PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

令和6年度秋期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 プロジェクト計画の修整(テーラリング)に関する次の記述を読んで,設問に答え よ。 A 銀行は,中堅の地方銀行である。近年、地盤である地域の人口減少や高齢化で, 収益は年々減少傾向にある。この状況に危機感をもったA銀行は,グループ会社とし て新たなネット専業銀行(以下,H銀行という)を設立して,全ての取引をスマート フォン向けアプリケーションソフトウェア(以下,スマホアプリという)で完結させ るサービスを1年後に提供することを決定した。高金利の新商品や,ポイント還元な どの付加サービスを打ち出し,日本全国の顧客をターゲットに事業を展開することに した。システム開発を含む銀行業務の立ち上げに必要なメンバーが,若手の行員を中 心にA銀行からH銀行に出向した。 H銀行は,1年という短期間で銀行業務を開始することが必達目標なので,勘定系 システムは,ITベンダーY社が提供するサービス(以下、Yサービスという)を利用 する。Yサービスは複数の銀行が共同で利用しており、A銀行でも利用している。ま た,新商品や付加サービスを提供するフロントシステム及びスマホアプリ(以下、新 システムという)は,H銀行システム部がY社の支援を受けて開発し,Yサービスの API で連携する。新システムの開発プロジェクト(以下,Hプロジェクトという)が 立ち上げられ,H銀行システム部のI課長がプロジェクトマネージャ(PM)に任命さ れた。Yサービスの利用範囲は確定し,サービス導入はY社が担当することで合意し た。一方,新システムへの要求事項は,H 銀行企画部が各業務部門と共同で市場ニー ズを調査しながら順次確定する。どの要求事項を,必達目標である1年後に実現する か、つまり,Hプロジェクトのスコープとなる要求事項(以下,開発項目という)は, H銀行として順次判断しながら確定させることになった。 〔プロジェクト計画の検討〕 I課長は,開発項目を順次判断しながらHプロジェクトを進めるには適応型開発ア プローチが適合すると考えたが,A 銀行グループではノウハウが不足しており,適応 型開発アプローチを適用するプロジェクト(以下,適応型プロジェクトという)のマ ネジメント標準が定まっていない。A銀行では,開発項目の変動が少ない予測型開発 アプローチを適用したプロジェクトのマネジメント標準(以下、A 銀行マネジメント 標準という)が規定されていて,原則としてA銀行マネジメント標準にのっとってプ ロジェクトを進めていくことが求められている。そこでI課長は,期限厳守のHプロ ジェクトでは,メンバーが習熟している A銀行マネジメント標準を基に,適応型開発 アプローチの要素を加味して修整を行い,Hプロジェクトに適用することにした。 H 銀行システム部は,部長,課長と一部のベテラン行員を除くと若手の行員が多 い。また,H 銀行では,Hプロジェクト完了後も適応型プロジェクトが継続して立ち 上げられることが見込まれており,適応型プロジェクトをマネジメントできる若手の リーダー育成がH銀行システム部の喫緊の課題である。I課長は,リーダー育成にも 十分に配慮してプロジェクト計画を作成することにした。Hプロジェクトでは適応型 開発アプローチの要素を加味して A 銀行マネジメント標準を修整するので,リーダー には適応型プロジェクトのマネジメントと,その実現に適したリーダーシップの両方 を習得してもらうことを育成の目標とした。プロジェクトチームの編成において,H プロジェクトでは若手でモチベーションが高く自発的に仕事に取り組む姿勢をもつメ ンバーを積極的にリーダーに登用することにした。また,マネジメントに当たっては、 支援型リーダーシップの習得が適していると考えた。 〔開発項目の定義プロセスの検討〕 I課長は,H銀行企画部とHプロジェクトの進め方について協議した。H銀行企画部 は,“既に取り決めたとおり,要求事項は最新の状況において優先度を付けて順次判 断し,開発項目の更新を行っていく。予算は,戦略的な事業として,上限はあるが一 定の余裕をもって確保しているので,スケジュールは厳守しつつ予算内で要求事項の 取込みに最大限柔軟に対応してほしい。”とのことであった。 I 課長は、このように開発項目を順次更新していくに当たって,A銀行マネジメン ト標準の予測型開発アプローチを前提としたスコープ定義プロセスは適さないことか ら,スコープに関わる現状の変更管理プロセスを参考にしてHプロジェクトの開発項 目の定義プロセスを検討することにした。A 銀行マネジメント標準の変更管理プロセ スは次のとおりである。 ・変更を要求する部門が,スコープの変更要求を,変更管理委員会(以下,CCBとい う)に提示する。 ・A 銀行システム部が,変更要求に基づく影響を調査し,変更を実施する際のリスク や課題、追加コストなどを整理する。 ・A銀行システム部の影響調査結果に基づき,CCBが変更要求を承認又は否認する。 これまで,このプロセスの運用では変更の効果が不明確だったり,他の部門の変更 要求と相反したりして,A 銀行システム部では,変更要求を提出した部門や他部門と のやり取りが何度か発生することが多かった。 I課長は,開発項目の定義プロセスにおいて,H銀行のシステム部長、企画部長、 企画部のメンバー,及びI課長から成る開発項目定義委員会(以下、DDBという)を 設置して適宜開催し,開発項目に取り込む要求事項の優先度の付与や開発項目の入替 えなどの開発項目の更新を決定することにした。その上で,下線①A銀行マネジメント標 準の変更管理プロセスを次のように修整して,開発項目の定義プロセスとした。 ・下線②要求事項の判定基準を設定し,各業務部門の要求事項がHプロジェクトに提示で きる基準を満たしているかどうかをH銀行企画部で判定する。 ・判定基準を満たしている要求事項は,H銀行企画部がHプロジェクトに提示する。 ・Hプロジェクトでは,新たに提示された要求事項について,その要求事項を開発項 目に取り込む際の課題,追加コストを整理する。その上で,要求事項の取込みに伴 う開発項目の更新によるスケジュール遅延リスクの発生確率のレベルを高、中,低 の3段階で,Hプロジェクト全体の作業状況や計画における余裕度に照らして評価 する。各レベルのスケジュール遅延リスクの発生確率は,レベル高が60%以上、 レベル中が30%以上~60%未満、レベル低が30%未満である。 ・H プロジェクトでは,レベル低の要求事項はPMによる承認で開発項目に取り込め る。レベル高及び中の要求事項の場合は,開発項目の更新をDDBに付議する。ただ しレベル高及び中の要求事項であってもDDBの下線③ある決定によって,スケジュール 遅延リスクの発生確率を再評価してレベル低である 30%未満に軽減できれば,PM による承認でその要求事項の追加に伴う開発項目の更新を実施できる。 I課長は,下線④プロジェクトの進捗に伴って要求事項の取込みは困難となっていくこ とを含めて,開発項目の定義プロセスについてDDBのメンバーに合意を取った。 〔チームのマネジメント計画の作成〕 A 銀行マネジメント標準のチームのマネジメントでは,PMとリーダー間の明確な役 割と責任の分担,及びこれらに対応した指示・報告に基づいたプロセスが規定されて おり,課題の解決方法やメンバーの活動を明確に指示し,指導を行うことを重視して いる。I課長は,⑤H銀行システム部の喫緊の課題の解決に,このようなチームのマ ネジメントは適さないと考えた。そこで,過去のプロジェクトの教訓を参照して,A 銀行における若手リーダーを登用した際の次の失敗事例を確認した。 ・PM が適切な情報共有やフォローをせず一方的に指示をした結果,若手リーダーの モチベーションを下げてしまった。 ・リーダーに登用された責任感から,メンバーの活動を細かく指示したり,過度にメ ンバーの課題解決に介入したりした結果,チームとしてのパフォーマンスが低下し て,進捗が遅れてしまうことがあった。 ・進捗に遅れがあるにもかかわらず,リーダー以上が参加する週次進捗会議で現実の 状況を報告すると皆の前で叱責されると考え,問題なしと報告を上げていた。その 結果,遅延が表面化したときには状況が深刻になっており,対策の遅れとともに多 くの時間とコストを費やすことがあった。 I課長はこれらの教訓から,A 銀行マネジメント標準のチームのマネジメントのプ ロセスを次のように修整して,チームのマネジメントの計画を作成した。 ・他社で適応型プロジェクトを経験して下線⑥支援型リーダーシップを習得してきたベテ ラン行員を若手リーダーの育成役としてアサインする。 ・下線⑦H 銀行の必達目標を達成するために,メンバーの動機付けや自律的な課題解決の 促進などについて,育成役のベテラン行員が若手リーダーを後方で支援する。 ・進捗の遅れは,メンバーの問題ではなくチーム全体の問題として全員で解決に当た ることを行動の基本原則とし,原因究明するための問題の共有と早期解決に向けた 計画の作成をリーダーの責務とする。その上で,下線⑧リーダー以上が参加する週次進 捗会議とは別に,チーム全員が参加する朝会を毎朝実施し,“昨日の進捗”、“今日 の予定”、“障壁となっている事項や不安要素”を簡潔に報告してもらうことにする。 I課長が修整したプロセスを反映したプロジェクト計画書は,H銀行内で合意が得 られ,Hプロジェクトが開始されることになった。 設問1〔開発項目の定義プロセスの検討〕について答えよ。 (1) 本文中の下線①について,I課長が、A銀行マネジメント標準の変更管理プ ロセスを修整して,開発項目の定義プロセスとした目的は何か。25字以内で 答えよ。 (2) 本文中の下線②について,要求事項の判定基準を設定し,各業務部門の要 求事項がHプロジェクトに提示できる基準を満たしているかどうかをH銀行企 画部で判定することで,Hプロジェクトが得られる効果は何か。35字以内で答 えよ。 (3) 本文中の下線③について,スケジュール遅延リスクの発生確率を30%未満 に軽減するためのDDBのある決定とは何か。25字以内で答えよ。 (4) 本文中の下線④について,I課長が,開発項目の定義プロセスについて DDB のメンバーに合意を取る際に,プロジェクトの進捗に伴って要求事項の取込み が困難となっていくことを含めた理由は何か。35字以内で答えよ。 設問2〔チームのマネジメント計画の作成〕について答えよ。 (1) 本文中の下線⑤について,I課長が,H銀行システム部の喫緊の課題の解決 に,A 銀行マネジメント標準のチームのマネジメントは適さないと考えたのは なぜか。30字以内で答えよ。 (2) 本文中の下線⑥について,支援型リーダーシップを習得してきたベテラン 行員を若手リーダーの育成役としてアサインしたのは,登用した若手リーダー にどのような姿勢があるからか。25字以内で答えよ。 (3) 本文中の下線⑦について,I課長が,このような内容について育成役のベ テラン行員に若手リーダーを後方で支援してもらうことにしたのは,Hプロジェクトに対するどのような効果を期待したからか。30字以内で答えよ。 (4) 本文中の下線⑧について,I課長は,週次進捗会議とは別に朝会を実施す ることで,スケジュール遅延リスクに対して具体的にどのような効果を得たい と考えたのか。30字以内で答えよ。
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変化に応じた計画と協働の見極め

状況の変化に対応する計画の見直しと、チームが共通理解を保ちながら進めるための関係に注目して、各選択肢の考え方を整理しましょう。

この問題で問われていること

計画を調整する判断とチーム管理のつながりに焦点を当て、変化への対応が進行の透明性や協働の維持とどう関係するかを確認しましょう。

視点

変化への対応を考えるときは、計画だけでなく、判断の共有、役割の理解、継続的な確認が互いにどう影響するかを整理します。

確認ポイント

  • 計画の調整が必要になる状況をどのように捉えているか
  • 変更内容や判断が関係者に共有される前提になっているか
  • チームの協働と進行状況を確認する視点が含まれているか
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解説

本問は、1年後のサービス開始を必達目標とするネット専業銀行のシステム開発を題材に、予測型の標準を適応型プロジェクト向けにテーラリングする判断を問う。要求事項の柔軟な取込みと、若手リーダー育成を両立するプロセス設計が中心です。

問題の全体像

Hプロジェクトは、1年後の銀行業務開始を守りながら、市場ニーズに応じて要求事項と開発項目を順次決める必要がある。そこでI課長は、習熟済みのA銀行マネジメント標準を基礎に、適応型開発の要素を加えてテーラリングした。設問1では、要求事項を柔軟かつ効率的に取り込むための定義プロセス、設問2では、若手リーダーを育成しながら進捗遅延を防ぐチームマネジメントを問う。

設問1(1)

本文では、要求事項を市場状況に応じて順次確定し、予算内で取込みに最大限柔軟に対応する方針が示されている。一方、既存の変更管理プロセスは、変更要求の提出部門や他部門とのやり取りが何度も発生していた。したがって、修整の目的は、要求事項の取込みに最大限柔軟に対応することです。25字以内では、柔軟な取込みという目的を端的に示す。

設問1(2)

各業務部門の要求事項を、H銀行企画部があらかじめ判定基準で確認してから提示する流れに変えている。これは、効果が不明確な要求や他部門と相反する要求を後工程で調整する状況を減らすためです。公式解答例では、要求事項を提出した業務部門への確認などのやり取りを減らす効果が示されている。

設問1(3)

レベル高・中の要求事項は通常DDBに付議されるが、DDBの決定によって遅延リスクを30%未満に下げられれば、PM承認で取り込める。本文の具体的な手段は、開発項目への追加に伴う影響を抑えるため、開発項目内のほかの要求事項を外すことです。したがって、その入替えの決定を答える。

設問1(4)

H銀行は要求事項を受け入れ続けたい一方、必達目標は1年後のサービス開始です。プロジェクトが進むほど残作業や余裕が減り、新たな要求事項を取り込む余地は小さくなる。この前提をDDBで共有し、要求事項を受け入れ続けた結果としてスケジュール遅延を招かないようにする理由を答える。

設問2(1)

A銀行標準は、PMとリーダーが明確に指示・報告し、課題解決方法やメンバー活動を指示する管理を重視している。しかし、H銀行の課題は適応型プロジェクトを担う若手リーダーの育成です。このような指示中心の管理では、支援型リーダーの育成に適さないため、修整が必要になる。

設問2(2)

本文では、若手リーダーとして、モチベーションが高く、自発的に仕事に取り組む姿勢をもつメンバーを積極的に登用するとしている。この姿勢があるからこそ、細かな指示を与えるのではなく、支援型リーダーシップを身につけたベテランが育成役として支援できる。字数内では、高い意欲と自発性を押さえる。

設問2(3)

過去の失敗では、若手リーダーがメンバーに細かく指示したり課題解決に過度に介入したりして、チームのパフォーマンスが低下し、進捗が遅れた。ベテランが動機付けや自律的な課題解決を後方支援すれば、若手リーダーが適切にチームを運営できる。公式解答例では、チームのパフォーマンス低下による進捗の遅れを防ぐ効果が示されている。

設問2(4)

週次進捗会議だけでは、遅れを隠して問題が深刻化するおそれがある。朝会で全員が昨日の進捗、今日の予定、障壁や不安要素を共有すれば、問題を日々把握できる。したがって、問題が大きくなる前に原因を把握し、早期に解決を図る効果を答える。

学習のポイント

標準プロセスを事例の目的・制約に合わせて修整し、施策の効果まで説明する練習が重要です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和6年度秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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