STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

令和5年度春期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 モーションシミュレーターの事業展開に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 F社は,センサーや筐体,機械製品などを対象とした実験・試験装置の設計,製造販売,据付工事を行うメーカーで,動揺や振動を模擬するモーションシミュレーターを主力製品としている。 モーションシミュレーターは,対象品に対し,外部から動きを与える装置である。 F社のモーションシミュレーターは,台を支持する6本の電動シリンダを伸縮させることで,台に載せた対象品に対して前後(X軸),左右(Y軸),上下(Z軸)方向の動きと,左右方向の傾き(ロール),前後方向の傾き(ピッチ),左右方向の回転(ヨー)の,空間6自由度の動きを自在に作り出す装置である。 F社のモーションシミュレーターを図1に示す。 図1 F社のモーションシミュレーター F社のモーションシミュレーターは,最大搭載質量500kgの比較的小型の製品であり,ジャイロセンサーや慣性センサーなどの性能計測と校正,及び筐体や機械製品などの強度計測を目的とした実験・試験装置で,設定したシナリオに従って台を動かす機能をもち,自由度と精度の高さで他社に秀でている。 F社は,今後見込まれる市場の要求を分析して,保有技術を生かした新たな製品を開発して市場に投入することで,より高い業績を目指すことを方針とした。 〔モーションシミュレーターの役割〕 一般的にモーションシミュレーターは,開発用と訓練用に分けられる。 開発用のモーションシミュレーターは,性能の検討や設計上のデータを得るために用いられる。ただし,近年は,現実の世界をモデル化し,コンピュータ上でシミュレーションして設計上のデータを得る手法で開発を進めることが多い。空飛ぶクルマなど,今後実現される製品の多くはコンピュータ上のシミュレーションによって開発が進められるものと考えられている。 訓練用のモーションシミュレーターは,実物では技術的又は経済的に困難な条件を何度も自由に再現でき,実物での訓練よりも経済面・安全面で勝るので,航空機の操縦訓練やレーシングドライバーの養成などに活用される例が多い。 航空機の訓練用モーションシミュレーターは,航空機メーカーが重工業メーカーと協業して開発したものが多く,航空機メーカーと重工業メーカーの保有技術に基づいた歴史ある製品となっている。 自動車の訓練用モーションシミュレーターは,一般の運転者向けの製品は例が少ないが,レーシングドライバーやレーシングゲーム愛好者が車の性能を限界まで引き出す運転技術を磨くことを目的とした製品があり,自由度と精度は限定的であるが,運転者が行った操作の体感へのフィードバックなど,車種ごとの性能や特徴を体感できる機能を備えている。 〔市場分析〕 F社のITストラテジストであるB氏は,自社の方針に従い,保有技術が生かせると見込まれる市場を調査した結果,政府が“空の移動革命に向けたロードマップ”を示したことで,2020年代後半から急速に輸送サービスの拡大が想定される空飛ぶクルマの市場が,F社の新たな事業領域として有望と考えた。そして,現時点で想定される空飛ぶクルマに期待される構想と活用シーンを調べ,次に示すとおり整理した。 (1)空飛ぶクルマに期待される構想 ・2030年代頃に,操縦者不要な自動操縦も実用化することが想定される。 ・操縦者不要な自動操縦は,専用の離着陸場で離着陸することを前提としている。 ・操縦者不要な自動操縦の実用化までは,操縦支援を受けながら,操縦者の操縦で飛行する必要があり,専用の操縦免許が設定される見込みである。 ・空飛ぶクルマは,機種ごとに操縦方法や性能・特性が異なるので,操縦免許は教習を受けた機種ごとに限定する方向で政府が検討を進めている。 ・操縦者が操縦する空飛ぶクルマには,旅客輸送で操縦者が搭乗して操縦する場合と,荷物輸送で操縦者が遠隔から操縦する場合が想定されている。 ・旅客輸送で操縦者が搭乗して操縦する場合は,空間6自由度に対する精度の高い操縦が求められると想定される。 ・荷物輸送で操縦者が遠隔から操縦する場合は,飛行時間の多くを占める巡航を自動操縦にすることを前提に,離着陸時などは1人の操縦者で複数の空飛ぶクルマを切り替えながら,視覚情報だけを基に操縦することも想定されている。 ・航続時間1時間程度,飛行速度100km/時程度の性能を想定している。 (2)空飛ぶクルマに期待される活用シーン ・都市内の移動では,地上の道路の混雑に対して,空を飛ぶことによって信号待ちや渋滞を避けることができ,短時間での移動が可能となる。 ・離島や山間地域など,過疎地で公共交通機関を維持できない地域が増えているが,そうした場所でも必要時に容易に過疎地の人の移動が可能となる。 ・災害時・緊急時に,医者や被災者,急病人やけが人,物資などを運ぶ活用シーンも期待されている。 B氏が調べたところ,現在,災害時・緊急時に活用されている消防防災ヘリ及びドクターヘリの航続時間は2.5時間程度,飛行速度230km/時程度の性能で,厳しい気象条件と場所での運用も強いられている。特に,突風や視界不良などの厳しい気象条件における姿勢維持や不特定の場所における離着陸では,視界だけでなく,機体の移動や動揺を体感しながら操縦する必要があり,対応できる操縦技能の高い操縦士が不足していること,操縦士の配備にコストが多く掛かっていることが分かった。 市場分析の結果,B氏は,空飛ぶクルマの操縦訓練をするためのモーションシミュレーターを新製品として開発することがよいと考えた。 また,B氏は,消防防災ヘリ及びドクターヘリに加えて,空飛ぶクルマを災害時・緊急時を想定したシーンに活用する場合は,その特性を考慮すると,現在の消防防災ヘリ及びドクターヘリよりも多くの拠点に配備される必要があると考えた。 〔要求仕様の定義〕 B氏は,空飛ぶクルマの訓練用モーションシミュレーターに対する機能・要求を分析し,次のように整理した。 ・視界だけでなく,機体の移動や動揺も体感しながらの訓練ができること ・操縦者の操縦結果を,視覚情報や空間6自由度の動きに加え,操縦桿やペダルなどの操縦装置の反力にもフィードバックすること ・空飛ぶクルマの機種ごとの性能・特性を再現できること 〔製品技術の分析〕 B氏は,システムアーキテクトのC氏に,空飛ぶクルマの訓練用モーションシミュレーターの開発に必要となる技術の分析を依頼した。 C氏は分析結果を次のようにまとめて報告した。 ・視界はARゴーグルを用いれば体感させることができる。 ・機体の移動や動揺を体感させるようにするには,実機と同じ操縦席及び操縦装置をF社のモーションシミュレーターに載せて動かせばよい。 ・空飛ぶクルマの機種ごとの性能・特性を再現するために設計上のデータが必要だが,空飛ぶクルマにモーションシミュレーターで外力を与え,空飛ぶクルマがどのような反応,挙動を示すかを計測して設計上のデータを得ようとすると相当時間が掛かる。 ・操縦者の操縦結果を,視覚情報や移動,動揺に加え,操縦桿やペダルなどの操縦装置の反力に与えるためのフィードバックの制御技術の開発は,F社では難しい。 〔新製品の検討〕 B氏は,F社の新製品として,空飛ぶクルマの開発を進めているメーカーとの協業,及びレーシングゲーム用のモーションシミュレーターを作る国内メーカーとの技術提携を前提として,空飛ぶクルマの操縦訓練をするためのモーションシミュレーターを開発する事業提案を取りまとめた。 B氏は,今後見込まれる市場の要求として操縦訓練をするためのモーションシミュレーター以外に空飛ぶクルマの荷物輸送の遠隔操縦システムもあると分析したが,F社の保有技術を生かせないと考え新製品の対象から外した。 〔将来の事業展開〕 B氏は,将来の発展的な製品として,空飛ぶクルマの操縦訓練をするためのモーションシミュレーターに機能を加え,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムを考えた。 B氏は,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの活用における遠隔操縦は,操縦者不要な自動操縦の実用化に至った後も残ると考え,将来の事業展開の方針として,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムを開発し,販売することにした。また,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムを販売することで,現在の市場における問題を改善できると考えた。 設問1〔市場分析〕について答えよ。 (1)B氏が,市場分析の結果,空飛ぶクルマの操縦訓練をするためのモーションシミュレーターを新製品として開発することがよいと考えるに至った,F社主力製品の技術面の特徴は何か。25字以内で答えよ。 (2)B氏が,空飛ぶクルマを災害時・緊急時を想定したシーンに活用する場合は,現在の消防防災ヘリ及びドクターヘリよりも多くの拠点に配備される必要があると考えたのはなぜか。40字以内で答えよ。 設問2〔新製品の検討〕について答えよ。 (1)B氏が,F社の新製品を開発するに当たり,空飛ぶクルマの開発メーカーとの協業を前提とした技術面の目的は何か。20字以内で答えよ。 (2)B氏が,レーシングゲーム用のモーションシミュレーターを作る国内メーカーとの技術提携を前提とした技術面の理由は何か。35字以内で答えよ。 (3)B氏が,F社の保有技術を生かせないと考え新製品の対象から外した理由となる,空飛ぶクルマの荷物輸送の遠隔操縦システムの特徴は何か。25字以内で答えよ。 設問3〔将来の事業展開〕について答えよ。 (1)B氏が,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの活用における遠隔操縦は,操縦者不要な自動操縦の実用化に至った後も残ると考えたのはなぜか。30字以内で答えよ。 (2)B氏が,災害時・緊急時を想定した空飛ぶクルマの遠隔操縦の訓練用システムを販売することで改善できると考えた現在の市場における問題は何か。35字以内で答えよ。
図1 F社のモーションシミュレーター。6本の電動シリンダで台を支持し,初期状態と動作例を示したF社の6自由度モーションシミュレーターの図。
図1 F社のモーションシミュレーター。6本の電動シリンダで台を支持し,初期状態と動作例を示したF社の6自由度モーションシミュレーターの図。
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判断の根拠と前提の対応を確認する

製品開発や事業展開を考えるときは、判断の根拠が何かに注目しましょう。与えられた情報と、自分が補っている前提を分けて整理すると、もっともらしい印象だけで結論へ進むことを防ぎやすくなります。

この問題で問われていること

考えを進める際は、使おうとしている情報が、その判断を支える根拠になっているかを確認してください。情報として示されていることと、そこから自分で推測したことを区別し、根拠と前提の対応に注目しましょう。

視点

根拠は、判断を支えるために参照する情報です。前提は、その判断を考える際に置いている条件です。自分で補った前提を、与えられた情報と同じものとして扱っていないかを確かめましょう。

確認ポイント

  • 判断の根拠にした情報は何か
  • その根拠は与えられた情報に含まれるか
  • 自分で補った前提を根拠と混同していないか
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解説

F社の自由度と精度の高さを空飛ぶクルマの操縦訓練に生かし、不足する設計データと制御技術を他社との連携で補う事例です。通常の荷物輸送と災害時・緊急時の運用条件を区別し、将来も残る訓練需要と操縦士不足を結び付けて読み解きます。

問題の全体像

F社は、実験・試験用のモーションシミュレーターを主力製品とするメーカーです。自由度と精度の高さを強みとして、成長が見込まれる空飛ぶクルマの操縦訓練市場への進出を検討しています。新製品には機種別の性能・特性の再現や操縦結果のフィードバックが必要であり、開発メーカーとの協業と、レーシングゲーム用製品のメーカーとの技術提携を計画します。さらに、災害時・緊急時の遠隔操縦訓練へ製品を発展させる構想です。公式の出題趣旨では、市場の将来構想を分析し、新製品の企画と要求仕様の定義、協業する企業との関係構築を含む事業戦略の策定を行う能力が問われています。

設問1(1)

着目するのは、冒頭のF社製品の説明にある「自由度と精度の高さで他社に秀でている」という記述です。市場分析では、旅客輸送の操縦に空間6自由度に対する高い精度が求められるため、この強みを操縦訓練用製品に生かせます。公式解答例では「自由度と精度の高さで他社に秀でている。」としています。25字以内では、自由度と精度の高さに加え、他社より優れている点を押さえます。採点講評では、モーションシミュレーターの一般的な機能にとどまり、F社主力製品の特徴に言及していない解答が指摘されています。

設問1(2)

〔市場分析〕に示された航続時間と飛行速度を比較します。空飛ぶクルマは約1時間・約100km/時、消防防災ヘリ及びドクターヘリは約2.5時間・約230km/時です。空飛ぶクルマは航続時間が短く速度も遅いため、一つの拠点から対応できる範囲が小さくなり、多くの拠点への配備が必要になります。公式解答例では「消防防災ヘリ及びドクターヘリに比べ,航続時間が短く速度が遅いから」としています。40字以内では、比較対象と、航続時間・速度の二つの差をまとめます。

設問2(1)

〔要求仕様の定義〕の「機種ごとの性能・特性を再現できること」と、〔製品技術の分析〕の「設計上のデータが必要」という記述を結び付けます。F社が実機に外力を与えて反応や挙動を計測すると、データの取得に相当の時間が掛かります。そのため、空飛ぶクルマの開発メーカーとの協業によって、再現に必要な設計データを得ることが技術面の目的です。公式解答例では「設計上のデータを得るため」としています。20字以内では、取得するものを設計上のデータと明示します。

設問2(2)

〔製品技術の分析〕の、操縦結果を操縦桿やペダルの反力へ与えるフィードバックの制御技術は、F社では開発が難しいという記述が直接の根拠です。一方、〔モーションシミュレーターの役割〕では、レーシングゲーム用などの製品に操作の体感へのフィードバック機能があると説明されています。したがって、技術提携はF社に不足する制御技術を補うためです。公式解答例では「フィードバックの制御技術の開発はF社では難しいから」としています。35字以内では、難しい技術の名称と、F社での開発の難しさを押さえます。

設問2(3)

〔市場分析〕にある、荷物輸送では「視覚情報だけを基に操縦することも想定されている」という記述に着目します。この方式では、操縦者が機体の移動を体感する必要がないため、動きを高い自由度と精度で再現するF社の保有技術を生かせません。公式解答例では「視覚情報だけを基に操縦する。」「操縦に移動の体感が不要」という要点が示されています。25字以内では、視覚情報だけで操縦する特徴、又は移動の体感が不要という特徴を簡潔に示します。巡航が自動操縦であることだけでは、F社の技術を生かせない理由が明確になりません。

設問3(1)

〔市場分析〕では、操縦者不要の自動操縦は専用の離着陸場を前提としています。一方、災害時・緊急時には、突風や視界不良などの厳しい気象条件や、不特定の場所での離着陸への対応が必要です。また、その際には機体の移動や動揺を体感しながら操縦する必要があるとされています。この運用条件の違いから、自動操縦が実用化した後も遠隔操縦の需要が残ると考えられます。公式解答例では、厳しい気象条件と場所での運用、又は移動や動揺を体感しながら操縦する必要性が示されています。30字以内では「厳しい気象条件と場所での運用を強いられるから」のように、災害時・緊急時の運用上の理由に絞ります。

設問3(2)

〔市場分析〕の、厳しい気象条件や場所に対応できる「操縦技能の高い操縦士が不足している」という記述が根拠です。災害時・緊急時の遠隔操縦を訓練できるシステムによって、そうした条件に対応する操縦技能の習得を支援し、不足の改善につなげます。公式解答例では「災害時・緊急時に対応できる操縦技能の高い操縦士の不足」としています。35字以内では、対応する場面、必要な技能、操縦士の不足をまとめます。採点講評では、空飛ぶクルマの一般的な活用シーンを示した解答が指摘されており、現在の市場における人材不足を答えることが重要です。

学習のポイント

設問が求める対象を特定し、市場要求、自社の強み、技術上の不足、将来の需要を本文の根拠で結び付ける練習をしましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和5年度春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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