STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成28年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 地域医療情報連携システムに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 C市には,複数の,総合病院,地域の医院・診療所(以下,医療機関という),訪問看護サービス事業者,調剤薬局事業者があり,市民への医療サービスを行っている。 市民は,最寄りの医療機関をかかりつけ医とし,診療を受け,医師が発行した処方箋によって調剤薬局事業者から薬を受け取っている。診療の結果,検査が必要となった場合には,診療を受けた医療機関に紹介状を書いてもらい,検査機器がある総合病院で検査を受ける。検査結果は,検査を受けた総合病院で聞き,診療と投薬を受ける。また,在宅での療養を行っていて,通院による診療を受けることが困難なときには,かかりつけ医による訪問診療と,訪問看護サービス事業者が行うサービスを受けることができる。 〔地域医療情報連携システムの計画〕 C市では,総合病院と医療機関の連携を図り,市民への医療サービスの向上を図るために,地域医療情報連携システム(以下,連携システムという)の構築を計画した。連携システムは,複数の,総合病院,医療機関,訪問看護サービス事業者及び調剤薬局事業者をネットワークで結び,地域医療に関わる情報共有を行う。連携システムによって,市民は,かかりつけ医で総合病院での検査結果を確認することが可能になり,総合病院への移動や待ち時間の短縮が期待できる。 C市は,連携システムの構築と運用を行うために法人Dを設立した。C市は,今回の連携システムの基盤構築と市民への医療サービスの向上につながる機能の開発に,補助金を交付する予定である。構築後の運用に関わる費用と5年後に実施予定のシステム更新費用は,法人Dに負担させる計画である。法人Dは,負担する費用を集めるために,連携システムに参加する総合病院,医療機関,訪問看護サービス事業者及び調剤薬局事業者にサービス料金を課す方針である。 また,C市では,別途,総合病院の中から連携システムの中核となる総合病院(以下,中核総合病院という)を選んでいて,その病院を中心にC市全体の医療業務の改善を検討する計画がある。そこで,C市は,総合病院と医療機関の情報共有のために,診療情報を紙ではなく電子的に管理するべく,医療機関への電子カルテの導入を促進するよう,法人Dに指示した。 〔医療関係者へのヒアリング結果〕 法人Dは,連携システムの構築に当たって,医療関係者にヒアリングを行った。 (1) 総合病院 中核総合病院では,今回の連携システムの構築を契機に他の総合病院や医療機関と電子カルテの情報を共有し,蓄積される所見の情報を分析することによる医療業務の改善を検討している。電子カルテは全ての総合病院が導入しているが,幾つかの総合病院では,所見の記述方法を統一するための作業に多くの時間が掛かったとのことである。 医療機関から紹介されて検査を受ける患者数が増加しており,病院内にある検査機器には空きが少なく,検査の日程が遅くなることが多くなった。検査の日程が大幅に遅れると,治療が遅れてしまうことがあるので,医師は,他に検査機器が使えるところがあれば円滑な診療が行える,という問題意識をもっていた。 救急搬送された患者を受け入れるときに,治療中の病名と診療状況(以下,治療中の病状という)や処方された薬をかかりつけ医に確認するが,夜間や休日には連絡が取れず,確認できないこともある。 (2) 医療機関 院内の医療業務の改善のために電子カルテの導入を検討する医療機関は多かった。患者数を増やすために検査機器を導入したものの,知り合いの医療機関から検査依頼を受け付けても検査件数は少なく,検査機器の稼働率が低いとのことであった。 患者に処方された薬の情報を,災害時に共有できる仕組みが欲しいという意見もあった。 (3) 訪問看護サービス事業者 在宅の患者への訪問看護サービスには,看護ケア,リハビリテーション,介助などがあり,それぞれ,専門のスタッフ(以下,訪問スタッフという)が担当する。訪問スタッフは,かかりつけ医が作成した訪問計画に従い,週に複数回,訪問する。 今回の連携システムによって訪問スタッフの事務作業が増えないようにしてほしいという要望が,幾つかの訪問看護サービス事業者からあった。訪問スタッフの多くがパートタイム労働者なので,事業者の人件費の負担が増えないようにしたいという理由が多かった。 (4) 調剤薬局事業者 医師が発行した処方箋に従い,調剤して患者に薬を渡している。ジェネリック医薬品がある場合には,患者の希望を確認した上で,希望があればジェネリック医薬品に変更して渡す。患者に処方された薬の情報を,所属する事業者の業務システムに登録する。 〔訪問計画作成業務の現状と課題〕 患者への訪問看護サービスを行うに当たって,かかりつけ医と担当する訪問スタッフが集まり,かかりつけ医が患者の治療中の病状を確認し,患者への看護ケア,リハビリテーション,介助などのスケジュールを検討して訪問計画を作成する。 訪問スタッフは,最初に訪問する前に,患者の治療中の病状と訪問計画を,所属する事業者の業務システムに登録する。その後は,訪問計画に従って,それぞれの訪問スタッフが患者を訪問し,訪問時に,患者名,訪問日時,訪問スタッフ名,作業内容及び患者の日常の状態を記載した訪問記録を作成し,所属する事業者の業務システムに登録する。 訪問計画は,かかりつけ医と担当する訪問スタッフが集まり,定期的に見直しを行う。見直しに当たっては,訪問スタッフの情報や意見も参考にして,かかりつけ医が患者の治療中の病状と日常の状態を確認する。しかし,かかりつけ医が多忙な場合などは,集まる日程を調整することが難しい。見直し後,訪問計画と治療中の病状の更新情報を,所属する事業者の業務システムに,訪問スタッフが登録する。 〔連携システムの概要〕 連携システムでは,総合病院に導入されている電子カルテの情報と,総合病院で受けた検査のCT,MRI,X線の画像情報などの検査結果を,医療機関でも参照できるようになる。連携システムの構築に当たっては,厚生労働省が定めた“医療情報システムの安全管理に関するガイドライン”に準拠する。 また,電子カルテと検査結果以外の情報を共有するためのサブシステムとして,医療・事業者情報共有サーバ(以下,共有サーバという)を構築する。この共有サーバでは,医療機関で保有する検査機器と検査の予約状況を管理し,患者に処方された薬の情報を蓄積する。さらに,訪問計画作成業務の改善のために,患者の治療中の病状,訪問計画及び訪問記録を蓄積する。訪問スタッフと調剤薬局事業者の薬剤師には,所属する事業者の業務システムに登録する内容と同じ内容を,共有サーバに登録してもらう計画である。 〔連携システムの運用〕 法人Dは,サービス料金を,運用に関わる費用と参加見込み数から決める予定である。連携システムに参加する総合病院,医療機関,訪問看護サービス事業者,調剤薬局事業者の従事者には,個人情報に関わる誓約書を提出してもらう予定である。患者にも,個人情報の提供に関わる承諾書を提出してもらい,情報提供の承諾を得る予定である。 情報セキュリティ及び個人情報保護に配慮しつつ,医療関係者の支援とヒアリング結果を踏まえて,連携システムに参加する医療機関,訪問看護サービス事業者,調剤薬局事業者を増やすことによって,市民への医療サービス向上に寄与する連携システムの運用を行っていく計画である。 設問1 連携システムの効果について,(1),(2)に答えよ。 (1) 検査機器を導入している医療機関における効果は何か。20字以内で述べよ。 (2) 総合病院における救急搬送の受入れ時に確認できる情報を,二つ答えよ。 設問2 共有サーバにおける訪問記録の利用について,(1),(2)に答えよ。 (1) かかりつけ医が訪問計画を見直す際のメリットは何か。40字以内で述べよ。 (2) 訪問看護サービス事業者の訪問スタッフの負担を軽減するために必要な機能は何か。30字以内で述べよ。 設問3 法人Dが行うことについて,(1),(2)に答えよ。 (1) 連携システムに参加する医療機関の電子カルテの導入に当たって,C市全体の医療業務の改善のために行うべき検討内容は何か。また,それを推進するための留意点は何か。それぞれ20字以内で述べよ。 (2) サービス料金の検討において,更に考慮すべき情報を,20字以内で述べよ。
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判断に使う前提条件をそろえる

導入の効果や運用に関する判断では、比較する内容の前提条件がそろっているかに注目しましょう。対象となる業務や関係者の範囲を意識し、条件が異なる内容をそのまま同じ基準で扱っていないか確認します。

この問題で問われていること

この問いでは、導入や業務の変化について考える際の前提をそろえることに焦点を置きます。示されている条件の範囲を確かめ、自分で補った想定が判断の根拠に混ざっている場合は、その想定を切り分けて整理しましょう。

視点

同じ話題に関する情報でも、対象の範囲や想定する状況が違えば、比較の前提は一致しません。与えられた条件と自分の想定を分け、判断の途中で前提を変えていないか点検する、という一つの視点で整理します。

確認ポイント

  • 判断に使う対象の範囲を、示された条件に合わせているか
  • 示された条件と、自分で補った想定を区別しているか
  • 検討の途中で、比較の前提条件を変えていないか
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解説

本問は、地域医療の関係者が抱える課題を、情報共有と既存情報の活用によって改善する考え方を問う。検査機器の稼働率向上、救急受入れ時の情報確認、訪問計画見直しと登録負担の軽減に加え、所見の記述方法の統一、その推進支援、将来の更新費用を押さえる。

問題の全体像

C市は、総合病院、地域の医療機関、訪問看護サービス事業者、調剤薬局事業者を結ぶ連携システムを計画している。現状には、検査機器の利用の偏り、救急受入れ時の情報不足、訪問計画見直しのための集合の難しさなどがある。また、共有サーバへの登録による事務負担の増加も懸念される。出題趣旨では、業務課題を抽出し、情報共有と業務負担軽減の解決案、参加医療機関の拡大への対応、サービス料金を検討する能力を問うとしている。各設問では、関係者の課題とシステムの仕組みを結び付けて説明する。

設問1(1)

医療機関へのヒアリングにある「検査件数は少なく、検査機器の稼働率が低い」という課題と、共有サーバが検査機器と予約状況を管理する点に着目する。一方、総合病院では検査機器の空きが少ない。機器と予約状況の共有によって、空きのある医療機関への検査依頼につながり、機器の利用が増える。公式解答例では「検査機器の稼働率が向上する。」としている。20字以内では、対象である医療機関の検査機器の稼働率向上を端的に書く。

設問1(2)①

総合病院へのヒアリングでは、救急搬送された患者を受け入れる際、治療中の病名と診療状況をかかりつけ医に確認するが、夜間や休日には連絡が取れないことがある。本文は、この病名と診療状況を「治療中の病状」と定義している。共有サーバには患者の治療中の病状が蓄積されるため、連絡が取れない場合にもその情報を確認できる。公式解答例の一つ目は「治療中の病状」です。

設問1(2)②

救急受入れ時にかかりつけ医へ確認するもう一つの情報が、患者に処方された薬です。調剤薬局事業者は薬の情報を業務システムに登録しており、連携システムでは同じ内容を共有サーバにも蓄積する計画となっている。この情報共有によって、総合病院でも薬の情報を確認できる。公式解答例の二つ目は「処方された薬」です。

設問2(1)

訪問計画の見直しでは、かかりつけ医と担当する訪問スタッフが集まる必要があり、多忙な場合は日程調整が難しい。訪問記録には患者の日常の状態が記載され、共有サーバに蓄積されるため、かかりつけ医はスタッフが集まらなくてもその状態を確認できる。公式解答例では「担当する訪問スタッフが集まらなくても、患者の日常の状態を確認できる。」としている。40字以内では、集合が不要になることと、日常の状態を確認できることを組み合わせて書く。

設問2(2)

訪問スタッフは既に事業者の業務システムへ訪問記録を登録しているのに、計画では同じ内容を共有サーバにも登録する。この二重登録が負担を増やす原因となる。公式解答例では「事業者が蓄積する訪問記録を共有サーバに反映する機能」としている。30字以内では、既存の訪問記録を共有サーバに反映する機能を示します。採点講評では、訪問先からモバイル端末で登録できるようにする解答が多かったとし、現在の業務システムの情報を活用することによる負担軽減に気付いてほしかったと述べている。

設問3(1)検討内容

中核総合病院は、他の総合病院や医療機関と電子カルテの情報を共有し、蓄積した所見を分析して医療業務を改善する方針です。また、幾つかの総合病院では、所見の記述方法を統一する作業に多くの時間を要している。医療機関が電子カルテを導入する際にも、共有して分析できるよう記述方法をそろえる検討が必要となる。公式解答例では「所見の記述方法の統一」としている。20字以内では、統一する対象を「所見の記述方法」と具体的に示す。

設問3(1)留意点

C市は、中核総合病院を中心に市全体の医療業務の改善を検討する計画を持っている。中核総合病院は電子カルテを導入済みで、情報共有と所見の分析による改善も検討しているため、法人Dが所見の記述方法の統一を推進するには、この病院の支援を得ることが要点となる。公式解答例では「中核総合病院の支援を得ること」としている。20字以内では、支援を得る相手を明確に書く。

設問3(2)

運用の記述では、法人Dは運用費用と参加見込み数からサービス料金を決める予定です。しかし、計画の記述には、運用費用だけでなく、5年後に実施予定のシステム更新費用も法人Dが負担するとある。したがって、料金検討では将来の更新費用も考慮する必要がある。公式解答例では「5年後に実施予定のシステム更新費用」としている。20字以内では、本文に明記された更新時期と費用をそのまま押さえる。

学習のポイント

関係者ごとの課題と共有情報を対応付け、業務上の効果、二重登録の解消、導入支援、将来費用を本文から具体的に導く練習をする。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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