STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成25年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 地方自治体による自転車シェアリング事業の展開に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 A市は,歴史的な町並みの保存と併せて,中心市街地の区画整理,道路の拡幅,自転車専用レーンの設置,及び中心市街地の周辺地区にある複数の駐車場の整備を行ってきた。しかし,これらの取組みにもかかわらず,A市では,通勤者・買物客・レジャー施設利用客の自家用車での中心市街地への乗入れ,又は観光名所などへの観光バス・自家用車の集中によって,道路は慢性的に交通渋滞に陥っている。また,路上の放置自転車も交通の大きな妨げになっている。 〔自転車シェアリング事業計画の概要〕 A市は,穏やかな気候に恵まれ,一年中,自転車の利用が可能であることから,誰でも自由に利用できる自転車(以下,共有自転車という)を配置し,市街地交通に活用する方針を定めた。放置自転車対策及び中心市街地・観光名所周辺の交通渋滞対策として,自転車シェアリング事業を展開することにした。自転車シェアリング事業計画の概要は,次のとおりである。 ・バスターミナル及び中心市街地の周辺地区の各駐車場に,共有自転車の保管場所(以下,駐輪ステーションという)を設けて,そこから共有自転車を借り出して利用できるようにする。 ・中心市街地の要所要所に駐輪ステーションを設け,利用者は,借り出した場所とは別の駐輪ステーションに共有自転車を返却することもできる。 ・観光客向けに,観光名所の集客施設に駐輪ステーションを設置する。 ・自転車シェアリングの利用を促進するために,バスターミナル,観光名所の集客施設などに,案内板を設置するなどして周知する。 ・駐輪ステーションがどこにあるのか分かるように,スマートフォン向けWebサイトを開設し,地図を掲載する。このWebサイトには,観光名所,おすすめのサイクリングコースなど,利用者から投稿された情報も掲載する。 〔自転車シェアリング事業の社会実験〕 国内では,自転車シェアリング事業について先行した取組み例が少なく,期待した効果が得られるかどうか分からない。そこでA市は,本格的な事業展開に先立ち,民間事業者(以下,事業運営者という)と共同して社会実験を行った。 ・駐輪ステーションには,共有自転車の前輪をロックする装置(以下,自動ロック装置という)複数台と,自動精算機1台を設置する。 ・利用者は,市役所に設けられた利用登録窓口で,住所・氏名・電話番号を届け出て利用者登録を行い,利用者カードを受け取る。 ・共有自転車を借りるときは,自動精算機に利用者カードをかざして登録データを読み込ませ,利用料金を投入して,自動ロック装置から共有自転車を引き出す。返却するときは,空いている自動ロック装置に押し込む。返却が完了したら,利用者は,新たな借り出しが可能になる。 ・事業運営者は,共有自転車が特定の駐輪ステーションに偏在しないように,駐輪ステーションを回って集配作業を行う。 ・事業運営者は,自動精算機に投入された現金を回収し,釣銭を補充する。 〔社会実験の結果と課題〕 社会実験の結果から,自転車シェアリング事業は,交通渋滞の緩和に寄与していることが確認できた。また,次の利用状況と本格的な事業展開に向けての課題を確認できた。 1. 利用状況 ・利用者の行動特性:中心市街地の商店街と観光名所近辺において,利用者の行動圏の拡大という現象が見られたことから,地域経済の活性化につながる可能性がある。 ・企業の利用:企業の従業員が,得意先まわり,商談など業務目的で利用する例がある。 ・観光客の利用:観光客は,利用登録方法と利用登録窓口の場所を知らなかったり,自転車シェアリングに不慣れであったりするので,利用件数が伸びない。特に,バスターミナルと観光名所の集客施設では,観光客からの問合せが多い。また,Webサイトに投稿された情報の場所について,経路や所要時間などの問合せもある。 ・駐輪ステーションの利用:中心市街地の周辺地区にある駐車場の駐輪ステーションでは,平日の朝は郊外からの通勤者への貸出しで共有自転車が不足し,夕方は返却された共有自転車で満杯になってしまうことがある。その際に,最寄りの駐輪ステーションに回って返却する利用者もいる。一方,日中(9:00~17:00)は,全般的にどの駐輪ステーションも朝夕に比べて利用者が少ない。 2. 本格的な事業展開に向けての課題 (1) A市の認識 ・駐輪ステーションで,共有自転車が出払ってしまっていたり,満杯で返却できなかったりして,別の駐輪ステーションに回る利用者もいるので,利用者への駐輪ステーションの情報提供の方法の見直しも併せて,何らかの対策が必要である。 ・自動精算機に投入された現金の取扱業務は,金銭トラブルの発生リスクを伴うので,クレジットカード又は交通系ICカード(以下,この二つを決済用カードという)の利用を考慮すべきである。 (2) 事業運営者の認識 ・朝に貸出しがピークとなる駐輪ステーションでは,自動精算機に長い待ち行列ができる。決済用カードで貸出処理に要する時間を短縮できれば,待ち行列の緩和が期待できる。 ・日中の利用者を増やしたい。そのためには,パッケージツアーを販売する旅行業者と提携し,観光客の利用を増やす必要がある。また,Webサイトに投稿された情報の活用方法の検討と企業への働きかけも必要である。 〔今後の取組み〕 自転車シェアリング事業は,事業収益が見込め,交通渋滞の緩和,地域経済の活性化及び市民生活の向上に寄与できることが分かった。そこでA市は,次の3点に留意して,本格的に事業を展開することにした。 ・事業運営収入を高める。 ・事業運営の効率を高める。 ・利用者の利便性を高める。 設問1 事業運営収入を高めるための施策について,(1),(2)に答えよ。 (1) 企業に対して働きかける内容を,15字以内で述べよ。 (2) 観光客の利用を促進するための具体的な方策を二つ挙げ,それぞれ40字以内で述べよ。 設問2 事業運営の効率を高めるための施策について,(1),(2)に答えよ。 (1) 駐輪ステーションにおける,利用者への貸出処理を迅速にするために必要な機能を,25字以内で述べよ。 (2) 駐輪ステーションの利用状況を考慮して共有自転車の配置数を決めるために必要な情報を,40字以内で述べよ。 設問3 利用者の利便性を高めるための施策について,(1),(2)に答えよ。 (1) 駐輪ステーションに関し,スマートフォンを通して利用者に提供すべきサービスを,40字以内で述べよ。 (2) Webサイトに投稿された情報に関し,スマートフォンを通して利用者に提供すべきサービスを,40字以内で述べよ。
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施策の評価に置く前提を確かめる

施策を検討するときは、その効果を判断するために置いている前提に注目しましょう。同じ施策でも、想定する状況によって評価の根拠は変わります。与えられた条件と自分で補った想定を区別して整理することが出発点です。

この問題で問われていること

この問題では、施策の印象だけで評価を決めず、その判断がどの条件を前提としているかを確かめる視点を持ちましょう。説明に根拠がある前提と、自分が無意識に加えた前提を分けると、検討の筋道を整理しやすくなります。

視点

評価の前提とは、ある判断をする際に成立していると考える条件です。検討するときは、与えられた条件と、自分が経験や印象から補った想定を分けておきましょう。

確認ポイント

  • 判断に用いている前提は何か
  • その前提は与えられた条件に基づいているか
  • 明示されていない想定を加えていないか
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解説

社会実験で判明した課題を、収入向上、運営効率向上、利便性向上につながる具体策へ変換する問題です。企業の業務利用、観光客の登録と利用の促進、カードによる貸出処理、場所・曜日・時間帯別の貸出・返却台数、スマートフォンでの経路案内が要点です。

問題の全体像

A市は、交通渋滞と放置自転車の対策として自転車シェアリングの社会実験を行いました。渋滞緩和の効果は確認できた一方、観光客の利用低迷、朝の貸出待ち、共有自転車の不足や返却場所の満杯などが課題となっています。公式解答例の出題趣旨では、ITを活用した業務モデルの構想力を評価するとしています。本文の課題を根拠に、収入を増やす施策、運営を効率化する機能・情報、利用者を支援するサービスを具体化することが求められます。

設問1(1)

着目するのは、企業の従業員が「得意先まわり、商談など業務目的」で利用しているという実績と、事業運営者が日中の利用者を増やしたいと考えている点です。この実績を他の企業にも広げれば、利用の少ない日中の需要と事業運営収入の増加につながります。公式解答例では「業務目的での利用の促進」としています。15字以内の答案では、企業への働きかけの中心となる「業務目的での利用」を明示します。

設問1(2)①

観光客は利用登録方法や登録窓口の場所を知らず、バスターミナルと観光名所の集客施設で多くの問合せをしています。また、社会実験の登録窓口は市役所に設けられています。そこで、観光客が訪れる場所で登録できるようにすることが、利用開始の障壁を下げる施策になります。公式解答例では、この二つの場所に常設の利用登録窓口を設けるとしています。40字以内では「バスターミナルと観光名所の集客施設に常設の利用登録窓口を設ける。」のように、設置場所と常設窓口を押さえます。

設問1(2)②

事業運営者の認識にある「パッケージツアーを販売する旅行業者と提携し、観光客の利用を増やす必要がある」に着目します。観光客に接点を持つ旅行業者から利用を勧めてもらうことで、自転車シェアリングに不慣れな観光客にも利用を促せます。公式解答例では、旅行業者と提携して利用を推奨してもらうとしています。40字以内では「旅行業者と提携し、自転車シェアリングの利用を推奨してもらう。」のように、提携先と働きかけの内容を具体的に示します。

設問2(1)

朝の貸出ピークには自動精算機に長い待ち行列ができ、決済用カードで貸出処理の時間を短縮できれば、その緩和が期待できると本文にあります。現在の現金投入を伴う手続を、カードを利用した貸出処理に改善する機能が求められています。公式解答例では「自動精算機での決済用カードによる貸出処理」としています。25字以内では、処理を行う自動精算機、決済用カード、貸出処理を押さえます。現金取扱いのリスク低減だけでは、問われている迅速化の機能を答えたことになりません。

設問2(2)

周辺駐車場の駐輪ステーションでは、平日の朝に貸出しで不足し、夕方に返却で満杯になります。この偏りを配置数に反映するには、ステーション別に、曜日と時間帯ごとの貸出台数・返却台数を把握する必要があります。公式解答例も、この三つの区分と貸出・返却の両方の台数を挙げています。40字以内では「駐輪ステーション・曜日・時間帯ごとの共有自転車の貸出と返却の台数」とまとめられます。採点講評では、1日単位の台数にとどまり、場所・曜日・時刻の特性に注意が向いていない答案が多かったと指摘されています。

設問3(1)

利用者が到着してから自転車の不足や返却場所の満杯に気付き、別の駐輪ステーションに回っている点に着目します。必要なのは、現在地から、実際に借出し又は返却ができる最寄りのステーションへ案内するサービスです。公式解答例では、そのステーションまでの経路を表示するとしています。40字以内では「借出し又は返却が可能な最寄りの駐輪ステーションまでの経路を表示する。」と表せます。採点講評では、全ステーションの満空情報を一覧で提供する答案が多く、スマートフォンのGPS機能の活用まで考えられていない点が指摘されています。

設問3(2)

Webサイトには観光名所やおすすめのサイクリングコースが投稿され、その場所への経路や所要時間の問合せがあります。この問合せに応えるには、投稿内容の掲載に加え、実際の移動に必要な情報を表示するサービスが必要です。公式解答例では、観光名所までの経路、サイクリングのコース、所要時間などの表示を挙げています。40字以内では「観光名所までの経路、サイクリングのコース、所要時間などを表示する。」とまとめられます。採点講評でも、投稿情報を表示するという抽象的な記述にとどまらず、具体的な情報項目と表示方法を答えることが求められています。

学習のポイント

本文の利用実態から施策を導き、必要な情報の集計単位と、端末の特性を生かしたサービスを具体的に記述する力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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