PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成30年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 システム開発プロジェクトの品質管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 K社はSI企業である。K社のL課長は,これまで多くのシステム開発プロジェクトを経験したプロジェクトマネージャ(PM)で,先日も生命保険会社の新商品に対応したスマートフォンのアプリケーションソフトウェアの開発(以下,前回開発という)を完了したばかりである。 K社の品質管理部門では,品質管理基準(以下,K社基準という)として,工程ごとに,レビュー指摘密度,摘出欠陥密度などの指標に関する基準値を規定している。L課長もK社基準に従った品質管理を行ってきた。前回開発においても,各工程の“開発プロセスの品質”(以下,プロセス品質という)と,各工程完了段階での“成果物の品質”(以下,プロダクト品質という)は,定量評価においてはK社基準に照らして基準値内の実績であり,定性評価を含めて,全工程を通じておおむね安定的に推移した。稼働後にも欠陥は発見されていない。 しかし,新たなサービスを市場に適切に問い続けていきたいという顧客のニーズに応えるためには,第1段階として設計・製造工程で品質を確保する活動を進め,第2段階として設計そのものをより良質にしていく必要があると考えていた。そこでL課長はまず,前回開発の実績値を基にして,設計・製造工程で品質を確保する活動に資する新しい品質管理指標の可能性について検討することにした。 〔L課長の認識〕 L課長は,前回開発を含む過去のプロジェクトの経験や社内の事例から,品質管理について,次のような認識をもっていた。 ・最終的なプロダクト品質は,“設計工程における成果物から,その成果物に内包される欠陥を全て除去した品質”(以下,設計限界品質という)で,おおむねその水準が決まる。製造工程とテスト工程においても設計の修正は行われるが,そのほとんどは設計の欠陥の修正にとどまり,より良質な設計への改善につながるケースはまれである。つまり,①テスト工程からでは,最終的なプロダクト品質を大きく向上させることはできない。この設計限界品質が低い場合には,システムのライフサイクル全体に悪影響を及ぼすことがある。したがって,設計限界品質そのものを高めることが,本質的に重要である。 ・K社の過去の事例を分析すると,全工程を通算した総摘出欠陥数は,開発規模と難易度が同等であれば近似する値となっている。ただし,設計工程での欠陥の摘出が不十分な場合には,開発の終盤で苦戦し,納期遅れとなったり,納期遅れを計画外のコスト投入でリカバリするような状況が発生したりしていた。これは,設計工程完了時点で,設計限界品質と実際のプロダクト品質との差が大きい状況であった,と言い換えることができる。 ・現在のK社基準に規定されている工程ごとの摘出欠陥密度の基準値には,複数の工程で混入した欠陥が混ざっている。そのため,②工程ごとの摘出欠陥密度だけを見て評価すると,ある状況の下では品質に対する判断を誤り,品質低下の兆候を見逃すリスクがある。 〔新しい品質管理指標〕 L課長は,新しい品質管理指標を検討するに当たって,次のように考えた。 ・欠陥は,混入した工程で全て摘出することが理想である。特に設計・製造の各工程で,十分に欠陥を摘出せずに後工程に進むと,後工程の工数を増大させる要因となり,最終的にプロジェクトに悪影響を及ぼす可能性がある。 ・テスト工程は,工程が進むにつれ,それよりも前の工程と比較して制約が厳しくなっていく要素があるので,仮に予算,人員及びテスト環境に一定の余裕があったとしても,③製造工程までに混入した欠陥の摘出・修正ができなくなるリスクが高まる。したがって,テスト工程よりも前の工程でプロダクト品質を確保するための指標を検討すべきである。 ・今回の検討では,設計限界品質そのものを高めるという最終目標の前段階として,テスト工程よりも前の工程において,設計限界品質に対する到達度を測定する指標を検討する。 ・指標を考えるに当たって,当初はモデルを単純にするために,基本設計よりも前の工程やテスト工程で混入する欠陥及び稼働後に発見される欠陥は,対象外とする。 ・まず,設計・製造の各工程について,自工程で混入させた欠陥を自工程でどれだけ摘出したか,という観点で“自工程混入欠陥摘出率”の指標を設ける。 ・次に,設計・製造の各工程において,基本設計工程から自工程までの工程群で混入させた欠陥を,自工程完了までにどれだけ摘出したか,という観点で“既工程混入欠陥摘出率”の指標を設ける。この指標は,自工程までの工程群の,品質の作り込み状況を判断するための指標となる。 ・これら二つの指標は,④テスト工程を含む全工程が完了しないと確定しないパラメタを含んでいる。したがって,各工程完了時点でこれらの指標を用いて評価する際には,そのパラメタが正しいと仮定した上での評価となる点に,注意が必要となる。 L課長は,検討した新しい品質管理指標を,表1のとおりに整理した。 表1 L課長が検討した新しい品質管理指標 〔前回開発の欠陥の摘出状況〕 L課長は,前回開発における工程ごとの欠陥の摘出状況を,表2のとおりに整理した。 表2 前回開発における工程ごとの欠陥の摘出状況 L課長はまず,基本設計,詳細設計及び製造の各工程で混入した欠陥のうち,自工程で摘出できなかった欠陥について,摘出工程を精査した。特に,テスト工程まで摘出が遅れて,対処のコストを要した欠陥について,予防のコストを掛けていればテスト工程よりも前の工程で摘出できたのではないか,という⑤品質コストの観点からの精査を行った。その結果は,一部の欠陥を除いて,品質コストに関する大きな問題はないという評価であった。次に,テスト工程で摘出することがスケジュールに与えた影響を評価した。これら二つの評価結果を総合して,これらの欠陥がテスト工程で摘出されたことには大きな問題はなかったと判断した。 その上でL課長は,過去の事例から,表3に示すα群,β群に該当するプロジェクトを抽出した。 表3 L課長が抽出したプロジェクト群の特性 L課長は,これら二つのプロジェクト群に対して,前回開発と同様に新しい品質管理指標による定量分析を行い,[ a ]を確認した。分析の結果によってL課長は,新しい品質管理指標の有効性に自信を深めることができたので,この活動を更に進めていこうと考えた。そこでL課長は,次の二つの条件を満たすプロジェクトを抽出し,これらのプロジェクトにおける新しい品質管理指標の定量分析の結果から,次回の開発における新しい品質管理指標の目標値を設定した。 ・α群に含まれる ・開発規模と難易度が,次回の開発と同等である そして新しい品質管理指標が,設計・製造工程で品質を確保するという目的に対して有効に機能するかどうかを,次回の開発において検証することにした。 設問1 〔L課長の認識〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線①について,L課長の認識では,テストとはプロダクト品質をどのようにする活動だと考えているのか。20字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線②について,品質に対する判断を誤るようなある状況とはどのような状況か。35字以内で述べよ。 設問2 〔新しい品質管理指標〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線③について,L課長はなぜ,製造工程までに混入した欠陥の摘出・修正ができなくなるリスクが高まると考えたのか。35字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線④について,テスト工程を含む全工程が完了しないと確定しないパラメタとは何か。15字以内で述べよ。 設問3 〔前回開発の欠陥の摘出状況〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 表2中の(イ),(ロ)に入れる適切な数値を求めよ。答えは百分率の小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求め,99.9%の形式で答えよ。 (2) 本文中の下線⑤について,テスト工程まで摘出が遅れても,品質コストに関する大きな問題がないと判断されるのは,どのようなケースか。30字以内で述べよ。 (3) 本文中の[ a ]に当てはまる,L課長が確認した内容を,35字以内で具体的に述べよ。
表1 L課長が検討した新しい品質管理指標。自工程混入欠陥摘出率と既工程混入欠陥摘出率の2指標について、内容と、詳細設計工程の場合の計算例(分子・分母、単位は件)を示した表。
表1 L課長が検討した新しい品質管理指標。自工程混入欠陥摘出率と既工程混入欠陥摘出率の2指標について、内容と、詳細設計工程の場合の計算例(分子・分母、単位は件)を示した表。
表2 前回開発における工程ごとの欠陥の摘出状況。基本設計・詳細設計・製造の混入工程ごとに、基本設計から総合テストまでの摘出工程別の欠陥数と総欠陥数(総計586件)を示し、自工程混入・既工程混入欠陥摘出率(製造工程欄は空欄イ・ロ)を示した表。
表2 前回開発における工程ごとの欠陥の摘出状況。基本設計・詳細設計・製造の混入工程ごとに、基本設計から総合テストまでの摘出工程別の欠陥数と総欠陥数(総計586件)を示し、自工程混入・既工程混入欠陥摘出率(製造工程欄は空欄イ・ロ)を示した表。
表3 L課長が抽出したプロジェクト群の特性。α群とβ群について、K社基準でのプロセス品質とプロダクト品質の評価、最終的なプロダクト品質、進捗の状況を比較した表。β群はテスト工程で欠陥が多く、納期遅れや計画外コストの投入が生じている。
表3 L課長が抽出したプロジェクト群の特性。α群とβ群について、K社基準でのプロセス品質とプロダクト品質の評価、最終的なプロダクト品質、進捗の状況を比較した表。β群はテスト工程で欠陥が多く、納期遅れや計画外コストの投入が生じている。
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評価の前提をそろえて考える

品質に関する情報を検討するときは、評価の前提がそろっているかに着目しましょう。示された内容をすぐに結論へ結び付けず、何を対象に、どの範囲で扱っている情報なのかを整理することが出発点です。

この問題で問われていること

この問題では、評価に用いる情報の前提を確かめるという観点で考えてみましょう。対象や範囲について明示されている条件を拾い、自分で補った想定が混ざっていないかを確認すると、検討の土台を整えられます。

視点

同じ話題に関する情報でも、前提が一致しているとは限りません。扱う対象と範囲を言葉で整理し、明示された条件と自分の想定を区別しておきましょう。

確認ポイント

  • 評価の対象を、示された条件に沿って捉えているか
  • 扱う範囲を、根拠なく広げたり狭めたりしていないか
  • 明示されていない前提を、自分で付け加えていないか
正解と解説を見る

解説

工程ごとの摘出欠陥密度だけでは、前工程から持ち越した欠陥によって品質評価を誤る可能性があります。欠陥の混入工程に着目した摘出率を用い、設計限界品質への到達度、後工程の時間制約、品質コストを評価し、過去の実績を次回開発の目標設定に活用する問題です。

問題の全体像

K社のL課長は、従来の品質管理基準では良好と評価された前回開発を基に、設計・製造工程で品質を確保する新しい指標を検討しています。最終的な品質の水準を決める「設計限界品質」と、欠陥を除去することでそこへ近づく活動を区別することが出発点です。今回の検討では、まず設計限界品質への到達度を測り、その後に設計自体の改善を目指します。公式の出題趣旨では、品質管理計画を実践し、実績を分析・評価して得た知見を後続のプロジェクトへ活用するPMの能力を問うとされています。採点講評では、欠陥をどの工程で混入させたかという観点の分析が重要だと指摘されています。

設問1(1)

下線①の直前にある、設計限界品質の定義と、製造・テスト工程での設計修正はほとんどが欠陥の修正にとどまるという記述に着目します。設計限界品質は、設計成果物に内包される欠陥を全て除去したときの品質です。L課長の認識では、テストで欠陥を摘出・修正することによって、実際のプロダクト品質がこの水準に近づきます。公式解答例では「設計限界品質に近づける活動」とされています。20字以内では、品質をどの水準に近づけるのかを明示することが要点です。

設問1(2)

下線②の直前にある、工程ごとの摘出欠陥密度には複数の工程で混入した欠陥が混ざっているという説明が根拠です。前工程で欠陥を十分に摘出できていないと、その欠陥が自工程へ持ち越されます。自工程の摘出件数に持越し分が含まれるため、摘出欠陥密度が基準値内でも、前工程の欠陥摘出が不十分だった状況を見逃す可能性があります。公式解答例では「自工程よりも前の工程群での欠陥摘出が不十分だった状況」とされています。35字以内の答案では、前工程群と欠陥摘出の不足を押さえます。

設問2(1)

設問では、予算、人員、テスト環境に一定の余裕がある場合でもリスクが高まる理由を求めています。その条件を踏まえ、テスト工程が進むほど納期に近づき、欠陥の摘出・修正や手戻りを回復する時間が少なくなることに着目します。採点講評でも、テスト工程における時間の制約を意識して解答してほしかったと述べられています。公式解答例では、納期に近く時間の余裕が少ないこと、又は時間の制約で手戻りをリカバリする余裕が少ないことが示されています。35字以内では「テスト工程は納期に近く、時間の余裕が少ないから」とまとめられます。

設問2(2)

表1の二つの指標の分母に着目します。自工程混入欠陥摘出率の分母は自工程で混入させた欠陥数、既工程混入欠陥摘出率の分母は基本設計から自工程までに混入させた欠陥数です。ある工程で混入した欠陥は、その工程が終わった後のテスト工程でも発見されるため、工程完了時点では総数が確定しません。この問題のモデルでは、テスト工程を含む全工程の完了後に確定します。公式解答例では「混入工程ごとの総欠陥数」又は「指標における分母」とされています。15字以内では「混入工程ごとの総欠陥数」と答えると、対象を具体的に示せます。

設問3(1)(イ)

(イ)は製造工程の自工程混入欠陥摘出率です。表1の定義に従い、製造工程で混入した欠陥のうち製造工程で摘出した143件を、製造工程で混入した総欠陥数285件で割ります。計算は143÷285×100=50.175…%で、百分率の小数第2位を四捨五入すると50.2%です。公式解答例も50.2と示しています。設問の指定形式に合わせ、答案は「50.2%」とします。製造工程で摘出した総数160件には、基本設計・詳細設計で混入した欠陥も含まれるため、この指標の分子には使いません。

設問3(1)(ロ)

(ロ)は製造工程完了時点の既工程混入欠陥摘出率です。対象は、基本設計・詳細設計・製造の工程群で混入した欠陥です。分子には、これらの欠陥を製造工程完了までに摘出した件数を使い、61+119+160=340件となります。分母は同じ工程群で混入した総欠陥数で、109+192+285=586件です。340÷586×100=58.020…%を指定どおりに四捨五入すると58.0%となり、公式解答例と一致します。答案は「58.0%」とします。テスト工程で摘出された欠陥は分母に含まれますが、製造工程完了までの摘出数を表す分子には含めません。採点講評では、この設問で計算や四捨五入のミスが多かったと指摘されています。

設問3(2)

下線⑤の前にある、テスト工程で摘出された欠陥への「対処のコスト」と、前工程で摘出するために掛ける「予防のコスト」を比較する記述に着目します。早期に摘出するための予防コスト以上の費用を対処に要していなければ、品質コストの観点では大きな問題がないと判断できます。公式解答例では「対処のコストが、予防のコスト以下であったケース」とされています。30字以内では、この二つのコストと「以下」という大小関係を示します。スケジュールへの影響は本文で別に評価されているため、本設問ではコストの比較を中心に答えます。

設問3(3)

表3では、α群は全工程を通じて進捗が順調である一方、β群はテスト工程で多くの欠陥が摘出され、納期遅れや計画外のコスト投入が発生しています。この違いを、設計・製造工程での欠陥摘出状況を測る新しい指標によって捉えられるかが確認点です。公式解答例では、α群の新しい品質管理指標の数値がβ群より高いこと、又は両群の指標の結果に有意な差があることが示されています。35字以内では「α群の新しい品質管理指標の数値がβ群より高いこと」と具体化できます。単に「指標が有効であること」と書くより、比較対象と確認した差を明示することが要点です。

学習のポイント

混入工程と摘出工程を区別して指標を計算する力と、時間制約やコスト比較を本文の条件から説明する力を身に付けましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成30年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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