AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成22年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 モバイル営業支援システムの監査に関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。 C社は、中規模の生命保険会社であり、約3、000名の営業職員が主に各種個人保険の対面販売を行っている。顧客サービス部が、営業拠点である営業支店とその配下の営業所を統轄している。 〔モバイル営業支援システムの導入〕 C社では、顧客との渉外プロセスの効率向上を図るために、6か月前にモバイル営業支援システムの稼働を開始した。モバイル営業支援システムの導入によって営業方法が大きく変わるので、導入前は社内で賛否両論があったが、最終的には顧客サービス部がシステムオーナとなって、情報システム部が開発を担当した。開発に当たっては、リッチクライアント技術を採用した。モバイル端末にあらかじめプログラムとデータを保存することによって、サーバに接続できない場合でも、モバイル端末単独でデータの参照及び処理を行えるようにした。 〔モバイル端末上のデータの種類〕 モバイル端末に保存されているデータには、共通データと個別データがある。 共通データは、全営業職員が使用する新規顧客開拓用のデータであり、プレゼンテーションツール及び本社で分析した営業統計情報を含んでいる。 個別データは、営業職員が既契約者に対する営業活動で使用するデータである。個別データは、顧客サービス部が登録している営業職員番号、所属営業拠点番号及び既契約証券番号の対応テーブル(以下、対応テーブルという)を使用して、サーバの抽出プログラムで自動生成される。また、個別データのファイル名には、対応テーブルに基づいて営業職員ごとに定められた、営業職員番号と所属営業拠点番号の組合せを用いている。 〔モバイル端末上のプログラム及びデータの更新〕 営業職員は、モバイル端末をサーバに接続した際に、プログラム及びデータを最新状態に保つための同期処理を行う必要がある。このときの同期処理によって、モバイル端末上のプログラム及びデータは次のように更新される。 (1) モバイル端末で使用しているプログラムのバージョンをチェックし、古い場合には、新バージョンのプログラムを、サーバからモバイル端末へ配備し、更新する。このときの各モバイル端末へのプログラム配備記録は、サーバに保存される。 (2) モバイル端末で使用している共通データのバージョンをチェックし、古い場合には、新バージョンの共通データをサーバからモバイル端末へ配信し、更新する。プログラム配備の場合と同様に、各モバイル端末への共通データ配信記録は、サーバに保存される。 (3) 個別データは、営業職員ごとに定められた固有のファイル名で配信され、モバイル端末上の既存データが上書きされる。この場合の配信記録は、サーバに保存されない。ただし、抽出プログラムによる個別データの抽出記録は、サーバに保存される。個別データの配信の際には、人事管理システムのデータベースを参照して、ファイル名と、データベース上の営業職員番号と所属営業拠点番号の組合せを照合する。その結果、一致しなかった場合には、当該ファイルは配信されない。 〔モバイル端末上のデータの処理及び結果の保存〕 モバイル端末をサーバに接続していない場合には、更新されたデータ及びデータ処理記録はいったんモバイル端末に保存され、同期処理のときにモバイル端末からサーバに送信される。一方、モバイル端末をサーバに接続している場合には、モバイル端末上のプログラムによって、自動的にサーバに送信される。送信される更新データ及びデータ処理記録には、個別のトランザクション番号及びタイムスタンプが更新時に付加される。更新データ及びデータ処理記録は、通信中断時の再送信に備え、送信後も削除しない。 〔モバイル端末の使用に関するユーザ教育の実施〕 顧客サービス部では、モバイル営業支援システムの稼働開始に当たって、ユーザ教育を実施することにした。初めに、全営業支店の営業職員を対象に、モバイル端末の使用に関するユーザ教育を実施した。次に、各営業支店では、営業職員の中から教育担当者を選任して、各営業支店が管轄する全営業所の営業職員を対象に、教育担当者によるユーザ教育を実施した。全営業所においてシステムの稼働前にユーザ教育を終えたが、実施方法については、各営業支店に一任したので、営業支店間で差異が見られた。 〔モバイル営業支援システムの導入による効果の測定〕 顧客サービス部では、モバイル営業支援システムが稼働して6か月を過ぎた時点で、システム導入による効果を測定した。その結果、営業成績が伸びた営業職員がいる一方で、低下した営業職員の数が増加していることが分かった。 〔監査の実施〕 内部監査部では、年度監査計画に基づいて、モバイル営業支援システムの運用・使用状況について監査することになった。2名のシステム監査人が、顧客サービス部と情報システム部を対象に監査を行った。 (1) 顧客サービス部の担当者に対するインタビューによれば、“直近1か月間の予想契約高と実保険料収入との間に差異が見られた”ということであった。システム監査人がその事実を調べた結果、次の二つのことが明らかになった。 ① モバイル端末上で稼働する保険料計算プログラムの改修が1週間前に行われ、改修終了の2日後に、顧客サービス部の担当者が保険料収入データの誤りを発見した。原因は、改修に伴う保険料計算プログラムのバグであった。バグは、当日中に情報システム部が修正し、顧客サービス部が誤処理されたデータを修正し、作業記録を残した。システム監査人は、誤処理されたデータの修正を作業記録で確かめたが、データ修正の網羅性に疑問があったので、更に調査する必要があると考えた。 ② 情報システム部及び顧客サービス部への問合せ記録を査閲した結果、数名の営業職員が、“同期処理のときにサーバとの接続が切れたので、再度、同期処理を行った”ということが分かった。また、接続が切れたタイミングによって、サーバに同じデータが2回追加されたケースと、1回だけ追加されたケースがあった。システム監査人は、不具合の発生原因を調査することにし、必要なコントロールを確保するためのプログラム上の機能について調べた。 (2) C社では、営業職員の拠点間での異動の際にも契約者の担当は変わらずに引き継がれるが、ある営業職員について、担当している契約者の個別データが配信されないという障害が発生していた。この障害の原因となり得るプログラム改修はなかったので、システム監査人は、営業職員の異動に伴って顧客サービス部が行った作業に原因があると考えた。 (3) システムの導入効果の測定結果を査閲したところ、モバイル端末の使用率が営業所によって大きく異なっており、契約高とは比例関係にあることも明らかになった。システム監査人は、使用率の差異の原因調査に当たって、モバイル営業支援システムの有効活用の視点から、モバイル端末の使用状況について更に確かめる必要があると考えた。 設問1 〔監査の実施〕の(1)-①について、顧客サービス部の作業記録を査閲することのほかに、すべての誤処理データの修正が完了したことを確かめるための監査手続を、必要な監査証跡を含めて50字以内で述べよ。 設問2 〔監査の実施〕の(1)-②について、システム監査人が不具合の発生原因を特定するために調べた内容を、50字以内で述べよ。 設問3 〔監査の実施〕の(2)について、システム監査人が考えた原因を、40字以内で述べよ。 設問4 〔監査の実施〕の(3)について、システム監査人が確かめるべき事項を二つ挙げ、それぞれ35字以内で述べよ。
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運用統制を点検するための視点

モバイル業務システムの運用と監査を考えるときは、日々の手続が定められた責任分担や記録の扱いと整合しているかを、継続的に確かめる観点に集中しましょう。証拠の残り方も含めて、実態と記録の差を見逃さないようにします。

この問題で問われていること

設問では、個別の技術名や用語の印象に引きずられず、統制が実際の業務に組み込まれ、誰が何を確認し、その結果を後から追跡できる状態かという一点だけを確認してください。

視点

運用統制を検討するときは、ルールの存在だけでなく、担当者の行動、確認や記録のつながり、例外が生じた場合の扱いが一貫して追跡できるかを、業務の流れに沿って整理します。特定の方式や結論を先に当てはめず、実施状況と証跡の対応関係を丁寧に見ます。

確認ポイント

  • 業務上の重要な操作について、誰が関与し、どの時点で確認するのかを整理する。
  • 実施した確認や例外対応が、後から追える記録として結び付いているかを見る。
  • 定められた手続と実際の運用に差がある場合、その差を説明できる材料があるか確かめる。
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解説

本問は、モバイル端末にデータを保持してオフライン処理を行う営業支援システムを題材に、改修後の誤処理、同期失敗による重複登録、個別データ未配信、利用率の差異について、原因に対応した監査手続を問う。

問題の全体像

C社は、営業職員のモバイル端末にプログラムと共通・個別データを保存し、接続時の同期で更新・送信するシステムを導入した。監査では、改修後の誤処理が全件修正されたか、通信再開時の再送で重複登録を防げるか、異動後の個別データ未配信の原因は何か、営業所ごとの利用率差を生む要因は何かを確認する。出題趣旨では、新技術導入に伴うリスク、対応するコントロール、関連する監査手続の識別が重視されている。

設問1

改修によるバグで保険料収入データが誤処理されたが、作業記録だけでは修正対象の全体を確認できない。そこで、サーバに残るプログラム配信記録と、誤ったプログラムによるデータ処理記録を突き合わせ、誤処理された対象を網羅的に特定し、その全件が修正済みであることを確認する。公式解答例も、この二つの記録の突合を監査証跡として示している。50字以内なので、記録の種類と突合の目的を簡潔に書く。

設問2

通信切断後に同期を再実行すると、同じデータが二重登録される場合がある。送信後もデータを削除せず、個別のトランザクション番号とタイムスタンプを付ける設計なので、既存データと同じ番号・タイムスタンプを持つデータの追加を排除する機能があるかを調べる。公式解答例も、重複データの追加排除の有無を確認する内容としている。

設問3

個別データは、営業職員番号と所属営業拠点番号の組合せをファイル名や配信判定に使う。プログラム改修がなく、営業職員の異動後に特定の担当者のデータだけ配信されないなら、異動に伴う顧客サービス部の登録作業に着目する。公式解答例では、対応テーブル上で営業職員番号と所属営業拠点番号が正しく登録されていないことを原因としている。

設問4①

使用率の高い営業所と低い営業所を比較し、営業職員がモバイル端末をどの業務でどのように使っているか、操作や活用方法に違いがあるかを確認する。契約高との比例関係だけで判断せず、有効活用の実態を比較する点が重要です。

設問4②

全営業所への教育は各営業支店に任され、実施方法に差異があった。したがって、使用率の高い営業所と低い営業所で、教育担当者によるモバイル端末の使用教育の方法や内容に違いがあるかを確認する。公式解答例も教育方法の違いを確認事項としている。

学習のポイント

事実からリスクを特定し、監査証跡や比較調査に結び付けて短く記述する力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成22年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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