PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

令和6年度秋期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 顧客体験価値(以下,UX という)を提供するシステム開発プロジェクトに関する 次の記述を読んで,設問に答えよ。 P社はレストラン予約のサービス事業を展開しており,サービスを提供するシステ ムは自社で開発している。サービスの利用者には無償の基本サービスと有償の付加サ ービスを提供している。付加サービスでは,様々な条件で検索できたり,口コミの投 稿・閲覧ができたり,特別メニューを選択できたりする。これまで提供情報の種別・ 量や検索手段を増やすことで,付加サービスの利用者(以下,ロイヤルユーザーとい う)を開拓してきた。しかし近年,付加サービスの利用をやめて,ロイヤルユーザー から基本サービスの利用者(以下,無償ユーザーという)に戻る利用者が増えてきた。 P社の経営層はこの事態に危機感を抱き,早急に対策をとるために,営業部門のQ課 長とIT部門のR 課長に状況の分析を指示した。 〔状況の分析と対策〕 Q課長とR課長はサービスの利用者にインタビューした。付加サービスの利用をや めた無償ユーザーへのインタビューでは,“自分には付加サービスは対価に見合うサ ービスではなかった。例えば,Webサービスに慣れていないので,様々なボタンを押 したり,いろいろな情報を入力したりすることができず,希望するレストランが見つ けられなかった。また,検索から予約までの合計の時間が掛かるので使いにくかった。 レストランを探す際に口コミを見てもどこが良いか分からないし,また,口コミを自 分では投稿しない。自分に限らず,多少のお金を支払ってでも良いレストランを探し たい人は多いので,対価に見合うサービスを提供してほしい。”といった意見が多か った。一方,ロイヤルユーザーへのインタビューでは,時間を掛けてレストランを探 したり,口コミの投稿・閲覧をしたり,特別メニューを利用したりする体験が高く評 価されていた。 Q 課長とR 課長は収集したインタビュー結果などから,次のような分析をした。 ・Web サービスを使い慣れていない利用者と,希望に合ったレストランを簡単に探し たい利用者には,付加サービスのUXは適合しない。 ・付加サービスの利用後に UXが対価に見合わないと感じて利用をやめる利用者が増 加した。このような利用者に再度有償のサービスを利用してもらうためには,付加 サービスとは異なる新たなUXを提供し,そのUXを対価に見合う価値にする必要が ある。 ・有償のサービスでは,UXを対価に見合う価値にすることが重要なので,有償のサ ービスを提供するシステムはUXを明確に定義して開発する必要がある。 ・無償ユーザーのうち,付加サービスの UXに関心がない利用者も,有償のサービス で対価に見合う UX が提供される場合は,有償のサービスを新規に利用する可能性 が高い。 この分析に基づき,P社の経営層は事業拡大のために“複雑な操作をせずに,希望 するレストランがお勧めされ,すぐに予約できる。”というUXを定義した。そして, この UXを提供する新たな有償のサービス(以下,簡単サービスという)を開始する ことで,より多くの簡単サービスの利用者(以下,廉価ユーザーという)の獲得を目 指すことを決定した。P社は簡単サービスを提供するシステムを開発するプロジェク トを立ち上げ,R課長がプロジェクトマネージャ(PM)に任命された。 〔UX 実現の検討方針〕 R 課長は簡単サービスで十分な品質の UXを提供することが重要であると考え,次 のUX実現の検討方針でプロジェクト計画を作成することにした。 ・様々な利用者が対価に見合う価値であると感じる UXを実現し,より多くの廉価ユーザーを獲得して事業を拡大する。そのために,UXに対して品質の指標を設定し, 十分な品質を確保するように,要件定義,設計及びテストを実施する。 ・経営層の危機感を踏まえて,サービス開始の目標期限を設定し,予測型開発アプロ ーチでシステムを開発する。ただし,廉価ユーザーは新たな利用者層であることか ら期待やニーズを一挙には把握できないので,複数回にわたって把握する。 ・要件定義では,簡単サービスの UXに対してこれまでの付加サービスの固定観念に とらわれない新たな期待やニーズを多面的に把握し,簡単サービスで十分な品質が 確保できるようにする。 ・実装内容がUXに適合しているかどうか,及び実現するUXが対価に見合う価値であ るかどうかを,簡単サービスの UX に理解を示している利用者が設計,テストの各 段階で繰り返し検証する。 ・要件定義,設計及びテストでは利用者の参加が必要なので,各段階で行うニーズな どの提示及び内容の検証にふさわしい利用者を,プロジェクトの協力者として営業 部門を通じて募る。 〔要件定義に関するプロジェクト計画〕 UX 実現の検討方針に従い,要件定義段階では,これまで付加サービスの利用がな く,かつ,利用回数が多い無償ユーザーのうち,次の二つの条件を満たす利用者を対 象者として選定し,ヒアリングすることにした。 (i) Webサービスを使い慣れていない利用者 (ii) [a] まず,ワイヤーフレームを見てもらって,実際の利用場面をイメージしながら,操 作性,視認性,入力情報項目の量に対する許容度,レストラン選択の判断に使うお勧 め情報項目に対するニーズ,及び利用者が意識する時間(以下,利用時間という)に 関するニーズを提示してもらう。把握したニーズなどを分析し,実装する画面機能や レイアウト,入力情報項目,出力情報項目,及び利用時間を要件として定義する。 〔設計に関するプロジェクト計画〕 UX 実現の検討方針に従い,設計段階では,簡易な条件入力画面とお勧め情報の表 示画面のモックアップを使って,要件定義段階でのヒアリング対象者に操作性,視認 性,表示項目などがUXに適合するかどうかを検証してもらうことにした。 〔結合テストに関するプロジェクト計画〕 R 課長は,本番稼働環境に近い環境で結合テストを行う計画とした。結合テストで は,複数の機能が連携して設計どおりに動作するかどうか,実装内容が要件に対して 適切なものであるかどうかを本番データに近い疑似的なレストランの予約データを用 いてテストする。この作業は4週間で終了するが,UX 実現の検討方針に従い,R課長 は次の検証も結合テストで行うために,追加で1週間の期間を確保した。 ・要件定義段階でのヒアリング対象者に,操作性・視認性を含む実装内容がUXに適 合するかどうかを検証してもらう。 ・上記の対象者に加え,付加サービスの利用を今はやめている無償ユーザーにも結合 テストに参加してもらい,ある内容を検証してもらう。 〔総合テストに関するプロジェクト計画〕 UX 実現の検討方針に従い,総合テストでは,結合テストまでのテスト参加者に加 え,簡単サービスの UXに関心がある無償ユーザーにも参加してもらい,簡単サービ スのUXが対価に見合う価値であるかどうかの検証と,UX に対するニーズなどの追加 提示をしてもらう。追加提示されたニーズなどは精査の上対応する改修を行い,UX の品質が一定のレベル以上になったことを確認した上で,本番稼働させるスケジュー ルとする。 以上の整理を含め,R課長はプロジェクト計画を完成させた。 設問1〔要件定義に関するプロジェクト計画〕について答えよ。 (1) R 課長が,ヒアリングの対象者を,これまで付加サービスを利用したこと がある無償ユーザーではなく,利用したことがない無償ユーザーから選定した 狙いを35字以内で答えよ。 (2) R 課長は,ヒアリング対象者として,どのような条件を満たす利用者を選 定したのか。本文中の[a]に入れる適切な利用者を30字以内で答えよ。 (3) R 課長は,利用時間に関するニーズとして,何の時間に関するニーズを収 集したのか。20字以内で答えよ。 設問2 〔設計に関するプロジェクト計画〕について,R 課長が,検証してもらうため に,要件定義段階でのヒアリング対象者を再度選定した狙いは何か。35字以内 で答えよ。 設問3 〔結合テストに関するプロジェクト計画〕について答えよ。 (1) R 課長は,操作性・視認性がUXに適合するかどうかを,設計段階だけでな く,結合テスト段階でも検証する計画としたのはなぜか。25字以内で答えよ。 (2) R 課長が,結合テストで,付加サービスの利用を今はやめている無償ユー ザーに検証してもらう内容は何か。25字以内で答えよ。 設問4 〔総合テストに関するプロジェクト計画〕について答えよ。 (1) R課長が,簡単サービスの UXに関心がある無償ユーザーにも総合テストに 参加してもらった事業上の狙いを25字以内で答えよ。 (2) R課長が,総合テストでも UXに対するニーズなどの追加提示をしてもらっ た理由は何か。35字以内で答えよ。
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判断の前提に着目して考える

この分野の問題では、ある判断がどのような前提のもとで述べられているかに着目しましょう。知っている用語から結論を急がず、与えられた条件と自分が補っている想定を分けて捉えることが、考えを整理する手掛かりになります。

この問題で問われていること

検討の焦点は、判断を支える前提がどこまで示されているかです。普段なら当然と思う条件も、今回与えられている条件と同じとは限りません。明示された内容に立ち返り、読み取りに自分の想定が混ざっていないか確認しましょう。

視点

前提とは、判断を考える際に土台として置く条件です。内容を理解したつもりでも、経験や記憶から条件を補ってしまうことがあります。根拠として示された条件と、頭の中で追加した条件を区別すると、検討の出発点を確かめやすくなります。

確認ポイント

  • 判断の前提として明示されている条件は何か
  • 自分の経験から補っている条件はないか
  • 考えの土台を与えられた条件に戻せているか
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解説

新たな利用者層に対価に見合うUXを提供するため、固定観念にとらわれないニーズを収集し、UXを理解する利用者と各段階で検証する計画を読み取る問題です。結合テストでは環境とデータ、総合テストでは利用者獲得と品質確保に着目します。

問題の全体像

P社では、有償の付加サービスを対価に見合わないと感じ、無償サービスに戻る利用者が増えています。そこで、複雑な操作をせずに希望するレストランがお勧めされ、すぐに予約できるUXを提供する簡単サービスを開発します。公式資料の出題趣旨では、予測型開発アプローチで利用者参加型の要件定義、設計、テストを計画するPMの実践的な能力を問うとしています。読み取りの軸は、新たな利用者層のニーズを多面的かつ複数回にわたって把握し、実装内容のUXへの適合性と、UXが対価に見合う価値かどうかを各段階で検証することです。

設問1(1)

〔UX実現の検討方針〕にある「これまでの付加サービスの固定観念にとらわれない新たな期待やニーズを多面的に把握」に着目します。付加サービスの利用経験がない無償ユーザーを選ぶ狙いは、従来のサービスを前提とした意見に偏らず、簡単サービスへの新たなニーズを得ることです。公式解答例では「付加サービスの固定観念にとらわれない多面的なニーズを得る狙い」としています。35字以内では、固定観念にとらわれないことと、多面的なニーズを得ることを押さえます。

設問1(2)

〔状況の分析と対策〕では、付加サービスのUXが適合しない利用者として「Webサービスを使い慣れていない利用者」と「希望に合ったレストランを簡単に探したい利用者」を挙げています。前者は条件(i)に示されているので、空欄aには後者が入ります。公式解答例は「希望に合ったレストランを簡単に探したい利用者」です。30字以内では、希望に合うレストランを探すことと、簡単に探したいことの両方を含めます。

設問1(3)

付加サービスの利用をやめた無償ユーザーの「検索から予約までの合計の時間が掛かるので使いにくかった」という意見に着目します。簡単サービスのUXも、レストランがお勧めされ、すぐに予約できることを目指しています。そのため、収集するのは検索だけや画面表示だけの時間ではなく、予約までを含む一連の利用時間に関するニーズです。公式解答例は「検索から予約までの合計の時間」であり、この範囲を20字以内で示します。

設問2

〔UX実現の検討方針〕の「簡単サービスのUXに理解を示している利用者が設計、テストの各段階で繰り返し検証する」に着目します。設計段階で要件定義のヒアリング対象者を再度選ぶ狙いは、簡単サービスが目指すUXを理解している利用者に、モックアップの操作性、視認性、表示項目などを検証してもらうことです。公式解答例では「UXに理解を示している利用者に設計内容を検証してもらう狙い」としています。採点講評では、ニーズを提示した本人が実装を検証するという説明にとどまる解答が多かったと指摘しています。35字以内では、UXへの理解と設計内容の検証を結び付けます。

設問3(1)

設計段階は画面のモックアップによる検証ですが、結合テスト段階では本番稼働環境に近い環境で、本番データに近い疑似的な予約データを使います。この違いから、実際の利用に近い条件で操作性・視認性がUXに適合するかを確かめる必要があると読み取ります。公式解答例では「本番稼働環境に近い環境での検証が必要だから」「疑似的な予約データでの検証が必要だから」を挙げています。25字以内では、いずれかの具体的な検証条件を理由として示します。採点講評でも、繰り返し検証するという一般的な説明だけでなく、結合テストで検証できる環境やデータに言及することを求めています。

設問3(2)

〔状況の分析と対策〕では、付加サービスの利用をやめた人は、そのUXが対価に見合わないと感じていたと分析しています。再度有償サービスを利用してもらうには、新たなUXを対価に見合う価値にする必要があります。したがって、この利用者に検証してもらう内容は、簡単サービスのUXに料金を支払うだけの価値があるかどうかです。公式解答例は「UXが対価に見合う価値であるかどうか」です。25字以内では、操作性などの適合性だけでなく、対価と価値の関係を示します。

設問4(1)

〔状況の分析と対策〕では、付加サービスのUXに関心がない無償ユーザーでも、対価に見合うUXが提供されれば有償サービスを新規に利用する可能性が高いとしています。また、〔UX実現の検討方針〕では、より多くの廉価ユーザーを獲得して事業を拡大することを掲げています。簡単サービスのUXに関心がある無償ユーザーにも価値を検証してもらう事業上の狙いは、この新たな利用者の獲得です。公式解答例は「より多くの廉価ユーザーを獲得する狙い」です。25字以内では、テスト上の効果ではなく、廉価ユーザーの獲得という事業上の目的を示します。

設問4(2)

〔UX実現の検討方針〕では、廉価ユーザーは新たな利用者層であり、期待やニーズを一挙には把握できないため、複数回にわたって把握するとしています。さらに、〔総合テストに関するプロジェクト計画〕では、追加ニーズを精査して改修し、UXの品質が一定のレベル以上になったことを確認して本番稼働させます。公式解答例では、ニーズなどを複数回にわたって把握する必要と、本番稼働に必要なUXの品質を確保する必要の二つを挙げています。35字以内の答案では、例えば「廉価ユーザーのニーズなどを複数回にわたって把握する必要があるから」のように、公式解答例の要点を一つの理由として簡潔に示します。

学習のポイント

利用者を選ぶ目的と各段階の検証目的を本文から結び付け、問われた内容を字数内で具体的に表す力を身に付けます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和6年度秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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