PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成31年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 IoTを活用した工事管理システムの構築に関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。 G社は,中堅の土木工事業の企業である。最近は,東南アジア諸国の経済発展に伴い,海外における道路,ダムなどの公共のインフラストラクチャ(以下,公共インフラという)構築のための工事の受注が増えている。G社は,厳しい環境での工事遂行力の高さを強みにして業容を拡大してきたが,最近では受注競争が激化しており,他社に対する競争力の強化が必要となっている。G社の経営陣は,この状況に対応するために,工事遂行力の更なる強化を目的として,IoTを活用した工事管理システム(以下,G社工事管理システムという)を構築することを決定した。 G社工事管理システムは,遠隔地の工事において,現場の進捗状況を可視化し,それを,現場,本社,顧客オフィス(以下,各拠点という)間でタイムリに共有することで,工事関係者間の認識の違いを無くし,確実に工事を遂行することを目的としている。 〔顧客の状況〕 G社は,X国において,来年4月に開始する工事(以下,X国新工事という)を受注した。X国は,現在国を挙げて近代化を進めており,公共インフラの構築が急務となっている。そのため,X国の工事では,納期に遅れた場合には多額の損害賠償金を支払わなければならない,という契約が慣例となっている。 G社は,X国の公共インフラの構築に早くから参入し,複数の工事を受注している。X国の工事現場は山間部などの遠隔地が多く,高い工事遂行力が必要である。最近は,近代化を加速したいX国の方針によって,工事期間の短縮を求められている。 G社は,X国新工事に対し,G社工事管理システムを適用して従来よりも短い期間で完了させることを提案し,受注に至っている。したがって,G社工事管理システム構築プロジェクト(以下,G社プロジェクトという)を来年3月末までの10か月で完了させることが必達である。G社プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)には,システム部のH課長が任命された。 〔G社工事管理システムの概要〕 G社工事管理システムでは,次に示す機能を実装する。 ・ドローンに装着したデバイスによって工事現場を撮影して,収集した画像データをIaaS上のサーバに蓄積する機能 ・建設機械に取り付けたデバイスによって稼働状況データを収集して,IaaS上のサーバに蓄積する機能 ・IaaS上のサーバに蓄積されたデータを分析して,工事進捗レポートを作成する機能 ・通信機能付きタブレット端末に,各拠点のニーズに沿った情報を迅速に提供する機能 ・問題が発生した場合に各拠点間で対応策を協議するための,タブレット端末のWeb会議機能 ・対応策をタブレット端末上の工事図面に表示し,現場へ正確にフィードバックする機能 〔WBSの作成〕 H課長は,G社プロジェクトのスコープを定義することから始めた。H課長は,まず,G社工事管理システムを構成する全ての要素を拾い出した。それにプロジェクトマネジメントの要素を加え,図1に示すWBSを作成した。 図1 G社プロジェクトのWBS 次に,H課長は,①これらの六つの要素に関わる作業を全て完了すれば,G社プロジェクトは確実に完了しているといえる関係であることを確認した。 〔プロジェクトマネジメントの要素のリスクへの対応〕 H課長は,プロジェクトマネジメントの要素について,リスクを特定し,評価した。H課長は,今回のプロジェクトの経緯から,②G社プロジェクトが遅延するリスクがG社に非常に大きな影響を与えると考えた。その対応策として,プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)を設置し,G社プロジェクトの要素全体の進捗状況の監視を強化することにした。PMOの設置に当たっては,③図1から確認できるG社プロジェクトの特性を考慮した人選を行った。 〔他の要素のリスクへの対応〕 図1のプロジェクトマネジメントの要素以外の他の要素については,次のようにリスクを特定し,評価して対応を行った。 ・工事スケジュール管理システムの構築:リスクとしては,工事スケジュール管理システムを新規開発した場合,開発スケジュールが遅延することが想定される。H課長は,工事スケジュール管理機能の仕様に合ったソフトウェアパッケージが数多く販売されていることを確認した。そこで,開発スケジュールが遅延するリスクを回避するために,工事スケジュール管理システムは新規開発せず,工事スケジュール管理機能を備えたソフトウェアパッケージを採用することにした。ただし,その採用に当たっては,④G社プロジェクトの要求事項を満たす機能を備えたものを選定する必要があると考えた。 ・デバイス情報管理システムの構築:リスク源としては,新技術に対応するための技術習得に必要な期間の長期化が想定される。H課長は,G社工事管理システムを確実に来年4月から稼働させることがG社にとって最重要であり,⑤G社の競争力強化の方向性から判断して,ドローンなどの新技術への対応をG社で内製化する必要はないと考え,デバイスベンダからアプリケーションプログラムも含めて調達することにした。また,日本における法規制の状況から考えて,⑥新技術への対応に対する別の観点のリスクを回避するために,事前にX国の関係機関に確認することがあると判断した。確認の結果,下線⑥の観点についてのリスクはないことの確証を得た。 ・タブレット端末への情報提供及びWeb会議システムの構築:リスク源としては,各拠点のニーズの把握に手間取ることが想定される。ただし,各拠点のニーズは相互に影響する可能性は少なく,プロジェクト全体のスケジュールへの影響は小さいと考えた。 ・デバイス及びシステム基盤の調達:要求に合うデバイスやIaaSのサービスが調達できないことがリスク源であるが,X国でも最近は急速なIT化が進み,既に多くの企業が多様なデバイスやIaaSのサービスを提供している。選択肢は広く,リスクは軽減できると考えた。 ・要素間連携システムの構築:個別の要素内での連携機能は既に確認しているが,システム全体として要求機能を実現できないというリスクが想定される。これに対しては,早い段階から各ベンダを交えた連携テストによる検証を繰り返し実施することで,リスクは軽減できると考えた。 〔IoTを活用したプロジェクトの特性〕 H課長は,これまでの結果を踏まえ,表1に示すG社プロジェクトのステークホルダの一覧表を作成した。 表1 G社プロジェクトのステークホルダの一覧表 H課長は,表1を参照し,⑦IoTを活用したシステム開発プロジェクトの場合,従来のシステム開発プロジェクトと比較して,マネジメントを難しくする特性があると考えた。 設問1 〔WBSの作成〕について,H課長が,本文中の下線①の確認を行ったのはなぜか。30字以内で述べよ。 設問2 〔プロジェクトマネジメントの要素のリスクへの対応〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)本文中の下線②について,H課長が考えた,G社プロジェクトが遅延するリスクがG社に与える非常に大きな影響とは,具体的に何を指すか。35字以内で述べよ。 (2)本文中の下線③について,H課長が,G社プロジェクトの特性を考慮して行った人選とはどのような人選か。30字以内で述べよ。 設問3 〔他の要素のリスクへの対応〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の下線④について,H課長が工事スケジュール管理機能以外にソフトウェアパッケージが備えるべきと考えた,G社プロジェクトの要求事項を満たす機能とは何か。35字以内で述べよ。 (2)本文中の下線⑤について,H課長が,G社の競争力強化の方向性から,G社で内製化する必要はないと判断した理由は何か。30字以内で述べよ。 (3)本文中の下線⑥について,H課長が新技術への対応に対する別の観点のリスクを回避したいと考え,事前にX国の関係機関に確認したことは何か。30字以内で述べよ。 設問4 〔IoTを活用したプロジェクトの特性〕について,H課長が本文中の下線⑦で考えた,従来のシステム開発プロジェクトと比較して,IoTを活用したシステム開発プロジェクトのマネジメントを難しくする特性とは何か。35字以内で述べよ。
図1 G社プロジェクトのWBS。G社プロジェクトをプロジェクトマネジメント、各種システム構築、デバイス及び基盤調達など六つの要素に分解したWBS。
図1 G社プロジェクトのWBS。G社プロジェクトをプロジェクトマネジメント、各種システム構築、デバイス及び基盤調達など六つの要素に分解したWBS。
表1 G社プロジェクトのステークホルダの一覧表。WBSの各要素について、識別番号、要素名、対応するステークホルダを一覧化した表。
表1 G社プロジェクトのステークホルダの一覧表。WBSの各要素について、識別番号、要素名、対応するステークホルダを一覧化した表。
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スコープとリスクの整合性

IoT開発では、対象範囲を明確に捉えたうえで、不確実性が計画や成果にどう影響し得るかを整理する視点が重要です。個別の選択肢は、範囲との関係に注目して検討しましょう。

この問題で問われていること

確認する観点を、設定されたスコープとリスク管理のつながりに絞ります。各記述が、対象・前提・影響の扱いを一貫した枠組みで示しているかを読み取り、表面的な用語だけで判断しないようにします。

視点

対象範囲と不確実性を別々に見るのではなく、両者の関係が計画上どのように整理されているかという観点で読み比べます。

確認ポイント

  • 対象範囲の境界と、管理対象として扱う事柄との関係を確認する。
  • リスクの影響が、計画や成果物のどの部分に及ぶ想定かを確認する。
  • 前提や責任の置き方が、スコープの整理と矛盾していないかを確認する。
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解説

G社は、遠隔地の工事進捗をIoTで可視化・共有し、短期間で確実に工事を進めるシステムを構築する。設問は、WBSの完全性、納期遅延リスク、各要素のリスク対応、IoT特有の広範な調整を問う。

問題の全体像

G社は、X国の遠隔地工事で進捗を可視化し、現場・本社・顧客間で共有するIoT工事管理システムを、X国新工事の開始前である来年3月末までの10か月で完成させる必要がある。納期遅延時には多額の損害賠償金が発生するため、H課長はWBSで要素を漏れなく定義し、PMOによる全体監視や、パッケージ採用・外部調達・法規制確認・連携テストなどでリスクに対応した。出題の狙いは、WBSとリスクマネジメントの実践に加え、IoT開発で必要な広範なステークホルダの統率・調整を理解しているか確認することにある。

設問1

下線①は、WBSに挙げた六つの要素の作業を完了すれば、プロジェクト全体が確実に完了したといえるかを確認した場面です。WBSではプロジェクトのスコープを漏れなく含めることが重要なので、答えは「プロジェクトの要素に抜けがないことを確認するため」となる。納期遅延や品質など、本文に書かれていない別の目的を中心にするのではなく、六つの要素を全て拾い出したこととの関係を書く。

設問2(1)

下線②の影響は、単にシステム開発が遅れることではありません。本文では、G社工事管理システムをX国新工事に適用し、来年4月から稼働させることが前提であり、X国工事は納期遅延時に多額の損害賠償金を支払う契約慣例がある。したがって、公式解答例のとおり「X国新工事の完了が納期に間に合わず損害賠償金を請求されること」と、システム遅延が工事遅延・賠償につながる因果関係を示します。

設問2(2)

下線③では、図1の要素がプロジェクトマネジメント、スケジュール管理、デバイス情報管理、タブレット・Web会議、基盤調達、要素間連携と多岐にわたる点に着目する。PMOの人材には、特定技術だけの専門家ではなく、各要素の内容を理解し、要素全体の進捗を把握できる能力が必要です。公式解答例の「各要素の内容を理解して進捗状況を把握できる人材を選ぶ」という要点を、30字以内でまとめる。

設問3(1)

工事スケジュール管理システムは、開発遅延を避けるため既製パッケージを採用する。しかし、G社システムの目的は、ドローン画像や建設機械の稼働状況を収集・分析し、工事進捗レポートを作成することです。したがって、スケジュール管理機能以外に必要な機能は、公式解答例のとおり「画像データや稼働状況データを分析してレポートする機能」です。単なるデータ収集ではなく、分析とレポート作成まで含める。

設問3(2)

G社は来年4月からの確実な稼働を最重要とし、新技術への対応をデバイスベンダからアプリケーションプログラム込みで調達する。内製化しない理由は、ドローンなどの要素技術を自社で持つことが、G社の競争力強化の源泉ではないためです。公式解答例の「ドローンの要素技術はG社の競争力強化の源泉ではないから」を、競争力の方向性と結び付けて書く。

設問3(3)

下線⑥は、日本の法規制ではなく、実際に新技術を使うX国での別のリスクを問うている。ドローンを工事現場で飛行させるため、X国の法令や関係機関の許可・制約を事前確認する必要がある。公式解答例では「X国でドローンの飛行に法的な制約があるかどうか」とされており、技術習得期間ではなく、現地の飛行規制という観点を明確にする。

設問4

公式解答例が示す「多岐にわたる分野のステークホルダの統率や調整が必要になること」が中心です。表1には、PMO、ソフトウェアパッケージベンダ、デバイスベンダ、タブレット端末ベンダ、IaaSベンダ、G社システム部など、異なる分野の関係者が示されている。従来のシステム開発よりも、機器・通信・クラウド・ソフトウェアなどをまたぐ関係者間の調整が難しくなる点を書く。

学習のポイント

本文の事実を、WBS、リスク対応、ステークホルダ管理の観点で整理する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成31年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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