PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成31年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 プロジェクトの定量的なマネジメントに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 R社は,首都圏から3時間ほどの地方都市を本拠地としているソフトウェア企業である。これまでの主要顧客は地元の製造業であったが,今後は首都圏の新規顧客の獲得を目指している。首都圏の大手SI企業でプロジェクトマネージャ(PM)としての経験を積んだS課長は,UターンでR社に入社した。入社に当たって,経営陣から,次のような説明を受けた。 ・R社には職人気質のエンジニアが多く,組織の価値観として品質重視が浸透している。この組織としての強みは,今後も大切にしていく。 ・プロジェクトマネジメントは,顧客ごとの要求に合わせて実施しているが,社内でマネジメントの標準として制定しているものはない。最近になって,プロジェクトが佳境に入ったところで進捗遅れが発覚して,顧客から苦情を受けるといったことが徐々に増えてきている。その中には,進捗遅れのリカバリ策に具体的な裏付けが不足していた,というものもある。これらは,社内にマネジメントの標準がなく,組織に定量的なマネジメントが根付いていないことが原因だと考えている。 ・R社が首都圏の新規顧客のニアショアのパートナとして信頼を獲得するには,これまでのやり方では限界があるので,定量的な管理手法を取り入れたマネジメントの標準(以下,R社標準という)を制定して社内に浸透させたい。S課長には,そのリーダとなってほしい。 S課長がPMとして最初に担当するのは,首都圏の顧客であるSI企業のA社から受注した販売管理システムの開発プロジェクトである。これは若手のT主任がA社に常駐し,複数のプロジェクトに参加する中で信頼を獲得して,A社からは初めてシステム開発をニアショアとして受注したものである。A社は,請負契約での開発を確実に遂行できる委託先を求めており,R社経営陣もこのプロジェクトに注目している。プロジェクトチームの構成員(以下,チームメンバという)は7名,開発期間は7か月である。プロジェクトチームのリーダのT主任は,対象となるシステムや開発内容についての十分な理解がある。見積りの前提となるスコープも適切な内容で,R社がA社と合意した受注金額にはリスクを考慮した予備費が含まれていた。S課長は,R社標準の試案を作成して,このプロジェクトで初めて適用することにした。 〔R社のスケジュール及び品質に関するマネジメントの状況〕 S課長は,過去に発生した進捗遅れに関する記録を確認した。またT主任にも丁寧にヒアリングを行って,R社のスケジュール及び品質に関するマネジメントの状況について,次のように認識した。 ・WBSは作成されており,個々の“活動(アクティビティ)”にまで階層的に分割されていたが,活動の粒度にはばらつきがあった。 ・活動ごとに成果物が定義され,その作業量が見積もられていた。過去のプロジェクトの実績を基にした見積りで,これまで大きな見積りの誤りはなかった。 ・成果物を作成する活動は,成果物の品質の確認も含めて,その活動の中で実施するように階層的に分割されていた。 ・進捗状況は,週2回の進捗会議で,活動ごとに報告されていた。設計工程から製造工程までは,担当者が自己評価した成果物の出来高が報告されていた。 ・レビューにおける欠陥の摘出件数,テストにおけるテスト項目数及び欠陥の摘出件数の計画値は,過去のプロジェクトの実績と,PMのこれまでの経験で決めていた。 ・レビュー及びテストにおける欠陥への対処は,完了まで適切に管理されていた。 首都圏の顧客のニアショアのパートナとして信頼を獲得するためには,品質を確保し,納期を遵守することが必達目標である。S課長は,この目標を確実に達成するためには,スケジュール及び品質に関するプロセスの改善が必要だと認識した。ただし,T主任の“R社標準の試案の適用に当たり,チームメンバの理解はおおむね得られるはずだが,導入に当たって少なからず抵抗や反発もあると思う”という意見を受け入れて,改善に優先度をつけることにした。具体的には,今回適用するR社標準の試案では,①品質に関するプロセスの改善は最小限にとどめて,スケジュールに関するプロセスの改善を優先することにした。 〔進捗遅れの原因分析〕 S課長はT主任とともに,過去に発生した進捗遅れの原因分析を行い,次のような認識を得た。 ・担当者は進捗遅れを認識しているが,回復が可能だと判断し,予定どおりと報告してくるケースがある。これは,R社の多くのエンジニアが,“遅れはエンジニアとして恥ずかしいことであり,自らの努力でリカバリする責任がある”と考えているからである。結果として,期限に間に合うこともあるが,思いどおりにリカバリできないこともある。 ・担当者が認識する品質と実際の品質との間にギャップがあると,進捗は正しく評価されない。このような場合,個々の成果物に対する初回のレビューで進捗への影響が明らかになる。初回のレビューの実施時期は,レビューイの判断で決定している。品質のギャップを検出する時期が遅くなると,リカバリは難しくなる。 ・チームメンバがクリティカルパス上の活動を認識していないので,該当の活動に関する問題の検知と対応が遅れ,マイルストーンに間に合わなくなることがある。 S課長は,進捗遅れの原因分析の結果から,次のような改善方針を考えた。 ・成果物の出来高を客観的に評価することを定着させ,評価結果を事実として共有することの意義を組織に浸透させる。 ・R社のエンジニアは自分の仕事への自負と責任感が強いので,②その特長を生かしつつR社標準の試案を浸透させる方針とし,現状を徐々に改善していく。 ・品質に関するプロセスでは,③レビューについて,すぐに改善できることを実施し,根本的な原因に対しては時間を掛けて対応する。 ・クリティカルパス上の活動を識別し,重点的に監視する。 S課長は,T主任とはR社標準を制定することの意義と,プロセスの改善方針について,十分に認識を共有できたと感じた。そこで④R社標準の試案をチームメンバにスムーズに浸透させるために,“チームメンバと十分に議論をして,R社標準の試案を具体的に提案してほしい”とT主任に指示した。その議論に先だって,スケジュールの管理についてはEVM(Earned Value Management)に基づく進捗データの指標の設定や計測方法を参考にするよう助言した。 〔T主任の提案〕 T主任が提案してきたR社標準の試案は,次のとおりであった。 ・週2回の進捗会議で,各自が,成果物の出来高実績,担当部分のSPI(Schedule Performance Index)及び今後の見通しを報告する。 ・T主任は会議後に,プロジェクト全体の出来高実績とSPIを算出し,プロジェクトの状況や課題を分析して,チームメンバにフィードバックする。進捗遅れが発生した際は,遅れという事象やその原因に焦点を当てて,プロジェクトチーム全体としての対処や,チームメンバ間の調整を検討し,関係するチームメンバを集めて協議を行う。 ・活動の階層的な分割について,基本的な考え方は従来どおりとするが,更に細かく成果物の章単位などに分割して,活動の粒度が1週間以内の作業になるようにする。 ・成果物を作成する活動の進捗率は,表1に従って算出する。 表1 成果物を作成する活動の進捗率の算出方法(案) 注記 進捗率の算出に用いる分母は,計画見直しの段階で更新し,完成の段階で実績値に置き換える。 S課長は,R社のスケジュール及び品質に関するマネジメントの状況や過去に発生した進捗遅れの原因と,提案されたR社標準の試案を照らし合わせ,次の見直しを行うことでT主任と合意した。 ・進捗率の算出方法について,品質の観点を加えて見直しを行う。 ・進捗会議の場を有効活用するために,各自の成果物の出来高実績,担当部分のSPI及び今後の見通しの報告は会議前に実施する。それを受けてT主任は,プロジェクトの状況や課題を会議前に分析する。進捗会議では,その内容を共有する。遅れを認識しているチームメンバは,リカバリ策を検討して会議に臨む。 ・プロジェクト全体の遅れにつながる問題の予兆を検知するために,⑤チームメンバ別以外のある切り口でのSPIを算出して,重点的に監視する。 S課長とT主任は今回のプロジェクトで,R社標準の試案の有効性をチームメンバが体感し,“R社標準は自分たちのためになる管理手法である”と認識してもらう,という目標を共有した。 設問1 〔R社のスケジュール及び品質に関するマネジメントの状況〕の本文中の下線①について,S課長はなぜ,品質に関するプロセスの改善は最小限にとどめることにしたのか。また,なぜスケジュールに関するプロセスの改善を優先することにしたのか。それぞれ,30字以内で述べよ。 設問2 〔進捗遅れの原因分析〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の下線②について,このS課長のR社標準の試案に基づく方針では,進捗の遅れが発生した場合に,具体的にどのような対応を促すのか。35字以内で述べよ。 (2)本文中の下線③について,すぐに改善できることとは具体的に何か。35字以内で述べよ。 (3)本文中の下線④について,S課長がR社標準の試案をチームメンバにスムーズに浸透させるために,T主任にチームメンバと十分に議論をして試案を具体的に提案するよう指示したのは,どのような効果を期待したからか。40字以内で述べよ。 設問3 〔T主任の提案〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)S課長とT主任は,進捗率の算出方法をどのように見直すことにしたのか。“テスト仕様書兼成績書を除くドキュメント類”の進捗率の算出方法について,表1における進捗率の算出方法欄に倣って30字以内で答えよ。 (2)S課長とT主任は,プロジェクトの状況や課題の分析を会議前に実施することによって,進捗会議をどのような場として有効活用することにしたのか。30字以内で述べよ。 (3)本文中の下線⑤について,S課長とT主任は,どのような切り口のSPIを重点的に監視することにしたのか。25字以内で述べよ。
表1 成果物を作成する活動の進捗率の算出方法(案)。成果物の種類ごとに,進捗率の単位と,作成済み・実施済み・検証済みの数量を計画数量で割る算出方法を示した表。
表1 成果物を作成する活動の進捗率の算出方法(案)。成果物の種類ごとに,進捗率の単位と,作成済み・実施済み・検証済みの数量を計画数量で割る算出方法を示した表。
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判断の根拠となる情報を確かめる

この分野を学ぶ際は、判断の根拠として扱う情報と、判断したい事柄のつながりに注目しましょう。用語の印象だけで理解を進めず、その情報から何について考えようとしているのかを、自分の言葉で整理すると役立ちます。

この問題で問われていること

取り組む際も、扱う情報が何を判断するための根拠なのかという一点を確認してください。情報の名前を知っていることと、判断とのつながりを説明できることを分けて考え、根拠にしている箇所を意識しましょう。

視点

情報と判断のつながりを整理するには、「この情報を、何について考えるために使っているか」と言い直してみましょう。説明に使う言葉を増やすより、情報と判断の関係を短く説明できるかを意識してください。

確認ポイント

  • 何について判断しようとしているかを意識できているか。
  • その判断の根拠として、どの情報に着目しているか。
  • 着目した情報と判断のつながりを、自分の言葉で説明できるか。
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解説

品質重視の組織文化を生かしながら、客観的な出来高評価、早期レビュー、具体的なリカバリ策、クリティカルパスの監視によって進捗管理を改善する問題です。標準の導入では、メンバ自身の検討と実行意欲も重視します。

問題の全体像

R社は品質重視を強みとする一方、進捗遅れの発見が遅く、リカバリ策の具体的な裏付けも不足しています。S課長は、初めて受注した首都圏顧客向けの請負開発で、定量的な管理を取り入れたR社標準の試案を適用します。公式資料の出題趣旨では、品質やリスクを含めた正確な状況把握、問題の早期発見、関係者と共有できる客観性が重視されています。各設問では、改善の優先順位、組織文化を生かした導入、品質を反映した進捗評価、会議とSPIの活用を本文に即して説明します。

設問1(1)

冒頭の経営陣の説明にある「品質重視が浸透している」「この組織としての強みは、今後も大切にしていく」に着目します。公式解答例では、品質重視の価値観が組織の強みになっていることを理由としています。採点講評でも、品質に課題はあるものの、組織の価値観の効用が期待できると説明されています。品質に問題がないからと捉えず、既存の強みを根拠にします。30字以内では「品質重視の価値観が組織の強みとなっているから」とまとめられます。

設問1(2)

進捗遅れがプロジェクトの佳境で発覚し、リカバリ策の具体的な裏付けも不足していたという経営陣の説明に着目します。顧客の信頼を得るには納期遵守が必須なので、遅れを予防し、発生時の回復策を具体化することが優先課題となります。公式解答例もこの二点を理由としています。採点講評では、スケジュール改善が経営課題であることを示しています。30字以内では「進捗遅れの予防とリカバリ策の具体化が優先課題だから」とまとめられます。

設問2(1)

担当者が自分の努力で回復できると判断し、遅れていても予定どおりと報告する点と、自負や責任感を生かす改善方針を結び付けます。担当者自身が回復に取り組む姿勢を生かし、その対応を具体的かつ客観的にすることが狙いです。公式解答例では、裏付けのあるリカバリ策を担当者自身に提案してもらう記述と、遅延リカバリの進捗を担当者自身に定量的に報告してもらう記述が、別々の解答候補として示されています。両方を一つの答案にまとめることは必須とされていません。35字以内の候補は「担当者自身が具体的な裏付けのあるリカバリ策を提案する。」または「担当者自身が遅延リカバリの進捗状況を定量的に報告する。」です。

設問2(2)

初回レビューの時期がレビューイの判断に任され、品質のギャップの検出が遅いとリカバリが難しくなる点に着目します。すぐに変えられるのは、初回レビューの実施時期の決め方です。公式解答例では、成果物作成の初期段階に計画すること、または実施時期をあらかじめ決めておくことが示されています。採点講評でも、早期レビューがスケジュールと品質の両面に効果を持つことを重視しています。35字以内の候補は「初回レビューの実施時期を成果物作成の初期段階に計画する。」または「初回レビューの実施時期をあらかじめ決めておく。」です。

設問2(3)

標準の導入に抵抗や反発が予想されることと、チームメンバ自身が議論して試案を具体化する指示に着目します。自ら改善策を検討すれば、その実行に向けた意欲が高まると期待できます。公式解答例も、メンバによる改善策の検討と実行意欲の向上を結び付けています。答案では、単に理解を得ると述べるだけでなく、自ら検討することによる効果を示します。40字以内では「チームメンバが自ら改善策を検討することで実行の意欲が高まるから」とまとめられます。

設問3(1)

表1の当初案は、担当者が作成済みのページ数を分子にしています。しかし、本文では担当者の認識する品質と実際の品質にギャップがあり、品質確認も成果物を作成する活動に含まれています。このため、品質の観点を加え、レビューの実施状況や指摘への対応状況を進捗評価に反映します。公式解答例では「レビュアがレビュー済のページ数/計画ページ数」と「担当者がレビュー指摘対応済のページ数/計画ページ数」が別々の解答候補として示されています。両者を組み合わせた分子にしたり、両方を答案に含めたりする必要はありません。30字以内では、いずれか一つを選び、表1に倣って分子/分母の形で記述します。

設問3(2)

報告と分析を会議前に済ませ、会議では分析内容を共有し、遅れのあるメンバがリカバリ策を検討して参加するという見直しに着目します。これにより、会議の時間を対策の合意やチーム全体の調整に使えます。公式解答例では、分析結果を共有して適切なリカバリ策を合意する場、または課題をチーム全体で共有して調整する場が示されています。採点講評でも、会議前と会議中に行うことの区別を重視しています。30字以内の候補は「分析結果を共有し、適切なリカバリ策を合意する場」または「課題をチーム全体で共有し、調整を行う場」です。

設問3(3)

原因分析にある、クリティカルパス上の活動の問題検知と対応が遅れ、マイルストーンに間に合わなくなるという記述に着目します。改善方針でも、これらの活動を識別して重点的に監視するとしています。担当者別のSPIに加えて、プロジェクト全体の遅れにつながる活動群をまとめたSPIを監視するという対応です。公式解答例では「クリティカルパス上の活動群のSPI」と示されています。この表現で25字以内の条件を満たし、監視する切り口を明確にできます。

学習のポイント

本文の課題と改善策を対応付け、公式解答例の候補を混同せず、設問の要求と字数に合わせて答案をまとめる練習が重点です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成31年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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