PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

令和6年度秋期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 プロジェクトマネジメントの計画に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 E社は,営業部門,工事部門,管理部門など複数の部門をもつ通信事業者である。 E社では,共通基盤上に仮想化技術によって部門の業務に最適化した部門ごとのシステム(以下,現部門システムという)を構築しており,現部門システム間は疎な関係で連携していた。しかし,共通基盤の老朽化と現部門システムの保守性の低下でシステム投資が増え,E社の課題となっていた。そこで,共通基盤にPaaSを採用し,現在と同様に部門ごとに新しいシステム(以下,新部門システムという)を再構築する計画を決定した。この計画では,現在の共通基盤の保守期限切れとなる計画時点の2年後に,全部門の新部門システムを同時稼働させることになっていた。 新部門システムの再構築は,6か月間で要件定義を行い,その後の18か月間で開発を行う計画であったが,要件定義の期間中にE社の事業に影響する制度改正が決まり,現部門システムを制度改正の施行までに改修することが必須となった。そこで,新部門システムの要件定義を開始後3か月の時点で中断し,現部門システムの定常の保守作業も中止して,現部門システムの制度改正対応の保守作業(以下,制度改正作業という)に一時的に注力することになった。その結果,図1に示すように,新部門システムの要件定義は計画より3か月遅れで完了した。なお,制度改正は,現時点から9か月後,新部門システムの稼働の6か月前に施行される。現在の共通基盤は保守期限切れとなるので新部門システムの稼働時期を守ることが必須であり,新部門システムの再構築計画の見直しを行った結果,新部門システムの開発は,要件を優先度の高いものに絞ることによって,計画より3か月間短縮した15か月間で実施するスケジュールとなった。 E社のシステム部には,担当する部門ごとに課が置かれている。システム開発は,担当する課がプロジェクトを立ち上げて実施している。各課では,営業部門向けでは変化への適応スピード重視,工事部門向けでは安定性重視など,担当する部門の業務特性や状況に合わせた部門ごとの“プロジェクトマネジメントの方法”(以下,PMMという)によって部門に協力していたので,各課のメンバーと担当する部門のステークホルダとの間には信頼関係が築かれていた。一方で,課ごとのPMMの違いによって,システム部のメンバーの育成の共通化や他の課への柔軟な異動ができず,システム部内で他の課と情報を共有して共同作業を行うことが難しくなっていた。制度改正作業の要件定義では,ある現部門システムでの課題への対応方針と他の現部門システムでの課題への対応方針がPMMの違いで対立するなど,部門を担当する課の間で課題への対応の合意に時間を要し,制度改正の施行に間に合わないリスクの要因となっていた。また,開発成果物の構成管理は,担当する現部門システムの品質と信頼性を維持するために,担当する各課が,それぞれ異なるプロセス,ツールを適用するなど個別のやり方で実施しており,システム部全体としての開発効率が悪化する原因にもなっていた。 〔プロジェクトの立ち上げ〕 現在E社システム部の副部長で,長く管理部門を担当する課の課長であったF氏は,新部門システムの再構築に要件定義から参加してきた。新部門システムの開発は,要件定義の結果を基に,担当する各課でスコープを定義して作業する。F氏は,部門ごとに稼働時期を決めていた現部門システムとは異なり,下線①全部門の新部門システムの同時稼働が必須であることから,全部門の新部門システムの開発の作業を一つのプロジェクト(以下,本プロジェクトという)としてマネジメントすることにし,自らがプロジェクトマネージャ(PM)を担うこととした。 F氏は,自身の経験が豊富な管理部門を担当する課のPMMを本プロジェクトに全面的に適用することを考えたが,下線②特定の課のPMMを本プロジェクトに全面的に適用すると,スケジュール遅延のリスクが高まると判断した。そこで,各課のPMMを生かしつつ,一つのプロジェクトとしてマネジメントするために,共通化したPMM(以下,共通PMMという)を適用するマネジメントプロセスと,各課のPMMを適用するマネジメントプロセスを区分けすることにした。新部門システムの開発において,複数の課の開発に影響するマネジメントプロセスには共通PMMを適用し,それ以外の課ごとに異なっていても問題のないマネジメントプロセスには,各課のPMMを適用する。 〔共通PMMのマネジメント組織の検討〕 F氏は,共通PMMを導入して実行するためのマネジメント組織を検討することにし,プロジェクトの特性を次のように整理した。 ・本プロジェクトのPMであるF氏自身は,担当してきた管理部門のステークホルダとの信頼関係は築けているが,それ以外の部門のステークホルダとの関係性は薄い。 ・本プロジェクトの開発のメンバーはシステム部の各課から選任するが,メンバーの多くは,制度改正作業も兼任して稼働する。 ・各課長は,課内の各メンバーの本プロジェクトと制度改正作業との稼働割合を設定し,設定した稼働割合を基に,新部門システムの開発スケジュールを作成する。 ・本プロジェクトの円滑な推進には,部門のステークホルダとの信頼関係の維持・構築が欠かせない。 F氏は,上記を踏まえて,共通PMMの実行組織として,F氏の下にシステム部内の関係する全課長をメンバーとするPMOを設置することにし,各課長に次の活動を指示した。 (a) PMOのメンバーとして,課の垣根を越えてプロジェクト全体を見て共通PMMを用いたマネジメント活動を行う。これに加えて,本プロジェクトを担当する課の長として,各課のPMMを用いたマネジメント活動を行う。 (b) 各課長は,課の個々のメンバーの稼働状況について問題があれば,本プロジェクトに関する事項はF氏に,制度改正作業に関する事項はシステム部長に報告し,必要な調整をした上で対応を行う。 (c) 本プロジェクト及び制度改正作業を担当する課の長として,これまでと同様に担当する部門のステークホルダとの信頼関係の維持に努める。 また,F氏は,本プロジェクト又は制度改正作業のいずれかで作業の進捗遅れが発生し,課内の本プロジェクト及び制度改正作業の中での対応が困難な場合には,システム部長,F氏,各課長が出席する下線③毎週の部会において全員で対策を協議することとし,システム部長の承認を得た。 〔共通PMMのマネジメント計画の検討〕 本プロジェクトの最大のリスクは,新部門システムの開発スケジュールの遅延である。F氏は,課題管理について,制度改正作業で課題の対応の合意に時間を要したことから,新部門システムの開発においても,担当する課固有の課題以外に,課を横断する課題が発生し,対応に時間を要する可能性があると考えた。そこでF氏は,下線④全部門の新部門システムの進捗会議にPMOの全メンバーの参加を必須とし,課題対応の調整をPMOの責務とすることを,共通PMMとして定めることにした。 F氏は,共通PMMの適用による,本プロジェクトでの開発効率の改善を図るために,下線⑤各課が個別のやり方で開発成果物の構成を管理している方法を見直すことにした。 設問1〔プロジェクトの立ち上げ〕について答えよ。 (1) 本文中の下線①について,F氏が,全部門の新部門システムの開発の作業を一つのプロジェクトとしてマネジメントすることにした背景にある,現在のシステム部の組織としての問題は何か。35字以内で答えよ。 (2) 本文中の下線②について,F氏が,特定の課のPMMを本プロジェクトに全面的に適用すると,スケジュール遅延のリスクが高まると判断した理由は何か。30字以内で答えよ。 設問2〔共通PMMのマネジメント組織の検討〕について答えよ。 (1) F氏は,各課長に(b)の活動を行わせることによって,個々のメンバーの何を管理させようとしたのか。30字以内で答えよ。 (2) F氏が,各課長に(c)の活動を行わせることによって補うことにした,自らに不足していた点は何か。25字以内で答えよ。 (3) 本文中の下線③について,F氏が,毎週の部会において全員で対策を協議することにした理由は何か。25字以内で答えよ。 設問3〔共通PMMのマネジメント計画の検討〕について答えよ。 (1) 本文中の下線④について,F氏が,全部門の新部門システムの進捗会議にPMOの全メンバーの参加を必須とし,課題対応の調整をPMOの責務とした狙いは何か。30字以内で答えよ。 (2) 本文中の下線⑤について,F氏は,各課が個別のやり方で開発成果物の構成を管理している方法をどのように見直すのか。30字以内で答えよ。
図1 新部門システムの再構築と制度改正作業のスケジュール。経過月、マイルストーン、計画時点及び現時点のスケジュール、制度改正作業を示す。
図1 新部門システムの再構築と制度改正作業のスケジュール。経過月、マイルストーン、計画時点及び現時点のスケジュール、制度改正作業を示す。
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部門横断の役割分担を読む視点

複数部門が関わる管理体制では、個別作業の説明よりも、全体を調整する責任の置き方と、部門間で判断をつなぐ共通の流れに注目し、役割の境界と連携の目的を整理します。表面的な名称だけで判断しないことが大切です。

この問題で問われていること

一つの組織だけで完結する管理と、複数部門をまたいで整合を取る管理を区別し、誰が何を調整し、判断をどの経路で共有する設計か、全体の責任関係に絞って確認します。細かな用語より関係性を見ます。

視点

選択肢を読むときは、組織図の名称や個別の手順に引きずられず、部門ごとの責任と全体調整の関係を捉えます。共通化の範囲、判断の境界、情報連携の単位を同じ観点で比べると、管理体制の意図を整理しやすくなります。

確認ポイント

  • 部門ごとの責任と、全体を調整する役割がどのように分かれているか。
  • 共通プロセスが、複数部門の判断や情報共有をどうつなぐ位置づけか。
  • 個別最適ではなく、プロジェクト全体の整合性を確認できる設計か。
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解説

複数部門の新システムを同時稼働させるため、課ごとのPMMの長所を残しつつ、課を横断する管理を共通PMMとして統一する問題です。

問題の全体像

E社では、老朽化した共通基盤をPaaSに置き換え、全部門の新部門システムを同時稼働させる計画です。しかし、制度改正作業が途中で発生し、開発メンバーの多くが制度改正作業も兼任します。また、課ごとに異なるPMMや構成管理方法を用いていたため、課をまたぐ情報共有、共同作業、課題対応の合意に時間がかかっていました。そこでF氏は、複数課に影響する管理には共通PMMを適用し、課固有の管理には各課のPMMを残す組織と計画を検討しました。出題の狙いは、異なるPMMをもつ複数課を横断するプロジェクトで、スケジュール制約、兼任、ステークホルダ、課題管理を踏まえたPMOの役割と共通化の範囲を考えることです。

設問1(1)

着目するのは、課ごとのPMMの違いによって、システム部内で他の課との情報共有や共同作業が難しくなっていたという記述です。全部門のシステムを同時稼働させるには、課ごとに個別管理するだけでは全体を連携できません。したがって、公式解答例では、組織上の問題を「システム部内で他の課と情報を共有して共同作業を行うことの難しさ」としています。35字以内なので、原因を細かく列挙せず、情報共有と共同作業の困難さを一まとまりで書きます。

設問1(2)

特定の課のPMMを全面適用すると、そのPMMに慣れていない他課のメンバーが作業することになります。本文には、課ごとにPMMが異なり、メンバーの育成や柔軟な異動が難しいとあります。そのため、特定課の方法を全体に押し付けると、課によっては不慣れな方法で作業し、生産性が下がってスケジュール遅延につながります。公式解答例も「不慣れなPMMを適用して生産性が低下する課があるから」としています。

設問2(1)

(b)では、各課長がメンバーの稼働状況に問題があれば、本プロジェクトか制度改正作業かを切り分けて報告し、調整して対応します。本文では、各課長が両作業への稼働割合を設定し、その割合を基に開発スケジュールを作成するとされています。したがって管理対象は、各メンバーが二つの作業にどの程度従事しているかという稼働割合と、それに伴う作業進捗です。公式解答例は「本プロジェクトと制度改正作業の稼働割合と作業進捗」としています。

設問2(2)

F氏は管理部門を長く担当しており、その部門のステークホルダとは信頼関係があります。一方、本文の特性整理では、管理部門以外の部門のステークホルダとの関係性は薄いとされています。(c)で各課長に担当部門のステークホルダとの信頼関係を維持させるのは、この不足を補うためです。公式解答例では「管理部門以外のステークホルダとの信頼関係」としています。

設問2(3)

本プロジェクトと制度改正作業は同じメンバーを取り合う関係にあり、一方の遅れが他方にも影響します。課内で対応できない進捗遅れは、システム部長、F氏、各課長が参加する場で全体調整する必要があります。したがって、毎週の部会を設けた理由は、本プロジェクトと制度改正作業の間で調整するためです。公式解答例もこの点を示しています。

設問3(1)

制度改正作業では、課ごとのPMMの違いにより対応方針の合意に時間を要しました。新システム開発でも課を横断する課題が発生すれば、同じように対応が遅れるおそれがあります。そこでPMO全員を進捗会議に参加させ、課題を早く共有して、対応方針を早期に合意できるようにします。公式解答例では、狙いを「課を横断する課題の早期検知と、対応方針の早期合意」としています。

設問3(2)

本文では、各課が品質と信頼性を維持するため、それぞれ異なるプロセスやツールで開発成果物の構成管理を行い、システム部全体の開発効率を悪化させているとあります。したがって、課ごとに分散した管理方法を改め、新システムに関する全ての開発成果物を共通の仕組みで一元管理する方向を答えます。公式解答例は「新システムに関する全ての開発成果物を一元管理する」としています。

学習のポイント

組織設計、稼働調整、ステークホルダ管理、課題の早期検知と成果物管理を結び付けて考える。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和6年度秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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