STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成24年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 産業用エネルギー機器の製造・販売を行う企業におけるメンテナンスサービス事業に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 A 社は,産業用エネルギー機器(以下,機器という)の製造・販売を行っている。近年は,業界での競合が激しく,A 社は市場シェアでは上位を占めているが,機器の製造・販売で利益を上げることが困難になっている。 A 社は,機器の販売と修理サービスを販売代理店に委託している。A 社の製品企画活動では,販売代理店からの修理情報,顧客からの機器の運転や機能の利用に関する情報などを参考に,新機能,新機種を開発している。しかし,販売代理店からの情報は曖昧なところが多いので,開発を検討するには不十分である。 〔販売代理店の状況〕 販売代理店の修理要員は,顧客から修理の依頼があると,顧客の事業所に出向いて機器の状況を調べ,故障箇所と故障原因を特定する。その結果,部品や消耗品の交換で済む簡単な修理については対応するが,高度な修理を要するときは A 社に修理を要請し,A 社の修理要員の訪問日時を調整する。 A 社の顧客の多くは昼夜操業していることから,補修部品の取寄せ・欠品,修理要員の訪問日時の調整などで修理が長引いて,操業に大きな影響が出ることを懸念している。そこで,販売代理店は,A 社に対して,補修部品の在庫管理の充実及び修理要員の派遣の迅速化を要望している。 販売代理店は,修理活動によって得た情報を活用して,顧客に対して機器の改造・取替え・増設の提案活動を行うことになっている。しかし,販売代理店の修理要員は,修理活動に関わる時間が多く,提案活動につながるような機器の運転状況,老朽化の状況の分析などに時間を割くことができないのが現状である。 〔補修部品の在庫計画の概要〕 A 社は,補修部品ごとの出荷履歴,設計仕様上の耐用年数を考慮して,向こう3か月間の在庫計画を立案している。機器の老朽化の状況は,運転状況によって変動し,部品の劣化の状況にもばらつきが出る。補修部品は,部品ごとに一定数量のロットを,工場の操業度が低下する時期に生産している。しかし,補修部品は,販売代理店からの出荷要求が増減するので,需要予測が難しく,欠品の場合は特別に生産して対応している。全ての補修部品で欠品を起こさないようにするには在庫負担が大きい。 〔メンテナンスサービス事業の立上げ〕 A 社にとって,修理サービス及び補修部品販売の売上高利益率は高い。しかし,修理サービスの需要が多いにもかかわらず,販売代理店からの高度な修理の要請にタイミングよく対応できていなかった。A 社は,収益構造の転換を早期に実現するために,経営会議でメンテナンスサービス事業の立上げを決定した。経営会議では,メンテナンスサービス拠点を全国に設置して,次の三つのサービスを提供することを取り決めた。 ① 365日24時間の修理サービス ② 販売代理店が行っていた修理サービスの一部 ③ 低燃費運転,予防保全,故障原因の分析などのコンサルティングサービス 経営会議では,主に次のような意見が出された。 ・メンテナンスサービス拠点を早期に全国に設置するためには,A 社の拠点が少ないので,既存の販売代理店の活用が必須である。販売代理店が,簡単な修理活動をするだけでなく,提案活動に多くの時間を割くことができるような施策を検討すべきである。 ・メンテナンスサービスによって得られた情報を使って,生産計画の精度を向上させるとともに,製品企画活動を強化する方策を検討すべきである。 〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕 A 社は,経営会議での決定・意見を受けて,メンテナンスデータ収集システムの導入を決定した。機器の本体に通信モジュールを装備し,通信回線を介して機器の運転状況のデータを収集し,データベースに蓄積する。また,電圧降下,圧力上昇,温度異常などの警告,機器故障を判定して,A 社の監視用端末に表示する。当該顧客を担当する販売代理店でも状況を確認することができる。既設の機器については,修理サービスの向上をアピールして,顧客に通信モジュールの装備を勧める。 メンテナンスデータ収集システムの導入によって,故障の前兆・発生を捉えることができ,機器本体の不具合箇所を特定することができる。また,不具合の内容によって,簡単な修理で済むか,高度な修理が必要かを前もって判断できるので,販売代理店及び A 社の修理要員は,あらかじめ必要な補修部品を携えて,修理に出向くことができる。 A 社は,収集したデータを用いて,機器の運転状況,機能の利用状況を分析し,コンサルティングサービスを展開できるようになる。また,生産活動,製品企画活動に有効な情報も得られる。データの分析結果を提供することによって,販売代理店では,提案活動に活用できる。 設問1 A 社のメンテナンスサービス事業について,(1),(2)に答えよ。 (1) メンテナンスサービス事業において収益の柱となる売上を,二つ答えよ。 (2) メンテナンスサービス事業によって顧客が受けるメリットとその理由を,それぞれ20字以内で述べよ。 設問2 メンテナンスデータ収集システムを活用した,販売代理店の修理活動と提案活動について,(1),(2)に答えよ。 (1) 販売代理店の修理活動におけるメリットとその理由を,それぞれ20字以内で述べよ。 (2) 販売代理店の提案活動におけるメリットとその理由を,それぞれ20字以内で述べよ。 設問3 メンテナンスデータ収集システムを活用した,A 社の生産活動と製品企画活動について,(1),(2)に答えよ。 (1) A 社の生産活動におけるメリットとその理由を,それぞれ25字以内で述べよ。 (2) A 社の製品企画活動におけるメリットとその理由を,それぞれ25字以内で述べよ。
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判断に用いる前提をそろえる

事業の収益やデータ活用の効果を考えるときは、判断の前提がそろっているかに注目しましょう。示された情報と自分が補った想定を区別し、同じ条件の下で関係を捉えられるかを確認することが大切です。

この問題で問われていること

この分野では、ある判断がどのような前提に基づいているかを確かめる視点が役立ちます。与えられた条件の範囲を意識し、明示されていない事情を無意識に加えて判断していないか、立ち止まって点検しましょう。

視点

まず、考えようとしている関係の前提を言葉にしてみましょう。その前提が与えられた情報に基づくものか、自分の想定なのかを分けて捉えると、検討する範囲を保ちやすくなります。

確認ポイント

  • 判断の前提を自分の言葉で整理できているか
  • その前提は与えられた条件に基づいているか
  • 明示されていない条件を付け足していないか
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解説

機器販売の利益が低下するA社が、利益率の高い修理サービスと補修部品販売を柱に収益構造を転換する事例です。収集データが顧客、販売代理店、A社の各業務にもたらす効果を、それぞれの理由と対応させて説明することが要点となる。

問題の全体像

A社は機器の製造・販売で利益を上げにくくなり、利益率の高いメンテナンスサービス事業への転換を目指している。一方、修理の長期化、販売代理店の分析時間不足、補修部品の需要予測の難しさ、製品企画に使う情報の曖昧さが課題です。機器の運転データを収集・分析するシステムによって、これらの課題をどう改善するかを読み取る。公式の出題趣旨では、新事業を支援する情報システムに関して業務モデルを作成する能力を評価するとしており、収益の柱と、関係者ごとのメリット・理由の対応が中心となる。

設問1(1)(①)

〔メンテナンスサービス事業の立上げ〕にある「修理サービス及び補修部品販売の売上高利益率は高い」という記述に着目する。機器の製造・販売による利益が低下しているため、利益率の高い既存サービスを収益構造の転換につなげる事業です。公式解答例では、回答欄①に「修理サービスの売上」を挙げている。提供予定のサービス一覧から選ぶだけでなく、収益性について明示された記述を根拠にする。

設問1(1)(②)

回答欄①と同じく、修理サービスと補修部品販売の売上高利益率が高いという記述が根拠となる。修理に伴って部品交換が必要になり、補修部品の販売もA社の収益を支える。公式解答例では、回答欄②に「補修部品販売の売上」を挙げている。コンサルティングサービスも提供予定だが、公式解答例が収益の柱として示す二つは、修理サービスと補修部品販売です。

設問1(2)(a)

〔販売代理店の状況〕では、顧客の多くが昼夜操業しており、修理が長引くと操業に大きな影響が出ることを懸念している。顧客側のメリットは、この操業への影響が小さくなることです。公式解答例でも、修理時間の短縮によって顧客の操業への影響が小さくなるという関係を示している。メリットの欄は、20字以内で「顧客の操業への影響が小さくなる」とまとめられる。

設問1(2)(b)

〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕では、不具合箇所や修理の難度を事前に判断し、必要な補修部品を携えて訪問できると説明されている。これにより、現地での調査や部品の取寄せなどによる修理の長期化を抑えられる。公式解答例が顧客のメリットの理由として示す要点は、修理時間の短縮です。20字以内では「修理時間が短縮されるため」とまとめ、メリット欄の操業への影響軽減につなげる。

設問2(1)(a)

問われているのは、販売代理店自身の修理活動におけるメリットです。従来は顧客の事業所に出向いて故障箇所などを調べていたが、システム導入後は不具合箇所や必要な部品を事前に把握できる。公式解答例では、その効果を機器の修理に要する時間の短縮としている。20字以内では「機器の修理時間を短縮できる」とまとめられる。採点講評では、販売代理店のメリットを問う設問でA社や顧客のメリットを挙げた解答があったと指摘している。

設問2(1)(b)

〔メンテナンスデータ収集システムの導入〕の、不具合箇所を特定でき、必要な補修部品を携えて修理に出向けるという記述に着目する。修理時間が短くなる理由として、事前に分かる情報を具体的に示すことが必要です。公式解答例では、不具合箇所と補修部品が分かることを挙げている。20字以内では「不具合箇所と必要な補修部品が分かるため」とまとめられる。

設問2(2)(a)

〔販売代理店の状況〕には、機器の改造・取替え・増設を提案することになっているものの、運転状況や老朽化の分析に時間を割けないという課題がある。本文末尾では、A社から提供されるデータの分析結果を提案活動に活用できるとしている。公式解答例が示すメリットは、機器の改造・取替え・増設の提案ができることです。20字以内では「機器の改造・取替え・増設を提案できる」とまとめられる。

設問2(2)(b)

提案内容を判断するには、機器がどのように運転され、どの程度老朽化しているかを把握する必要がある。従来はその分析に時間を割けなかったが、システムの収集データとA社の分析結果を活用できるようになる。公式解答例では、運転状況と老朽化の状況が分かることを理由としている。20字以内では「機器の運転状況と老朽化の状況が分かるため」とまとめ、提案活動のメリットと対応させる。

設問3(1)(a)

〔補修部品の在庫計画の概要〕では、出荷履歴と設計仕様上の耐用年数に基づく計画では需要予測が難しく、欠品への特別生産や在庫負担が生じている。収集データを生産活動に使う効果は、補修部品の在庫計画をより正確に立てられることです。公式解答例でも、補修部品の在庫計画の精度向上を挙げている。25字以内では「補修部品の在庫計画の精度が向上する」とまとめられる。

設問3(1)(b)

本文では、機器の老朽化や部品の劣化は運転状況によって変動すると説明されている。実際の運転状況を収集することで、設計上の耐用年数だけでは捉えにくかった部品交換の時期を予測し、在庫計画に反映できる。公式解答例が示す理由は、補修部品の需要時期を予測できることです。25字以内では「補修部品の需要時期を予測できるため」とまとめられる。

設問3(2)(a)

冒頭の製品企画活動では、修理情報や機器の運転・機能利用の情報を参考に新機能、新機種を開発しているが、販売代理店からの情報が曖昧で不十分とされている。システムによって具体的な利用実態が得られるため、開発の検討に活用できる。公式解答例では、新機能、新機種の開発を検討できることを挙げている。25字以内では「新機能・新機種の開発を検討できる」とまとめられる。採点講評では、製品企画を問う設問に保守サービス関連の内容を答えた解答があったと指摘している。

設問3(2)(b)

本文末尾の、収集データを用いて機器の運転状況と機能の利用状況を分析するという記述が根拠となる。顧客が機器をどう運転し、どの機能を利用しているかが分かれば、新機能や新機種を検討するための情報を得られる。公式解答例では、運転状況と機器の利用状況が分かることを理由としている。25字以内では「機器の運転状況と機能の利用状況が分かるため」とまとめられる。

学習のポイント

関係者と対象業務を取り違えず、得られる情報から業務上のメリットに至る因果関係を、指定字数内で表現する練習を重視する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成24年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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