STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成22年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 電鉄会社の情報システム子会社における情報技術を活用した新規事業に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 〔E社の概況〕 E社は、地方都市の電鉄会社グループ内の情報システム子会社で、自社のデータセンタを保有して主に親会社のシステムの運用を行っている。親会社は、この地域の名門企業で、地域の法人の会の会長になっており、地域の企業からコンプライアンス対応など経営手法に関する相談を受けることもある。E社は、この親会社のつながりを活用し、約300社の約9万人分の給与計算処理業務を受託するなど、地域の企業とも取引を行っている。給与計算処理業務の受託は対象とする従業員数がコストに影響するので、従業員1名当たりの月額料金を基準として従業員数が多くなるにつれて単価が低減する料金体系になっている。E社は、親会社及びグループ企業の間接部門のシステム化を進めてきており、経費精算システム、勤怠管理システム、eラーニングシステムなどのアプリケーションシステムを構築してきた。どのシステムもグループ内では使いやすいと好評である。これらのシステムの導入前後の事務作業量の変化を分析したところ、トータルコストの削減に効果があった。これらのシステムについてE社は、機会があれば地域の企業への販売を検討していきたいと考えている。 〔地域の特色〕 E社が所在する地域は、大地震が周期的に発生することが懸念されており、この電鉄会社グループは地域経済を担う企業として、危機管理マニュアルを整備し、各社員の携帯電話を使って安否確認ができる機能を勤怠管理システムに追加するなどの対応を進めている。この対応によって、危機管理能力が高いということで、地域における電鉄会社グループの評判は向上した。また、携帯電話を双方向に活用することについても前向きな考えが地域に広がった。この地域は、従業員規模の大きい企業が少なく、大半は300名以下である。間接部門やシステム担当のスタッフが不足しており、業務改善も進まない傾向にある。システム化も全体的に遅れており、手作業に頼っていることによって事務の負担は大きいものになっている。各企業の現場は顧客対応に追われ、伝票や帳票の作成が後回しになる傾向がある。勤怠管理でも、出退勤時刻を記載し忘れたまま帳票を提出したり、タイムレコーダの打刻を漏らしたりする従業員が多く、その問合せ及び追記に事務担当者が多くの時間を費やしている。 〔中期事業計画〕 電鉄会社グループでは、次の3点を柱とする中期事業計画作成方針が示された。 ① 新規事業へのチャレンジインフラストラクチャなどの経営資源を有効に活用し、新規事業にチャレンジする。 ② 地域経済への貢献地域の特性を踏まえた、電鉄会社グループならではのサービスを提供し、地域経済に貢献する。 ③ 現場重視顧客と社員の接点である現場を重視し、スピード感のある顧客対応を行う。E社としても中期事業計画の立案に当たって、E社の特性やインフラストラクチャを生かした新規事業を立ち上げ、成長の柱にしていくことにした。具体的には、E社のデータセンタを活用し、ASPの形態で情報システムサービスを提供していく計画である。地域の企業が個別に情報システムの企画・開発・運用を行っていくことに限界を感じているので、この計画は有望と思われる。企画部は、この計画立案に先立ち、ニーズについて取引先などにヒアリングを行った。これに対する反応は、次のようなものであった。 ・“システム化が遅れ、事務作業効率の改善が進んでいないので、この点を踏まえたものなら導入したい。”、“新たに費用負担が増加するような話は難しい。事務コスト削減などの効果と、サービス利用料金の全体的なバランスで採用を考えたい。”などの声が広く聞かれた。 ・給与計算処理業務の委託企業を中心に、勤怠管理システムについての期待が大きかった。これらの結果から、企画部は、次のような見解をまとめた。 ① 商品について・新規事業に相応の規模は期待したいので、勤怠管理システムの ASP形態でのサービス提供が望ましい。また、勤怠管理システムの ASP事業を立ち上げることには、幾つかのメリットがあると考えられる。 ・各企業の職場環境に合わせ、現在使っているタイムレコーダなどからも、出退勤時刻などのデータを勤怠管理システムに入力できるようにすることで、地域の企業にも受け入れやすいようにすることが大切である。 ② 追加で検討すべき事項について・勤怠管理システムの ASP事業について、料金収入と費用の関係を試算する必要がある。 ・顧客がどのような料金水準なら利用してくれるかを検討しておくべきである。 ・初期投資の回収見込みを明らかにする必要がある。そのためには、料金収入を予測する上で、確認すべきことがある。 ③ その他・販売促進については、インターネット広告を利用することが考えられる。しかし、地域の特色、グループ企業の強みなどを生かした販売促進策も必要である。 ・単に勤怠状況を管理するだけでは競争力が不十分である。当社のマーケットと各社のニーズを踏まえて、より魅力的な商品にするために、顧客から要望があった場合に提供できる機能を、現有の技術を活用して付加することについて検討すべきである。今後、企画部はシステム開発部と協力し、新規事業について具体化していく予定である。 設問1 新規事業として、勤怠管理システムのASP事業を立ち上げることについて、(1) 、(2) に答えよ。 (1) 既存取引先にこのサービスを提供する場合、システム導入作業を行う上での利点は何か、30字以内で述べよ。 (2) インターネット広告に加え、どのような販売促進策を行えばよいか、E社の特性を踏まえて、具体的に40字以内で述べよ。 設問2 料金設定を行うに当たって検討すべきことについて、(1) 、(2) に答えよ。 (1) 顧客が利用してくれると予想できる料金水準とはどのようなものか、30字以内で述べよ。 (2) 何年で初期投資を回収できるかを予測するために、確認すべき情報項目を、15字以内で述べよ。 設問3 顧客から要望があった場合に提供できる機能として、現有の技術を活用して付加すべきものを、(1) 、(2) の観点からそれぞれ答えよ。 (1) 事務負担の軽減の観点から、30字以内で述べよ。 (2) 危機管理の強化の観点から、15字以内で述べよ。
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新規事業企画を考える視点

地域の特徴と組織が持つ資源を結び付けて考えるときは、外部環境の機会だけでなく、実行に必要な能力や継続可能性との整合にも目を向け、複数の観点を一つずつ整理します。

この問題で問われていること

この設問では、地域側の条件と自社側の強みを別々に捉えたうえで、両者が無理なく結び付くかを確認する観点に絞り、魅力の大きさだけでなく実現性にも目を向けましょう。

視点

新規事業の検討では、地域にある需要や制約と、自社が提供できる価値・人材・設備などの要素を切り分け、両者の関係性、実行可能性、継続性を順に見ます。

確認ポイント

  • 地域の特徴が、誰にどのような価値を生む可能性と結び付いているか確認する
  • 自社の資源が一時的な活用ではなく、実行や継続にどう関係するか確認する
  • 地域の条件と自社の資源を同じ基準で比較し、前提の飛躍がないか確認する
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解説

E社のデータセンタ、既存取引先、地域企業とのつながりを生かし、勤怠管理ASP事業の販売、料金設定、付加機能を検討する問題です。

問題の全体像

E社は、データセンタや業務システムの構築実績を持つ情報システム子会社です。地域企業ではシステム化が遅れ、勤怠管理の記入漏れや打刻漏れへの対応が事務負担になっています。そこで、E社は勤怠管理システムをASPで提供する新規事業を計画しました。設問は、既存の関係や地域特性を踏まえた販売促進、顧客が受け入れる料金、投資回収の予測、事務負担軽減・危機管理の付加機能を問うものです。

設問1(1)

既存取引先には給与計算処理などを通じて、従業員に関するデータを既に保有している企業があります。そのため、新たに従業員データを収集・登録する作業を減らせます。公式解答例では、この点を「既に保有している従業員データを利用できる」としています。30字以内なので、既存データの利用による導入作業の軽減に絞ります。

設問1(2)

E社は親会社のつながりを活用して地域企業と取引し、地域の法人の会との関係もあります。また、給与計算処理業務の委託企業が勤怠管理システムに期待しています。したがって、インターネット広告だけでなく、地域の法人の会や給与計算受託先を販売チャネルとして使う具体策になります。公式解答例も、これらのチャネルを活用した販売促進を示しています。

設問2(1)

ヒアリングでは、新たな費用負担の増加は難しく、事務コスト削減などの効果と利用料金の全体的なバランスで採用を考えるという意見が出ています。したがって、料金水準は単に安いというだけでなく、勤怠管理業務で得られるコスト削減効果を下回ることがポイントです。公式解答例では「勤怠管理業務のコスト削減効果より安い料金」としています。

設問2(2)

給与計算処理では従業員数がコストや料金単価に影響し、従業員数が多いほど単価が低減する料金体系です。初期投資回収のための料金収入を予測するには、サービス対象となる従業員数を確認する必要があります。公式解答例も「サービス対象従業員数」としています。15字以内なので、情報項目を端的に書きます。

設問3(1)

本文では、出退勤時刻の記載忘れやタイムレコーダの打刻漏れが多く、その問合せや追記に事務担当者が時間を費やしています。この課題に対応するには、勤怠管理システムと連携し、未入力者へ問合せる機能が適切です。公式解答例では、出退勤時刻未入力者への問合せ機能を示しています。事務負担の原因と機能を対応させて書きます。

設問3(2)

地域では大地震が懸念され、グループは携帯電話を使った安否確認機能を勤怠管理システムに追加しています。この既存の技術や実績を地域企業向けサービスにも生かせるため、危機管理の強化には安否確認機能を挙げます。公式解答例も「安否確認ができる機能」としています。15字以内なので機能名を簡潔に示します。

学習のポイント

新規事業では、顧客課題と自社資源を結び付けて具体化する力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成22年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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