PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

令和7年度秋期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 プロジェクト実施中の計画変更に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 商品取引事業を行っているA社の取引管理システムは,来年4月末にハードウェアの保守期限切れを迎える。そこで,A社では,ハードウェアの更改に合わせて取引管理システムを改修し,来年3月末にリリースするプロジェクト(以下,本プロジェクトという)を実施している。7月初めの現時点では,7月末の要件定義完了に向けて,計画どおり活動を進めている状況である。 本プロジェクトの開発メンバーは,現行の取引管理システムの開発担当者が中心であり,A社システム部の課長であるB氏が本プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)である。B氏は,以前は業務部門に所属しており,取引管理システムの過去の改修で,要件確定後に顧客の利便性向上という顧客価値の創出につながる機能の要件変更をシステム部に要求したことがあった。しかしながら,業務部門から定量的な効果の提示がなかったので,システム部は対応がリリース時期に間に合わないことを懸念し,要件変更を受け入れなかったことから,顧客価値の創出が実現できなかった。このような経緯があり,業務部門は顧客価値の創出を実現するシステム開発を行うために,システム部内にも顧客価値の創出を考えられる組織風土を醸成していく必要があると考えた。その一環として,昨年度B氏をシステム部に異動させた。 〔法改正への対応〕 来年4月初めから施行される商品取引に関わる法改正の内容が,本年6月末に公開された。法改正の内容は二つあり,一つは,商品取引に関わる本人確認の扱いを厳格化するもの(以下,規制強化という)で,全ての取引事業者は来年4月初めから遵守しなければならない。もう一つは,現在規制されている一部の決済方法を可能とするもの(以下,規制緩和という)で,取引事業者の判断で来年4月初め以降の任意の時期に導入できる。この規制緩和は,A社の顧客価値の創出につながるものである。A社経営層は,必要な追加予算は妥当性を評価して承認することを前提に,4月初めのハードウェアの更改に対応する取引管理システムの改修と規制強化への対応は必達とすること,規制緩和にも極力早期に対応することをシステム部に指示した。 システム部のC部長は,本プロジェクトのリリース時期と法改正への対応が同一時期となること,及び法改正の影響を受けるシステムは取引管理システムであることから,法改正への対応を本プロジェクトの要件に追加することにした。システム部には,システム障害の防止や期限厳守などの「QCD遵守」の方針があり,C部長はこの方針に沿った計画変更の検討をB氏に指示した。B氏が影響を調査したところ,規制強化への対応は,機能の一部を制限することで実現できるので,現在の本プロジェクトの開発メンバーの稼働が増えてコスト増にはなるが,追加予算が承認されればQCDを遵守して対応できる見通しとなった。一方で,規制緩和への対応は,A社の顧客価値の創出につながるものではあるが,現在の本プロジェクトの開発メンバーだけでは対応できず,特に業務部門の協力が不可欠である。B氏は検討結果を報告し,C部長は,「現状では規制強化への対応までを計画変更の対象とすべき」との認識を示した。 C部長への報告後,業務部門の役員であり,B氏の元上司だったD常務からB氏に連絡があり,他社に先行して規制緩和へ対応し,顧客の利便性向上を実現することが顧客価値の創出に必要であり,十分な追加予算の承認を受けて法改正の施行時期に対応すべきであるとの思いが伝えられた。D常務の話を受けてB氏は,規制緩和への対応は,業務部門が重視する顧客価値の創出につながるものと理解したが,C部長による規制緩和への対応を含む計画変更の了承が必要である。B氏は,システム部での検討状況をD常務に報告した上で,業務部門の目指すシステム開発を実現する好機と捉えて,D常務に次の事項の検討を依頼した。 ・規制緩和への対応の追加予算の確保について,経営会議での承認を得るために,①業務部門に,ある事項の実施を指示してもらいたい。 ・顧客価値の創出は本プロジェクトの開発メンバーだけでは実現できないので,新たに業務部門のメンバーが主体的にプロジェクトへ参加して,②顧客価値の創出に必要となる役割を果たすように動機付けしてもらいたい。 ・プロジェクトの責任者として,D常務にプロジェクトオーナーになってもらいたい。 〔プロジェクトの計画変更〕 B氏は,③本プロジェクトの目標には,これまでシステム部が重視していたQCD遵守の目標だけではなく,業務部門が重視する目標も含める必要があるとC部長に提案した。C部長もこの提案に理解を示したものの,「業務部門の重視する目標の達成は,業務部門がプロジェクトの責任部署となり,その下でシステム部がQCDを遵守する責任分担でなければ難しい」との意見だった。そこでB氏は,規制緩和への対応を含めた計画変更をするに当たり,先の依頼事項への対応も含めて,④D常務がプロジェクトオーナーとなって業務部門が責任をもつことを,D常務からC部長に説明してもらい,概算で十分な予備費を含む追加予算を見積もってD常務に報告した。 D常務は,法改正の施行時期に合わせて規制緩和に対応することを目標に本プロジェクトの計画を変更することを,追加予算とその費用対効果を含めて経営会議で説明し,承認を得た。これを受けて,B氏は本プロジェクトの計画変更の検討に着手した。 〔スケジュールの作成とリスクへの対応〕 B氏は,業務部門からも新たなメンバーがプロジェクトに参加し,業務部門としての役割を果たす意思があることを確認した。B氏は,取引管理システムのハードウェアの更改対応の改修,規制強化への対応,及び規制緩和への対応に関して,取引管理システムのハードウェアの更改対応の改修と規制強化への対応の開発スコープ(以下,スコープSという)と,規制緩和への対応の開発スコープ(以下,スコープTという)を定義した。その上で,スコープSとスコープTの開発を並行して進めることにした。スコープSのうちスコープTの開発の影響を受けると考えられる部分を検討した上で,影響を受けないと考えられる部分の開発を先行して進めるスケジュールを作成したが,現在の開発メンバーで対応できる作業量には収まらず,法改正の施行時期に合わせたリリースの見通しが立たなかった。 そこで,スケジュール短縮策として,作成したスケジュールのクリティカルパス上のタスクに追加のメンバーを投入することによって,法改正の施行時期に合わせてリリースするスケジュールを検討した。また,C部長から,各タスクの担当者に作業期間を見積もらせると,担当者はタスクを確実に完了させようとして,作業期間にバッファを多く見込みがちなので,注意してバッファを管理しスケジュールを見直すようにとのアドバイスがあった。 B氏は,十分な追加予算がありコスト増となるリスクには対応できるので,このスケジュールで作業を実施する際のコスト増以外のリスクを特定し,対応策を検討した。まず,⑤スコープSのうちスコープTの開発の影響を受けないと考えられる部分の開発を先行して進めることに起因するリスクを特定した。次に,スケジュール短縮策において,⑥プロジェクトメンバーを追加することに起因するリスクを特定した。その上で,B氏は,進捗遅延のリスクへの対応策としてスケジュールバッファを設定することにしたが,C部長からのアドバイスを受けて,⑦スケジュールバッファの設定方法を工夫した。さらに,これらの対応策を実行しても⑧スコープTの開発がスケジュールどおりに進まない場合に備えたコンティンジェンシー計画を作成して,D常務と合意することにした。B氏は,これらの計画をC部長に説明し,さらに,プロジェクトオーナーであるD常務の了承を得て,プロジェクト計画を変更した。 設問1〔法改正への対応〕について答えよ。 (1)本文中の下線①について,B氏が,D常務から業務部門に実施を指示してもらいたいと考えた事項は何か。25字以内で答えよ。 (2)本文中の下線②について,B氏が,D常務から動機付けしてもらいたいと考えた,顧客価値の創出に必要となる業務部門のメンバーが果たす役割は何か。25字以内で答えよ。 設問2〔プロジェクトの計画変更〕について答えよ。 (1)本文中の下線③について,B氏が,本プロジェクトの目標には,これまでシステム部が重視していたQCD遵守の目標だけではなく,業務部門が重視する目標も含める必要があるとC部長に提案した狙いは何か。35字以内で答えよ。 (2)本文中の下線④について,B氏が,D常務がプロジェクトオーナーとなって業務部門が責任をもつことを,D常務からC部長に説明してもらった狙いは何か。30字以内で答えよ。 設問3〔スケジュールの作成とリスクへの対応〕について答えよ。 (1)本文中の下線⑤について,B氏が特定した,スコープSのうちスコープTの開発の影響を受けないと考えられる部分の開発を先行して進めることに起因するリスクは何か。20字以内で答えよ。 (2)本文中の下線⑥について,B氏が特定した,プロジェクトメンバーを追加することに起因するリスクは何か。25字以内で答えよ。 (3)本文中の下線⑦について,B氏は,スケジュールバッファの設定方法をどのように工夫したのか。35字以内で答えよ。 (4)本文中の下線⑧について,B氏が,対応策を実行してもスコープTの開発がスケジュールどおりに進まない場合に備えてD常務と合意するコンティンジェンシー計画とはどのようなものか。30字以内で答えよ。
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変更時の目標と対応を見直す視点

計画を変更するときは、当初の目標をそのまま追うのではなく、変更後に何を優先するかを整理し、スケジュールへの影響と不確実性への備えを同じ枠組みで確認します。

この問題で問われていること

一つの変更が目標、日程、リスク対応にどのような連鎖を生むかに注目し、関係者間で前提と優先順位がそろっているかを確認する観点で考えます。

視点

計画変更の検討では、達成したい成果、利用できる時間や資源、発生し得る不確実性を分けて整理し、それらの関係を確認します。変更前後の前提が混ざっていないか、判断の基準が一貫しているかを見ると、複数の要素を落ち着いて比較できます。

確認ポイント

  • 変更によって優先順位が変わっていないか確認する。
  • 日程への影響を他の条件と切り分けて確認する。
  • 想定外の事態に備える観点が抜けていないか見る。
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解説

法改正による規制強化と規制緩和を契機に、QCD遵守だけでなく顧客価値の創出を目標へ加え、業務部門を含む体制、予算、スケジュール、リスク対応を一体的に見直す問題です。

問題の全体像

ハードウェア更改と規制強化対応は必達である一方、規制緩和対応は顧客価値の創出につながる追加スコープです。B氏は、定量的効果の提示、業務部門の主体的参加、業務部門を責任部署とする体制、追加予算を整えた上で計画を変更した。出題の狙いは、外部環境の変化に対して、顧客価値、QCD、ステークホルダ、チーム、スケジュール、リスクを統合して管理する力を問うことです。

設問1(1)

本文では、規制緩和への対応について、業務部門の協力が不可欠であり、過去には定量的効果の提示がなかったため要件変更が受け入れられなかったとある。したがって、経営会議で追加予算の妥当性を示すため、規制緩和対応による効果を定量的に算出させることが着目点となる。公式解答例も「規制緩和に対応する場合の定量的な効果算出」としている。

設問1(2)

規制緩和対応は、システム部だけでは顧客価値を実現できず、業務部門の協力が不可欠です。業務部門のメンバーには、単に参加するだけでなく、規制緩和を顧客の利便性向上へ結び付ける役割が求められる。25字以内では、この顧客価値へのつながりを簡潔に示す。公式解答例も「規制緩和を顧客の利便性向上につなげる役割」としている。

設問2(1)

従来のシステム部は、障害防止や期限厳守などQCD遵守を重視していた。一方、業務部門は規制緩和による顧客の利便性向上を重視している。両者をプロジェクト目標に含める狙いは、法改正対応を単なる機能追加で終わらせず、顧客価値の創出を目標とするシステム開発として実現することにある。公式解答例もこの趣旨を示している。

設問2(2)

C部長は、業務部門が重視する目標を達成するには、業務部門が責任部署となり、その下でシステム部がQCDを守る責任分担が必要だと考えていた。そこでD常務から説明してもらうのは、業務部門が責任部署であることをC部長に理解させ、計画変更の前提となる責任体制を明確にするためです。

設問3(1)

スコープTの影響を受けない部分を先行開発すると、後からスコープTの内容や前提が変わった場合に、既に実施した作業をやり直す可能性がある。したがって、問われているのは先行実施そのものの遅延ではなく、先行開発によって発生する手戻りのリスクです。公式解答例も「先行実施した開発作業の手戻り」としている。

設問3(2)

追加メンバーの投入は作業量を増やせる反面、取引管理システムや本プロジェクトに関する知識が不足している可能性がある。その結果、誤りや理解不足によって成果物の品質が低下するリスクが生じる。公式解答例は、この点を「追加メンバーの知識不足に起因する品質不足」と整理している。

設問3(3)

担当者ごとに作業期間へ余裕を持たせると、各タスクにバッファが分散し、実際の進捗を把握しにくくなる。クリティカルパス上のタスクを管理しやすくするため、各タスクには個別バッファを持たせず、全体で一つのプロジェクトバッファとして集約する工夫を答える。公式解答例もこの設定方法を示している。

設問3(4)

追加要員の投入やバッファ設定を行ってもスコープTが予定どおり進まない場合、ハードウェア更改と規制強化への対応を優先し、顧客価値につながる規制緩和対応のリリース時期を延期する計画とする。これは、必達の対応を守りつつ、任意時期に導入できる規制緩和対応を後ろ倒しにするコンティンジェンシー計画です。

学習のポイント

計画変更では、各施策の直接目的と、プロジェクト全体の責任・顧客価値・リスクの関係を整理する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和7年度秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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