AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成31年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 RPA(Robotic Process Automation)システムの監査に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 流通業のP社では,数年前から業務の効率向上に取り組んでいる。その一環として,営業管理部では,1年前からRPAの導入を進めてきた。RPAは,ソフトウェアロボット(以下,ロボットという)を利用することによって業務処理を自動化するものである。 営業管理部でのRPA導入後において,特に問題は発生せず,効果が得られる見込みとなったので,P社では,他の部署でもRPA導入を進めることにした。その一方で,今後RPAの利用が拡大すると,問題が発生した場合に業務に与える影響が大きいと想定した。そこで,監査部が,P社におけるRPAを実現するための情報システム(以下,RPAシステムという)について監査を実施することになった。 〔予備調査1〕 監査部は,予備調査として営業管理部長にヒアリングを行い,関係資料を閲覧して,RPAシステムの概要・構成,及びRPA導入の進め方を把握した。その内容は次のとおりである。 (1) RPAシステムの概要 RPA導入前に人間が行っていた作業を,ロボットに組み込まれた自動処理(以下,ロボット処理という)によって実行する。ロボット処理によって操作できる対象には,業務に関連した情報システム(以下,関連システムという)の画面,表計算・電子メールなどを取り扱う事務処理用ソフトウェア,Webブラウザなどがある。 (2) RPAシステムの構成 RPAシステムには開発環境と実行環境があり,更に実行環境には管理画面が提供されている。RPAシステムの実行環境の概要を,図1に示す。 図1 RPAシステムの実行環境の概要 ① 開発環境としては,一般には,サーバ上で開発するサーバ型と,PC上で開発するクライアント型がある。営業管理部で採用したのは後者で,5台の開発専用PCにロボットの開発環境を導入している。 ② 実行環境においては,開発されたロボットがサーバ上で稼働することによって,関連システムの画面などを操作して,定義された処理を行う。 ③ 管理画面からは,実行環境のロボットの稼働状況を閲覧でき,ロボットの稼働回数・稼働時間などのデータをダウンロードして分析することも可能となっている。 (3) RPA導入の進め方 営業管理部ではRPA導入を,RPAについての研修,業務調査,業務フロー作成,ロボットの開発・テスト,及び実行環境への導入というプロセスで進めた。 〔予備調査2〕 監査部は,予備調査として情報システム部長にヒアリングを行うとともに,仕様・構成などを記載しているRPAシステムの説明資料を閲覧し,現在の状況を把握した。その内容は次のとおりである。 (1) RPAシステム変更の検討 ロボット数の増加に対応するために,開発環境はクライアント型からサーバ型に変更するとともに,実行環境のためのサーバを増強することにした。 (2) 開発方針 今後の開発作業を進める上での方針(以下,開発方針という)として,幾つかの項目を定めた。その例を次に示す。 開発方針①:できるだけ幅広い業務をRPAの対象とする。 開発方針②:開発を効率よく行うために,類似作業を共通化した上で開発する。 具体的には,業務フローを作成した後に,類似作業を洗い出して,同一のロボット処理によって実現する。 開発方針③:業務フローを作成する際には,現行業務について,できるだけ,作業目的や作業方法などの背景を含めて文書化する。 (3) 業務処理の時間短縮 RPA導入によって,人間が作業を行う場合と比べて,業務処理の時間がどの程度短縮できるのか,営業管理部にヒアリングを行った。その結果,ロボットによる,事務処理用ソフトウェア及びWebブラウザの画面の操作速度は,人間による操作と比べて5倍から10倍であることが分かった。すなわち,ロボットを利用することによって,業務の効率が従来よりも格段に向上することが期待できる。 (4) ロボットが使用するIDとパスワードの管理 ロボットが,実行環境の中で関連システムを操作する際には,通常の利用者と同様に,関連システムの画面にIDとパスワードを入力する必要がある。関連システムの管理部署には,RPAシステムの管理部署から,ロボット処理の対象となることを事前に連絡して,ロボット処理による操作を行って問題がないことを確認する。その上で,関連システムの管理部署は,ロボットが使用するIDとパスワードを発行し,IDの棚卸対象としてID一覧表に記載して管理する。 (5) 関連システムの状況 関連システムの中には,構築してから10年以上が経過し,機能不足や,業務量増加によるレスポンス遅延などの苦情が出ているものがある。現時点では大きな再構築計画はないが,関連システムによっては,業務の見直し,法令対応に合わせて,数か月ごとに改修が行われている。 〔本調査の結果〕 監査部は,予備調査の結果を基に,本調査を行った。その結果は次のとおりである。 (1) 〔予備調査2〕(2)の開発方針②について 監査部は,RPA導入によって,業務の効率向上の効果があるが,一方で,類似作業を共通化した場合,業務に関わるリスクもあると考えた。そこで,具体的な運用方法を関係者にヒアリングしたところ,共通化しようとする類似作業の差異分析,共通化した場合の影響評価などが検討されていた。 (2) 〔予備調査2〕(3)について 監査部は,RPA導入の対象となる業務処理の時間が短くなる一方で,関連システムの稼働に関わるリスクがあると考えた。そのために必要な対応が行われていることを,情報システム部へのヒアリングによって確認した。 (3) 〔予備調査2〕(4)について 監査部は,ロボットが使用するIDとパスワードに関しては,関連システムにおける管理を確かめるだけでは不十分であると考えた。そこで,RPAシステムにおける,関連システムのIDとパスワードの管理方法について,RPAシステムの説明資料を閲覧して,問題がないことを確認した。 (4) 〔予備調査2〕(5)における関連システムの改修について 監査部は,RPAシステムに必要な対応が行われているかどうかを,情報システム部の変更管理プロセスの手順書を閲覧して確認した。その結果,対応が不十分であることが分かったので,手順書を見直すよう提案することとした。 (5) 監査部は,情報システム部長に対して,RPAの利用拡大による費用対効果について検討しているかどうかを,ヒアリングした。その結果,情報システム部では,RPAシステムの管理画面を活用した取組を計画していることが分かった。 設問1 〔本調査の結果〕(1)について,監査部が懸念したリスクを一つ挙げて,40字以内で述べよ。 設問2 〔本調査の結果〕(2)について,監査部が懸念した関連システムの稼働に関わるリスクを,45字以内で述べよ。 設問3 〔本調査の結果〕(3)において,監査部が説明資料を閲覧して確認した内容を,45字以内で述べよ。 設問4 〔本調査の結果〕(4)において,監査部が手順書を閲覧して確認した内容を,45字以内で述べよ。 設問5 〔本調査の結果〕(5)において,監査部が情報システム部長にヒアリングして確認した,情報システム部が計画していると考えられる取組の内容を,40字以内で述べよ。
図1 RPAシステムの実行環境の概要。管理画面からロボットを管理し,複数のロボット処理が関連システムの画面,事務処理用ソフトウェア,Webブラウザなどを操作して応答を受ける実行環境を示す。
図1 RPAシステムの実行環境の概要。管理画面からロボットを管理し,複数のロボット処理が関連システムの画面,事務処理用ソフトウェア,Webブラウザなどを操作して応答を受ける実行環境を示す。
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RPA監査で見る統制のつながり

この問題では、RPAの導入や拡大によって業務処理、関連システム、認証情報、変更管理にどのような影響が及ぶかを、監査上のリスクと確認手続の対応関係から整理する観点。

この問題で問われていること

一つの論点に絞り、RPAを単独の自動化機能としてではなく、既存業務や関連システムとの依存関係を含む統制対象として捉え、変化が起きた箇所と確認された管理の結び付きを追う。

視点

RPA監査では、導入効果だけでなく、処理の共通化、短時間での大量処理、認証情報の利用、関連システムの変更などが、既存の業務運用や管理手続とどう結び付くかを読み取る。監査人の懸念、確認した資料、提案の対象を同じ流れで整理すると、問われている視点を切り分けやすい。

確認ポイント

  • 自動化によって、従来の手作業や業務分担にどのような依存関係が生じるか
  • RPA側と関連システム側で、管理責任や確認範囲がどのように分かれているか
  • 環境や業務の変更時に、事前確認・記録・見直しのつながりが保たれているか
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解説

RPAは業務効率を高める一方、共通化による業務支障、関連システムの負荷増大、認証情報管理、変更管理不足などのリスクを生む。本問は、事例の事実から監査上の懸念と確認された統制を具体化する力を問う。

問題の全体像

P社は、営業管理部で効果が確認できたRPAを他部署にも広げようとしている。RPAは人手作業を高速化できる一方、利用範囲が広がるほど、ロボット処理の誤りや停止が業務全体に及ぶ可能性が高まる。そこで監査部は、開発環境・実行環境・管理画面、開発方針、関連システムの負荷、IDとパスワードの管理、変更管理、費用対効果を調査した。公式解答例は、RPA導入のメリットとリスクを踏まえ、効果的な監査を行う能力を問う問題だと説明している。

設問1

着目するのは、本調査の結果(1)と、予備調査2(2)の開発方針②です。類似作業を同じロボット処理に共通化すると、見た目が似ていても処理条件や業務上の目的が異なる場合に、その差異が失われる。差異分析や共通化後の影響評価を行わずに共通化すれば、誤処理などによって業務に支障が生じる。したがって、40字以内では「差異を考慮しない共通化」と「業務への支障」を一続きで押さえる。公式解答例も、類似作業の差異を考慮しない共通化による業務支障を示している。

設問2

着目するのは、ロボットの操作速度が人間の5倍から10倍であることと、関連システムにレスポンス遅延の苦情があるという事実です。処理が高速化すると、短時間に関連システムへ集中してアクセスするため、システム負荷が増大し、応答が遅くなるリスクがある。45字以内では、処理速度の向上、負荷増大、レスポンス低下の因果関係を簡潔に書く。公式解答例もこの流れを示している。

設問3

着目するのは、本調査の結果(3)が、関連システム側のID管理ではなく、RPAシステムにおけるIDとパスワードの管理方法を確認した場面だという点です。説明資料から、ロボットが使用する認証情報をアクセス制限された環境で保管していることを確認した、と整理する。ID一覧表への記載だけではRPA側での保管状況を確認できないため、RPAシステム内部の保管方法が答案の中心となる。

設問4

着目するのは、関連システムが数か月ごとに改修される一方、ロボットはその画面や処理を利用しているという関係です。関連システムの改修がRPA処理に影響するため、手順書に、改修時はRPAシステムの管理部署へ連絡し、影響調査を行う規定があるかを確認する。公式解答例は、この連絡と影響調査の規定があることを示している。一般的な変更管理ではなく、RPAへの影響を確認する手続を書くことが重要です。

設問5

着目するのは、実行環境の管理画面からロボットの稼働回数や稼働時間をダウンロードして分析できるという記述です。RPA利用拡大の費用対効果を検討するには、これらの稼働データを分析し、導入・運用費用に見合う効果が得られているかを検証する取組が考えられる。40字以内では、稼働回数・稼働時間などのデータ分析と費用対効果の検証を押さえる。公式解答例もこの内容を示している。

学習のポイント

RPAの利点だけでなく、周辺システムへの影響と管理統制を事例に即して説明する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成31年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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