STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成27年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 地方公共団体におけるIT管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 C県は,政策・施策を実現するために取り組む事業(以下,事業という)に対応して,庁内で100以上の情報システムを構築・運用している。庁内では各情報システムを主管する部署(以下,主管課という)が定められており,情報システムの企画,開発,運用を行っている。情報政策課は,庁内全体に関わる情報システムの主管課であるほか,次のようなIT管理の業務を行っている。 ・ネットワーク,情報システム基盤,庁内全体のPCの管理 ・5年ごとに策定される行政基本計画を基にして行う中期IT計画の策定 ・部署間で重複して運用している情報システムの集約を行うIT最適化 ・IT費用を適正化するために行う,各主管課の情報システムに関する予算管理,企画の審査,稼働後の事後評価 〔IT管理の取組の背景〕 C県では一般会計予算が減少する中,情報システム費用の低減が求められている。しかし,情報システム費用の過半が保守・運用費用で占められていることもあり,大きな削減は難しい状況である。 情報政策課は,これまでもクラウドコンピューティング基盤の構築によって機器を集約したり,採用するミドルウェアを絞り込むことによってライセンス費用を削減したりしてきた。さらに,庁内全体の情報システムの棚卸結果から,OSとミドルウェアそれぞれについて,オープンソースソフトウェア(OSS)を含め,利用頻度が高い幾つかのソフトウェアを技術参照モデル(TRM)における標準と定め,ライセンス費用とソフトウェア使用料を庁内全体で集約できるようにした。各主管課に対しては,情報システムの再構築時・新規構築時にはTRMの標準ソフトウェアを採用するように指導している。今回は,各主管課の情報システム投資の評価をより精緻に行い,情報システム化対象案件の絞込みを進めることにした。 また,国の新たな施策実施に伴う事業の追加や,上層部から重点施策の変更指示が発生する。このような場合,行政基本計画の実施期間中でも事業の優先度は変更になり,中期IT計画で予定していたものとは異なる事業に対して,急きょ優先的な取組が必要になることがある。 近年は防災対策,景気浮揚政策に関する国からの事業が増えたり,知事選挙で地域振興・産業活性化を公約とする候補者が当選したりして,事業の見直しが発生している。 このような背景から,情報政策課では,情報システムに関する企画審査と事後評価の制度を整備するために,IT管理の取組を開始した。 〔IT管理の取組の概要〕 事業の予算については,財政課が毎年度,予算案策定時に審査を行っている。今回の取組では,事業の実施に当たって情報システムへの新規投資が必要な場合は,財政課による審査の前に,情報政策課で企画審査・承認を行うことにした。その手続は次のとおりである。 ① 主管課は,必要な情報システム投資に関する情報システム企画書を作成して,情報政策課へ提出する。情報システム企画書の主な記載項目は表1のとおりである。 表1 情報システム企画書の主な記載項目 ・“財政的効果”:情報システム化によって達成できる収入増加額・経費削減額の5年間分の累計額 ・“その他の効果”:財政的効果以外で,“住民のための効果”,“業務プロセス改善効果”といった,事業のパフォーマンスを定量化した値。事業,情報システムの特性に応じて,主管課が評価指標と目標値を設定する。 ・“情報システム費用”:5年間に発生する総所有コスト(TCO) ・“情報システムの構築費用”:機器費用,ソフトウェア開発工程ごとの費用 ・“年当たり定常費用”:機器保守費用,ソフトウェア保守費用,及び運用費用 ② 情報政策課は,情報システム企画書を基に情報システムに関する企画審査を行う。 ・企画審査では,投資対効果が一定の基準値以上かどうかの評価結果と,情報システム費用が情報システムの規模,ソフトウェア開発量と比べて適正かどうかの検証結果から,承認の可否を判定する。ここで,投資対効果とは,“財政的効果”と“その他の効果”のそれぞれに一定の重みを乗じて,その結果を加算した値に対する情報システム費用の比である。 ・情報システムに障害が発生したときの事業継続対応への基準として,情報システム化の目的,利用者の範囲,及び住民の生活・財産への影響度に応じて,情報システムの重要度を5段階で評価する。 ・情報システムに関する企画審査は,表2に示す四つの投資種別に分類して行う。投資対効果の評価における基準値は,投資種別によって異なる。また,“業務効率向上のための投資”を除き,“財政的効果”は考慮していない。 表2 投資種別の分類 ③ 主管課は,承認された情報システムに関する企画に従って構築された情報システムの実態と,情報システム企画書との差異について,稼働直後と1年間の運用後に事後評価し,その結果を情報政策課に報告する。 〔情報システムに関する企画審査の結果〕 1. 情報システム費用の見積り ・主管課が情報システム企画書を作成する際,情報システム費用については,主管課がベンダへ見積依頼をして算定している。 ・各主管課のベンダへの交渉力の違いによって,同じベンダでも情報システム開発に係るスキル別の作業単価が異なっていて,見積りが適正でない。 ・見積結果の中には,総額だけで費用明細がない例もあり,見積りの適正さを判断できないものもある。 2. 情報システムの信頼性・可用性レベルと重要度との不整合 ・情報システムの非機能要求事項は各主管課で設定し,情報システムの重要度は情報政策課で評価している。 ・情報システムの信頼性・可用性のレベルと,情報システムの重要度とが不整合になっているものがある。重要度が低いシステムでも,高い信頼性,可用性を実現できる高性能サーバによる二重化構成となっている場合があり,重要度が高い情報システムと同程度の情報システム構築費用,保守・運用費用になっている。 3. 投資種別の割合 ・中期IT計画期間中の庁内全体の情報システム投資費用累計額に占める,各投資種別の割合は,“業務効率向上のための投資”に関わる費用の割合が低く,“戦略的投資”,“義務的投資”に関わる費用の占める割合が高い。 〔情報システムの事後評価の結果〕 1. 稼働直後の事後評価の結果 ・情報システム費用を低減させるために,積極的にOSSを導入した主管課があった。しかし,OSSは販売業者ごとに僅かに差異があり,庁内全体では同様の機能をもつ派生のOSSが多数導入され始めていた。これら派生のOSSに関する保守・運用作業を,別々のベンダに委託しており,費用を重複して支払っている。 2. 運用1年後の事後評価の結果 ・重要度の低い情報システムの方が,高い情報システムに比べて運用費用が相対的に高くなっている。 ・主管課から“その他の効果”も含めて評価結果が良好であるという報告があったものについて,情報政策課で調査した。その結果,サービスを利用する住民がほとんどいなかったり,情報システムに関する作業負荷が高くなって,職員の残業時間が増加している利用部署があったりする。 情報システムに関する企画審査の結果,及び情報システムの事後評価の結果を受けて,情報政策課は,CIO補佐官や外部コンサルタントなどの第三者の活用を考えている。 設問1 情報システムに関する企画審査の手続について,(1),(2)に答えよ。 (1) 情報システム費用算定の課題への対策として情報政策課が決めておくべき,各主管課での情報システム費用算定時のルールを二つ挙げ,それぞれ35字以内で述べよ。 (2) 情報システムの運用費用の高額化対策として,情報政策課が情報システムに関する企画審査の取組に当たり,事前に提示しておくべきものを,40字以内で述べよ。 設問2 情報システムに関する企画審査において,“業務効率向上のための投資”に関わる費用の割合が低く,“戦略的投資”,“義務的投資”に関わる費用の占める割合が高くなっている理由を,45字以内で述べよ。 設問3 情報システムの事後評価について,(1),(2)に答えよ。 (1) 実態と合わない良好な評価結果が報告されていることに対して,実施すべき対策を,35字以内で述べよ。 (2) OSSの保守・運用費用を低減させるために,情報政策課が実施すべきことを,25字以内で述べよ。
表1 情報システム企画書の主な記載項目。情報システム企画書の項目と内容の表。情報システム化の概要(目的・必要性,利用者,新業務・機能概要,構成,規模,ソフトウェア開発量),非機能要求事項(信頼性,可用性),構築の概要(調達方法,構築スケジュール),効果の目標(財政的効果,その他の効果),費用の概算額(構築費用,年当たり定常費用)。
表1 情報システム企画書の主な記載項目。情報システム企画書の項目と内容の表。情報システム化の概要(目的・必要性,利用者,新業務・機能概要,構成,規模,ソフトウェア開発量),非機能要求事項(信頼性,可用性),構築の概要(調達方法,構築スケジュール),効果の目標(財政的効果,その他の効果),費用の概算額(構築費用,年当たり定常費用)。
表2 投資種別の分類。四つの投資種別と内容の表。業務効率向上のための投資(業務効率向上・コスト削減),戦略的投資(住民への新サービス,地域振興など特定の事業目的の実現),基盤投資(ネットワーク,認証基盤,クラウド基盤など),義務的投資(制度改正への対応,国から指定された情報システム整備など)。
表2 投資種別の分類。四つの投資種別と内容の表。業務効率向上のための投資(業務効率向上・コスト削減),戦略的投資(住民への新サービス,地域振興など特定の事業目的の実現),基盤投資(ネットワーク,認証基盤,クラウド基盤など),義務的投資(制度改正への対応,国から指定された情報システム整備など)。
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企画と評価で用いる前提を確認する

地方公共団体のIT投資と費用管理を考える際は、判断の前提に注目しましょう。企画審査や事後評価に関する情報を扱うときも、何を前提にした判断なのかを整理し、その前提が途中で変わっていないかを確かめてください。

この問題で問われていること

この分野の課題を検討するときは、示されている判断がどのような前提に基づくのかに焦点を当てます。結論を急がず、明記された前提と自分が補った前提を分け、与えられた情報の範囲で考えられているかを確認しましょう。

視点

判断に使われている前提を、自分の言葉で短く整理してみましょう。途中で別の前提を持ち込んでいないかに注意すると、考える範囲を保ちやすくなります。

確認ポイント

  • 判断の前提を整理できているか
  • 明記された前提と自分の推測を区別できているか
  • 考える途中で前提を置き換えていないか
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解説

本問の要点は、主管課ごとに行われる費用算定や効果評価を、庁内共通の基準と第三者の関与によって適正化することです。見積明細、作業単価、重要度に応じた非機能要求、投資種別別の審査、TRMの見直しを本文の課題と対応付けます。

問題の全体像

C県では100以上の情報システムを各主管課が企画・運用し、情報政策課が庁内全体のIT管理を担っています。予算が減少する中、保守・運用費用の削減が難しく、企画審査と事後評価を整備したところ、見積りの不統一、重要度に見合わない構成、実態と合わない効果報告、派生OSSへの重複支出が明らかになりました。出題趣旨では、投資の適正化に向けた意思決定の分析能力が示されています。各問題を、共通ルール、審査方法、評価体制、標準ソフトウェアの管理へ結び付けて考えます。

設問1(1)①

着目するのは、企画審査の結果にある「総額だけで費用明細がない例」です。明細がなければ、機器費用や開発工程ごとの費用などを確認できず、見積りの適正さを判断できません。そこで、主管課が見積りを取得する際の共通ルールとして、明細の提示を必須にします。公式解答例では「費用明細が明示された見積りを徹底する。」としています。35字以内の答案では、「費用明細の明示」と「徹底」を押さえます。採点講評では、相見積りを取るだけでは、庁内で整合性のある費用算定に踏み込めていないと指摘されています。

設問1(1)②

着目するのは、主管課の交渉力の違いによって、同じベンダでも開発に係るスキル別作業単価が異なるという記述です。主管課ごとに単価を判断する状態では、庁内で一貫した費用算定ができません。情報政策課が比較・判断に使える共通の指標を用意することが必要です。公式解答例では「情報システム開発に係るスキル別作業単価の指標を作成する。」としています。35字以内では、対象を単なる総額ではなく「開発のスキル別作業単価」とし、「指標を作成する」ことまで書きます。

設問1(2)

本文では、非機能要求を主管課が設定する一方、重要度は情報政策課が評価しています。その結果、重要度の低いシステムにも高性能サーバの二重化構成が採用され、構築費用や保守・運用費用が高額になっています。必要なのは、重要度と信頼性・可用性の要求水準を対応付ける共通基準です。公式解答例では「情報システムの重要度に応じた信頼性・可用性のガイドラインを作成する。」としています。40字以内の答案では、重要度に応じた基準であることと、信頼性・可用性の両方を明示します。

設問2

着目するのは、企画審査では「業務効率向上のための投資」を除き、財政的効果を考慮していないという記述です。戦略的投資と義務的投資は、住民への効果などの「その他の効果」を中心に審査されます。公式解答例も、この審査方法の違いを費用割合の偏りの理由としています。45字以内なら「戦略的投資と義務的投資の投資対効果の審査は、その他の効果が中心だから。」とまとめられます。採点講評では、政策変更などは背景として挙げられるものの、IT管理の仕組みにある課題へ着目することが求められています。

設問3(1)

本文では、主管課が効果の評価指標と目標値を設定し、事後評価も行っています。しかし、良好な報告に反して住民の利用が少ない、職員の残業が増えるといった実態が判明しています。ここでは、評価指標の設定と事後評価の双方に客観性を持たせる必要があります。公式解答例では「第三者による効果の評価指標の設定と事後評価の実施」としています。35字以内では、第三者の関与と二つの実施事項を押さえます。採点講評では、利用者数や業務負荷を評価に加えるだけの対策にとどまらず、第三者の活用を考えている本文の状況に気付くことが求められています。

設問3(2)

着目するのは、同様の機能を持つ派生OSSが多数導入され、別々のベンダへの保守・運用委託によって費用を重複して支払っている点です。本文では既にTRMで標準ソフトウェアを定めているので、派生OSSの実態を評価し、その結果を標準の見直しに反映することが必要です。公式解答例では「派生のOSSを評価してTRMを見直す。」としています。25字以内の答案では、「派生OSSの評価」と「TRMの見直し」を一連の対策として書きます。

学習のポイント

個別の問題への対処から、共通基準の整備や客観的な評価という組織全体の管理策を導く練習が重要です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成27年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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