STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成25年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 健康管理ロボットの開発に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 D社は,血圧計,体温計,体重計など(以下,健康計測機器という)の製造・販売をしている健康計測機器専門メーカである。健康計測機器の販売数は,健康志向の高まりと,美容・ダイエットのブームが続いている間は一時的に伸びたが,現在は低下傾向にある。他社製品との競合による販売価格の引下げもあって,D社の売上,利益は,ともに減少してきている。 そこでD社では,売上と利益を増大させるために,これからも増え続ける高齢者を対象にした新たな製品戦略を立てることにした。 〔高齢者に関する健康管理の調査〕 D社は,新たな製品戦略の立案に当たり,高齢者を対象に,日常の健康管理の実態について調査し,その結果を次のようにまとめた。 ・血圧,体温,体重などは毎日計測した方がよいと思っているが,計測するのを忘れたり,記録するのが面倒だったりして続けることができない。 ・食事,運動などについて,医療機関でこまめにアドバイスしてほしい。 ・常用している薬を飲み忘れてしまうことが多い。 ・一人暮らしで話し相手がいないので,塞ぎ込みがちになることが多く,健康管理へのモチベーションを高く保つことが難しい。 さらにD社は,医療機関を対象に,高齢者の診断に関する要望について調査し,その結果を次のようにまとめた。 ・睡眠,食事,薬の服用などの生活状況のデータ(以下,生活データという)と,日常の血圧,体温,体重,歩行の歩数などの計測記録(以下,計測データという)の蓄積があれば,質の高い診断ができる。 ・生活データと計測データがあれば,その推移から適切な医療指導ができる。 〔新製品の機能要件〕 D社のITストラテジストであるE氏は,高齢者の健康管理について把握した実態を基に,新たな製品戦略の核になるものとして,生活データと計測データの収集・蓄積をして利用者の健康管理を行い,あたかも家族のように利用者と日常会話を交わすマスコット型ロボット(以下,健康管理ロボットという)を開発することにした。そのために,E氏は,システムアーキテクトであるF氏に,健康管理ロボットに関する次の機能要件を実現するための仕様の検討を指示した。 ・血圧,体温,体重の計測と薬の服用を,適切なタイミングに行うように促す機能 ・血圧,体温,体重を計測するタイミング,薬を服用するタイミングを,利用者が簡単に設定できる機能 ・生活データと計測データを収集する機能 ・生活データと計測データの傾向から,健康管理のアドバイスを行う機能 〔健康管理ロボットの仕様〕 F氏は,E氏から提示された機能要件について検討し,実現可能性を踏まえて次の仕様をまとめ,E氏に報告した。 ・健康管理ロボットは,会話の内容とカメラの画像から生活データを収集し,規則正しい睡眠,食事及び薬の服用,並びに,血圧,体温,体重の計測を促す。 ・血圧,体温,体重を計測するタイミング,薬を服用するタイミングは,利用者と健康管理ロボットとの音声による会話形式で設定できるようにする。 ・健康管理ロボットは,新たに開発する通信機能をもった健康計測機器と歩数計から計測データを受信できるようにする。 ・健康管理ロボットは,生活データ及び計測データの傾向から健康管理のアドバイスを行う。アドバイスの一例を次に示す。 “今日は血圧が適正値を超えているよ。運動量が少ないようなので,散歩にでも行きましょうか。” ・1台の健康管理ロボットの利用者は1人とする。 健康管理ロボットと健康計測機器の構成例を,図1に示す。 図1 健康管理ロボットと健康計測機器の構成例 〔製品化を行う上での留意事項〕 E氏は,健康管理ロボットを製品化するに当たり,考慮する必要がある事柄を次のようにまとめた。 ・①健康管理ロボットとD社の健康計測機器を組み合わせて使用させるための機能を戦略的に組み込む。 ・健康管理ロボットの使用開始時の設定,ソフトウェアバージョンアップなどの保守サービスに配慮する。 ・医療における診断は医師しかできないので,健康管理ロボットのアドバイスは,生活データと計測データを解析して求められる一般的な事項にとどめる。 ・健康管理ロボット及び各健康計測機器について,薬事申請も検討する。 〔ロボットの開発,製造,保守サービス〕 E氏は,F氏の検討結果を踏まえ,健康管理ロボットの開発,製造,保守サービスについて,これまでロボット開発の経験がない自社で行った場合と,既にマスコット型ロボットの開発・販売を行い,全国に保守サービス拠点をもつメーカのG社に委託する場合との比較・検討を行った。この比較・検討では,保有技術,設計コスト,設計期間,生産設備,保守サービス体制の5項目について評価した。評価に当たっては,特に,他社に先駆けて健康管理ロボットを市場に出すこと,及び健康管理ロボットを数多く市場に普及させることを重視した。その結果,G社に開発,製造,保守サービスを一括して委託することにした。 〔新たなビジネスモデル〕 E氏は,健康管理ロボットを早期に広く普及させるために,健康管理ロボットを単体では利益を得られない低い販売価格に設定した。しかし,それでも健康管理ロボットを利用者に直接販売するだけでは,広く普及させることは難しいと考えた。 そこで,E氏は,健康管理ロボットが収集した生活データと計測データを対象としたシステムをクラウドコンピューティングサービス上に構築し,利用者の生活データと計測データを蓄積する機能をクラウドサービスとして提供することにした。さらに,健康管理ロボットを購入してD社と情報利用に関わる契約をした医療機関は,購入した健康管理ロボットによって蓄積されている生活データと計測データに有償でアクセスできるという新たなビジネスモデルを考えた。このビジネスモデルでは,医療機関を直接の顧客とし,医療機関から治療中の患者に健康管理ロボットを貸し出すという形態にした。また,健康管理ロボットの貸出しを受けた患者から個人情報の提供について,あらかじめ了解を得ることにした。 設問1 健康管理ロボットの開発について,(1),(2)に答えよ。 (1) E氏が,新製品としてマスコット型ロボットを考えたときに想定した利用者を,15字以内で述べよ。 (2) 健康管理ロボットの開発,製造,保守サービスを自社で行うか,G社に委託するかを決定するに当たり,E氏が重視した項目を三つ挙げ,重視した理由をそれぞれ30字以内で述べよ。 設問2 本文中の下線①において,戦略的に組み込まれる機能は何か。30字以内で述べよ。 設問3 E氏が考えた新たなビジネスモデルについて,(1),(2)に答えよ。 (1) D社が利益を得ることができる売上は何か。二つ挙げ,それぞれ15字以内で述べよ。 (2) D社と契約したことで,医療機関は患者にどのような価値を提供できるようになるか。二つ挙げ,それぞれ30字以内で述べよ。
図1 健康管理ロボットと健康計測機器の構成例。中央に顔付きのマスコット型の健康管理ロボットを置き,左側の歩数計・体温計,右側の血圧計・体重計とそれぞれ無線通信を表す稲妻形の線で結んだ構成例の図。
図1 健康管理ロボットと健康計測機器の構成例。中央に顔付きのマスコット型の健康管理ロボットを置き,左側の歩数計・体温計,右側の血圧計・体重計とそれぞれ無線通信を表す稲妻形の線で結んだ構成例の図。
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与えられた情報と推測を区別する

この分野の課題を考えるときは、与えられた情報と自分の推測を区別することから始めましょう。身近な事例の印象で補わず、判断の根拠が提示された内容にあるかを確かめる姿勢が大切です。

この問題で問われていること

検討の焦点は、考えたことが何に基づいているかです。内容を整理する際は、直接示された情報なのか、自分が補った仮定なのかを意識し、その区別を保ったまま考えを進めてみましょう。

視点

情報の整理では、示された事実と、そこから自分が考えた解釈を分けて扱います。解釈を事実として扱っていないかを意識すると、検討の前提を見直しやすくなります。

確認ポイント

  • 考えの根拠を、与えられた情報の中に示せるか。
  • 明示されていない前提を、自分で補っていないか。
  • 自分の解釈を、示された事実と混同していないか。
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解説

健康計測機器の販売が低迷するD社が、高齢者向けロボットを核に製品戦略を転換する事例です。利用者の課題から機能を導き、早期投入と普及を支える開発委託を判断し、機器販売とクラウドサービスの収益を医療機関への価値提供に結び付けます。

問題の全体像

D社は、健康計測機器の販売数と価格の低下によって売上・利益が減少し、増加する高齢者を対象とした新製品戦略を立てます。健康管理ロボットで日常会話や計測・服薬の支援を行い、収集したデータを医療機関が利用できる仕組みを構築する事例です。出題趣旨では、市場の状況と自社の保有技術を踏まえ、利用者と機能の関係、開発委託の判断、戦略的な連携機能、新たなビジネスモデルを検討する能力が問われています。

設問1(1)

〔高齢者に関する健康管理の調査〕の「話し相手がいない」「健康管理へのモチベーションを高く保つことが難しい」と、〔新製品の機能要件〕の「あたかも家族のように利用者と日常会話を交わす」を結び付けます。マスコット型という製品の特徴に対応する利用者像が必要です。公式解答例では「話し相手のいない高齢者」としています。この表現で、会話への需要と高齢者という対象を15字以内にまとめられます。

設問1(2)①項目

〔ロボットの開発,製造,保守サービス〕で、E氏が「他社に先駆けて健康管理ロボットを市場に出すこと」を重視した点に着目します。公式解答例では、一つ目の項目を「設計期間」又は「保有技術」としています。D社にはロボット開発の経験がなく、G社には既存の開発・販売実績があるため、設計に要する期間や保有する技術が早期投入の判断に関わります。

設問1(2)①理由

一つ目に選んだ「設計期間」又は「保有技術」を、本文の早期市場投入という目的に結び付けます。公式解答例では「他社に先駆けて健康管理ロボットを市場に出したいから」としています。30字以内では、先行して市場に出すという目的を明確に示します。採点講評では、重視した項目と理由の整合が取れていない解答が一部に見られたとされており、選んだ項目がなぜ早期投入に必要かを対応させることが大切です。

設問1(2)②項目

本文の「健康管理ロボットを数多く市場に普及させること」に着目します。多数の利用者へ製品を供給するには、必要な台数を製造できる設備が必要です。公式解答例では、二つ目の項目を「生産設備」としています。普及という目的を、製造面の能力に結び付けて選びます。

設問1(2)②理由

「生産設備」を重視する理由は、数多く普及させるための製造能力を確保することです。公式解答例では「健康管理ロボットを数多く生産する必要があるから」としています。30字以内では、対象製品と多数生産の必要性を押さえます。設計の早さや保守拠点の多さではなく、生産設備に直接対応する理由としてまとめます。

設問1(2)③項目

G社が「全国に保守サービス拠点をもつ」ことと、製品化の留意事項に使用開始時の設定やソフトウェアのバージョンアップが挙げられていることに着目します。普及台数が増えれば、利用を支える保守への対応も必要になります。公式解答例では、三つ目の項目を「保守サービス体制」としています。

設問1(2)③理由

「保守サービス体制」は、多数のロボットが普及した後も設定や更新などを支えられるかという観点です。公式解答例では「数多く普及したときに保守サービスの拡充が必要だから」としています。30字以内では、普及の拡大に伴って保守サービスも拡充する必要があることを示します。多数の製品を作る理由は生産設備に対応するため、製造と保守の役割を区別しましょう。

設問2

下線①は、ロボットと「D社の健康計測機器」を組み合わせて使用させるための機能を求めています。〔健康管理ロボットの仕様〕では、通信機能をもつ健康計測機器から計測データを受信するとされ、図1にも各機器との連携が示されています。公式解答例では「D社の健康計測機器と,容易に接続できる機能」としています。30字以内では、接続先がD社の機器であることと、容易に接続できることを押さえます。採点講評でも、下線①を踏まえていない解答が多かったと指摘されています。

設問3(1)①

〔新たなビジネスモデル〕で、D社と契約した医療機関が、蓄積された生活データと計測データに「有償でアクセスできる」とされている点に着目します。データを蓄積し、医療機関に利用させるサービスが収益源になります。公式解答例では「クラウドサービスの売上」としています。15字以内では、この売上の名称を簡潔に示します。

設問3(1)②

下線①の、ロボットとD社の健康計測機器を組み合わせて使用させる戦略に着目します。ロボットが普及することで、連携する健康計測機器の販売にもつながります。公式解答例では「健康計測機器の売上」としています。15字以内では、この売上の名称を示します。本文ではロボット単体は利益を得られない価格に設定されており、採点講評でも、この価格設定を考慮していないと思われる解答が一部に見られたとされています。

設問3(2)①

〔高齢者に関する健康管理の調査〕の医療機関の要望に戻り、生活データと計測データの「蓄積があれば,質の高い診断ができる」とされている点を使います。契約によって医療機関が患者の日常のデータにアクセスでき、その情報を診断に活用できます。公式解答例では「蓄積された計測データと生活データに基づく質の高い診断」としています。30字以内では、両データの蓄積と診断の質の向上を結び付けます。診断の主体は医療機関の医師です。

設問3(2)②

医療機関のもう一つの要望である、生活データと計測データの「推移から適切な医療指導ができる」に着目します。蓄積したデータの変化を把握することで、患者の状態に応じた指導が可能になります。公式解答例では「計測データと生活データの推移に基づく適切な医療指導」としています。30字以内では、両データの推移を根拠とすることと、適切な医療指導という価値を示します。一つ目の診断と区別して、患者への継続的な指導の価値を説明します。

学習のポイント

本文の目的と施策を対応付け、評価項目と理由の整合性、ロボットの価格設定を踏まえた収益源、データ活用による診断と医療指導の違いを押さえましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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