PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成31年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 コンタクトセンタにおけるサービス利用のための移行に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 E社は,コンタクトセンタのシステム構築を得意としてきたSI事業者である。近年では次世代型コンタクトセンタサービス(以下,E社サービスという)を立ち上げて,コンタクトセンタをもつ企業向けにサービスを提供し,事業を拡大している。 E社は,通信販売事業者のM社から,E社サービスへの移行案件を受注することになった。 〔M社のコンタクトセンタの概要〕 M社は,TVショッピングやカタログ通販などの注文受付や顧客からの問合せ対応の窓口として,コンタクトセンタを設置し,全国各拠点に合計約1、000名のオペレータを配置している。原則として,窓口は24時間365日の営業となっている。M社の売上は年々拡大していて,コンタクトセンタへの注文や問合せも増加し,オペレータの負荷が高まっている。当面は,オペレータの増員で対処するが,増員にも限界があり,M社の経営層は,新しい技術を活用してオペレータの負荷を軽減したいと考えている。加えて,現在,M社データセンタに設置しているコンタクトセンタのシステムは,ハードウェアが老朽化しており,保守期限が8か月後の来年2月に迫っている。そこで,M社は,現在のコンタクトセンタのシステムから,E社サービスに移行するプロジェクト(以下,M社プロジェクトという)を立ち上げることにした。 M社プロジェクトのスケジュールは,今年7月から約半年間であり,全窓口を休業することを公表済みの元日に,全国各拠点同時にE社サービスに移行する。M社プロジェクトの責任者は,M社システム部のN氏である。E社は,経験豊富なF課長をプロジェクトマネージャ(PM)に任命した。 〔E社サービスとM社の状況〕 F課長は,図1に示すE社サービスへの移行概要について,N氏に説明した。 図1 E社サービスへの移行概要 E社サービスは,コンタクトセンタの業務を行うために必要な基本機能を提供する標準サービスと,自動対応機能などを提供するオプションサービスから構成される。M社のコンタクトセンタの業務は,E社サービスの標準サービスで問題なく対応できる。 自動対応機能とは,顧客がWebサイトやスマートフォン用アプリケーションプログラムから入力した問合せに対して,オペレータを介さず自動的に回答するものである。具体的には,問合せに対して,コンタクトセンタの過去の応対履歴データを基に作成した問合せ回答シナリオから回答を選択し,自動対応する。回答を選択できなかった場合は,オペレータに通知して,オペレータによる対応に切り替える。 問合せに対して自動対応機能で回答する割合(以下,自動回答率という)が高まれば,オペレータの負荷軽減という導入効果につながる。ただし,導入効果については,自動対応機能の導入後に,オペレータの負荷の分析と自動回答率の実績値を併せて評価する必要がある。自動回答率については,他社の事例などを参考に目標値を設定し,その目標値の達成に向けての作業を行う。 自動対応機能の導入前の準備作業として,回答の選択に必要な問合せ回答シナリオの登録や,回答を選択する処理を制御するパラメタの設定などを行う必要がある。自動回答率の目標値の達成に向けて,登録する問合せ回答シナリオや設定するパラメタを変更し,過去の応対履歴データを用いて自動回答率を計測する作業を繰り返すという,実証実験的な進め方になる。 自動対応機能を導入する企業は,準備作業を実施するための体制を作り,作業を行う期間を設ける必要がある。これらの対応が不十分だと,想定した準備作業の期間内に自動回答率の目標値が達成できなくなる。その場合は,準備作業の進捗状況を踏まえて,自動対応機能の導入時期や自動回答率の目標値を見直す判断が必要である。E社には自動対応機能の導入を支援する部門がある。目標値は,導入企業であるM社がE社の支援を受けて決定するが,目標達成に向けて両社が協力することが重要である。 F課長がN氏にこれらの説明をした後,1週間の質疑応答の期間を経て,F課長はN氏から,M社としてオペレータの負荷を軽減するために自動対応機能を導入する,という回答を受けた。 〔M社プロジェクトの移行条件〕 F課長は,N氏からM社プロジェクトの移行条件についてM社の希望を確認した。 (1) E社サービスへの移行の作業について ・移行作業は,元日の0時~24時に完了させること。 ・M社における過去のシステム移行で,移行リハーサルを実施した際,作業手順と移行時間の見積りに不備があった。その後の修正確認と再見積りも不十分で,本番の移行作業が混乱したことがあったので,同様の問題の再発を避けること。 (2) 標準サービスへの移行について ・標準サービスへの移行については,現在提供している応対のサービスレベルを維持し,標準サービス開始日から全国各拠点の全てのオペレータが戸惑うことなく操作できること。 (3) 自動対応機能の導入について ・自動対応機能は,標準サービスへの移行時期に合わせて導入し,標準サービス開始日にサービスを開始すること。 ・E社の支援を受け,M社がサービス開始時の自動回答率の目標値を決める。 ・M社内で,N氏の下で自動対応機能の導入前の準備作業を実施する体制を作る。この体制が効果的に機能するよう,E社が支援すること。 F課長は,M社プロジェクトの移行計画の作成に当たり,改めてM社の考えを確認するために,N氏にヒアリングした。①特に,自動対応機能のサービス開始時期を設定した背景やサービス開始時の自動回答率の目標値の決め方について詳しく確認したところ,N氏から次のような回答を得た。 ・標準サービスへの移行が最優先であり,これを確実に実施することが前提である。 ・自動対応機能は,できるだけ早くサービスを開始するよう経営層から指示されているが,新しい技術ということもあり,慎重に進めることも併せて指示されている。 ・自動対応機能のサービス開始時期やサービス開始時の自動回答率の目標値は,M社プロジェクトの進捗状況も踏まえて,N氏が最終的に判断するよう経営層から指示されている。 F課長は,これらの回答を踏まえて,移行条件への対応を具体的に検討することにした。 〔M社プロジェクトの移行条件への対応〕 F課長は,M社プロジェクトの移行条件に対し,E社として次の対応をM社に提案した。 (1) E社サービスへの移行の作業について ・データセンタ側と各拠点の作業手順書を作成し,作業時間を見積もる。 ・M社における過去のシステム移行時の状況を踏まえて,②移行リハーサルを2回実施する。 (2) 標準サービスへの移行について ・全国各拠点の全てのオペレータが,標準サービス開始日から戸惑うことなく操作できるようになるための訓練を実施する。標準サービス開始までに全てのオペレータの訓練を完了させるために,③M社専用の終日利用可能な標準サービス用の訓練環境を準備する。 ・期限までに訓練が完了するように,M社にオペレータの訓練スケジュールを作成してもらう。 (3) 自動対応機能の導入について ・自動対応機能の導入を支援するE社の要員(以下,支援要員という)を,M社プロジェクトに参加させて,M社と導入の準備作業を進める。 ・自動対応機能の導入に関して,E社の支援を受けてM社が決めたサービス開始時の自動回答率の目標値を,M社プロジェクトの品質の目標とする。 ・自動対応機能のサービス開始時期は,標準サービス開始日と同じ日を目標とする。 ・目標を達成できないリスクもあるので,その対策についてはM社とともに引き続き検討する。 〔自動対応機能導入のリスク対応計画〕 M社の自動対応機能の導入を進める体制に,支援要員が参加して,準備作業を開始した。F課長は,④自動対応機能専用の検証環境を標準サービス用の訓練環境とは別に用意した。この環境は,検証作業が完了した時点で標準サービス用の訓練環境と統合する。 F課長は,要員を含む資源や作業工程などを適切にマネジメントしたとしても,導入前の準備作業の期間内に自動回答率の目標値が達成できない場合があり得ると考えた。⑤そこでF課長は,N氏に,この場合の対応としてスケジュールに関する対応策と品質に関する対応策を説明した。これらの対応策を実施するかどうかは両社で協議して決定することになったので,これに基づきリスク対応計画を作成することにした。 設問1 〔M社プロジェクトの移行条件〕について,本文中の下線①でF課長がN氏に,特に自動対応機能の導入について詳しく確認したのはなぜか。25字以内で述べよ。 設問2 〔M社プロジェクトの移行条件への対応〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線②について,M社における過去のシステム移行時の状況を踏まえて,F課長が1回目の移行リハーサルで検証することは何か。30字以内で述べよ。また,移行リハーサルの2回目を設定した目的は何か。35字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線③について,訓練環境に求められる要件は何か。35字以内で述べよ。 設問3 〔自動対応機能導入のリスク対応計画〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線④について,標準サービス用の訓練環境とは別の環境を用意して検証作業を行う狙いは何か。40字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線⑤について,スケジュールに関する対応策は何か。また,品質に関する対応策は何か。それぞれ25字以内で述べよ。
図1 E社サービスへの移行概要。顧客が電話網・インターネットを経由し、IP-VPN経由でM社拠点1~3のオペレータとつながる構成図。M社データセンタにある現在のコンタクトセンタシステムから、E社のE社サービス(標準サービス、オプションサービス)へ移行することを示す。凡例は破線が移行前、太線が移行後、細線が変更なし。
図1 E社サービスへの移行概要。顧客が電話網・インターネットを経由し、IP-VPN経由でM社拠点1~3のオペレータとつながる構成図。M社データセンタにある現在のコンタクトセンタシステムから、E社のE社サービス(標準サービス、オプションサービス)へ移行することを示す。凡例は破線が移行前、太線が移行後、細線が変更なし。
解き方のヒントを見る

判断の前提条件をそろえる

サービスに関する計画やリスクを考えるときは、判断の前提条件に注目しましょう。同じ言葉でも、想定する状況によって意味が変わることがあります。示された情報と自分の推測を区別して整理することが出発点です。

この問題で問われていること

この分野を検討する際は、どのような条件の下で判断するのかを意識してください。書かれている条件を確かめ、書かれていない事情を勝手に補わないようにすると、根拠の範囲を保ったまま考えを整理できます。

視点

前提条件は、検討の土台となる情報です。考えを整理するときは、与えられた条件と、自分が経験や知識から補った想定とを分けて捉えましょう。

確認ポイント

  • 判断の土台にしている条件を確認できているか
  • 示された条件と自分の想定を区別できているか
  • 考える途中で前提条件を変えていないか
正解と解説を見る

解説

老朽化したシステムからサービス利用へ移行する際の計画立案と、新機能導入のリスク対応が中心です。過去の不備を踏まえたリハーサル、全オペレータの担当業務を網羅する訓練、標準サービスへの移行を優先した環境分離と目標見直しを読み取ります。

問題の全体像

M社は、老朽化したコンタクトセンタのシステムを、元日の休業時間内に全国一斉にE社サービスへ移行します。同時に、オペレータの負荷軽減を目的として自動対応機能の導入を希望しています。ただし、標準サービスへの移行が最優先であり、自動対応機能は実証実験的な準備を要するため、予定期間内に自動回答率の目標値を達成できるとは限りません。公式の出題趣旨では、サービス仕様と顧客要件を把握した移行計画の立案、新機能導入時のリスク対応について、PMとしての実践的な能力を問うとしています。各設問では、この優先順位と不確実性を具体的な管理策に結び付けます。

設問1

自動対応機能の準備は、シナリオやパラメタを変更して自動回答率を繰り返し計測する進め方です。本文には、準備の体制や期間が不十分だと目標を達成できず、導入時期や目標値の見直しが必要になるとあります。このためF課長は、開始時期の背景や目標値の決め方を確認し、リスクと対応方針を明らかにする必要がありました。公式解答例では「リスクを特定し,今後の対応を計画するため」としています。25字以内では、確認した情報の列挙よりも、「リスクの特定」と「対応の計画」という確認の目的を押さえます。

設問2(1)(検証すること)

着目するのは、過去の移行リハーサルで「作業手順と移行時間の見積りに不備があった」という記述です。今回も元日の0時から24時までに移行を完了させる条件があるため、作成した手順と時間見積りの両方を実作業で検証する必要があります。公式解答例では「作業手順及び移行時間の見積りが適切であること」としています。この表現は30字以内に収まり、二つの検証対象を明確に示しています。移行できることだけを述べると、過去に問題となった具体的な対象が答案から抜けます。

設問2(1)(設定した目的)

過去の問題は、最初のリハーサルで不備が見つかったことに加え、その後の「修正確認と再見積りも不十分」だったことです。したがって、2回目は1回目で検出した不備への対応結果を確認する機会として設定します。公式解答例では、1回目の移行リハーサルで検出された不備の修正結果を確認するためとしています。35字以内では「1回目で検出した不備の修正結果を確認するため」とまとめられます。単に習熟するためと書くと、過去の修正確認不足を防ぐという設問の根拠を表せません。

設問2(2)

移行条件には、現在の応対のサービスレベルを維持し、開始日から全国各拠点の全オペレータが戸惑うことなく操作できることが示されています。訓練環境には、対象者と担当業務の両方を網羅できる機能・構成が求められます。公式解答例では「全てのオペレータが担当業務の全てについて操作できること」としており、35字以内に収まります。採点講評では、M社専用かつ終日利用可能という既述の条件以外に、移行条件を実現するための機能面・構成面の要件を答えてほしかったとしています。「誰が」「何を」訓練できるかを漏らさないことが要点です。

設問3(1)

自動対応機能の検証では、シナリオやパラメタを変更して計測を繰り返します。一方、標準サービスの訓練は、開始日までに全オペレータが操作できるように完了させる必要があります。標準サービスへの移行が最優先なので、検証作業が訓練に影響しないよう環境を分けます。公式解答例もこの狙いを示しています。40字以内では「検証作業がオペレータの標準サービスの訓練に影響を与えないようにするため」と表せます。採点講評では、標準サービスへの移行の優先順位から、訓練への影響を防ぐ必要性を読み取ってほしかったとしています。

設問3(2)(スケジュールに関する対応策)

対象となるリスクは、資源や工程を適切に管理しても、準備期間内に自動回答率の目標値を達成できないことです。本文では、その場合に自動対応機能の導入時期を見直す判断が必要とされています。標準サービスへの移行を最優先とする方針に照らし、自動対応機能の開始を延期する対応になります。公式解答例では「自動対応機能の導入時期を遅らせる。」としており、25字以内に収まります。延期する対象が自動対応機能であることを明確にします。対応策の実施は、本文のとおり両社で協議して決定します。

設問3(2)(品質に関する対応策)

本文では、M社が決めたサービス開始時の自動回答率の目標値を、プロジェクトの品質目標としています。したがって、準備期間内に目標を達成できない場合の品質面の対応は、この目標値の見直しです。公式解答例では「サービス開始時の自動回答率の目標値を見直す。」としており、25字以内に収まります。「自動回答率」「サービス開始時」「目標値」を押さえ、見直す対象を具体的に示します。導入時期を変更するスケジュール面の対応と区別し、両社で協議して実施を決めるという本文の位置付けも理解しましょう。

学習のポイント

本文の制約と優先順位から、検証対象・環境要件・リスク対応を具体化する練習をしましょう。特に訓練の業務網羅性と、スケジュール・品質それぞれの見直し対象を押さえます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成31年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

関連する過去問一覧

IPA Advancedは非公式の学習サイトです。解説にはAIによる補助生成を含む場合があります。公式の問題冊子・解答例・採点講評を優先し、誤りは確認後に訂正します。運営・編集方針