STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

令和6年度春期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問3 旅館のIT活用による業務改革

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 旅館のIT活用による業務改革に関する次の記述を読んで,設問に答えよ. B 旅館は,N県にある山海の資源に恵まれたT温泉にある,創業100年を超える従 業員50名程度の旅館である.B旅館は,歴史ある建物や独立性の高い居室によって, 伝統と格式を感じさせる雰囲気が特長である. B旅館は,“お客様と編む時間,一歩先のおもてなし体験”をコンセプトとし,教 育が行き届いた仲居を中心とした利用客に寄り添った接客サービスによって,リピ ータや口コミ経由の利用客を獲得してきた.特に,予約時に聞き取った情報や接客 時の会話から得た情報(以下,接客情報という)を用いて,担当する利用客のニー ズや好み,宿泊目的などを仲居が把握し,丁寧な気遣いやサプライズ演出を行うこ とが利用客の顧客体験価値(UX)の向上に大きな貢献をしてきた.接客情報は宿泊 するたびに増えていくので,常連客ほど高いUXを得ている. 〔B旅館における業務改革推進の背景〕 ここ数年の感染症の流行による観光客の減少によって,B旅館の客室稼働率(以下, 稼働率という)が急激に落ち込んだ.売上げが著しく低下したので,経営を維持す るためには仲居を含めた従業員の削減も行わざるを得なかった.最近は,感染症の 流行も落ち着いて観光客数は回復傾向にあり,遠隔地での休暇と就労を組み合わせ るワーケーションを推奨する企業も増えている.B旅館は,この変化をビジネスチャ ンスと捉え,感染症の流行前を超える稼働率を実現したいと考えている. 稼働率の向上に対応するためには,今まで以上に人手が必要となるが,一度削減 した従業員の補充は思うように進まず,今後の見通しも立っていない.この状況が 継続すると,稼働率の向上という目標が達成できないだけでなく,B旅館の強みが低 下してB旅館の経営に大きく影響するおそれがある. B旅館は,現状の従業員を前提とし,B旅館の強みを更に強化しつつ業務を効率化 することによって,稼働率の向上という経営目標を達成するため,ITを活用した業 務改革を推進することとした. 〔B 旅館の現状〕 B 旅館の各業務における現状は次のとおりである. (1) 予約 ・フロント係が表計算ソフトで作成した予約台帳で予約情報を管理している.電話 予約や旅行予約サイトなど複数の予約チャネルが存在しているが,予約台帳のメ ンテナンスは手作業なので時間が掛かる上,予約情報の変更などをリアルタイム に管理することができていない. (2)接客 ・仲居は接客情報を他の従業員に連携しなければならないが,他の従業員との情報 連携手段は口頭なので時間が掛かり,接客に使える時間が増やせない. ・若手仲居の育成は 10年以上の経験を積んだベテラン仲居が OJTを通して行って おり,今の育成方法ではノウハウの継承に早くても5年程度掛かる. ・従業員削減の影響によって仲居の業務負荷が高まり,ベテラン仲居が若手仲居を 育成する時間がとれなくなっている. ・仲居は接客情報をサービス向上に役立てている.しかし,接客情報にはアレルギ ーや身体の状況などの要配慮個人情報が含まれ得ることから,管理に際しては利 用客の同意を得た上で,情報の取扱いに常に細心の注意を払う必要がある. (3)清掃 ・清掃係が行う客室清掃は,客室の状況によって清掃に掛かる時間が異なるので, 予定した時間で清掃が終わらない部屋が出てしまうことがある.逆に,時間が余 る清掃係もいるが,他の清掃係の状況が分からず,支援に回ることができない. (4) マーケティング ・B 旅館では,春と秋の行楽シーズンは稼働率が高いが,夏と冬は稼働率が下がる 傾向にある. ・営業係が管理する利用後アンケートでは,家族などの同伴者の誕生日や結婚記念 日などのライフイベントが宿泊目的であったという回答が多い.しかし,同伴者 のライフイベントの情報はB旅館としては蓄積,管理できていない. ・ワーケーションが認められるようになったので,学校が休みの時期に仕事をしな がら家族と長期間宿泊したいが,費用は抑えたいという要望が増えている. 〔B 旅館のアクションプラン〕 B 旅館は,B旅館の現状や従業員の補充状況を踏まえると,経営目標を達成するた めには,業務効率化,集客力向上,若手仲居の育成早期化を実現することが必要と 考え,次のアクションプランを作成した. ① 業務効率化 ・予約情報を一元管理できる予約台帳とすることによって,予約台帳のメンテナン スに掛かっていた時間を削減したり,予約台帳で予約情報の変更をリアルタイム に管理できるようにしたりする. ・接客情報や業務状況を可視化し,全ての従業員で共有することによって,情報連 携に要していた時間を削減したり,従業員の空き時間を活用できるようにしたり する. ② 集客力向上 ・適切なタイミングで利用客に向けてプロモーションを行う. ・通常より料金を抑えた夏季及び冬季限定の長期滞在家族プランを新設する. ③ 若手仲居の育成早期化 ・ベテラン仲居が暗黙知として保有しているノウハウを形式知化し,若手仲居が学 習,実践できるようにする. ・実践結果とベテラン仲居からのフィードバックを記録して振り返りを行うととも に,自己学習を可能として育成早期化を図る. 〔旅館管理システムの概要〕 B 旅館は,これらのアクションプランを実現するために,宿泊業向けの SaaSなど のクラウドサービスを活用して,旅館管理システムを構築することとした. 旅館管理システムの概要を図1に示す. (1) デバイス ・全ての従業員にタブレットとインカムを持たせ,タブレット経由で旅館管理シス テムにアクセスする. (2) 社内チャット ・従業員は,タブレットを用いて接客情報や業務連絡を社内チャットに登録するこ とができる. ・社内チャットのうち,接客情報は,利用客名や部屋番号などをタグとして登録す ることによって,顧客管理と連携できる. ・社内チャットのうち,今後の業務に役立ちそうな内容は,ノウハウとしてナレッ ジベースに連携できる. (3) ナレッジベース ・従業員が共同で業務ごとのナレッジやノウハウを追加・編集できる. ・OJTに関する実践結果とフィードバックを記録できる. ・蓄積されたナレッジやノウハウから AI によってシーン別の問題を作成し,従業 員が自己学習することができる. (4) 予約管理 ・電話での予約を予約情報として登録できる. ・予約情報の変更や削除ができる. ・提携している旅行予約サイトと双方向に予約情報を連携できる. (5) 顧客管理 ・予約管理から,利用客に関する情報を顧客管理に連携できる. ・全ての利用客について,接客情報,予約情報,利用後アンケート結果を顧客情報 と関連付けて蓄積し,確認できる. ・顧客情報と関連付けられた予約情報,利用後アンケート結果を自然言語解析する ことによって,宿泊目的に関する情報を分析できる. (6) 清掃管理 ・タブレットから客室清掃の作業結果を報告できる. (7) 情報セキュリティ ・旅館管理システムで扱う情報の特性を踏まえ,情報の漏えい,改ざん,毀損,滅 失などへの対策を強化する. 〔従業員からの意見〕 従業員に対して旅館管理システムの機能説明を行ったところ,仲居から,“採用予 定のタブレットとインカムは目立ちすぎてB旅館の雰囲気にそぐわない”や“常に館 内を歩き回っているので,手を使わずに社内チャットに登録できればより効率的に なる”という意見が挙がった.これらの意見に対応するために,インカムとタブレ ットは目立たないサイズや色を選定するとともに,ある機能を追加して社内チャッ トの登録を効率化することとした. 設問1 〔B 旅館における業務改革推進の背景〕について,B 旅館が経営目標を達成す るために活用すべき強みは何か.30字以内で答えよ. 設問2〔B 旅館のアクションプラン〕について答えよ. (1) 業務効率化が必要となった背景であるB旅館の従業員の補充状況とはどの ような状況か.35字以内で答えよ. (2) 業務効率化によって得られる仲居に関連する時間的なメリットを二つ挙げ, それぞれ 20字以内で答えよ. (3) 長期滞在家族プランを新設する背景となった利用客のニーズを 30字以内で 答えよ. 設問3 〔旅館管理システムの概要〕について答えよ. (1) 社内チャットが仲居の育成早期化に有用である理由を35字以内で答えよ. (2) 顧客管理において,宿泊目的に関する情報を分析できる機能を実装した目 的を35字以内で答えよ. (3) 客室清掃に関して,タブレットから作業結果を報告できる機能を追加した 目的を20字以内で答えよ. (4) 情報の漏えい,改ざん,毀損,滅失などへの対策を強化する目的を,旅館 管理システムで扱う情報の特性を踏まえて 20字以内で答えよ. 設問4 〔従業員からの意見〕について答えよ. (1) タブレットとインカムに目立たないサイズや色を選定した狙いを25字以内 で答えよ. (2) チャットの登録に関して,どのような機能を追加するか.25字以内で答え よ.
図1 旅館管理システムの概要.旅行予約サイト,利用客及び従業員端末を接続するクラウドサービス構成図.
図1 旅館管理システムの概要.旅行予約サイト,利用客及び従業員端末を接続するクラウドサービス構成図.
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目的と手段を分けて考える視点

業務やシステムについて考えるときは、実現したい目的と、そのために用いる手段を分けて整理しましょう。記述された内容が何を目指しているのかに注目し、言葉の印象だけで目的を補わないことが大切です。

この問題で問われていること

確認する観点は、目的と手段が混同されていないかという一点です。示されている情報の範囲で、目指す状態とそれに向けた取組を区別し、両者の関係がどこまで説明されているかを落ち着いて確かめてください。

視点

整理するときは、「何を目指すか」と「そのために何を行うか」を分けて捉えます。目的と手段のつながりを考える際は、示された内容と、自分で補った解釈を区別しましょう。

確認ポイント

  • 目的として述べられている内容を捉えたか
  • 手段に当たる内容を目的と混同していないか
  • 目的と手段のつながりを推測で補っていないか
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解説

B旅館は、人員補充が進まない状況で、利用客に寄り添った接客を強化しながら稼働率向上を目指しています。情報共有による時間確保、ノウハウの形式知化、宿泊目的に応じた販促などを、本文の課題と結び付けて説明することが要点です。

問題の全体像

B旅館は、感染症流行時に削減した従業員の補充が進まない中、観光需要の回復とワーケーション需要を捉え、従来を超える稼働率を目指しています。そのため、現状の従業員で接客の強みを強化しつつ、業務効率化、集客力向上、若手仲居の育成早期化を進めます。公式資料の出題趣旨では、自社の特性や課題の分析、対応策の立案、システム化機能の整理能力を問うとされています。各設問では、本文の課題と施策・機能の関係を具体的に読み取ることが必要です。

設問1

冒頭の、教育が行き届いた仲居による接客がリピータや口コミ経由の利用客獲得につながっている記述に着目します。利用客のニーズや好みを把握した気遣いや演出が、顧客体験価値を高めています。公式解答例では「教育が行き届いた仲居を中心とした利用客に寄り添った接客」とされています。30字以内で、教育された仲居と利用客に寄り添う接客を押さえます。採点講評では、建物などの外形的特長を挙げた解答が指摘され、顧客獲得につながる接客の強みを理解することが求められています。

設問2(1)

〔B旅館における業務改革推進の背景〕の、削減した従業員の補充は思うように進まず、今後の見通しも立っていないという記述が根拠です。稼働率向上には人手が必要ですが、増員を見込めないため、現状の従業員で業務を効率化する必要があります。公式解答例では「従業員の補充が思うように進まず,今後の見通しも立っていない状況」とされています。35字以内で、補充の停滞と見通しの欠如の両方を示します。

設問2(2)

〔B旅館の現状〕の接客業務には、口頭での情報連携に時間が掛かることと、ベテラン仲居が若手を育成する時間を取れないことが挙げられています。接客情報や業務状況を共有して連携時間を削減すれば、この二つに時間を振り向けられます。公式解答例では「接客業務に使える時間が増やせる」「若手仲居を育成する時間を確保できる」が示されています。それぞれ20字以内で、接客時間の増加と育成時間の確保を別々に記述します。

設問2(3)

〔B旅館の現状〕のマーケティングにある、仕事をしながら家族と長期間宿泊したいが、費用は抑えたいという要望に着目します。夏季・冬季限定の低料金プランは、この要望に対応するものです。公式解答例では「費用を抑えつつ仕事をしながら家族と長期間宿泊したいニーズ」とされています。30字以内で、費用抑制、仕事との両立、家族との長期宿泊をまとめます。夏冬の稼働率低下は旅館側の課題であり、ここでは利用客のニーズを答えます。

設問3(1)

社内チャットのうち、今後の業務に役立つ内容をノウハウとしてナレッジベースに連携できる記述に着目します。ベテラン仲居の接客上の工夫を記録して蓄積することで、本人の経験に依存していた暗黙知を、若手が学べる形式知にできます。公式解答例では「ベテラン仲居が保有しているノウハウを形式知化できるから」とされています。35字以内で、ベテラン仲居のノウハウを形式知化できることを理由として示します。

設問3(2)

〔B旅館の現状〕では、同伴者の誕生日や結婚記念日などが宿泊目的として多い一方、その情報を蓄積・管理できていません。顧客管理で予約情報や利用後アンケートを分析すれば、こうした宿泊目的を把握し、アクションプランの販促に活用できます。公式解答例では「適切なタイミングで利用客に向けてプロモーションを行うため」とされています。35字以内で、適切なタイミングでのプロモーションという目的を示します。分析手法や自己学習の機能ではなく、集客にどう使うかを答えます。

設問3(3)

清掃業務では、部屋によって所要時間が異なり、時間が余る清掃係も他の清掃係の状況が分からず支援できないことが課題です。タブレットから作業結果を報告して状況を共有することで、空き時間を他の清掃の支援に使えます。公式解答例では「時間の余る清掃係を支援に回すため」とされています。20字以内で、時間が余る清掃係を支援に回すという目的を示します。

設問3(4)

接客情報には、アレルギーや身体の状況などの要配慮個人情報が含まれ得るという記述が根拠です。旅館管理システムはこの情報を蓄積・共有するため、漏えいや改ざん、毀損、滅失などへの対策が必要になります。公式解答例では「要配慮個人情報を適切に管理するため」とされています。20字以内で、保護対象の特性である要配慮個人情報と、適切な管理という目的を示します。

設問4(1)

〔従業員からの意見〕の、デバイスが目立ちすぎて旅館の雰囲気にそぐわないという指摘を、冒頭の伝統と格式を感じさせる雰囲気という特長に結び付けます。目立たないサイズや色の選定は、その雰囲気を保つためです。公式解答例では「伝統と格式を感じさせる雰囲気を守るため」とされています。25字以内で、守る対象が伝統と格式を感じさせる雰囲気であることを示します。

設問4(2)

仲居の、館内を歩き回っているので手を使わずに社内チャットへ登録したいという意見に着目します。インカムを使って話した内容をチャットに登録できれば、タブレットでの手入力に掛かる手間を減らせます。公式解答例では「音声を社内チャットとして登録する機能」とされています。25字以内で、音声を社内チャットとして登録することを明示します。単に音声で会話できる機能と書くと、チャットへの登録という要件が伝わりません。

学習のポイント

機能の説明と導入目的を区別し、経営目標、業務課題、施策、システム機能のつながりを読み取る練習をしましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和6年度春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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