STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

令和3年度春期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 タクシー会社におけるデジタルトランスフォーメーションに関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。 A社は、主に首都圏の顧客を対象としたタクシー会社で、約3、000台の車両を保有している。タクシー業界ではドライバの雇用環境を守る観点から増車が制限されており、昨今のA社の収益は横ばいとなっている。A社は、こうした事業環境の中でも収益を伸ばすために、顧客が乗車した状態(以下、実車という)で走る距離の走行距離全体に対する割合である実車率の向上、及び顧客の利便性の向上に取り組む目的で、ITを活用した新サービスを検討することにした。 〔新サービス検討の背景〕 A社の売上げの多くは、顧客が乗車していない状態(以下、空車という)で走らせて顧客を獲得する流し営業によるもので、ドライバの経験やノウハウによって、実車率にばらつきがある。そこで、A社は、現状を把握するために、顧客へのアンケート調査とドライバへのヒアリング調査を行った。 顧客へのアンケート調査では、次に示す状況に不満足を示す回答が多かった。 ・駅前などのタクシー乗り場へ行かないと、タイミングよくタクシーを拾えない。 ・目的地によっては、顧客自身が道順を指示しなければならない。 ・支払方法が限られている。 ドライバへのヒアリング調査では、次に示す回答が多かった。 ・駅前などのタクシー乗り場は、空車が集中して効率よく顧客を獲得できない。 ・目的地をカーナビゲーションシステムに登録する場合に手間が掛かり、顧客を待たせてしまう。 ・顧客が希望する決済手段に対応できず、乗車してもらえないことがある。 こうした調査結果から、A社は、ITを活用して流し営業の実車率の向上と顧客の利便性の向上を実現するデジタルトランスフォーメーション(DX)による新サービスを提供することとなった。 〔A社の新サービス〕 新サービスでは、顧客がスマートフォン(以下、スマホという)からタクシーを呼ぶことができ、多様な決済手段で乗車料金を支払うことができる。また、ドライバが車載タブレット端末から、顧客を獲得できる可能性(以下、実車確率という)の高い地域の情報を確認することができる。 A社が新サービスを提供するために構築した、ビッグデータとAIを活用できるサービスプラットフォームを図1に示す。また、サービスプラットフォームに連携するドライバ用と顧客用のアプリケーションソフトウェア(以下、アプリという)を開発した。ドライバ用の車載タブレット端末アプリ(以下、車載アプリという)では、各種ビッグデータ情報を確認でき、また、顧客がスマホから予約した注文を受け付けることができる。顧客は、スマホ向けに開発した配車マッチングサービスアプリ(以下、配車アプリという)を使って予約注文することができる。 図1 ビッグデータとAIを活用できるサービスプラットフォーム 〔車載アプリとサービスプラットフォームの連携〕 サービスプラットフォーム上で行われる分析では、外部データである地図情報、気象情報、渋滞情報、交通情報、イベント情報なども取り込んだ分析が行われ、AIを活用した需要予測を行う。 需要予測サービスでは、車載アプリの地図情報に実車確率が高い場所が分かるよう色分けを表示する。また、車載アプリ上の色分けされた地図情報には、他の空車の位置情報も表示される。分析結果及び空車の位置情報はリアルタイムに更新され、ドライバは、常に最新の実車確率の高い場所を判断できる。 空車のドライバは、顧客の予約した注文情報を車載アプリで確認して、予約・注文サービスから注文を受け付ける。顧客が受付の内容を確認して注文を確定した場合は、ドライバは顧客をピックアップし、顧客に確定した注文の内容を確認した上で、車載アプリに表示される走行ルートをたどって、注文された降車地点まで運行する。 また、サービスプラットフォームには、多くの決済サービスが利用できるよう、各種決済接続サービスを提供する。これは、クレジットカードのほか、カード型電子マネー、QRコード決済、スマホ非接触決済といった決済サービスと接続できる環境を構築し、車載アプリ経由で各種決済サービスとつなぐことができる。 〔配車アプリとサービスプラットフォームの連携〕 A社が提供する配車アプリでは、顧客が乗車地点と降車地点を指定できる。顧客が乗車地点を指定しない場合は、顧客のスマホの現在地の情報が自動設定される。空車検索サービスは、顧客の乗車地点と渋滞情報などの外部データを基に、最も早く乗車地点に到着できる空車を検索して特定する。時間・料金予測サービスは、到着までの待ち時間と、降車地点までの乗車時間及び目安料金の予測を行い、配車アプリに表示する。顧客は配車アプリの表示内容を確認した上で、注文を予約することができる。さらに、AIが、蓄積されたビッグデータを用いて、予測と実績のかい離を分析するとともに、多くの外部データから抽出された特徴量の組合せを変えることで、予測の精度を向上させていく。 〔課題と対応策〕 サービスプラットフォームをリリースした後、再び顧客へアンケート調査を行った。顧客から多かった不満足な点は、地域によって空車検索サービスにおいて空車が配車アプリに表示されず、タクシーを呼べないことであった。A社は、この点について、地域によっては、配車可能な車両台数が少ないことが原因で、空車が配車アプリに表示されないと分析した。A社は、この課題を解決することで、配車アプリの利用者を増やし、A社の顧客も増やそうと考えた。 A社が単独で増車することは規制によって難しいことから、A社は、改善のための対応策として、多様な決済手段を保有していない他のタクシー会社との提携を検討した。配車が競合しないように、A社がもつ営業所から離れていてA社からの配車が行き届かず、配車アプリにA社の空車が表示されにくい地域を中心に運行しているタクシー会社と提携する。また、車載アプリを改修し、各タクシー会社の配車システムとの連携を可能にした上で、車載アプリ及びサービスプラットフォームの利用料を無償で提供して、提携先を多く確保する方針とした。提携会社が車載アプリとサービスプラットフォームを利用することによって、顧客は、配車アプリを利用しなかったとしても、これまでにないメリットを得ることができる。 A社は課題への対応を行い、新たなサービスプラットフォームによるDXを本格的に進めることになった。 設問1 〔A社の新サービス〕について、A社が収益を伸ばすために、サービスプラットフォームを構築した目的を二つ、それぞれ10字以内で述べよ。 設問2 〔車載アプリとサービスプラットフォームの連携〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)車載アプリに、他の空車の位置情報をリアルタイムで表示する理由は何か。40字以内で述べよ。 (2)車載アプリに、走行ルートが表示されることによって、どのような顧客の不満足を解決できるのか。30字以内で述べよ。 設問3 〔配車アプリとサービスプラットフォームの連携〕について、A社は、AIが多くの外部データを活用することで、どのような改善を期待できると考えたか。30字以内で述べよ。 設問4 〔課題と対応策〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)A社が、車載アプリとサービスプラットフォームの利用料を無償で提供して、提携先を多く確保しようと考えた具体的な狙いは何か。35字以内で述べよ。 (2)提携会社の顧客が配車アプリを利用しなくても、顧客が提携会社に期待できるメリットは何か。30字以内で述べよ。
図1 ビッグデータとAIを活用できるサービスプラットフォーム。サービスプラットフォーム内にビッグデータ、分析・予測サービス、AIによる情報更新を配置し、車載アプリと配車アプリを連携させた構成図。
図1 ビッグデータとAIを活用できるサービスプラットフォーム。サービスプラットフォーム内にビッグデータ、分析・予測サービス、AIによる情報更新を配置し、車載アプリと配車アプリを連携させた構成図。
解き方のヒントを見る

サービス連携を考える評価軸

サービス連携を検討するときは、目的と効果を捉える評価の基準に注目しましょう。何をもって変化を評価するのかを意識し、異なる基準による判断を混ぜずに、与えられた情報の意味を整理することが大切です。

この問題で問われていること

この問題では、目的や効果について考える際に、評価の基準が途中で変わっていないかを確認しましょう。よさそうだという印象だけで判断せず、与えられた条件に沿った基準で捉えているかを点検してみてください。

視点

評価の基準とは、何をもって変化を捉えるかという判断のよりどころです。目的や効果を整理する際は、その基準を意識すると、異なる意味での評価を混ぜていないか確認しやすくなります。

確認ポイント

  • 評価の基準を意識できているか
  • その基準は与えられた条件に沿っているか
  • 考える途中で別の基準を混ぜていないか
正解と解説を見る

解説

増車規制の下で収益を伸ばすため、実車率と顧客の利便性を高める事例です。空車の分散、走行ルートの表示、時間・料金の予測精度向上、多様な決済への対応を具体的な課題と結び付け、提携による配車可能車両の拡大が利用者と顧客の増加につながることを捉える。

問題の全体像

A社は増車規制によって車両を増やしにくく、収益が横ばいとなっている。流し営業ではドライバの経験によって実車率に差があり、顧客にはタクシーの拾いにくさ、道順の指示、支払方法の制限という不満がある。A社はビッグデータとAIを活用するサービスプラットフォームを構築し、車載アプリと配車アプリを通じて改善を図る。導入後に判明した地域ごとの車両不足には、他社との提携で対応する。公式の出題趣旨では、現状と課題の分析、新サービスの構想・計画、その実行結果の評価・改善を行う能力が問われている。各機能を事業目的や顧客の利便性につなげて読むことが中心となる。

設問1(1)

冒頭の「収益を伸ばすために」に続く、新サービスを検討する目的に着目する。増車が制限される中では、保有車両の走行距離のうち、顧客を乗せて走る距離の割合を高めることが収益拡大につながる。実車確率の高い地域を表示する機能は、この目的を実現する手段です。公式解答例では「実車率の向上」とされている。10字以内の答案では、機能の詳細ではなく、この目的を簡潔に示す。

設問1(2)

冒頭では、実車率の向上と並んで「顧客の利便性の向上」が明記されている。スマホからタクシーを呼べること、多様な決済手段で支払えることなどは、顧客の不満を解消して利用しやすくするための機能です。公式解答例でも、二つ目の目的は「顧客の利便性の向上」とされている。10字以内では、個々の機能を列挙せず、それらに共通する目的を示します。

設問2(1)

ドライバへのヒアリングにある「空車が集中して効率よく顧客を獲得できない」という課題と、地図上に他の空車の位置情報を表示する機能を対応させる。需要の多い場所でも空車が集中すれば、顧客を獲得しにくくなる。他の空車の最新位置が分かれば、集中していない場所へ移動する判断ができる。公式解答例では、その移動によって実車率を向上させたいことが理由とされている。40字以内では「空車が集中していない場所へ移動し、実車率を向上させるため」のように、移動の判断と事業上の効果を結び付けて示す。

設問2(2)

顧客へのアンケートにある「目的地によっては、顧客自身が道順を指示しなければならない」という不満に着目する。車載アプリに走行ルートが表示されれば、ドライバはそのルートに沿って降車地点まで運行でき、顧客が道順を説明する必要がなくなる。公式解答例では、この道順を指示しなければならない不満足が挙げられている。30字以内では「目的地までの道順をドライバに指示する必要がある不満足」とまとめる。設問が求めるのは顧客の不満なので、ドライバのカーナビ登録の手間とは区別する。

設問3

〔配車アプリとサービスプラットフォームの連携〕にある、時間・料金予測サービスの説明と、AIが予測と実績のかい離を分析する記述に着目する。このサービスの予測対象は、空車の到着までの待ち時間、降車地点までの乗車時間、目安料金です。外部データから抽出した特徴量の組合せを変えることで、これらの予測精度を高める。公式解答例もこの三つを対象としている。採点講評では「需要予測の精度を向上させる」という解答が見受けられたとされ、時間・料金の予測に着目するよう求めている。30字以内では「待ち時間・乗車時間・目安料金の予測精度の向上」と、対象を具体的に示す。

設問4(1)

導入後の不満である「空車が表示されず、タクシーを呼べない」と、その原因である「配車可能な車両台数が少ない」を出発点にする。A社単独の増車は難しいため、配車が行き届かない地域の会社と提携し、アプリから配車できる車両を増やす。利用料の無償化は、その提携先を多く確保するための手段です。公式解答例では、配車可能な車両を増やし、配車アプリの利用者とA社の顧客を増やす狙いが示されている。採点講評でも、利用者の増加だけでなく、そのために車両を増やす必要まで理解するよう求めている。35字以内では「配車可能な車両を増やし、アプリ利用者とA社の顧客を増やす」と、手段から成果まで示す。

設問4(2)

提携対象が「多様な決済手段を保有していない他のタクシー会社」であることと、各種決済接続サービスの説明に着目する。提携会社が車載アプリとサービスプラットフォームを利用すれば、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済などにつなげられる。この支払時のメリットは、顧客が配車アプリで予約したかどうかにかかわらず得られる。公式解答例では、顧客が多様な決済手段から支払方法を選択できることが挙げられている。30字以内では「多様な決済手段から支払方法を選択できること」とまとめる。

学習のポイント

機能の説明だけで終わらず、課題、機能による改善、事業上の効果をつなぐ。特に予測の対象と、提携先を増やす具体的な狙いを正確に読み取る。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和3年度春期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

関連する過去問一覧

IPA Advancedは非公式の学習サイトです。解説にはAIによる補助生成を含む場合があります。公式の問題冊子・解答例・採点講評を優先し、誤りは確認後に訂正します。運営・編集方針