STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

令和7年度春期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問1 スタートアップ企業におけるITを活用した新たなビジネス領域の開拓

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 スタートアップ企業におけるITを活用した新たなビジネス領域の開拓に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 Y社は,動画解析サービスを専門とするスタートアップ企業であり,5年前に情報系大学の教授とその研究室メンバーが起業した。創業以来,順調に業績を伸ばし,母体となった大学の卒業生を中心に優秀な開発技術者を多数抱えている。Y社は,動画解析技術の専門性を生かして,今後5年以内のIPO(株式上場)を目指している。 〔Y社の特徴〕 Y社の特徴は次のとおりである。 (1) Y社のサービス ・Y社は,次のようなAI関連技術をベースにした動画解析サービスを提供している。 - 人の顔を認識して特定する顔認識 - 人や物体を判別する物体識別 - 人や物体などの動きを検知する行動検知 - 人や物体を検出してその数をカウントする数量計測 ・Y社のサービスは,クラウド上に構築され,顧客が動画をアップロードして動画解析を実行できる機能や,スマートフォンを含む様々なデバイスからサービスにアクセスすることによって,アップロードした動画や動画の解析結果を確認できる機能がある。 ・Y社のサービスにおけるアクセス権管理には,初期パスワードの強制変更,アクセス可能デバイスの登録,二要素認証などの機能がある。 ・Y社のサービスでは,サービスの利用ごとに課金している。今後,頻繁にサービスを利用する顧客向けに定額課金制の導入を検討しており,そのためには契約管理システムの改修が必要である。 (2) Y社の強みであるAI関連技術 ・動画の中で事前に設定した条件に該当するシーンを識別する技術 ・個人のプライバシー侵害への対策として特定の範囲及び無関係の人や物体をマスキングする技術 〔Y社の成長戦略と市場調査〕 Y社は5年以内のIPOを実現するための成長戦略として,順調に業績を伸ばしている動画解析サービスの領域を拡大し,新たなビジネス領域の開拓を目指すこととした。 Y社は,新たなビジネス領域の候補として,昨今のセキュリティ意識の高まりを受けて市場が拡大を続ける監視カメラを中心とするネットワークカメラ市場に注目した。 Y社が市場調査を行ったところ,次のようなことが分かった。 現在は,監視カメラで録画した動画を後で確認する方式が一般的である。人手によってリアルタイムに確認することは可能であるが,人件費が掛かるので資金力のある大手企業などでしか採用できない。しかしながら,小規模な企業や家庭でもリアルタイムに動画を確認して防犯などにつなげたいという声が増えている。また,工場出荷時に設定されたパスワードをそのまま使っている監視カメラが不正アクセスを受けて動画が流出する事例が発生し,社会問題となっている。 加えて,製品カテゴリ別には次のような課題やニーズがあることを把握した。 (1) 施設向け製品 ・監視カメラで撮影された動画は人手によって確認しているので,人員が制約となって監視カメラの台数を増やせない施設では,限られた人員でも対応できるように異常を自動で検知して通知してほしいというニーズが多い。 ・敷地の外が撮影範囲になってしまうと個人のプライバシー侵害のリスクが大きいので,設置場所が制限されてしまい,死角ができてしまうおそれがある。 (2) 警備業界向け製品 ・現場で職員の制服に“防犯カメラ作動中”と表示した上で,装着したウェアラブルカメラで音声付き動画を撮影し,トラブル抑止と証拠保全を行っている。 ・既存のウェアラブルカメラで撮影した音声付き動画は,ネットワーク負荷の問題から遠隔地へのリアルタイム配信及び確認は普及していない。遠隔地でリアルタイムに現場の音声付き動画が確認できれば,遠隔地から現場へより適切な対応指示ができるという声が多い。 (3) 家庭向け製品 ・一般家庭では,監視カメラで撮影された動画を人手によってリアルタイムに確認することは困難なので,監視カメラが通常と異なる人や物体の動きを検知した時に通知を受け,スマートフォンなどで確認や応対を行いたいというニーズがある。 ・最近では,指定された場所に荷物を置いて配送を完了する非対面配送(以下,置き配という)も増えている。一方で,置き配を積極的に利用したいが,盗難にあわないか不安があるので,監視カメラによる対応を期待するという声が多い。 Y社は,ネットワークカメラ市場の市場調査を基に課題やニーズの分析を行った結果,監視カメラに自社の得意分野である動画解析サービスを組み込んだ監視サービスを提供することによって,ネットワークカメラ市場を新たなビジネス領域として開拓できると考え,成長戦略の実現方法を検討した。 〔成長戦略の実現方法〕 Y社は,“動画解析技術を通じて社会の安全安心に貢献する”を基本理念として,次の施策を実施する。 (1) 施設向け監視カメラの異常検知・通知サービスの提供 監視カメラで撮影した動画をリアルタイムで解析し,異常を自動検知して通知するサービス (2) 警備業界向けウェアラブルカメラのネットワーク接続サービスの提供 ウェアラブルカメラをネットワーク接続し,撮影した音声付き動画を遠隔地で確認できるサービス (3) 家庭向け監視カメラのリアルタイム監視・置き配対応サービスの提供 住宅用監視カメラをWi-Fi経由でインターネット接続することによって,リアルタイム監視・通知機能,スマートフォンなどによる確認・応対機能,置き配に対する防犯機能を提供するサービス Y社の経営陣は,これらのサービスを提供できれば,Y社がネットワークカメラ市場において成功することは可能であると結論付けた。しかし,競合他社となりうる動画解析ベンダーがネットワークカメラ市場へ参入してくることは十分考えられることから,Y社は,迅速な市場参入が必要と考えた。 成長戦略実現へ向けてY社内で新サービス実現のシナリオを検討した結果,低いネットワーク負荷で動画を送信するための高度な動画圧縮技術をもつ中堅の監視カメラメーカーのU社と業務提携することを基本方針とした。U社は,U社製の監視カメラを導入した顧客から動画解析について相談された際,Y社に問い合わせたところから取引が始まり,今では,動画解析の業務を継続的にY社へ発注している企業である。一方で,U社では,近年,競合他社や類似製品の登場によって売上げが横ばいとなっていた。 Y社とU社それぞれの経営陣は,協議を重ねた結果,この業務提携はY社とU社双方にメリットがあると結論付け,Y社とU社による新サービス提供に関する業務提携契約の締結を行った。 〔新サービスの開発〕 Y社とU社は,協議の上で新サービスの提供開始予定日を決定し,新サービスを予定どおりに市場へ提供開始することが重要であることを申し合わせた。Y社は,新サービスの開発に着手し,新サービスを図1のように構成することとした。 図1 新サービス構成図 新サービスの開発に際して,Y社は次の対応を行うこととした。 ・全ての監視カメラ製品に対して,①個人のプライバシー侵害を防止するための機能をもたせる。また,②Y社のアクセス権管理機能を監視カメラに適用できるようにする。 ・家庭向け監視カメラに対して,③Y社の保有する物体識別と行動検知のAI関連技術を活用した置き配に対する防犯機能として,特定の状況を検知し,スマートフォンなどへ通知したり警告音を発したりする機能をもたせる。 ・動画のデータは全てY社のサービス内で管理して監視カメラの台数に応じた④定額課金制とすることとし,そのための準備を行う。 設問1 〔Y社の成長戦略と市場調査〕について,Y社が,ネットワークカメラ市場をY社の新たなビジネス領域にできると考えた,Y社の提供するサービスが生かせる市場ニーズを40字以内で答えよ。 設問2 〔成長戦略の実現方法〕について答えよ。 (1) Y社がネットワークカメラ市場へ参入するに当たって業務提携という手法を選択した目的を20字以内で答えよ。 (2) 施設向け監視カメラの異常検知・通知サービスの提供について,異常の検知を通知する機能をもたせた背景を30字以内で答えよ。 (3) Y社が,U社と業務提携することによって警備業界向けウェアラブルカメラのネットワーク接続サービスを提供できると考えた理由を25字以内で答えよ。 設問3 〔新サービスの開発〕について答えよ。 (1) 本文中の下線①について,個人のプライバシー侵害を防止するための機能とはどのようなものか。25字以内で答えよ。 (2) 本文中の下線②について,Y社のアクセス権管理機能を監視カメラに適用することでどのような効果を狙ったか。25字以内で答えよ。 (3) 本文中の下線③について,どのような状況を検知すべきか。25字以内で答えよ。 (4) 本文中の下線④について,Y社はいつまでにどのような準備を行う必要があるか。40字以内で答えよ。
図1 新サービス構成図。ネットワークカメラと顧客をクラウドサービスに接続する構成図。クラウドには動画解析・通知・アクセス権管理・動画確認の各機能と契約管理システムがあり,企業・組織の管理者などや個人が利用する。
図1 新サービス構成図。ネットワークカメラと顧客をクラウドサービスに接続する構成図。クラウドには動画解析・通知・アクセス権管理・動画確認の各機能と契約管理システムがあり,企業・組織の管理者などや個人が利用する。
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判断に使う前提を確かめる

この分野の検討では、判断に使う前提が何かを意識しましょう。与えられた情報と、自分の経験や印象から補った想定を区別し、考えの土台に根拠のない前提が入り込んでいないかを確かめることが大切です。

この問題で問われていること

検討の焦点は、判断を支える前提と、その根拠とのつながりです。何かを当然だと受け止めたときは、その前提が与えられた情報に基づくのか、自分で付け加えたものなのかを振り返りましょう。

視点

前提とは、考えを進める際に土台として置く事柄です。根拠が示された前提と、経験から補った想定を区別すると、判断が何に支えられているかを整理できます。

確認ポイント

  • 判断の土台として置いた前提は何か
  • その前提の根拠を与えられた情報に見いだせるか
  • 根拠のない想定を事実として扱っていないか
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解説

Y社の動画解析技術とネットワークカメラ市場の課題を結び付け、防犯ニーズに応える新サービスを立案する問題です。迅速な市場参入のための業務提携、動画圧縮による通信負荷の低減、プライバシー保護、不正アクセス対策、課金方式に対応する開発準備が要点です。

問題の全体像

Y社は、動画解析技術を生かして事業領域を拡大し、5年以内のIPOを目指すスタートアップ企業です。ネットワークカメラ市場には、人手による監視の限界、動画配信の通信負荷、プライバシー侵害、動画流出などの課題があります。Y社は自社の技術とU社の動画圧縮技術を組み合わせ、新サービスを提供しようとしています。出題趣旨では、自社の強みと市場のニーズ・課題を分析し、市場ニーズに合った新サービスと実現方法を企画・立案する能力を問うとされています。図1にある動画解析・通知・アクセス権管理・動画確認の各機能と、契約管理システムが、それぞれどの課題に対応するかを整理して読むことが重要です。

設問1(1)

〔Y社の成長戦略と市場調査〕にある、施設の「異常を自動で検知して通知してほしい」という要望と、家庭の「通常と異なる動きを検知した時に通知を受けたい」という要望に着目します。これらは、Y社の動画解析技術を生かして、人手で常時監視する負担を減らし、防犯につなげられるニーズです。公式解答例では「施設や家庭で異常を自動で検知し通知を受けて防犯につなげたいニーズ」としています。40字以内では、対象、異常の自動検知・通知、防犯という目的をまとめます。採点講評では、「Y社の提供するサービスが生かせる」という条件を捉え、最も大きなニーズが防犯であることを理解するよう求めています。

設問2(1)

〔成長戦略の実現方法〕の、競合となり得る動画解析ベンダーが参入する可能性があり、「迅速な市場参入が必要」と判断した記述に着目します。問われているのは、業務提携を選んだ目的です。U社の技術を利用することは実現手段であり、目的として押さえるのは市場参入の速さです。公式解答例では「迅速に市場参入する必要があるから」としています。20字以内では、競合参入の説明を広げず、「迅速な市場参入」を中心にまとめます。

設問2(2)

〔Y社の成長戦略と市場調査〕の施設向け製品にある、人手で動画を確認しているため、人員が制約となって監視カメラの台数を増やせないという記述が根拠です。異常を自動検知して通知すれば、職員が常時すべての動画を確認する負担を減らせるため、この制約に対応できます。公式解答例では「人員が制約となって監視カメラの台数が増やせない」としています。30字以内では、サービスの機能説明を繰り返すのではなく、その導入が必要になった背景として、人員の制約と台数を増やせない状況を示します。

設問2(3)

警備業界向け製品では、ネットワーク負荷が遠隔地へのリアルタイム配信・確認を妨げています。一方、U社は低いネットワーク負荷で動画を送信するための高度な動画圧縮技術をもっています。この技術で通信負荷を減らせることが、提携によってサービスを提供できると考えた理由です。公式解答例では「動画圧縮技術でネットワーク負荷を減らせるから」としています。25字以内では、技術と解決できる課題を結び付けます。採点講評では、「遠隔地から適切な対応指示ができる」といったニーズだけの解答ではなく、阻害要因とU社の強みの関係を捉えるよう求めています。

設問3(1)

〔Y社の特徴〕にある、特定の範囲や無関係の人・物体をマスキングする技術と、施設向け製品の、敷地の外を撮影するとプライバシー侵害のリスクが大きいという記述を対応付けます。撮影範囲に含まれる敷地外や無関係の人をマスキングすることで、個人のプライバシーを保護します。公式解答例では「敷地の外や無関係の人をマスキングする機能」としています。25字以内では、「何を対象に」「どのような処理をするか」を具体的に示します。

設問3(2)

市場調査で明らかになった、工場出荷時のパスワードを使い続けた監視カメラが不正アクセスを受け、動画が流出した事例に着目します。Y社の初期パスワードの強制変更、アクセス可能デバイスの登録、二要素認証は、不正アクセスへの対策として利用できます。公式解答例では「不正アクセスによる動画の流出を防止する効果」としています。25字以内では、機能を列挙するのではなく、それらを監視カメラに適用することで防ぐ被害を答えます。

設問3(3)

家庭向け製品の、置き配の盗難を不安視する声と、下線③の物体識別・行動検知を活用するという条件に着目します。荷物という物体と、その荷物へ近づく人の動きを捉えれば、盗難に備えて通知や警告を行うきっかけになります。公式解答例では「配達された置き配の荷物に人が近づく状況」としています。25字以内では、検知対象の荷物と人の行動を具体的に示します。通知先や警告音は検知後の対応なので、答案の中心は検知すべき状況です。

設問3(4)

〔Y社の特徴〕の、定額課金制の導入には契約管理システムの改修が必要という記述と、〔新サービスの開発〕の、予定どおりの提供開始が重要という記述を結び付けます。新サービスは監視カメラの台数に応じた定額課金制とするため、その方式に対応する改修を提供開始までに完了する必要があります。公式解答例では「新サービスの提供開始までに契約管理システムの改修を完了させること」としています。40字以内では、「いつまでに」と「何を完了するか」の両方を含めます。

学習のポイント

市場ニーズと自社の強みを対応付け、目的・背景・理由・効果を区別して答える練習が重要です。技術が課題を解決する因果関係と、サービス開始までに必要な準備も押さえましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和7年度春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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