STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成27年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 産業機械メーカの製品企画に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 D社は,産業用ロボットとNC工作機械を主要製品とする産業機械メーカである。国内と海外に生産工場をもち,少量多品種の製品は国内工場で,大量生産品は海外工場でそれぞれ生産することによって,製品の競争力を確保しつつコストを抑えている。主要製品の納入先である製造業は景気に左右されやすく,景気が悪い時期には設備投資を抑えるので,産業機械メーカは安定した業績を上げることが難しいという問題がある。さらに,製造業全体が成熟期にあるので,産業機械メーカが今後,現在と同レベルの業績を確保し続けるのは難しいのではないかという見方もある。 そこでD社は,自社の保有技術を活用し,安定した売上と成長が見込める新製品を開発する方針を決めた。 〔製品企画〕 D社のITストラテジストであるE氏は,自社の新製品開発方針を立案するために,D社の主要顧客である製造業の市場調査を行った。調査の結果,労働者の高齢化によって,工場内で重い部品・製品を運ぶ作業が難しくなったり,腰を痛めたりする問題が増加していることが分かった。工場内作業については,労働安全衛生法の指針に従い,自力作業の可搬重量を20kg以下に制限し,さらに重量が100kgを超えるものは専用のリフタ,チェーンブロックなどの搬送設備を用いる企業が多い。これらの点から,20kgを超え100kgを下回る程度の重量のものを持ち上げて運ぶ作業で問題が多く発生していることが分かった。 この調査結果を踏まえて,E氏は,新製品のイメージを固めながら,D社にとって未知の新市場も対象にした新製品の企画を検討することにした。そこで,公開されている調査結果を参照し,社会全体で高齢化が進む中で,製造業と同様の問題が他の分野でも発生しているのかどうかを調べた。その結果,介護,運輸,農業,防災などの現場でも,それぞれ人やもの(以下,対象物という)を運ぶ作業で同様の問題が増加しつつあることが分かった。 E氏は,調査した分野の中でも,特に介護現場における新製品の需要が,5年後には約1万台と大きく伸びると考え,D社幹部に次のように提言した。 ・まず,製造業向けの新製品を国内工場で生産し,市場に投入する。 ・次に,製造業向けの新製品の設計を基に,介護,運輸,農業,防災など,他の分野向けの新製品を設計・開発し,展開する。 この提言を実現するための戦略の一つとして,E氏は,“狭い場所で,100kgまでの対象物を1人で運ぶことができる製造業向けの新製品”を企画し,システムアーキテクトのF氏に構想設計をまとめるよう依頼した。 〔新製品の構想設計〕 F氏から報告された新製品の構想設計は,センサ,アクチュエータ,制御部,重量物を支えて使用者の負荷を軽減するための外骨格,膝当てや腰当てなどの防護部から成る,人が装着する製品(以下,パワードスーツという)であった。F氏の説明によると,このパワードスーツは,バランスを保ったり,障害物を検知したりするのに,パワードスーツを装着する人間の感覚と身体能力を利用して,100kgまでの対象物を運べるように最大80kgfの力で人間をアシストするというものであった。 D社の今までの製品が操作者や障害物と接触することがない場所に設置される据付け型だけであったのに対し,E氏は,パワードスーツについて次のように考えた。 ・D社が手掛けたことのない身体との接触度が高い製品であり,また,使用者や使用場所の自由度が高い製品である。 ・誤った使い方をすると事故を起こすおそれがあるので,使用方法の講習を受講した者に使用を限定する必要がある。 ・本来の使用場所の外に持ち出されるおそれがある。 E氏は,D社の国内工場でパワードスーツを生産した場合,1製品当たり70万円程度で販売できると試算した。また,D社が現場事情を熟知している製造業においては,パワードスーツがどのような場面で有効活用されるか想定でき,そのための製品開発における問題抽出と課題設定は比較的容易であると考えた。販売面でも,D社は製造業の分野では知名度が高いので販売しやすいと考えた。 E氏は,パワードスーツがもつ特徴を考慮し,製品開発に先立ち,生産方法,品質管理方法,取扱説明書の記載方法などにおいて遵守すべき法規制,許認可などを,関連部門と協力して調査することにした。 〔製品展開〕 D社は,構想設計に基づき,製造業向けパワードスーツの開発を行った。D社が製造業向けパワードスーツの開発を完成させたのと同時期に,総合医療機器メーカであるX社が,介護現場向けに,パワードスーツを来年度から月産30台を目標に,50万円程度の価格で発売すると発表した。 X社は,介護ベッド,車椅子などの介護現場向け製品の2大メーカの一つで,競合メーカのY社とともに,介護現場では古くから知られている会社である。X社は介護現場の事情と要求をよく把握しており,以前から系列企業である電機メーカのZ社と提携して,センサ,アクチュエータ,制御ソフトウェアの技術を獲得し,X社の製品が普及している介護現場の要求に応えられるパワードスーツの開発を進めていた。 E氏は早速,X社のパワードスーツについてD社の新製品と比較分析するようF氏に依頼した。その結果報告は次のとおりであった。 ・X社のパワードスーツは,重い対象物を運ぶ場合は,複数のパワードスーツ装着者で運ぶことを前提にしているので,アシストする力を最大30kgfに抑えている。 ・バッテリ容量,アクチュエータが小さく,製品全体の構造もシンプルで頑強とはいえないが,装着すれば誰でもすぐに使用できる。 さらに,E氏がX社の生産環境を調査したところ,X社ではパワードスーツを量産できる工場をもっておらず,Z社の国内工場で生産する予定であることが分かった。Z社の生産ラインは,D社の国内工場とほぼ同様の規模である。 E氏はF氏の報告を受け,今後需要が大きく伸びると見込んだ介護現場向けのパワードスーツについて,D社幹部に次のように提言した。 ・企画時には,Y社と提携して,介護現場の事情と要求を把握するとともに,後発メーカとしての利点を生かす。 ・生産時には,X社の製品に勝る競争力をもたせることを目標とする。 ・販売時には,Y社のブランド製品として販売することによって,いずれは市場シェア1位を目標とする。 〔新製品への機能追加の検討〕 E氏は,完成したパワードスーツに対し,使用者を制限する機能を組み込むべきと判断し,機能追加の検討をF氏に依頼した。 F氏からは後日,登録された複数の使用者だけが使用できるように制限する機能について検討した結果が報告された。報告では,IDとパスワードによる認証方法は低コストであるが,第三者に盗み取られる危険性があるので,生体認証機能を組み込む方法が提案された。 E氏はF氏の報告内容を検討した上で,さらに,登録された場所でだけ使用できるように制限する機能,使用履歴を残す機能の検討をF氏に依頼した。 設問1 〔製品企画〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) E氏が,新市場も対象にした新製品の企画を検討することにした理由を,20字以内で述べよ。 (2) E氏がまず,製造業向けの新製品を設計・開発することにした理由を,40字以内で述べよ。 設問2 〔新製品の構想設計〕と〔製品展開〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) E氏が,製品開発に先立ち,遵守すべき法規制,許認可などを,関連部門と協力し調査することにしたのは,新製品のどのような特徴を考慮したからか。35字以内で述べよ。 (2) D社が,介護現場向けの新製品を生産するに当たり,生産段階でもたせるべき競争力と,そのために実施すべき施策を,それぞれ15字以内で述べよ。 (3) E氏が,介護現場向けの新製品をY社のブランド製品として販売することを,D社幹部に提言した理由を,35字以内で述べよ。 設問3 〔新製品への機能追加の検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) E氏が,パワードスーツの使用者を制限する機能を組み込むべきと判断した理由を,40字以内で述べよ。 (2) E氏が,登録された場所でだけ使用できるように制限する機能の検討をF氏に依頼した目的を,40字以内で述べよ。
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判断の前提を丁寧に確かめる

この分野の検討では、判断の前提となる条件を意識することが大切です。与えられた情報で明示されている条件と、自分が補っている想定を区別し、知らないうちに前提を広げていないか確かめましょう。

この問題で問われていること

考える際は、ある判断がどの条件を前提にしているかに注目してください。明示された条件から離れて、追加の想定を置いていないかを振り返ると、検討の根拠を整理しやすくなります。

視点

判断の前提を整理するには、根拠として使っている条件を言葉にしてみます。その条件が与えられた情報に含まれるものか、自分で置いた想定かを確かめ、両者を混同しないようにしましょう。

確認ポイント

  • 判断の前提を言葉にできているか
  • 明示された条件と自分の想定を区別できているか
  • 示された条件の範囲を自分で広げていないか
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解説

安定した売上と成長を目指す新市場への展開を、既存市場の知識、生産体制、提携先の知名度に結び付けて考える問題です。使用制限については、事故防止と持出しによる悪用防止を区別します。

問題の全体像

D社は、景気の影響を受けやすく成熟期にある製造業への依存を踏まえ、保有技術を活用して安定した売上と成長が見込める新製品を企画します。まず現場事情を熟知する製造業向けにパワードスーツを開発し、需要拡大が見込まれる介護分野への展開では、競合の生産体制や価格、提携先の知名度を考慮します。また、使用者や使用場所を制限する機能の追加を検討します。出題趣旨では、保有技術と既存市場を理解した製品企画、構想設計と製品展開、機能拡張の検討能力を問うとされています。

設問1(1)

冒頭の、製造業は景気に左右されやすく成熟期にあるという記述と、D社の「安定した売上と成長が見込める新製品を開発する方針」に着目します。介護などにも運搬作業の問題があり、需要拡大が見込まれることが、新市場を対象にする判断につながります。公式解答例では「安定した売上と成長が見込めるから」と示されています。20字以内では、この経営上の目的を押さえます。採点講評では、製品の特徴ではなく、D社の方針と市場の特徴に基づく解答が求められています。

設問1(2)

〔新製品の構想設計〕の、D社は製造業の現場事情を熟知し、有効活用される場面を想定できるため、製品開発の問題抽出と課題設定が比較的容易であるという記述が根拠です。公式解答例も、この現場理解と開発の進めやすさを理由に挙げています。40字以内では「現場事情を熟知し、製品開発の問題抽出と課題設定が容易だから」とまとめられます。製造業での知名度も本文にありますが、公式解答例が示す中心は開発面の理由です。

設問2(1)

従来製品が操作者や障害物と接触しない場所に設置する据付け型であったのに対し、新製品は人が装着するという違いに着目します。身体との接触度が高く、D社にとって未経験の製品であることが、生産方法や品質管理方法などに関する法規制・許認可を事前に調査する理由です。公式解答例では「D社が手掛けたことのない身体との接触度が高い製品である点」と示されています。35字以内では、未経験であることと身体との接触度の高さを押さえます。

設問2(2)(競争力)

介護分野では5年後に約1万台の需要が見込まれる一方、X社は月産30台を目標とし、価格を50万円程度としています。D社の国内生産による試算価格は70万円程度です。この需要と競合条件から、生産段階では供給量と価格の両面で競争力をもたせる必要があります。公式解答例では「高い生産能力と安い製品価格」と示されており、15字以内で両方を押さえます。採点講評では、製品の機能など、設計段階の競争力を答えた解答が指摘されています。

設問2(2)(施策)

冒頭の、D社は少量多品種を国内工場、大量生産品を海外工場で生産し、競争力を確保しつつコストを抑えているという記述が根拠です。X社の生産委託先であるZ社の国内生産ラインは、D社の国内工場とほぼ同規模なので、D社の海外工場を活用することが生産能力と価格の競争力につながります。公式解答例では「海外工場に生産拠点を移す。」と示されています。15字以内では、生産拠点を海外工場へ移す施策を明記します。

設問2(3)

〔製品展開〕の、Y社はX社とともに介護現場向け製品の2大メーカの一つで、介護現場では古くから知られているという記述に着目します。D社の知名度が高いのは製造業であり、介護分野ではY社の知名度を活用することが販売のしやすさにつながります。公式解答例も、介護現場で高い知名度をもつY社ブランドの方が販売しやすいことを理由としています。35字以内では、介護現場での知名度と販売のしやすさを結び付けます。

設問3(1)

〔新製品の構想設計〕の、誤った使い方による事故のおそれがあるため、使用方法の講習を受講した者に使用を限定する必要があるという記述が根拠です。公式解答例では、講習受講者への限定によって事故を防止することが理由とされています。40字以内では「使用方法の講習を受講した者に使用を限定し、事故を防止するため」とまとめられます。生体認証は使用者を制限する手段であり、この設問では制限する理由を説明します。

設問3(2)

〔新製品の構想設計〕の、本来の使用場所の外に持ち出されるおそれがあるという記述と、登録された場所でだけ使用できる機能の検討依頼を結び付けます。公式解答例では、使用場所の外へ持ち出されて悪用されることを防止する必要があると示されています。40字以内では「本来の使用場所の外に持ち出されて悪用されることを防ぐため」とまとめられます。採点講評では、使用者の制限と使用場所の制限を混同した解答が指摘されており、講習受講者への限定による事故防止と区別する必要があります。

学習のポイント

設問が問う市場・開発・生産・販売の段階を確認し、本文の根拠から判断理由と施策を字数内にまとめる力を身に付けます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成27年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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