STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

令和7年度春期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問2 ITを活用した子育て支援の強化

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 ITを活用した子育て支援の強化に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 M市は,L県の中央部にある地方都市であり,政令指定都市の通勤圏に位置している。市内にあるM空港はL県全体の基幹空港であり,L県を訪れる観光客やビジネスパーソンの行き交うL県の交通の要所となっている。 〔M市を取り巻く環境と子育て支援の整備〕 近年,急速に浸透したリモートワーク技術の活用を背景として,ビジネスの拠点を地方に設置することが増えている。M市近郊は,四季を通じて美しい景観と様々なアクティビティを楽しめる観光地やリゾート施設が数多くあることや,M空港を通じて首都圏や全国の主要都市と短時間で往来できるアクセスの良さが評価され,企業の拠点設置が相次いでいる。また,デザイナーやソフトウェアエンジニアなど,インターネットが利用できれば働く場所を選ばないビジネスパーソンを中心に,個人としてM市を拠点に選ぶ移住者も増加している。 これまでM市では,健康で文化的な環境で子育てをしたいと望む市民に向けた様々な施策に取り組んできた。具体的には,保育機関や教育機関などのインフラ整備に加え,保健師などの専門の行政職員が,出産前から子どもの思春期に至るまで,子どもをもつ親の相談を持続的に受け付ける体制を構築するなどの行政サービスによって,M市に暮らす子どもをもつ世帯(以下,子育て世帯という)への支援を整備してきた。 この結果,前年度のM市の合計特殊出生率は1.75人と,全国平均の1.20人を大きく上回り,人口の自然増に必要とされる値の2.07人に迫りつつある。また,年齢別人口では,M市の全人口に占める20-49歳の世代(以下,子育て適齢世代という)の割合が他市町村と比べて多くなっている。この世代は他県からの転入者の割合が多く,子育て世帯においても,夫婦以外の親族との同居がない世帯が多い。全国的な少子高齢化によって,L県内の他市町村では大きく人口が減少する中,M市の人口は微増傾向にあり,前年度末時点で約15万人となっている。 〔M市の子育て支援の強化〕 M市はこの環境変化と体制整備の成果を活用することによって,人口増加による消費の拡大と産業の活性化を図り,M市を持続的に成長させたいと考えた。このための具体的な手段として,M市は“地域一体での子育て支援を更に強化して,子育て環境の充実を全国にアピールすることで,M市に子育て適齢世代を呼び込む”施策(以下,Angel City Planという)を定め,内容の検討に着手した。 〔アンケート調査〕 M市は,Angel City Plan実行に当たっての課題を把握するために,M市在住の子育て世帯を対象にアンケート調査を行った。この結果,次のことが明らかになった。 ・M市は自然に恵まれた環境であり,また保育機関や教育機関などのインフラ整備も進んでいることから,子育てに適した地域であると評価されている。 ・M市の子育て世帯は,①家庭内での子育てに夫婦以外の親族からの直接的な協力を得にくい。また,②他県からの転入者は同市内に住む古くからの友人も少ないので,M市での子育てに関する情報を得にくい場合がある。 ・子どもが家にいる場合は,リモートワークに支障が出る。子どもが体調不良などの場合は日ごろ通わせている保育機関を利用できないので,ベビーシッターの利用も考えたいが,自宅に見ず知らずの他人を招き入れることへの抵抗感や,安全なベビーシッターを選べるかの不安がある。ベビーシッターの安全な利用方法や利用したベビーシッターに対する感想など,利用した人の評価を聞きたい,との声があった。 また,M市では,行政機関と,市内の子育て支援機関である保育機関,教育機関,医療機関など(以下,サポート機関という)を対象にアンケート調査を行ったところ,次のことが明らかになった。 ・行政機関では,他県からの転入者の増加傾向を踏まえ,M市の子育て支援の行政サービス(以下,子育て支援サービスという)に対する利用者の声で好評を得ているサービスの担当職員を増員するなど体制を強化したが,サービスの利用は想定を下回り,利用者数が伸びていない。 ・行政機関は,個別の子育て世帯の状況を能動的に把握し,適切なタイミングで相談を促すなどの子育て支援サービスを提供したいが,子育て世帯から情報を入手する手段が少なく,できていない。 ・行政機関及びサポート機関が,地域一体で共同して支援に取り組みたいが,情報共有する方法が確立しておらず,またそれぞれが保有する情報も標準化されていないので,相互に開示可能な情報を参照することができていない。 〔ITを活用した子育て支援の強化〕 M市はこれらのアンケート調査の結果から,Angel City Planを実行するためには,子育て世帯,行政機関及びサポート機関が,相互に子育てに関する情報を共有して活用することが必要と考えた。そこでM市はこのためのシステム基盤(以下,Angel Cloudという)を構築して,これまでの子育て支援の環境整備の成果を更に高め,子育て環境の充実を全国にアピールすることとした。 Angel Cloudの機能は,次のとおりである。 (1) 子育て世帯が利用する機能 (a) 子育てダイアリー 子どもの成長に合わせた家族の思い出などを記録するため,スマートフォンのアルバム機能と連動して,利用者が撮影した任意の画像ファイルを時系列に保存できる。保存した画像ファイルに関連するライフイベントなど,任意のコメントを記録できる。学校行事など保育機関や教育機関のイベントや,地域イベントのスケジュールを閲覧できる。 子育てダイアリーに記録されているイベントや,利用者による任意のコメントと連動して,画像ファイルを検索,閲覧することができる。 (b) 子育てSNS ベビーシッターの利用や,子育て支援サービス,地域イベントに関する感想を投稿したり,ほかの子育て世帯の感想を参照したりすることができる。感想を投稿したほかの子育て世帯と,子育てSNSでつながることができる。 外部SNSと連動し,子育てSNSへの投稿を外部SNSに公開することができる。 (c) 子育てチャット チャットボットを利用して,M市の子育て支援に関する情報を入手することができる。担当保健師やベビーシッター,保育機関,教育機関と連絡を行うことができる。 ベビーシッターの利用,M市の子育て支援サービスや地域イベントへの参加などを予約できる。 利用者自身に対する子育て支援記録を含むAngel Cloud内の情報をAIが分析することによって,③子どもの成長段階など,利用する世帯の状況に合わせたサービスをAIが提案する。利用者はAngel Cloudからのプッシュ型通知やチャットボットの応答を通じて,提案を受け取ることができる。 (d) オプトイン管理 子育て世帯の利用者がAngel Cloudに入力した情報のうち,行政機関とサポート機関に開示する情報の範囲を指定(以下,オプトインという)できる。 (2) 共通機能 (a) 匿名記録データベース(以下,匿名記録DBという) 子育て世帯の利用者がAngel Cloudに入力した情報を,匿名化技術によって個人を特定できない状態に変換した上で,匿名記録DBに保存する。 (3) 行政機関及びサポート機関が利用する機能 (a) 子育て支援統計 匿名記録DBやAngel Cloudの利用状況を,統計データとして取得して利用できる。取得したデータは,Angel City Planの広報活動や新たな施策検討に利用できる。公開可能な範囲のデータは,オープンデータに加工されてM市のホームページで公開される。 (b) 子育て支援記録 行政機関とサポート機関が各子育て世帯に対して行った支援内容を記録し,行政機関とサポート機関が相互に参照できる。 (c) 子育てチャット 子育て世帯の利用者に連絡を行うことができる。 (d) オプトイン情報閲覧 オプトインされた範囲内で,各子育て世帯の利用者がAngel Cloudに入力した情報を閲覧できる。 設問1 〔M市の子育て支援の強化〕について答えよ。 (1) M市はAngel City Planを定めるに当たり,どのような環境変化を活用しようと考えたか。40字以内で述べよ。 (2) M市がAngel City Planの目的達成に向けた状況を把握するために,定めるべき指標は何か。25字以内で述べよ。 設問2 〔アンケート調査〕について答えよ。 (1) M市の子育て世帯に下線①の問題が生じる理由は何か。35字以内で述べよ。 (2) 下線②によって表面化しているM市の行政機関における子育て支援に関する問題は何か。35字以内で述べよ。 設問3 〔ITを活用した子育て支援の強化〕について答えよ。 (1) “子育てSNS”は,どのようなM市の子育て世帯の現状を改善するための機能か。30字以内で二つ述べよ。 (2) “子育てチャット”に備えた下線③の機能は,どのようなニーズを満たすための機能か。40字以内で述べよ。 (3) Angel Cloudに“子育て支援記録”を備えることで,M市が実現したい子育て支援とは具体的にどのような支援か。30字以内で述べよ。
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判断の根拠となる情報の範囲を確認

この分野を学ぶ際は、判断の根拠として使える情報の範囲に注目しましょう。身近な経験や一般的な印象をいったん脇に置き、示された内容からどこまで言えるかを丁寧に確かめることが大切です。

この問題で問われていること

取り組みについて考えるときは、ある判断を支える根拠が、示された情報の中にあるかを確認してください。示されていることと、自分で補った前提を区別し、根拠の範囲を越えて解釈していないかに注目しましょう。

視点

考えを整理するときは、その判断に使った情報を指し示せるかを確かめます。示された情報と自分の推測を分けて捉えると、どこまで根拠があるかを意識できます。

確認ポイント

  • 判断に使った情報を指し示せるか
  • 自分で補った前提が含まれていないか
  • 示された情報の範囲を越えて解釈していないか
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解説

M市の環境変化と子育て支援の成果を踏まえ、子育て適齢世代を呼び込む施策を考える問題です。アンケートで明らかになった情報不足や支援機関間の連携不足を、Angel Cloudの情報共有・提案機能と対応付けて読み解きます。

問題の全体像

M市では、リモートワークの浸透を背景に企業の拠点設置や個人の移住が増え、従来の子育て支援整備も成果を上げています。Angel City Planは、地域一体で支援を強化し、その充実を全国にアピールして子育て適齢世代を呼び込み、市の持続的な成長につなげる施策です。一方、転入世帯の情報不足、サービス利用者数の伸び悩み、支援機関間の情報共有不足が課題となっています。公式の出題趣旨では、地域の状況に即して課題を定義し、解決策を導く施策立案の能力を問うとしています。各設問では、施策の目的、課題、Angel Cloudの機能のつながりを押さえます。

設問1(1)

着目するのは、〔M市を取り巻く環境と子育て支援の整備〕冒頭のリモートワーク技術の浸透と、それを背景とした企業の地方拠点設置、個人の移住の増加です。公式解答例では「リモートワークが浸透し,地方で企業の拠点設置や個人の移住者が増えたこと」としています。40字以内では、技術の浸透と企業・個人の動きの変化をまとめます。採点講評では、子育て適齢世代の割合の増加を答えた例を挙げ、それはM市の取組による体制整備の成果だと説明しています。設問が求める環境変化と、市自身の取組の成果を区別することが要点です。

設問1(2)

Angel City Planの目的を示す「M市に子育て適齢世代を呼び込む」に着目します。目的達成の状況を把握するには、呼び込む対象である子育て適齢世代の人口がどれだけ増えたかを測る必要があります。公式解答例では「M市の子育て適齢世代の人口増加率」としています。25字以内では、対象地域、対象世代、人口増加率という指標を押さえます。全人口やサービス利用状況だけに着目せず、施策が直接目指している対象の変化と指標を対応させることが重要です。

設問2(1)

下線①は、家庭内の子育てで夫婦以外の親族から直接的な協力を得にくいという問題です。その理由は、前段の人口・世帯の説明にあります。子育て適齢世代には他県からの転入者が多く、子育て世帯にも夫婦以外の親族と同居していない世帯が多いと記されています。公式解答例では「夫婦以外の親族と同居していない,他県からの転入者が多いため」としています。35字以内では、親族との非同居と他県からの転入者の多さを理由としてまとめます。友人の少なさは下線②の情報入手の問題に対応するため、根拠を取り違えないようにします。

設問2(2)

下線②の情報入手の難しさを、行政機関側で表面化している問題に結び付けます。行政機関へのアンケートには、担当職員を増員して体制を強化したものの、サービス利用が想定を下回り、利用者数が伸びていないとあります。公式解答例では「M市の子育て支援サービスが活用されず,利用者数が伸びない問題」としています。35字以内では、サービスが活用されないことと利用者数の伸び悩みを押さえます。採点講評では、機関間の情報共有不足や世帯情報の入手手段の少なさを答えた例を挙げています。ここで問われるのは、世帯が情報を得にくいことで行政側に表れたサービス利用の問題です。

設問3(1)(a)

二つの現状のうち一つ目は、転入者がM市の子育て情報を得にくい状況です。アンケートでは、転入者は市内に古くからの友人が少なく、情報を得にくい場合があるとされています。子育てSNSでは、他の世帯が投稿したサービスや地域イベントの感想を参照でき、投稿者とつながることもできます。この情報共有が、転入者の情報不足の改善に対応します。公式解答例では「M市での子育てに関する情報を,転入者が得にくい状況」としています。30字以内では、転入者という対象と子育て情報の入手困難をまとめます。

設問3(1)(b)

二つ目は、ベビーシッターの利用に抵抗感や不安感がある状況です。アンケートには、知らない他人を自宅に招く抵抗感、安全なベビーシッターを選べるかという不安、利用者の評価を聞きたいという声があります。子育てSNSで利用した世帯の感想を参照できることが、この不安や抵抗感の改善に対応します。公式解答例では「ベビーシッターの利用に抵抗感や不安感がある状況」としています。30字以内では、利用対象と抵抗感・不安感を押さえます。SNSの機能説明ではなく、その機能が改善する現在の問題を答えます。

設問3(2)

下線③のAIによるサービス提案を、行政機関へのアンケートにあるニーズと対応付けます。行政機関は、各世帯の状況を能動的に把握し、適切なタイミングで相談を促すなどのサービスを提供したいとしています。Angel Cloud内の情報を分析し、成長段階や世帯の状況に合わせた提案を通知する機能は、このニーズを満たすためのものです。公式解答例では「適切なタイミングで子育て支援サービスを提供したい,行政機関のニーズ」としています。40字以内では、行政機関という主体、適切なタイミング、支援サービスの提供をまとめます。

設問3(3)

行政機関とサポート機関へのアンケートにある「地域一体で共同して支援に取り組みたい」という意向に着目します。現状では、情報共有の方法が確立しておらず、保有情報も標準化されていないため、互いの情報を参照できません。子育て支援記録は、各機関が実施した支援内容を記録し、相互に参照できる機能です。各機関が支援内容を共有することが、共同支援につながります。公式解答例では「行政機関とサポート機関による地域一体での共同支援」としています。30字以内では、支援する二つの主体と地域一体での共同支援を押さえ、記録機能そのものの説明で終わらせないことが要点です。

学習のポイント

環境変化と施策の成果、原因と表面化した問題を区別し、世帯側と行政側それぞれの課題をIT機能に対応付ける読み方を学びます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和7年度春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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