁、コンテナヤード、レーン、Tクレーン、コンテナ運搬車、トレーラ連結車、管理棟などの配置を示すシステム構成図。
表1 コンテナターミナルの設備・荷役機械などの概要。コンテナターミナルの設備・荷役機械ごとに、目的や作業内容を整理した一覧表。
表1 コンテナターミナルの設備・荷役機械などの概要。コンテナターミナルの設備・荷役機械ごとに、目的や作業内容を整理した一覧表。
図2 NCTシステムの概要。岸壁、コンテナヤード、レーン、Tクレーン、NCTキャリア、積替えゲート、受付ゲートなどの配置を示す構成図。
図2 NCTシステムの概要。岸壁、コンテナヤード、レーン、Tクレーン、NCTキャリア、積替えゲート、受付ゲートなどの配置を示す構成図。
表2 NCTシステムで開発又は更新される設備・荷役機械の仕様・機能。Tクレーン、NCTキャリア、積替えゲート、管理・運営システムの仕様と機能を整理した表。
表2 NCTシステムで開発又は更新される設備・荷役機械の仕様・機能。Tクレーン、NCTキャリア、積替えゲート、管理・運営システムの仕様と機能を整理した表。
表3 NCTシステムに対応する管理・運営システムの機能。荷役管理・スケジューリング、走行管理、データ収集・監視、データ通信の機能と内容を整理した表。
表3 NCTシステムに対応する管理・運営システムの機能。荷役管理・スケジューリング、走行管理、データ収集・監視、データ通信の機能と内容を整理した表。
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導入効果を測る視点

物流の改善策を考えるときは、技術の新しさだけで判断せず、導入前後で業務上の目的や成果がどう変わるかを軸に、現場への負担や継続性も同じ視点で整理しましょう。

この問題で問われていること

確認する観点を、導入によって現場の意思決定や作業の流れがどう変わり、その変化を継続的に評価できるかという一点に絞って、問題文の主張を読み取ってください。

視点

技術要素を個別に評価するのではなく、業務上の目的、利用する情報、現場の運用、評価方法が一つの流れとしてつながっているかを確認します。

確認ポイント

  • 導入前後で比べる業務上の目的が明確か
  • 現場の運用に無理なく組み込めるか
  • 効果と負担を継続的に見直せるか
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解説

本問は、コンテナターミナルの人手不足や荷役遅延などを背景に、NCTキャリア、Tクレーン、積替えゲート、管理・運営システムを組み合わせ、IoT・AIで無人化、効率化、省エネルギー化、予防保守を実現する構成を問う問題です。

問題の全体像

従来のコンテナターミナルでは、コンテナ運搬車やトレーラ連結車の運転手確保、Tクレーンの手動操作、エネルギー消費、道路渋滞による到着遅延、設備故障が課題となっていた。そこで、Tクレーンとトレーラ連結車の直接受渡しをやめ、無人自律走行のNCTキャリアと積替えゲートを導入し、管理・運営システムで走行、荷役、スケジュール、データ収集・監視を一括管理する。設問は、このアーキテクチャ変更が無人化・省エネルギー・作業効率・予測精度・衝突防止にどうつながるかを、本文の因果関係に沿って説明させている。

設問1(1)

無人化のために、従来コンテナヤード内で人が担当していた運転作業を特定する。本文では、従来の設備としてコンテナ運搬車は人が乗って運転し、トレーラ連結車も運転手が必要です。一方、NCTキャリアは自律走行し、トレーラ連結車は積替えゲートまで移動した後、ヤード内の搬送を行わない構成です。したがって、公式解答例では「トレーラ連結車の運転」と「コンテナ運搬車の運転」を挙げている。

設問1(2)

エネルギー効率の観点では、重量の大きいTクレーンを長距離移動させるより、比較的効率よく搬送できるNCTキャリアを主に使うことに着目する。本文には、NCTキャリアによるコンテナ搬送をメインにし、Tクレーンがコンテナをつり上げて走行する距離をできるだけ短くするとある。したがって、35字以内では「コンテナの移動を可能な限りNCTキャリアで行う」という要素を押さえる。

設問1(3)

NCTキャリアとTクレーンは、直接コンテナを受け渡さず、Tクレーンが地表に降ろしたコンテナをNCTキャリアが受け取る。直接受渡しの場合に必要となる両機の位置・動作の同期が不要になるため、各機械を個別に動かしやすく、作業効率が向上する。公式解答例の「TクレーンとNCTキャリアの移動を同期させる必要がないから」がこの因果関係を簡潔に表している。

設問2(1)

スケジュール組替えの条件は、到着予測時刻と予定時刻の差だけではありません。本文では、予測到着順序を基に荷役スケジュールを組み替えるとしているため、各トレーラ連結車の到着順が変化すれば、荷役対象や順番も変わる。公式解答例の「トレーラ連結車の到着の順番が変わったこと」を、25字以内で明確に示す。

設問2(2)

到着時刻の予測精度を高めるには、周辺環境の情報だけでなく、実際に走行している各トレーラ連結車の状態を用いる。表3には位置・速度などの走行状態データを一定時間間隔で収集するとあるため、公式解答例では「各々のトレーラ連結車の走行状態のデータ」としている。

設問3(1)

サーバ性能アップの背景は、AI導入による処理負荷だけではありません。表3の荷役管理・スケジューリング機能は、荷役スケジュールを短い時間間隔で組み替えるため、従来より頻繁な計算・更新処理が必要になる。公式解答例の「荷役スケジュールの組替えの高頻度化」は、この追加処理負荷を示している。

設問3(2)

故障予測は、データ収集・監視で得た設備や荷役機械の稼働状態を蓄積し、そのデータをAI機能で分析する仕組みです。稼働期間が長くなるほど学習・分析に利用できるデータが増えるため、予測精度は向上すると考える。公式解答例も「データの蓄積が進むので精度は向上する」としている。

設問3(3)

NCTキャリア側のセンサ検出に加え、管理・運営システム側では全キャリアの位置や稼働状況を把握し、走行ルートや出発時刻を調整する。したがって、キャリア同士が同じ場所・時間に進入しないようスケジューリングし、その指示をNCTキャリアへ送ることが答案の要点です。公式解答例では「衝突しないようにスケジューリングしてNCTキャリアに指示する」としている。

学習のポイント

システム変更の目的と、本文中の課題・機能・データを対応付けて答案化する力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成30年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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