STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

令和5年度春期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 アパレル製造小売事業者における新たなビジネスプロセスの構築に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 M社は,20代~30代を主要顧客とした中堅のアパレル製造小売事業者である。 M社は,全国の都市部を中心に100店舗程度を展開しており,同業他社に先駆けて15年前から自社ECサイト(以下,ECサイトという)を開設して通販にも取り組んできた。また,ECサイトの開設に合わせて,個人顧客の会員向けポイントサービスを開始し,登録会員数は100万人を超えている。 会員向けポイントサービスでは,実店舗及びECサイトでの購買データがデータベース化され,会員の購入金額に応じて実店舗やECサイトで商品代金として利用可能なポイントを付与しており,ポイントの利用率は高い。 また,M社では在庫管理システムで,実店舗や倉庫の在庫データを管理している。 〔M社の事業概要と課題〕 M社は,世界のファッション見本市から半年先の流行を予測し,春物,夏物,秋物,冬物の年4回のシーズンごとに商品開発を行い,販売している。生産は自社工場で行っており,近年設備投資を行い,短納期での多品種少量生産にも対応可能になった。 M社の商品開発は,従来は手書きのデザイン案を基にした実物サンプル品を作成し,実物サンプル品を人間のモデルが着用してデザインの確認と修正を行ってきた。手書きのデザイン作成は,デザイナー1人当たり1日1件程度が限界である。M社は,自社工場の生産に関する設備投資に合わせて,デザイン案とサンプル品をデジタルデータで作成し,人物画像とサンプル品を合成して確認と修正が可能なデザイン支援システムをベンチャー企業と共同開発した。これによって,デザインの作成効率は4倍程度にまで向上している。 また,M社は,若手デザイナーを積極的に登用し,若手デザイナーが流行を的確に捉えた商品を開発することによって,顧客に評価され,売上げを伸ばしてきた。しかし,最近では情報流通速度の高まりによって流行がシーズン期間中に変化するようになり,特にシーズン後半の売上げが停滞するようになった結果,M社全体として売上げが減少傾向にある。これによって,M社の経営状況は悪化してきており,大きな経営課題となっている。 〔会員アンケートの結果〕 M社は,顧客のニーズや体験を把握し直し,現状の経営課題に対する解決策の検討を目的として,会員に対して大規模かつ詳細なアンケート(以下,会員アンケートという)を実施した。その結果を分析したところ,次のような傾向が確認できた。 ・流行をいち早く取り入れながらも他人と異なるファッションに魅力を感じるという会員が多かった。 ・シーズン中に商品の入替えがなく,シーズン後半になるとその時点の流行を捉えた商品が見つからなくなるという意見が多かった。 ・販売するデザインに会員の意見を取り入れてほしいという意見が多かった。 ・ECサイトによる通販では,気になった商品をとりあえず買い物カゴに入れて,今後購入したい商品リストのように使用するが,購入しようと思ったときには品切れになっていて残念だったという体験を有する会員が多かった。 ・ECサイトによる通販で購入した商品を実際に着用してみると,想像していたイメージと異なるという理由で返品した体験を有する会員が多かった。 M社は,現状の経営課題を解決するために,会員アンケートの分析結果を踏まえた検討を行った結果,顧客体験価値(UX)の向上が必須であると考え,新たなビジネスプロセスを構築することとした。ただし,新たなビジネスプロセスの構築はM社には大きな投資となるので,慎重な進め方をする必要がある。 〔新たなビジネスプロセスと実現策〕 新たなビジネスプロセスでは,自社の強みを生かし,“最新を最短で”をコンセプトとして,1か月ごとの短期サイクルで,デザイン案に対する会員の投票や感想を基に多品種少量の新商品を市場に投入することとした。 新しいビジネスプロセスの実現には,デザイン案に対する会員からの投票や感想を限られた期間で収集する仕組みが必要となる。また,デザイン案を効率的に作成する能力や短期間で商品を生産する能力も求められる。 新しいビジネスプロセスでは,1か月サイクルの新商品の市場投入を実現するために,次のようなプロセスを採用することとした。 ① 若手デザイナーが新しいデザイン案を常に作成し,大量にストックする。 ② 常にストックされ続けるデザイン案の中から,翌月に販売するデザインの候補(以下,候補デザインという)を一定数選択する。 ③ 過去3か月間に商品の購入で得た獲得ポイント上位の会員を投票者として選定し,販売開始の4週間前から,候補デザインの中から着てみたいものに投票してもらうと同時に,候補デザインに対する感想も提供してもらう。 ④ 投票や感想の提供を行った会員にはポイントを付与する。 ⑤ 販売開始2週間前の時点で投票や感想の提供を締め切り,実際に販売するデザインを選定し,2週間で生産して販売する。 ⑥ 翌月以降は,②~⑤を繰り返す。 M社は,経営会議において新たなビジネスプロセスの構築を決定した。CTO(Chief Technology Officer)であるY氏は,IT企画室に対し,このプロセスを実現するために必要なデジタル技術を活用した施策の検討(以下,デジタル活用施策という)及び検討した施策の実行計画の策定を指示した。ただし,経営会議では,経営層が“施策に対する投資については,施策の投資効果を検証しながら段階的に行うこと”という条件をつけている。 M社のIT企画室のリーダーであるX氏は,次の2点を開発する施策を立案した。 ・会員から感想の収集や投票の受け付けを可能とする,モバイルデバイスで利用するECサイトの機能を拡張したアプリケーションプログラム(以下,モバイルアプリという) ・既存のデータやモバイルアプリを通じて新たに得られるデータを活用するためのデータ分析基盤 〔デジタル活用施策の概要〕 モバイルアプリとデータ分析基盤それぞれの機能の概要は次のとおりである。 (1)モバイルアプリ ・会員は,モバイルアプリ内で商品を選択して商品イメージや仕様を確認できる。 ・会員は,商品の感想を“好き・嫌い”のボタンとテキストのコメントで送信できる。 ・会員は,気に入った商品が見つかった場合は,買い物カゴに入れたり,購入したりできる。 ・会員に対してモバイルアプリからメッセージをプッシュ通知できる。 ・候補デザインの投票者に選ばれた会員(以下,投票者という)に対して,投票者に選ばれた旨と投票期限の通知を行い,候補デザインへの投票を促すことができる。 ・投票者は,モバイルアプリから通知を受けて,着てみたい候補デザインを選択することによって投票できる。 ・投票者は,候補デザインについても商品と同様に感想を送信できる。 (2)データ分析基盤 ・データ分析基盤には,会員データ,購買データ,在庫データ,買い物カゴデータ,モバイルアプリからの投票結果データと感想データが蓄積できる。 ・投票者からの候補デザインに対する投票結果データ及び感想データを分析し,候補デザインを評価できる。 ・㋐商品に対する感想データから会員の好みを分析し,その会員の好みに合い,かつ,他の会員があまり購入していない商品情報をメッセージとして自動生成し,モバイルアプリに連携できる。 〔CTOからのコメント〕 M社のCTOであるY氏は,X氏の提案に対し,次の指摘を行った。 ① 施策をある期間実施して投資効果の検証を行うこと。 ② 会員アンケートの分析結果を踏まえて,モバイルアプリによる通販のUXを高める対策を追加で検討すること。 X氏は,指摘①を考慮して,施策の実行計画を立案した。指摘②に対しては,次の二つの対策を立案した。 ・ほぼ全てのモバイルデバイスにカメラが装備されている現状を踏まえて,モバイルアプリにM社が導入しているデザイン支援システムの“人物画像とデジタルデータのサンプル品を合成する技術”を応用した機能を追加する。 ・買い物カゴの利用方法に関連して,データ分析基盤からあるメッセージを生成し,会員に通知する。 設問1 〔会員アンケートの結果〕について,M社が新たなビジネスプロセスを構築することによって,どのような目的を達成しようとしたか。15字以内で答えよ。 設問2 〔新たなビジネスプロセスと実現策〕について,新たなビジネスプロセスを実現するために活用すべきM社の強みを,商品開発面と生産面からそれぞれ30字以内で答えよ。 設問3 〔デジタル活用施策の概要〕について答えよ。 (1)候補デザインに対して,より多くの投票や感想を集めるための施策を30字以内で答えよ。 (2)データ分析基盤において,本文中の下線㋐の機能を実装した目的を35字以内で答えよ。 設問4 〔CTOからのコメント〕について答えよ。 (1)Y氏の指摘①について,Y氏が,“施策をある期間実施して投資効果の検証を行うこと。”と指摘した理由を20字以内で答えよ。 (2)Y氏の指摘②について,X氏が,モバイルアプリに機能を追加することによって応えられると考えた会員のニーズは何か。35字以内で答えよ。 (3)Y氏の指摘②について,買い物カゴの利用方法に関連して,会員にどのようなメッセージを通知するべきか。30字以内で答えよ。
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検討対象の範囲をそろえる視点

ビジネスプロセスの改革やデジタル活用を考える際は、まず検討対象の範囲に着目しましょう。与えられた情報の中で、どこまでの活動を対象としているかを確かめ、読み取りの途中で範囲を広げたり狭めたりしていないかを点検します。

この問題で問われていること

この分野の問題では、検討対象の範囲を自分の想像で補っていないかを確認する視点が役立ちます。記載された情報から読み取れる範囲と、まだ確かめられない範囲を分けて捉え、同じ範囲で考え続けられているかを振り返りましょう。

視点

検討対象の範囲とは、考察に含める活動の広がりです。記載から読み取れる範囲を言葉にしておくと、自分が置いた前提で対象を変えていないかを振り返りやすくなります。

確認ポイント

  • 検討対象の範囲を、与えられた情報に沿って捉えているか。
  • 記載のない活動まで、想像で対象に含めていないか。
  • 考える途中で、対象の範囲を広げたり狭めたりしていないか。
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解説

流行の変化に対応できず売上げが減少するM社が、会員の意見を反映して毎月新商品を投入する事例です。経営課題、商品開発・生産の強み、会員のニーズを対応付け、UXを高めるデジタル施策と段階的な投資の進め方を読み取ることが要点となる。

問題の全体像

M社は、年4回のシーズンごとに商品を開発しているが、シーズン中にも流行が変化するようになり、後半の売上げが停滞して経営状況が悪化している。そこで、会員の投票や感想を商品開発に反映し、1か月ごとに多品種少量の新商品を投入するプロセスを構築する。モバイルアプリとデータ分析基盤は、会員の意見収集や通販のUX向上を支える仕組みです。公式の出題趣旨では、経営課題を把握し、課題に合ったIT施策と適切な実行計画を検討する能力を問うとしている。各設問では、経営上の目的、自社の強み、会員のニーズ、投資条件を結び付けて読む必要がある。

設問1

〔M社の事業概要と課題〕の末尾にある、売上げの減少によって経営状況が悪化しているという記述に着目する。〔会員アンケートの結果〕でも、新たなビジネスプロセスは「現状の経営課題を解決するため」に構築すると述べている。UXの向上や短期サイクルの商品投入は、その目的を達成するための手段です。公式解答例では「経営状況の悪化を防ぐこと」としている。15字以内の答案では、経営状況の悪化を防ぐという到達点を簡潔に示す。

設問2(商品開発面)

若手デザイナーが流行を的確に捉えた商品を開発し、顧客に評価されて売上げを伸ばしてきたという記述に着目する。新たなプロセスでも、若手デザイナーが新しいデザイン案を常に作成してストックするため、この商品開発能力が「最新を最短で」の実現を支える。公式解答例では「流行を的確に捉えた商品開発ができる若手デザイナー」としている。30字以内では、担い手である若手デザイナーと、その強みである流行を捉えた商品開発能力をまとめる。デザイン支援システムによる効率向上も本文にあるが、公式解答例が示す強みは若手デザイナーの能力です。

設問2(生産面)

自社工場への設備投資によって、短納期での多品種少量生産に対応可能になったという記述が根拠となる。新たなプロセスでは、販売開始2週間前にデザインを選定してから2週間で生産するので、短納期への対応と多品種少量生産の両方が必要です。公式解答例では「短納期で多品種少量生産に対応できる自社工場」としている。30字以内では、生産拠点とその対応能力を一体で示す。採点講評では、商品開発の強みを生産面の答えにした解答が見られたと指摘しており、デザインを考える活動と商品を製造する活動を区別することが重要です。

設問3(1)

新たなビジネスプロセスの④にある、投票や感想の提供を行った会員にポイントを付与するという記述に着目する。M社のポイントは商品代金として使え、利用率も高いので、参加への動機となり、限られた期間で多くの投票や感想を集めることにつながる。公式解答例では「投票や感想の提供を行った会員にポイントを付与する。」としている。30字以内では、対象となる会員の行動と、付与する特典を具体的に書く。

設問3(2)

下線㋐の機能は、会員の好みに合うことに加え、他の会員があまり購入していない商品を紹介する点に特徴がある。これを、アンケートの「他人と異なるファッションに魅力を感じる」という回答に対応付ける。好みの分析は個人の嗜好への適合を、購買状況の利用は他人と異なる商品選びを支える。公式解答例では「他人と異なるファッションに魅力を感じる会員のニーズを満たすため」としている。35字以内では、機能の処理内容を繰り返すのではなく、満たそうとする会員のニーズを示します。

設問4(1)

経営会議が付けた「施策の投資効果を検証しながら段階的に行うこと」という条件が直接の根拠です。Y氏が一定期間の実施と効果検証を求めたのは、その結果を踏まえて次の投資を判断する必要があるためです。大きな投資なので慎重に進めるという背景も、この条件につながっている。公式解答例では「段階的に投資を行う必要があるから」としている。20字以内では、段階的な投資が必要という理由を明確に示す。

設問4(2)

アンケートにある、通販で購入した商品を着用すると想像していたイメージと異なり、返品したという体験に着目する。人物画像とデジタルデータのサンプル品を合成する技術をアプリに応用すれば、購入前に着用した姿のイメージを確認できる。したがって、追加機能が応えるのは、期待したイメージと実際の商品とのずれを避けたいというニーズです。公式解答例では「想像していたイメージどおりの商品を購入したいというニーズ」としている。35字以内では、画像合成という技術名ではなく、会員が購入時に求めることを書く。

設問4(3)

会員が買い物カゴを今後購入したい商品リストとして使い、購入しようとした時点では品切れになっていたという体験に着目する。データ分析基盤には買い物カゴデータと在庫データが蓄積されるため、購入を検討している商品の在庫減少を把握し、品切れになる前に通知することが考えられる。公式解答例では「買い物カゴの商品の在庫が少なくなったというメッセージ」としている。30字以内では、対象が買い物カゴの商品であることと、在庫が少なくなったことを示します。採点講評では、未購入商品がカゴに残っているという通知や、単に「在庫状況を通知する」という解答が見られたと指摘している。会員の不満を解消するには、在庫減少という購入判断に必要な変化まで具体化することが重要です。

学習のポイント

目的と手段、商品開発と生産、機能と顧客ニーズを区別し、本文の具体的な根拠から字数内の答案を組み立てる練習をする。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和5年度春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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