STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成28年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 漏水検知システムの企画に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 F社は,家屋,ビルなどに設置される上水道の流量メータを主力製品とする計測機器メーカである。マイコンと無線技術を用いた自動検針機能付き流量メータへの更新で順調に業績を伸ばしてきたが,更新が一巡して今後は業績悪化が懸念された。そこでF社は,これからの時代に売上が見込める新製品を開発する方針を決めた。 これまでF社は,他社が開発した機能,装置の情報を活用した事業の経験はなく,専ら自社の計測機器で計測したデータを活用する製品を製造してきた。また,F社は自動検針技術を基にグローバルビジネスの展開も検討したが,上水道を取り巻く環境,使用可能な無線規格などが国ごとに異なり,それぞれの国向けの設計変更が必要なことが分かった。 F社のITストラテジストであるG氏は,自社で保有している情報と技術を整理して,今後の売上向上が見込める新製品を企画することにした。さらに,計測機器以外の市場,上水道以外の市場,グローバルな市場への展開も検討することとした。 【日本の社会インフラストラクチャの状況と行政の方針】 高速道路,トンネル,水道管をはじめとする日本の社会インフラストラクチャ(以下,社会インフラという)は高度成長期に建設され,長年経過したものが多く,これらの劣化が大きな社会リスクとなっている。 社会インフラの更新には膨大な費用が掛かるので,合理的に維持・管理し,安全を確保しつつ長期間使用する技術が求められている。また,行政からは,社会インフラの劣化問題に対するITを活用した対策として次の方針が示されている。 ① 社会インフラの劣化状況を示す情報の収集に当たっては,センサ,ITなどの新技術を活用し,情報の高度化,作業の省力化及びコストの縮減を推進する。 ② 得られた情報は,社会インフラを管理・所管する者同士で共有できるよう,情報の活用を図る。 ③ 情報の蓄積に当たっては,データの電子化,フォーマットの統一によって,社会インフラの3次元の形状データ(以下,3次元情報という)・属性を分かりやすい形式で地理情報システムによって管理し,容易に活用できるよう検討する。 (1)高速道路,トンネルの状況 高速道路の橋脚,トンネル内部は,通過車両,地震による振動によって劣化が短期間に進むことがある。劣化による崩落が発生すると人身事故に至る場合があるので,構造物のはく離,損壊に至る前に異常を検出する必要がある。しかし,高速道路の管理・運営を行う会社(以下,高速会社という)では,検査を頻繁に実施した場合の検査費用の増大が問題となっている。 (2)日本の上水道の状況 地下に埋設されている水道管は,掘削せずに検査することが望まれている。水道管は,破損すると加圧された水が噴き出し,管周辺の土砂を流し,道路陥没,家屋・ビル倒壊など大規模な事故にまで至るので,初期段階での処置が重要である。現在は,耐震化・長寿命化が施された水道管への更新が進められている。また,水道管に一定間隔に設置される制水弁(以下,バルブという)は,10年ごとの定期点検が必要とされている。 水道水が浄水場から家屋,ビルなどに届くまでに水道管から漏れる水量の割合を漏水率といい,世界各国の漏水率は,アジア主要都市で30%前後,世界の先進国でも10%前後である。これに対し,日本の漏水率は全国平均で5%であり,日本の上水道は世界的に優れた水準にあるといえる。 【水道管漏水復旧工事の実情】 水道管は,道路の下に埋設されていることが多く,水道管漏水復旧工事(以下,復旧工事という)では道路を一部又は完全に通行止めとする必要がある。このため復旧工事は短時間に済ませることが要求される。また,ガス管,通信線管などと輻輳して埋設されていることも多いので,工事は慎重に行う必要がある。 各埋設管の配置を示す正確な3次元情報があると,復旧工事が効率よく進められる。しかし,各埋設管の位置情報は,それぞれ異なるデータ形式のデータベースで管理・所管されているので,配置の把握が困難である。このため,重機での工事は地表面のアスファルト剥がしと浅い掘削までにとどめ,残りは工事員が手掘りしているのが実情であり,重機メーカにとっては,自動で工事をする技術開発の障壁となっている。 【F社の保有技術】 F社は,漏水の復旧工事前に,漏水箇所周辺の水道管に複数の振動センサを一時的に設置して,隣り合った振動センサから得られた二つのデータを解析することによって漏水箇所を特定できる復旧工事箇所特定システムを製品化している。 F社の技術部門では,復旧工事箇所特定システムの開発過程で,水道管のゆがみ・割れの進行と隣り合った振動センサ信号の変化には関連性がみられることを発見している。F社はこの振動センサ信号の変化を基に,通過車両,地震などによって発生する構造物のゆがみ・割れといった,破壊に至る前の変化を検出する技術まで範囲を広げた特許を出願している。 【新システムの企画】 G氏は,整理した情報とF社の保有技術を基に,水道管の状況を常時監視する新しい漏水検知システムを開発することを決め,行政の方針を踏まえた上で,システムアーキテクトのH氏に次の①~③を条件としたシステム化の検討を依頼した。 ① 埋設された水道管に振動センサを設置し,破壊に至る前の変化を常時監視する。 ② 常時監視の結果を分析し,修繕が必要となった箇所を特定する。 ③ 復旧工事が効率よく進められるように,水道管に輻輳して設置された他の埋設管の配置を確認できるようにする。 【システム化の検討】 H氏は,G氏から依頼されたシステム化の検討結果を次のとおり報告した。 ① 振動センサを組み込んだ新しい流量メータ製品を開発する。 ② 水道管の各箇所に磁石又は接着剤で設置可能な,バッテリで10年稼働する振動センサユニットも,新規に開発する。 ③ 流量メータ及び振動センサユニットで計測されたデータは,自動検針機能付き流量メータで培った無線技術を用いてF社のサーバに収集し,相関分析をする。 ④ 工事区域の埋設管の位置情報を,F社のデータベースにデータ形式を変換して登録することによって,各埋設管の配置を示す正確な3次元情報を,地理情報システム上で確認できるようにする。 ⑤ 地理情報システムは,実績がある他社のソフトウェア製品を活用して実現する。 G氏は,H氏の報告を受け,先々の保守コストを考慮して,振動センサユニットの設置箇所をバルブに限定すべきと考えた。また,水道管を新設・更新する場合を考慮して,大手バルブメーカのJ社に提携を打診することにした。 さらにG氏は,H氏の報告内容に対してリスク分析を行い,分析結果を踏まえて,地理情報システムを活用したサービス事業の実績をもつ会社のリストアップをすることとした。 【新システムの様々な市場展開】 G氏は,H氏の報告を受け,次の検討をH氏に依頼した。 ① 流量メータ及び振動センサユニットの無線通信方式を容易に変更できること ② 高速会社に,システム化に向けた共同開発を提案すること ③ 重機メーカに,データを活用した技術の共同開発を提案すること 設問1 【新システムの企画】について,G氏がH氏にシステム化の検討を依頼するに当たって,この段階では検討から外した行政の方針を,35字以内で述べよ。 設問2 【システム化の検討】について,(1)~(3)に答えよ。 (1)G氏が,振動センサユニットの設置箇所をバルブに限定すべきと考えた理由は何か。設置しやすさ以外の理由を,35字以内で述べよ。 (2)G氏が,水道管を新設・更新する場合を考慮して,J社に打診することにした提携の内容を,30字以内で述べよ。 (3)G氏が,地理情報システムを活用したサービス事業の実績をもつ会社のリストアップをすることとした判断の基となるF社の状況を,35字以内で述べよ。 設問3 【新システムの様々な市場展開】について,(1)~(3)に答えよ。 (1)G氏が,H氏に無線通信方式を容易に変更できることの検討を依頼した狙いを,15字以内で述べよ。 (2)G氏が,高速会社に共同開発しようとしているのは,どのような技術を活用するシステムか。35字以内で述べよ。 (3)G氏が,重機メーカと共同開発しようとしている技術を,30字以内で述べよ。
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判断の前提と根拠を確かめる

事業に関する判断を考えるときは、その判断がどのような前提に基づいているかに注目しましょう。示された情報と自分の推測を区別し、判断を支える根拠が与えられた条件に沿っているかを確かめます。

この問題で問われていること

この問題では、判断の前提と根拠のつながりに着目して考えましょう。自分が置いた前提をいったん言葉にし、それが示された条件から読み取れるものか、それとも補ってしまった仮定かを確認することが検討の手掛かりになります。

視点

前提は、判断の出発点になる条件です。検討の際は、与えられた情報に基づく前提と、自分で付け加えた仮定を区別しておくと、判断の根拠を整理しやすくなります。

確認ポイント

  • 判断の前提を言葉にできているか
  • その前提を支える情報が示されているか
  • 示されていない条件を前提に加えていないか
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解説

社会インフラの老朽化への対応を、F社の振動解析技術と無線技術を活用した新事業につなげる問題です。行政方針の選択、保守費用を考慮した製品設計、事業経験を補う提携、海外・高速道路・重機分野への展開を、本文の具体的な根拠から説明します。

問題の全体像

F社は、自動検針機能付き流量メータへの更新需要が一巡し、新たな売上を生む製品を必要としています。一方、社会インフラの老朽化に対しては、異常の早期検出と維持・管理費用の削減が求められています。そこで、振動センサ信号から破壊前の変化を検出する保有技術を、水道管の常時監視へ活用する企画が示されています。出題趣旨では、社会の状況と自社の保有技術を整理し、新製品・新システム、有効なシステム化方法、市場展開を企画する能力を問うとしています。各設問では、企画の範囲、保守や提携の判断、市場ごとの技術の使い方を本文に即して説明します。

設問1

行政の方針①~③と、G氏が提示した企画条件①~③を対応させます。振動センサによる常時監視と分析は行政方針①の新技術による情報収集に、他の埋設管の配置確認は方針③の3次元情報の管理・活用に対応します。一方、社会インフラを管理・所管する者同士で情報を共有する仕組みは、この段階の企画条件に含まれていません。他の埋設管の情報を利用することと、管理者同士が情報を共有できることは区別して読みます。公式解答例では行政方針②を挙げています。35字以内では「社会インフラを管理・所管する者同士で情報を共有すること。」と要点をまとめられます。採点講評では、行政方針の中で何を優先し、何を検討から外したかの理解が評価されています。

設問2(1)

着目するのは、バルブの定期点検が10年ごとであることと、振動センサユニットのバッテリが10年間稼働することです。両者の周期が一致するため、バルブの定期点検に合わせてバッテリを交換でき、交換のための保守作業を別途行う負担を抑えられます。これは、G氏が「先々の保守コスト」を考慮したという記述に対応します。設置しやすさは設問で除外されているので、磁石や接着剤で取り付けられる点を理由にしません。公式解答例では「バルブの10年ごとの定期点検に合わせバッテリを交換できるから」としています。35字以内の答案では、点検周期とバッテリ交換を結び付けることが要点です。

設問2(2)

J社が大手バルブメーカであることと、提携が水道管の新設・更新を考慮したものであることに着目します。既存設備には振動センサユニットを後付けできますが、新設・更新時には、振動センサを組み込んだバルブを導入する製品企画につながります。F社の振動センサ技術とJ社のバルブ製品を組み合わせる提携です。公式解答例では「バルブに振動センサを組み込んだ新製品を共同開発する。」としています。30字以内では、対象がバルブであること、振動センサを組み込むこと、共同開発することを押さえます。

設問2(3)

問われているのは、提携先を探す一般的な利点ではなく、その判断の基となるF社の状況です。冒頭には、F社が他社の開発した機能や装置の情報を活用した事業の経験を持たず、自社の計測データを活用する製品を製造してきたとあります。新システムでは、他の埋設管の位置情報や他社の地理情報システムを利用するため、従来の事業経験だけでは対応上のリスクが生じます。その経験を補う候補として、サービス事業の実績がある会社を探すと読めます。公式解答例では「他社が開発した機能,装置の情報を活用した事業の経験がない。」としています。35字以内では、この経験の不足を具体的に示します。採点講評でも、F社の状況に関連しない解答が一部見られたと指摘しています。

設問3(1)

冒頭のグローバルビジネスの検討では、使用可能な無線規格などが国ごとに異なり、各国向けの設計変更が必要とされています。この記述と、無線通信方式を容易に変更できるようにする検討を結び付けます。国ごとの規格に対応しやすくすることで、海外市場への展開を進める狙いです。公式解答例では「グローバルな市場への展開」としています。15字以内なので、通信方式の変更方法を説明するのではなく、その変更によって目指す市場展開を端的に示します。

設問3(2)

高速会社の課題は、橋脚やトンネルの劣化による崩落を防ぐために破壊前の異常を検出する必要がある一方、検査を頻繁に行うと費用が増大することです。これに対応するF社の技術は、振動センサ信号の変化を基に、構造物のゆがみ・割れなど破壊に至る前の変化を検出する技術です。特許の対象も水道管だけでなく構造物へ広げられており、高速道路分野への応用を裏付けています。公式解答例では、この破壊前の変化を検出する技術を挙げています。35字以内では「振動センサ信号の変化を基に、破壊に至る前の変化を検出する技術」とまとめます。採点講評では、展開先の課題を理解できていない解答も一部見られたとしています。

設問3(3)

重機メーカの課題は、埋設管の配置を把握しにくいため、重機による工事が浅い掘削までに限られ、残りを手掘りしていることです。本文は、この状況が自動で工事をする技術開発の障壁になっていると明示しています。一方、新システムでは、異なる形式の位置情報を変換して登録し、各埋設管の正確な3次元配置を確認できるようにします。この情報を工事の自動化に活用するのが共同開発の方向です。公式解答例では「各埋設管の配置を示す3次元情報を基に自動で工事する技術」としています。30字以内では、利用するデータが埋設管の3次元配置情報であることと、実現する技術が自動工事であることを押さえます。

学習のポイント

複数箇所の記述を結び付け、社会や顧客の課題、自社の技術と不足する経験から、企画・提携・市場展開の理由を導く練習が重点です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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