AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成22年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 企画段階におけるシステム化効果の監査に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 A社は,近年,小売を主力とする事業分野に加え,外食などの新規事業にも進出している。今回,事業拡大に対応するために,事業部門を再編成し,経営情報システムを開発することになった。現在の開発状況は,システム企画段階が終了し,設計段階に入るところである。 A社では,これまで,新規のシステム開発が大幅に遅延したり,稼働後に十分に活用されないシステムがあったりした。そこで,社長は,経営情報システムの企画段階の監査を,監査部に指示した。 〔経営情報システムの開発目的・機能〕 A社では,これまで,地域別売上,原価などを月次で集計していた。また,新規事業については,各事業部が個別に集計した資料を,経営企画室が取りまとめて印刷し,役員会に提出していた。しかし,各種ドキュメントの書式,表示項目などが統一されていないので,管理しにくいだけでなく,集計に時間がかかり,経営者から不満が出ていた。 これらの点を踏まえて,今回の経営情報システムについては,開発目的・機能を次のように設定した。 (1) 事業別・商品別の経営指標などを月次で迅速に把握し,経営判断に役立てるために,主に経営者向けに月次のレポートを作成する。 (2) 地域別,商品・サービス別の売上・原価を日次で集計し,様々な分析に活用する。事業部長,店長などが集計結果を自ら分析できるような機能を提供する。分析機能については,経営企画室が標準的な分析パターンを検討し,要件に盛り込む。作成された標準的な分析パターンは,レポートのテンプレートとして各事業部・店舗に配布する。より詳細な集計機能,分析機能は,各事業部・店舗のPCでも利用できるようにする。 〔A社のシステム企画段階の概要〕 A社では,新規の情報システムを開発する場合には,起案部署が中心になって開発りん議書及びプロジェクト計画書を作成し,情報化委員会に提出することになっている。情報化委員会では,提出された開発りん議書及びプロジェクト計画書を審議し,開発の優先順位を決める。情報化委員会は通常,年に2回開催され,半期ごとの予算に応じたシステム開発案件を決定する。情報化委員会の承認が得られたシステム開発案件は,システム企画部が起案部署からの要求を分析し,要件定義書及び基本設計書を作成する。 A社のシステム企画段階で作成する主なドキュメントは,表1のとおりである。 表1 システム企画段階で作成するドキュメント 〔予備調査の概要〕 今回のシステム監査は,T君が担当することになった。監査目的は,“経営情報システムの企画が,開発目的に適合した内容になっているかどうかを確認すること”である。予備調査では,各ドキュメントをレビューして記載内容を確かめた。その結果分かったことは,次のとおりである。 (1) 開発りん議書には,システム化効果を記入する欄がある。この欄には,月次の経営指標の集約作業の省力化効果が,金額に換算して記載されている。ここに記載されている金額は開発予算を回収できるほどの金額にはなっていない。また,システム化効果の欄にはそれ以外の記載事項はない。 (2) 経営情報システムのオーナ部門は,経営企画室であり,室長が企画段階のドキュメントの承認を行うことがプロジェクト計画書に記載されている。主なユーザは,経営者,事業部長及び部長,経営企画室及び経理部の部員,エリアマネージャ,店長などである。 (3) 要件定義書の作成過程で,ユーザからの要望事項をヒアリングした記録には,次のようなものがある。経営企画室からは,“様々な角度から分析したいので,なるべく生データに近いデータを収録したい”,“経営環境の変化が激しい状況において,システムの機能を固定せずに常に見直しができるような対策を盛り込んでほしい”という要望が出されている。一方で,各事業部からは,“集約した数値から,売れ筋などの傾向をつかむためにドリルダウンの機能を充実させてほしい”という要望が出されている。 これらの要望を取りまとめて,実現する機能を絞り込んで機能要件として整理し,要件定義書が作成されている。要件定義書は,経営企画室とシステム企画部の関係者によってレビュー会議が実施され,承認されている。 (4) 基本設計書には,要件定義書の内容を実現するためのハードウェア及びネットワークの構成,採用するソフトウェアなどが記載されている。幾つかのデータウェアハウス製品が候補として挙げられ,性能比較などの結果を基に採用した製品が記載されている。 〔本調査の概要〕 T君は予備調査の結果を踏まえ,本調査の監査手続書を作成した。T君が作成した監査手続書の抜粋は,表2のとおりである。 表2 監査手続書の内容(抜粋) 監査部長は,T君が作成した監査手続書をレビューし,改善すべき点を指摘した。監査部長の指摘は,次のとおりである。 ・表2中の項番2の監査手続は,“オーナ部門がドキュメントの内容を確認していること”という監査ポイントを確認するためには不十分である。監査ポイントに対応した監査手続を実施すべきである。 設問1 〔予備調査の概要〕の(1)について,T君は,開発りん議書に記載されているシステム化効果では不適切であると考えた。その理由を,50字以内で述べよ。 設問2 表2の項番1について,T君は開発目的から考えてどのようなKPIが記載されているべきと考えたか。二つ挙げ,それぞれ30字以内で述べよ。 設問3 監査部長の指摘について,監査ポイントに対応した監査手続として追加すべき手続を,50字以内で述べよ。 設問4 表2中の[a]に該当する確認事項を,40字以内で述べよ。
表1 システム企画段階で作成するドキュメント。システム企画段階で作成する開発りん議書,プロジェクト計画書,要件定義書,基本設計書の作成時期と記載内容を示す表。
表1 システム企画段階で作成するドキュメント。システム企画段階で作成する開発りん議書,プロジェクト計画書,要件定義書,基本設計書の作成時期と記載内容を示す表。
表2 監査手続書の内容(抜粋)。監査ポイントと監査手続を項番1~3で整理し,KPI,オーナ部門の承認,システムの有効活用を確認する表。
表2 監査手続書の内容(抜粋)。監査ポイントと監査手続を項番1~3で整理し,KPI,オーナ部門の承認,システムの有効活用を確認する表。
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目的と効果の対応を点検する視点

企画段階の監査では、記載されたシステム化効果が、開発目的や利用者の期待とどのようにつながるかを整理し、金額面だけに偏らず、測定可能性と承認・確認の根拠にも目を向けます。

この問題で問われていること

一つの欄に書かれた効果をそのまま評価するのではなく、目的ごとに期待される変化を分け、誰が何を基準に確認できる記述になっているかという対応関係に集中してください。

視点

開発目的、利用者、期待する成果、確認方法の間に対応があるかを、文書相互のつながりとして捉えます。監査では、効果の表現が目的を十分に表しているか、後から達成状況を確認できるか、関係者の確認記録が残っているかを切り分けて考えると整理しやすくなります。

確認ポイント

  • 開発目的の各要素と、効果として記載された内容は対応しているか。
  • 効果を確認する主体と、達成状況を判断する基準は文書上明確か。
  • 要件や設計の確認に、関係する利用者・責任部門の検討記録があるか。
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解説

A社の経営情報システム企画について、開発目的に合った効果指標、実質的な承認確認、将来の環境変化への対応を監査する問題です。

問題の全体像

A社は、経営情報を月次・日次で集計し、経営者や各事業部・店舗が分析に利用するシステムを企画している。過去に開発遅延や稼働後の未活用があったため、企画段階で開発目的に適合しているかを監査する。設問では、金額換算だけでは捉えきれないシステム化効果、目的に対応するKPI、オーナ部門の実質的な承認確認、将来の拡張性が問われている。

設問1

開発りん議書には、月次の経営指標を集計する作業の省力化効果だけが金額で記載されている。しかし、システムの目的には、経営者が情報を迅速に把握して経営判断に役立てることも含まれる。したがって、金額換算できる省力化効果だけでなく、経営判断への貢献のような定性的効果も記載すべきだと考える。50字以内では、この二つの対比を簡潔に押さえる。

設問2(1)

開発目的(1)は、経営者向けの月次レポートを迅速に作成し、経営判断に役立てることです。そのため、レポートが提供されるまでの時間をKPIとすれば、迅速な把握という目的の達成度を測定できる。公式解答例では、経営者向け月次レポートの提供までの時間が示されている。

設問2(2)

開発目的(2)では、標準的な分析パターンを各事業部・店舗に配布し、利用者自身が分析する。したがって、配布した分析パターンが実際に使われているかを測る使用頻度がKPIになる。公式解答例では、各事業部・店舗での標準的な分析パターンの使用頻度が示されている。

設問3

表2の項番2は、文書にオーナ部門責任者の承認印があるかを確認する手続であり、責任者が内容を確認したか、その承認が適切な根拠に基づくかまでは分からない。そこで、企画段階の各ドキュメントを承認した根拠について、経営企画室長にインタビューして確認する。

設問4

経営環境の変化が激しく、経営企画室から機能を固定せず見直せる対策を求める要望が出ている。このため、要件定義書には、既存の分析手法で実現できない場合にもシステムを拡張できるよう考慮されていることを確認する。公式解答例では、既存の分析手法で実現できない場合のシステムの拡張性が示されている。

学習のポイント

開発目的からKPIと監査手続を具体化する力を身につける。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成22年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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