PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成30年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 情報システム刷新プロジェクトのコミュニケーションに関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 A社は中堅のSIベンダであり、本社は東京にある。A社は、東京近郊にある中堅不動産会社のP社から現行のCRMシステムを刷新するプロジェクト(以下、CRMプロジェクトという)を受注することが決まり、契約締結に向けて準備をしている。 P社では、現行のCRMシステムが間もなく保守期限を迎えることもあり、P社社長の意向によって、最先端のCRMシステムに刷新し、顧客の拡大を図る方針が打ち出されていた。 【CRMプロジェクトの体制】 A社は、CRMプロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)としてソリューション部のB課長を任命した。A社は、過去にP社の現行のCRMシステムの構築を手掛けたが、P社とのコミュニケーションで苦労した経験があり、稼働後の保守ではコミュニケーション面の改善にも留意してきた。A社社長からB課長に対しては、前回の反省とこれまでの経験を生かしてCRMプロジェクトを進めるように指示があった。 一方で、A社は、地方のシステム会社X社を昨年子会社にしたばかりであり、CRMプロジェクトにおいてX社の活用を計画している。これまでX社は、A社から提示された仕様書に基づく製造やテストの工程を主な業務範囲としていたので、業務を進める中でA社の顧客との接点はなかった。A社社長には、今後のX社の業務範囲拡大に向けて設計工程から参加してもらいたい、CRMプロジェクトではその先駆けとなる取組みをしてほしい、という意向があった。B課長は、A社社長の意向を受け、X社に委託することについてのP社の了解を得て、X社に設計工程の業務の一部を委託することにした。この方針を受け、X社は経験豊富なY主任をX社側の責任者として選任した。 P社では、総務部が統括して情報システムの要件を取りまとめ、SIベンダに発注することが通例になっている。CRMプロジェクトにおいては、総務部のQ部長がプロジェクト統括責任者となり、プロジェクト責任者には総務部情報システム担当のR氏が選任された。利用部門からは、業務要件の確定などの目的で、営業部のS部長が利用部門責任者となり、利用部門担当者には営業部のT氏が選任された。 【ステークホルダ登録簿の作成】 B課長は、CRMプロジェクトの計画策定に当たり、現行のCRMシステム構築時のPMにヒアリングし、次の問題があったことを確認した。 ・P社のプロジェクト責任者と合意した事項について、しばしばP社社長から見直し依頼があり、スケジュールが遅延した。この原因は、P社側のプロジェクト体制において、P社社長への報告経路や報告の会議体が不明確で、プロジェクトの状況が適切に報告されていなかったことであると考えられた。 ・会議の参加者に不足があり、会議後に結論が覆されたことがあった。 B課長は、CRMプロジェクトの推進において、これらの問題を再発させないよう、ステークホルダマネジメントの観点から事前に対策を検討することにした。そこでB課長は、①CRMプロジェクトに関わるP社のステークホルダを特定し、その特性を表1の主要なステークホルダ登録簿(P社分)に整理した。 表1 主要なステークホルダ登録簿(P社分) P社のステークホルダについての情報は次のとおりである。 ・P社社長のCRMプロジェクトに懸ける思いは強く、CRMプロジェクトの状況には関心が高い。また、Q部長をはじめとするCRMプロジェクトのメンバには期待を懸けている。 ・Q部長は、次期役員候補であり、P社社長から全幅の信頼を得ている。Q部長は、CRMプロジェクトにおいて、プロジェクト統括責任者として最先端のCRMシステム導入を成功させ、社内外にアピールしたいと思っている。R氏やB課長が、CRMプロジェクトの進捗状況や課題対応状況を適宜Q部長に報告することで、P社社長の意向を踏まえた判断やP社社長に報告する際のアドバイスが期待できる。 ・R氏は、責任感と使命感が強い人物であるが、中途入社ということもあってP社社長に直接報告した経験が少ない。しかし、プロジェクト責任者としてCRMプロジェクトの状況などをP社社長に報告する立場なので、②R氏からP社社長への報告に際しては、P社社長の思いや関心に応える内容になっているかどうかを、必ず事前にR氏からQ部長に確認してもらうのがよいとB課長は考えた。 ・S部長は、昔ながらの営業気質をもっており、最先端のCRMシステムを導入してもそれだけでは売上が向上するわけがないと考えている。しかし、最先端のCRMシステムの業務要件を確定するためには、利用部門責任者であるS部長の承認は必須である。 ・T氏は、営業部で3年間経験を積んでいるが、最先端のCRMシステムの業務要件を独力で定義できるまでには至っておらず、S部長の営業としての見識や経験に基づく支援が必要だとB課長は考えている。 B課長はこれらの情報を分析した結果、P社社長、Q部長及びS部長の3名は、しっかりとしたコミュニケーションマネジメント計画を作成する上で重要な人物であると認識した。 【コミュニケーションマネジメント計画の作成】 B課長はR氏に対して、表1の記載内容を基に作成したA社とP社のステークホルダに関わるコミュニケーションマネジメント計画案を説明した。 ・ステアリングコミッティ 重要方針の意思決定が必要な時点で開催する。P社社長、Q部長及びS部長に出席してもらい、A社とP社で協議してきた重要事項について、R氏からP社社長に報告してもらう。A社側からも[a]が出席することによって、意思決定の内容を最終合意する。 ・全体会議 CRMプロジェクト内での意思の統一と情報共有を図るために、P社の総務部及び営業部のCRMプロジェクト関係者全員並びにB課長が出席し、月次で開催する。特にS部長には、事前打合せの時間を取ってもらい、③最先端のCRMシステムが有する機能の利点や日々の営業業務への効果などを説明する。 ・進捗会議 CRMプロジェクトの進捗や課題をA社とP社間で協議し、共有する。B課長、R氏及びT氏が出席し、週次で開催する。 R氏はB課長の考えを理解し、P社の各ステークホルダと調整を行うことにした。 【X社の業務範囲の拡大】 B課長は、X社に委託する業務範囲を拡大するための検討を行った。そこでB課長は、X社を訪問し、Y主任にヒアリングして状況を確認した。 ・X社は、これまで地場の取引先の比較的小規模なシステム開発や保守を中心に行ってきた。また、複数のメンバでチームを組んでプロジェクトを遂行した経験が少ない。 ・X社のメンバは、個人の技術スキルは高く、技術面の勉強会も活発に行われているが、プロジェクト管理の重要性に関する意識が希薄であり、プロジェクト管理ルールが浸透していない。 ・Y主任は、X社が業務範囲を拡大するためには、プロジェクト管理ルールに従って業務を遂行するとともに、チームとして業務を進める上でプロジェクト管理に関する理解を深めることが必要だと思っている。 B課長は、これらの状況を改善してX社の業務範囲を拡大するためには、Y主任が推進役となってX社メンバの[b]に関する意識を変えることが重要であると考えた。そこで、Y主任と協議して次の対応策を取ることを合意した。 ・CRMプロジェクト向けのプロジェクト管理ルールをX社内で規定し、X社からの報告事項、報告時期及び報告方法をB課長とY主任の間で合意する。Y主任はX社メンバに周知する。 ・プロジェクト管理ルールをX社メンバに定着させるために、Y主任はルールの遵守状況を定期的に確認する。ルールがある程度定着してきたら、Y主任は④X社としてプロジェクト管理に関する理解を深める活動を検討する。 さらに、B課長は、X社には設計工程において、顧客とレビューを繰り返しながら仕様を確定していくという経験が少なく、設計工程の進め方がイメージできていない、という状況も確認した。そこで、設計工程の業務にも対応できるように、X社には、P社の了解を得た上で、⑤設計工程からある対応をしてもらうことを提案した。 これらの検討の結果に基づき、B課長はP社及びX社との契約内容を整理することにした。 設問1【ステークホルダ登録簿の作成】について、(1)~(3)に答えよ。 設問2【コミュニケーションマネジメント計画の作成】について、(1)、(2)に答えよ。 設問3【X社の業務範囲の拡大】について、(1)~(3)に答えよ。
表1 主要なステークホルダ登録簿(P社分)。P社の主要ステークホルダについて、氏名・部門・役割・影響度・CRMプロジェクトへの姿勢を整理した表。
表1 主要なステークホルダ登録簿(P社分)。P社の主要ステークホルダについて、氏名・部門・役割・影響度・CRMプロジェクトへの姿勢を整理した表。
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関係者整理の確認ポイント

関係者ごとの立場や期待を分けて捉え、委託先との連携では責任の境界、情報共有の経路、合意形成の進め方を同じ基準で確認すると、選択肢の違いを落ち着いて比較できます。

この問題で問われていること

一つの観点として、関係者間で担当範囲と意思決定の所在がどのように整理されているかに注目し、連携方法がその分担や合意の流れと矛盾しないかを全体として確認してください。

視点

関係者を個別に見るだけでなく、役割、責任、期待、連絡や合意の関係を対応づけて整理します。誰が何を担い、どの場面で協議や報告が必要になるかを、問題の記述に沿って照合することが大切です。

確認ポイント

  • 関係者ごとの役割と責任の境界が、混同なく整理されているか
  • 委託先との情報共有や合意形成の経路が、担当範囲と整合しているか
  • 記述された連携方法が、関係者の期待や意思決定の所在を曖昧にしていないか
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解説

CRM刷新を題材に、ステークホルダの特性を把握し、適切な報告・会議・説明を計画する力と、子会社のプロジェクト管理能力を高める対応を問う問題です。

問題の全体像

過去のCRM構築では、P社社長への報告経路が不明確で見直しが発生し、会議参加者不足で結論が覆った。そこでB課長は、P社のステークホルダの役割・影響度・姿勢を整理し、ステアリングコミッティ、全体会議、進捗会議を計画した。また、業務範囲を広げるX社について、プロジェクト管理の重要性を浸透させ、設計工程への参加を通じて経験を補おうとした。

設問1(1)

着目点は、過去に起きた報告経路の不明確さと会議参加者不足です。登録簿で主要ステークホルダの役割、影響度、姿勢を整理すれば、誰にどのような対応を行うべきかを明確にできる。公式解答例では、主要ステークホルダへの適切な対応と、P社社長への報告経路・会議体の整備が示されている。30字以内なので、この二つの狙いを簡潔に押さえる。

設問1(2)

R氏はP社社長への直接報告経験が少ない。一方、P社社長はCRMへの関心が高く、意向に合わない報告は見直し依頼につながり得る。したがって、Q部長に事前確認させることで、社長が知りたい内容を適切に報告できず、見直しが発生することを防ぐ。

設問1(3)

S部長は最先端CRM導入に抵抗感があるが、利用部門責任者として業務要件の承認に関与する。また、T氏だけでは要件を独力で定義できず、S部長の営業上の知見が必要です。公式解答例の二つの観点、すなわち高い影響度と、要件定義への支援必要性を35字以内でまとめる。

設問2(1)

ステアリングコミッティにはP社社長、Q部長、S部長が出席し、重要事項を最終合意する。A社側で最終意思決定に関与する人物はA社社長であるため、公式解答例は「A社社長」としている。

設問2(2)

S部長は、最先端CRMを導入するだけでは売上向上につながらないと考えており、抵抗姿勢を示している。しかし、業務要件の承認者であるため協力が不可欠です。機能の利点や営業業務への効果を説明する狙いは、システムの機能・効果を理解して協力してもらうことです。

設問3(1)

X社は技術力がある一方、プロジェクト管理の重要性への意識が希薄で、管理ルールも浸透していない。したがって、[b]には公式解答例どおり「プロジェクト管理の重要性」が入る。

設問3(2)

X社は複数メンバでチームを組んだ経験が少ないため、理解を深める活動は、チーム活動の重要性を学ぶ勉強会や、複数メンバでプロジェクトチームを組んで業務を遂行することが中心となる。35字以内では、公式解答例のいずれか、または両方の要素を簡潔に示す。

設問3(3)

X社には、顧客とレビューを繰り返しながら仕様を確定する設計経験が不足している。そのため、単に設計作業を委託するのではなく、顧客とA社とのレビューにY主任も同席させ、設計工程の進め方を実地で経験させる。公式解答例はこのレビューへの同席を示している。

学習のポイント

影響度・姿勢・役割から、具体的なコミュニケーション施策へ結び付ける。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成30年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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