PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成30年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 SaaSを利用した営業支援システムを導入するプロジェクトに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 E社は,中堅の運輸会社である。E社は,カスタマイズした営業支援ソフトウェアパッケージ(以下,現行営業支援システムという)を,自社に設置したサーバにインストールしている。また,パッケージベンダの保守サービスも利用した上で,自社の情報システム部で運用・保守をしている。利用者は営業活動を行う営業部の担当者,営業活動の実績管理などを行う営業部の管理者及び広告・宣伝活動を検討する事業企画部の担当者である。利用者のデータはマスタとなる人事システムのデータから取得している。全ての利用者に対して同一の利用者権限を付与しており,取得データには役職コードを含めていない。利用者は全ての営業活動の関連データが閲覧可能であり,機密性が高いデータは登録されていない。過去15年間のデータを蓄積しているが,業務に用いているのは直近5年間のデータである。 E社は,営業活動を高度化するために新たな営業支援システム(以下,新営業支援システムという)を導入するプロジェクトを立ち上げた。プロジェクトマネージャ(PM)には,情報システム部のF課長が任命された。 このプロジェクトは,営業活動の機密性が高いデータも用いた実績分析や広告・宣伝活動におけるターゲット分析などの業務の高度化対応に加え,システムの運用・保守の作業負荷軽減や運用・保守の費用の最小化,システムのキャパシティ拡張の柔軟性確保を目的としている。短期間での稼働開始が必須であることから,SaaSの利用を検討することにした。 プロジェクトの目的を踏まえ,複数社のSaaSを調査して,次の特徴を考慮した結果,役員会で新営業支援システムにはSaaSを利用することに決定した。 ・様々なサービスがメニューとして用意されているので,利用者のニーズに沿って業務を高度化するサービスを利用でき,かつ,稼働開始までの期間を短くできる。 ・サービスと機能の利用範囲,利用時間,サービスレベル,利用者数,データ容量などに基づき課金されるので,利用内容及び利用量に応じた費用負担となる。 ・サービス提供者が,合意したサービスレベルで効率よくシステムの運用・保守を行うので,E社はシステムの運用・保守作業の負荷を軽減できる。ただし,用意されている機能を拡張するようなカスタマイズを行う場合は,カスタマイズ費用に加えて,拡張機能に対する保守費用も必要となる。 ・月次などの合意した期間で契約の見直しが可能であるので,キャパシティ拡張の柔軟性が高くなる。 ・サービス提供者のデータセンタにデータが保管され,機密レベルなどに応じた情報セキュリティ対策が講じられる。 〔システム化方針〕 F課長は,プロジェクトの目的達成に向け,SaaSの特徴を考慮して次のシステム化方針を定めた。 ・複数社のSaaSを評価して,E社にとって最善のSaaSを選定する。 ・高度化する業務に対して必要十分なサービスと機能を見極めて導入し,適切なサービスレベルで合意することで,過度な費用負担にならないようにする。 ・業務の高度化に必要となる,機密性が高いデータも登録する。そのために,部署コード及び役職コードを用いて利用者権限を適切に付与し,所属部署及び役職に応じたデータを閲覧できるようにする。 ・機能を拡張するようなカスタマイズはせず,業務プロセスを見直して,用意されている機能だけを用いることで,新営業支援システムを短期間で稼働開始させると同時に,【a】を図る。営業部の担当者は,見直した業務プロセスで日常的にデータを入力するので,日常業務に影響を受けることになる。そこで,営業部の担当者の業務負荷が許容範囲に収まるように,導入時に設定する画面表示や入力項目制御などを工夫する。また,新営業支援システムの稼働開始前に,習熟のためのトレーニングを行う。 ・要件定義で,見直した業務プロセスや新営業支援システムの画面イメージに関して,利用者と意識合わせを確実に行い,要件定義以降の工程での手戻りのリスクを軽減することで,計画どおりに稼働開始させる。 ・過去から現在までの利用者数,データ容量などの推移に基づき,過度にならない一定の余裕を見込んだ利用量で初回の契約を締結する。また,月次で利用者数,データ容量などの推移を把握し,【b】を確認する。 〔SaaSの選定〕 F課長は,SaaSの特徴を考慮して,現行営業支援システムの登録データのうち,今後の業務に用いる最小限のデータだけを新営業支援システムに移行して,残りのデータは外部媒体に保存することにした。現行営業支援システムの登録データと新営業支援システムへの移行内容を表1に示す。 表1 現行営業支援システムの登録データと新営業支援システムへの移行内容 F課長は,システム化方針,表1に示す現行営業支援システムの登録データと新営業支援システムへの移行内容,及び表2に示すSaaS選定の観点から,複数社のSaaSを評価した。その上で,Z社のSaaSを利用することを役員会に報告し,承認を得た。 表2 SaaS選定の観点 〔要件定義〕 F課長は,情報システム部の担当者,営業部の管理者及び担当者並びに事業企画部の担当者から成るワーキンググループを組織し,要件定義を行った。ワーキンググループのメンバは,Z社のSaaSのメニューから利用するサービスを選定し,サービスに用意されている機能を前提として新営業支援システムの要件を整理した。その上で,システム化方針を踏まえ,整理した要件の採否を次の観点から判断した。 ・業務の高度化に寄与するものであり,業務遂行に対して過度になっていないこと ・【c】 ここで,機能要件の整理・採否の判断に際しては,Z社から提供を受けた操作画面のサンプルを用いて,営業部の担当者が入力などを行った。このように,ワーキンググループのメンバが動作状況を確認することで,見直した業務プロセスや新営業支援システムの画面イメージの意識合わせを確実に行った。また,ワーキンググループのメンバが具体的な動きを確認することで,【c】の確認も行った。 非機能要件の整理・採否の判断に際しては,SaaS選定時に整理した業務処理量及び障害時の最低限の業務継続の範囲を前提として,サービス時間及び目標復旧時間などを定義して,これらに合致するサービスレベルで合意した。 設問1 〔システム化方針〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)新営業支援システムの導入において,用意されている機能だけを用いる狙いは何か。【a】に入れる狙いを20字以内で述べよ。 (2)月次で利用者数,データ容量などの推移を把握して何を確認するのか。【b】に入れる確認内容を20字以内で述べよ。 設問2 〔SaaSの選定〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)今後の業務に用いる最小限のデータだけを新営業支援システムに移行する理由を30字以内で述べよ。 (2)利用者データを現行営業支援システムからは移行せず,人事システムから必要なデータを取得する理由を35字以内で述べよ。 (3)サービス利用終了時に保管されたデータの返却を受けることによって,どのようなリスクを回避しようとしたのか。25字以内で述べよ。ここで,利用者へのデータ返却後の消去に関するリスクは除くものとする。 設問3 〔要件定義〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)機能要件に関し,ワーキンググループのメンバで意識合わせを確実に行うことによって,どのようなリスクを軽減できるか。25字以内で述べよ。 (2)【c】に入れる,要件の採否を判断した際の観点を30字以内で述べよ。 (3)サービスレベルの合意の際に,サービス時間及び目標復旧時間などの定義において,なぜ業務処理量及び障害時の最低限の業務継続の範囲を前提としたのか。その理由を25字以内で述べよ。
表1 現行営業支援システムの登録データと新営業支援システムへの移行内容。現行営業支援システムの登録データ5種類と,新営業支援システムへ移行する範囲を番号,データ種別,移行内容で示した表。
表1 現行営業支援システムの登録データと新営業支援システムへの移行内容。現行営業支援システムの登録データ5種類と,新営業支援システムへ移行する範囲を番号,データ種別,移行内容で示した表。
表2 SaaS選定の観点。SaaSのサービス仕様,サービスレベル,セキュリティ対策,利用終了時対応,経営基盤を選定する観点として整理した表。
表2 SaaS選定の観点。SaaSのサービス仕様,サービスレベル,セキュリティ対策,利用終了時対応,経営基盤を選定する観点として整理した表。
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判断に用いる前提をそろえる

営業支援システムの導入を検討するときは、判断に使っている前提がそろっているかに注目しましょう。個々の判断を急ぐ前に、与えられた情報のうち、何を前提として考えているのかを自分の言葉で整理してください。

この問題で問われていること

考える際は、明示されている条件と、自分が補っている想定を区別することに意識を向けてください。検討を進める途中で前提が変わっていないかを振り返ると、判断の根拠を落ち着いて確かめられます。

視点

同じ検討の中でも、気づかないうちに別の想定を置いてしまうことがあります。考えが分かれた箇所では、それぞれがどの前提に立っているかを確かめましょう。

確認ポイント

  • 判断に使う前提を言葉にできているか
  • その前提は与えられた情報に基づいているか
  • 検討の途中で前提を置き換えていないか
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解説

本問は、SaaSの特徴を踏まえ、業務の高度化、短期間での稼働開始、保守費用の最小化を実現する判断を問う問題です。課金の仕組み、権限管理、データの継続利用、要件の認識共有を、E社の方針と結び付けて説明します。

問題の全体像

E社は、自社で運用・保守するカスタマイズ済みの営業支援システムから、SaaSを利用する新システムへの移行を計画しています。目的は、機密性が高いデータも使った業務の高度化、運用・保守の負荷と費用の軽減、キャパシティ拡張の柔軟性確保であり、短期間での稼働開始も必須です。公式の出題趣旨では、SaaSの特徴を考慮したシステム化方針、サービス選定、要件定義、データ移行方法の検討能力を問うとしています。各設問では、SaaSの特徴とE社の具体的な目的・制約を対応付けることが重要です。

設問1(1)

SaaSの特徴にある「カスタマイズ費用に加えて、拡張機能に対する保守費用も必要となる」という記述に着目します。用意された機能だけを使えば、拡張機能の保守費用を避けられ、プロジェクトの費用最小化という目的につながります。空欄の直前には短期間での稼働開始が既に示されているため、空欄には同時に実現する費用面の狙いを入れます。公式解答例では「システムの保守費用の最小化」としており、この内容を20字以内で示します。

設問1(2)

利用者数やデータ容量などに基づく課金と、月次などで契約を見直せるという二つの特徴に着目します。初回契約では一定の余裕を見込んでいますが、実際の利用量は変化するため、その推移から契約した利用量を見直す必要があるかを確認します。公式解答例では「契約した利用量を見直す必要性」のほか、「契約条件に沿った利用になっていること」「次契約の利用者数及びデータ容量」を挙げています。20字以内の答案では、例えば「契約した利用量を見直す必要性」と、一つの確認内容に絞って表します。

設問2(1)

現行システムには15年間のデータがある一方、業務に使っているのは直近5年間である点と、SaaSではデータ容量などに基づいて課金される点を結び付けます。表1でも、顧客・案件・営業活動・広告宣伝活動の移行対象を直近5年間などに限定しています。不要なデータまで移行すると、業務上の必要性がないまま費用負担が増えるためです。公式解答例では、データ容量を抑えて費用負担を少なくする理由を示しています。30字以内では「データ容量を抑えて、費用負担を少なくしたいから」とまとめられます。

設問2(2)

現行システムの利用者データには役職コードが含まれていない一方、新システムでは部署コードと役職コードを用いて閲覧権限を付与する方針である点に着目します。現行システムから移行するだけでは、役職に応じた権限設定に必要な情報が不足します。そのため、マスタである人事システムから必要なデータを取得します。公式解答例では、役職コードを取得していないこと、又は役職に応じた閲覧権限を適切に付与したいことを理由に挙げています。35字以内では「現行営業支援システムでは役職コードを取得していないから」と示せます。

設問2(3)

表2の「サービス利用終了時対応」にあるデータ返却と、データがサービス提供者のデータセンタに保管されるという特徴に着目します。利用を終了した後も必要なデータを使い続けるには、E社がそのデータを受け取れることが必要です。返却されなければ、新システムに保管したデータを失うリスクがあります。公式解答例は「新営業支援システムの保管データを失うリスク」で、25字以内に収まります。採点講評でも、利用終了後にデータを継続して使用できる対応の必要性を指摘しています。設問は返却後の消去に関するリスクを除外しているため、情報漏えいではなくデータの喪失に焦点を当てます。

設問3(1)

システム化方針には、利用者との意識合わせによって「要件定義以降の工程での手戻りのリスク」を軽減し、計画どおりに稼働開始させると明記されています。操作画面のサンプルで入力や動作を確認すれば、見直した業務プロセスや画面についての認識のずれを要件定義の段階で発見できます。これにより、後続工程で要件を修正する手戻りを減らせます。公式解答例では、手戻りのリスク又は計画どおりの期間で稼働できないリスクを挙げています。25字以内では「要件定義以降の工程での手戻りのリスク」と具体的に示します。

設問3(2)

システム化方針にある「営業部の担当者の業務負荷が許容範囲に収まるように」という記述に着目します。既存機能に合わせて業務プロセスを変えると、日常的に入力する担当者の業務にも影響します。そのため、要件の採否では、業務の高度化への寄与に加えて、担当者が無理なく業務を遂行できるかを確認する必要があります。画面サンプルを使った入力操作は、この負荷を具体的に確認する材料になります。公式解答例では「営業部の担当者の業務負荷が許容範囲に収まること」としており、30字以内で対象者と負荷の許容範囲を示します。

設問3(3)

SaaSではサービスレベルも課金の要素であり、システム化方針には「適切なサービスレベルで合意することで、過度な費用負担にならないようにする」とあります。業務処理量や障害時に最低限継続すべき業務を基準にすれば、必要な水準を見極め、必要以上に高いサービスレベルを求めることを避けられます。公式解答例では「過度な費用負担にならないようにしたいから」としており、25字以内でこの費用面の目的を示します。採点講評では、サービスレベル合意の一般論にとどまる解答を指摘しており、本問の課金の特徴と費用負担を抑える方針まで結び付けることが要点です。

学習のポイント

SaaSの一般的な利点を述べるだけでなく、本文の課金条件や業務上の制約から、各判断の目的と回避するリスクを導く練習が重点です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成30年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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