STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成26年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 建設機械の新機能の開発に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 X社は、建設機械メーカであり、地面を掘削する油圧ショベル、及び掘削した土砂を運搬するダンプトラックが主力製品である。これらの大型の建設機械は、海外の油田、化学プラント建設現場などの大規模な建設現場で、建設前の土地造成、及び建物の土台を作る基礎工事に使用されている。 〔建設業界の状況〕 ・大規模な建設現場では、総合建設業者(以下、ゼネコンという)が発注者から各種の土木工事・建設工事をまとめて請け負い、建設工事会社に工事を発注する。その際、ゼネコンは建設機械の準備、建設工事会社間の調整を含めた進捗管理など工事全体の取りまとめを行う。 ・高価な建設機械が多い上に、特殊な用途の機械は使う頻度が少ないことから、一般に、ゼネコンは建設機械を購入せずに、レンタル会社から期間契約で借り受ける。一方、レンタル会社は、建設機械のレンタルスケジュールを管理するとともに、期間契約で貸し出す建設機械の保守を建設機械メーカに委託し、レンタル期間外に保守を済ませている。 ・他の業界と比べて、労働生産性が低いとともに、労働災害が多く、改善が進んでいない。またここ数年、建設業界の労働人口が減少する傾向にあり、作業員不足が深刻な問題となっている。 〔X社の現状と方針〕 建設業界のこのような状況に加えて、X社では製品販売数が伸び悩んでいる。さらに、不定期に発生する保守に対応するために多くの社員を海外に常駐させていることから、コストが増加し、業績が悪化している。そこでX社は、現在の社員数を維持した上で、次の方策によって業績の回復を図ることにした。 ・主力製品である大型の建設機械に有効と考えられる、工事そのものの自動化技術を他社に先駆けて開発し、新たな機能として製品に組み込むことによって、製品販売数を増やす。 ・保守形態を見直すことによって、海外に常駐する社員を減らす。 ・国内にあるX社の施設でできる業務は、なるべく海外から国内にシフトする。 〔建設機械に関する海外市場の調査結果とその分析〕 X社は、新たな機能の開発に当たり、建設機械に関する海外市場の調査を、関係する建設工事会社、ゼネコン及びレンタル会社に対して実施した。その結果、次のような問題があることが判明した。 ① 建設機械を操作する作業員(以下、オペレータという)が不足している。オペレータの確保、育成が思うように進まない。 ② 寒暖が厳しかったり、日照時間が短くなったりすると、作業効率が落ち、工期が長くなり、費用がかさむ。 ③ オペレータが建設機械から転落したり、作業員が建設機械と接触したりするなどの労働災害が多い。 ④ 工事期間を短縮するために、資金を投入して建設機械とオペレータを増やしても、作業現場において建設機械同士が相互に干渉し、狙った効果が現れなかったり、逆効果となったりする場合がある。 ⑤ 建設機械の総レンタル費用を低減できる工事計画が容易に立案できない。 ⑥ 日照時間、気温、天候などを考慮し、地域ごとに多段階のレンタル費用を設定している。しかし、工事に適さない季節は、レンタル費用を低く設定していても利用率は上がらない。 ⑦ 建設機械の保守を開始してから交換部品を取り寄せて修理を行うので、建設機械の不稼働時間が長かったり、代替の建設機械の引当てが間に合わなかったりして、建設機械のスケジューリングがうまくいかなくなる場合がある。 X社のITストラテジストであるY氏は、海外市場の調査結果①~⑦を分析し、新たな機能をもつ建設機械を開発することとした。そのためにY氏は、システムアーキテクトのZ氏に、次の事項に対する新たな機能の実現方法を検討するよう依頼した。 ・安全に作業できる環境にいる複数人のオペレータが、1人当たり最大10台の建設機械を同時に動かせるようにする。 ・日照時間、気温、天候などに左右されずに、24時間作業が行えるようにする。 〔新たな機能の検討〕 Z氏は、Y氏から依頼された新たな機能の実現方法の検討結果を次のようにまとめた。 (1)システム全体の機能は、3次元CADデータ化した工事図面データ(以下、3D CADデータという)などを基に、“工事開始”、“緊急停止”など、オペレータの簡単な作業指示で建設機械を動かせる自動稼働システムとする。 (2)建設機械に3D CADデータを送信し、作業指示を出すシステム(以下、センタシステムという)を搭載した、冷暖房完備の車両(以下、施工管理車という)を用意する。 ・センタシステムは、3D CADデータを格納するサーバ、建設機械に作業指示を出す操作盤、各建設機械の工事状況と工事エリア全体を確認するためのモニタ及び無線通信装置で構成する。 ・工事に先立ち、オペレータは施工管理車に乗ってセンタシステムを操作することによって、各建設機械へ担当工事エリアの3D CADデータを送信する。 ・オペレータは、工事の状況をモニタで確認しながら操作盤を操作することによって、各建設機械に無線で作業指示を出すことができる。 (3)建設機械には、工事後の形態を表す3D CADデータと現在の工事中の形態を表すデータとを比較し、自律的に工事を進めるシステム(以下、自律システムという)を搭載する。 ・自律システムは、自機の位置を測定するGPS、現在の工事中の形態を計測する3Dレーザスキャナ、現在の工事中の形態を撮影する3Dカメラ、データをセンタシステムと送受信する無線装置で構成する。 ・1台の油圧ショベルと複数台のダンプトラックが連携し、ダンプトラックは、油圧ショベルの運転を止めないように、指定された場所に土砂を運び、戻ってくる。 (4)建設機械同士が一定距離以内に接近した場合は、自動で停止するよう制御する。 (5)建設現場で複数の建設機械が同時に作業を行えるようにする。そのために、建設機械間の工事エリアを一部重複させ、自律システムで建設機械相互の位置関係を認識し、一定の距離を保ちながら工事を進められるように制御する。 (6)建設機械の保守機能として、運転状態の監視結果と過去から蓄積した保守データによって故障を予見し、必要な部品の交換、修理などを行う状態監視保全を取り入れる。 Y氏は、Z氏の報告を受け、インターネット経由で、状態監視情報を含む稼働データを建設機械からX社が直接受信する機能、及び3D CADデータをX社から建設機械に直接送信する機能についても検討するようZ氏に依頼した。 Y氏は、新たな機能を組み込んだ製品を早期に開発すべきであると考えた。しかし、その一方で、Z氏が検討した実現方法のうち、完成までに長期間掛かるものについては、後からソフトウェアを追加し、機能の向上を図ることにした。 〔新たな機能を組み込んだ製品の事業計画〕 Y氏は、新たな機能(1)~(6)を組み込んだ製品を更に活用するために、次のような事業計画を考えた。 1.新たな機能のシミュレーションシステム 新たな機能を組み込んだ製品の開発・市場展開に先立ち、建設機械を何台準備し、どのような順番で工事を進めるのが効果的かを、工事図面を基に試算するシミュレーションシステムを作る。シミュレーションシステムには、次の二つのモードをもたせる。 ・工事期間優先モード:工事期間を短くするには、どの建設機械をいつ、何台準備し、どのような順番で工事を進めるのが効果的かを試算する。 ・工事費用優先モード:工事費用を最小とする経済的な建設機械のレンタルスケジュールを試算する。 当面は、工事費用優先モードが多く利用されると予測されるが、新たな機能を組み込んだ製品が広く普及すると、利用が減ると考えている。 2.事業形態 新たな機能を組み込んだ製品を広く普及させるためには、工事図面を3D CADデータ化する技術要員と、建設機械の保守要員の確保が重要である。X社の事業として、X社が請け負う形態、X社が教育を行う形態及び現地の会社に事業を委託する形態のそれぞれを検討した結果、次の形態とする。 ・工事図面を3D CADデータ化する技術は、X社が請け負うこととした。その理由は、工事図面のデータを社内に蓄積することが有効と考えたからである。 ・保守事業は、現地の会社に委託することとした。その理由は、状態監視保全を取り入れ、X社が状態監視情報を基に判断することによって、保守に先立って交換部品を手配したり、あらかじめ保守に要する期間をレンタル会社に連絡したりすることができるからである。 設問1 〔建設機械に関する海外市場の調査結果とその分析〕及び〔新たな機能の検討〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)問題①、④、⑦を提起した事業者を、それぞれ、建設工事会社、ゼネコン及びレンタル会社から選んで答えよ。 (2)X社の開発する新たな機能は、建設業界に関わるどのような問題を解決することを狙ったものか答えよ。 設問2 〔新たな機能の検討〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)Y氏が、後からソフトウェアを追加し、機能の向上を図ることにした機能を、40字以内で述べよ。 (2)Y氏が、インターネット経由で、稼働データを建設機械からX社が直接受信する機能の検討をZ氏へ依頼した目的は何か、45字以内で述べよ。 設問3 〔新たな機能を組み込んだ製品の事業計画〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1)状態監視保全に基づく情報をX社から受け取ることによって、レンタル会社ができるようになることを、45字以内で述べよ。 (2)新たな機能を組み込んだ製品が広く普及した場合、工事費用優先モードの利用が減るとY氏が考えた理由を、40字以内で述べよ。 (3)工事図面のデータを社内に蓄積することが有効とY氏が考えた理由を、35字以内で述べよ。
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判断の根拠と結論のつながりを確かめる

課題や計画を考える際は、ある判断が何を根拠に導かれているかに注目しましょう。関連がありそうという印象だけで結び付けず、根拠と結論の間に説明されていない飛躍がないかを落ち着いて確かめます。

この問題で問われていること

取り組む内容とその理由を結び付けるときは、示された情報だけでそのつながりを説明できるかを考えてください。自分の経験や思い込みで補っている部分がないか、判断の根拠に立ち戻って確認しましょう。

視点

根拠は判断を支える情報、結論はその情報を踏まえて述べる内容です。二つをつなぐ説明を自分の言葉で表し、説明に必要な情報が実際に示されているかを確認する、という観点で整理しましょう。

確認ポイント

  • 判断を支える根拠を指し示せるか
  • その根拠と結論のつながりを説明できるか
  • つながりを説明する際に、示されていない前提を足していないか
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解説

本問は、建設業界の作業員不足、生産性、安全性の課題と、X社の販売拡大・海外常駐費用削減の方針を結び付ける問題です。新機能の目的だけでなく、保守情報の提供、レンタル計画、蓄積データの製品開発への活用まで、事業としての効果を説明することが要点です。

問題の全体像

X社は海外の大規模工事で使われる建設機械のメーカです。製品販売が伸び悩み、不定期の保守に備えた海外常駐の費用も増えているため、工事の自動化による販売拡大と、保守形態の見直しによる費用削減を目指しています。市場調査では、人手不足、作業効率の低下、労働災害、機械同士の干渉、レンタル計画や保守の問題が明らかになりました。公式の出題趣旨では、市場の状況と自社の方針を踏まえて製品機能を検討し、事業を企画する能力を評価するとされています。各設問では、課題を抱える事業者、追加開発する機能、データ活用による業務・事業上の効果を対応付けて考えます。

設問1(1)

〔建設業界の状況〕にある各事業者の役割に着目します。①は、工事を実施する際に必要なオペレータの確保・育成の問題なので、公式解答例では「建設工事会社」です。④は、機械とオペレータを増やして工期を短縮しようとするものの、現場全体で機械が干渉する問題です。機械の準備や会社間の調整、進捗管理を担うことから「ゼネコン」となります。⑦は、不稼働時間や代替機械の手配がレンタルスケジュールに影響する問題なので「レンタル会社」です。問題に登場する機械や作業員だけで判断せず、その業務を管理する主体を特定します。

設問1(2)

問われているのは、個々の機能名ではなく、新機能が解決を狙う建設業界全体の問題です。〔建設業界の状況〕には、作業員不足、低い労働生産性、労働災害の多さが明記されています。1人で最大10台を動かす仕組みは作業員不足に、安全な施工管理車からの操作は労働災害の低減に、気候や日照時間に左右されない24時間作業は生産性の向上につながります。公式解答例でも「作業員不足」「低い労働生産性」「労働災害が多い」の三点が示されています。X社自身の販売数や保守費用の問題と、建設業界の問題を区別して答えることが大切です。

設問2(1)

〔新たな機能の検討〕のうち、初期製品の基本動作に加えて機能を向上させる部分に着目します。公式解答例では、(5)の機械相互の位置関係を認識して一定距離を保つ制御機能と、(6)の運転状態・蓄積した保守データから故障を予見する状態監視保全機能が示されています。(4)の接近時に停止する機能と比べ、(5)は距離を保ちながら作業を継続するための制御です。また、(6)は状態を監視するだけでなく、蓄積データを用いて故障を予見する点が要点です。40字以内の表現例は、それぞれ「建設機械相互の位置関係を認識し、一定の距離を保つ制御機能」「運転状態と蓄積した保守データから故障を予見する状態監視保全機能」です。採点講評では、新たな建設機械の基本動作となる機能を書いた解答も見られたとされています。

設問2(2)

稼働データの直接受信は、保全判断と、その判断に基づく関係会社への情報提供を行うための仕組みです。〔事業形態〕には、X社が状態監視情報を基に判断し、交換部品を事前に手配したり、保守に必要な期間をレンタル会社に連絡したりするとあります。したがって、受信すること自体ではなく、取得したデータを何に使い、誰に情報を提供するかまで答えます。公式解答例では、保全に必要な稼働データを取得し、レンタル会社や現地の保守会社に情報を提供することが目的とされています。45字以内では「保全に必要な稼働データを取得し、レンタル会社や現地の保守会社に情報を提供する。」とまとめられます。

設問3(1)

市場調査の⑦と、X社が保守に要する期間を事前に連絡する記述を結び付けます。従来は、保守開始後に交換部品を取り寄せるため、不稼働時間が長くなり、代替機械の手配も間に合わないことがありました。状態監視保全に基づく情報が事前に得られれば、レンタル会社は保守期間を見込んで代替機械を確保し、貸出計画を調整できます。公式解答例でも、代替の建設機械を事前に手配することでレンタルスケジューリングができるとされています。45字以内では「代替の建設機械を事前に手配し、レンタルスケジュールを調整できる。」と、事前手配と計画調整の二点を押さえます。

設問3(2)

工事費用優先モードは、経済的なレンタルスケジュールを試算する機能です。市場調査の⑥では、日照時間、気温、天候などに応じてレンタル費用に差を設け、工事に適さない季節は安くしているとあります。新製品が普及し、これらの条件に左右されず24時間作業できるようになると、季節による工事の適・不適がなくなり、レンタル費用の差も小さくなります。そのため、安い時期を考慮してスケジュールを試算する必要性が低下します。公式解答例に沿った40字以内の表現は「建設工事に適さない季節がなくなり、レンタル費用の差が小さくなるから」です。採点講評では、この設問でモードの特徴を十分に理解していない解答が多かったとされています。

設問3(3)

X社は工事図面の3D CADデータ化を自社で請け負い、そのデータを社内に蓄積する方針です。設問は、蓄積できること自体ではなく、蓄積したデータがX社にどのような価値をもたらすかを問うています。工事図面には、製品が対応する工事の形態や条件が表れているため、その分析を新たな製品の開発に生かすという流れで考えます。公式解答例では、蓄積したデータを分析して製品開発に役立てられることが理由とされています。35字以内では「蓄積したデータを分析し、製品開発に役立てられるから」と、分析と製品開発への活用を明確に示します。

学習のポイント

事業者ごとの役割と課題を整理し、技術的な機能から業務上の効果、事業計画への影響へと因果関係をつなげて読む練習をしましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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