STITストラテジスト試験 午後Ⅰ

平成21年度秋期 ITストラテジスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 自動窓口機の製造販売企業におけるITを使った業務改革に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 D社は,発券機や現金自動預け払い機などの自動窓口機の製造・販売をしている。 〔営業部門の現状〕 D社の顧客は,流通業,運輸業,金融業などの企業であり幅広い。D社は,顧客の要望に合わせて自動窓口機の外観をデザインしたり,様々な機能・能力をもたせたりして市場に提供している。業界における先進的な顧客が新しいニーズに基づいて新製品を導入すると,ほかの顧客も先進的な顧客に追随して同様な製品を導入する傾向がある。 営業部門では,引き合いがあると設計技術者を同行して顧客のニーズを確認する。商談が成立して顧客から注文を受けると受注番号を発番し,起票する。大きな商談になると,1件で1、000台単位の受注になる。 〔設計部門の現状〕 D社の製品は,特注品と既存製品に分けることができる。特注品は,先進的な顧客のニーズに基づいて新たに設計するものである。したがって,新規部品の設計,試作,テスト使用などの開発期間が必要となり,本格生産に入るまでに時間を要する。既存製品は,特注品を基に,ほかの顧客の個別の要求仕様に適合するよう機能の増減や能力の変更などの追加設計をして製造するものである。 既存製品では,追加設計が増加し,現在の設計方法では設計能力が追いつかず,作業が遅れがちである。 設計部門では,設計の初期段階から設計BOM(部品表)を利用している。設計BOMには,設計が完了したすべての製品の部品構成情報が網羅されている。 〔製造部門の現状〕 製造部門には,部品加工工場と組立工場がある。 (1) 部品加工工場 部品加工工場は,あらゆる仕様の部品加工に対応している。加工方法が様々で作業時間が長くなるので,加工方法が同様な部品を集めて加工するなどの工夫によって作業の効率向上を図っている。 部品置場には,組立作業待ちの部品が数多く滞留している。組立作業の順番が度々変更されるので,組立作業の初期段階に使われる部品の優先的な加工が必要になり,工程が混乱することがある。 加工能力を超える部品の加工は,外注先に委託している。部品ごとに加工内容が異なるので,委託のたびに加工図面を渡して見積りを取る必要がある。その結果,発注事務が複雑になり,社内加工費に比べて調達費が高くなっている。 (2) 組立工場 組立てには,複数の部品を組み合わせるユニット組立てと,組み合わされた部品を使用して行う本体組立てとがある。組立工場は,受注番号ごとに,部品加工工場からの部品及び外注加工された部品を使ってユニット組立てをした後,本体組立てを行う。ユニット組立ての着手時刻になっても部品加工工場から一部の部品が到着せず,作業待ちが発生することがある。 本体組立てが完了し,最終検査を行った製品は,いったん出荷待ちエリアに保管し,顧客の設置作業日時に合わせて出荷する。受注番号が同じでも,製品ごとに設置作業日時や設置場所が異なる。 大口の注文の場合は,全国の店舗や駅など(以下,店舗等という)に設置することが多いので,顧客と協議して製品ごとに設置作業日時を設定する。店舗等の開設日時や改装日時は,顧客の都合によって度々変更されるものの,開設日や改装日の1週間前には確定する。組立工場では,組立完了日を実際の出荷日より早い時期に設定しており,製品は出荷まで出荷待ちエリアに保管される。 〔新しい営業戦略〕 従来は,先進的な顧客に対してもほかの顧客に対しても,同じ内容のサービスを提供してきた。 先進的な顧客は,自動窓口機の機能や能力,新しい利用方法などについて,今までにない仕様を求める。開発には手間がかかるものの,設置する店舗等の数が多いので,大型受注になる。 ほかの顧客のニーズは多種多様で,顧客数は多いが,顧客ごとの店舗等の数は多くない。D社は,顧客ごとのニーズに合わせて追加設計を行っているので,作業負荷が大きい割に受注高が伸びない。 D社は,新たに設定する定番の製品シリーズの充実を図っていくことにし,受注活動を見直した。すなわち,先進的な顧客には従来どおりの受注活動を行い,ほかの顧客には定番の製品シリーズの受注活動を行うことにした。 〔設計部門の改革〕 定番の製品シリーズの設計方法は,製品構成を基本構成とオプションに分け,顧客のニーズに合わせて基本構成とオプションを組み合わせ,製品の仕様を決める。その結果,追加設計が不要になり,オプション用の部品(以下,標準部品という)を組み込んで製品を組み立てることができる。 先進的な顧客向けの特注品については,個別に新たに全体を設計する従来の方法を変更し,基本構成と新たなオプションの組合せとなるように設計する。オプション用として切り出された部品を設計BOMに登録し,定番の製品シリーズでの標準部品として活用する。 新たな設計方法への変更によって,調達費を削減できるという効果も得られる。 〔製造部門の改革と生産管理システムの構築〕 定番の製品シリーズ用に外注する部品は,加工図面が確定した標準部品に限ることにし,それぞれの標準部品は,決められた一定量の在庫をもつようにする。また,部品加工工場は,標準部品の在庫をもたないようにし,組立工場も製品の出荷待ちが発生しないように製品ごとに組み立てる。部品加工工場と組立工場の連携を図って,1台の製品を部品加工から最終検査の完了まで5日以内の期間で製造できるようにする。 製造部門は,従来以上に作業日程を遵守する必要があるので,新たに生産管理システムを構築する。設計BOMに連携させて製造BOMを整備する。製造BOMには,部品ごとに加工,ユニット組立て,本体組立てのそれぞれの手順と,それらに要する標準作業時間を登録する。 生産管理システムは,基本構成と標準部品の組合せ内容などの情報や製造BOMの情報を基に,生産計画などを立てる。 生産管理システムの構築と併せて各工場で作業方法を改善する。 ・部品加工工場 加工作業の割り込みや組立工場での作業待ちが発生しないようにする。また,加工方法の見直しや作業指示方法を改善する。これらの改善によって組立工場における製品の出荷待ちを削減する。 ・組立工場 出荷日時の順に製品を完成させる。そのために,組立てに必要な数量の基本構成と標準部品をそろえて作業を開始する,定められた時間内に作業を終えるようにするなどの作業方法の改善を進め,ユニット組立てから最終検査までの製造期間を短縮する。 設問1 D社の新しい営業戦略について,(1),(2)に答えよ。 (1) 定番の製品シリーズの充実を図っていくことにし,受注活動を見直した。 ① 先進的な顧客に対する,受注活動におけるねらいと受注の方法を,それぞれ30字以内で述べよ。 ② ほかの顧客に対する,受注活動におけるねらいと受注の方法を,それぞれ30字以内で述べよ。 (2) 新たな設計方法によって,なぜ調達費を削減できるのか,その理由を40字以内で述べよ。 設問2 組立工場における組立作業と設置作業を連携させるために,生産管理システムからどのように組立指示を出力すればよいか,35字以内で述べよ。 設問3 組立工場での作業方法を改善するために,部品加工工場が行う改善について,(1),(2)に答えよ。 (1) 生産管理システムからどのように部品加工指示を出力すればよいか,35字以内で述べよ。 (2) 部品加工指示を出すために,部品加工に要する標準作業時間のほかに,必要な情報を挙げよ。
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検討対象の範囲をそろえる

業務改革を考えるときは、何を検討の対象に含めるかという範囲に注目しましょう。記載された内容から対象の境界を確かめ、書かれていることと、自分が補って考えたことを分けて整理すると、検討の土台が整います。

この問題で問われていること

この問題では、与えられた情報がどこまでの範囲を扱っているかを確かめることに集中しましょう。対象の範囲を広げたり狭めたりせず、明記されている内容に沿って考えられているかを振り返るのが検討の手掛かりです。

視点

検討の範囲とは、考える対象に含める部分と含めない部分の境界です。対象を広く捉えた場合と狭く捉えた場合では、同じ情報でも受け止め方が変わることがあります。まず範囲を意識し、記載のない部分を無意識に補っていないか確かめましょう。

確認ポイント

  • 検討の対象となる範囲を把握できているか
  • 記載のない範囲まで、自分の想像で広げていないか
  • 考えている途中で、対象の範囲が変わっていないか
正解と解説を見る

解説

D社の改革は、顧客層に応じた受注方法と部品の標準化によって設計・調達の負荷を減らし、設置予定に合わせて組立てと部品加工を連携させるものです。各設問では、この改革を実現する目的、業務方法、システムの指示内容を具体化します。

問題の全体像

D社は顧客ごとの要求に個別対応してきたため、追加設計の遅れ、複雑な外注発注、部品不足による組立待ち、完成品の出荷待ちが発生しています。改革では、先進的な顧客から得た新しい仕様を定番製品のオプションに活用し、ほかの顧客には基本構成とオプションの組合せで対応します。さらに、生産管理システムで部品加工・組立て・設置の予定を連携させます。提示された出題趣旨では、部門間の連携と業務改善を支える情報システムの構築能力が評価対象とされています。

設問1(1)①ねらい

「新しい営業戦略」にある、先進的な顧客が機能・能力や新しい利用方法について、今までにない仕様を求めるという記述に着目します。その要求を把握することが、新製品の開発と定番シリーズの充実につながります。公式解答例では「機能・能力の要求,新しい利用方法などを把握する。」としています。30字以内では、大型受注という結果だけでなく、新しい要求を把握するという営業活動のねらいを押さえます。

設問1(1)①方法

先進的な顧客には「従来どおりの受注活動を行う」という方針と、従来は設計技術者が同行して顧客のニーズを確認していたという記述を結び付けます。新しい仕様を求める顧客には、そのニーズに基づいた製品を受注します。公式解答例では「顧客のニーズに基づいた製品を受注する。」としています。30字以内では、顧客のニーズに基づく製品の受注という方法を簡潔に示します。

設問1(1)②ねらい

ほかの顧客については、顧客ごとの追加設計によって「作業負荷が大きい割に受注高が伸びない」ことが問題です。定番シリーズを使えば追加設計が不要になるため、設計負荷を抑えながら受注を増やすことができます。公式解答例では「追加設計を行わずに受注高を伸ばす。」としています。30字以内では、追加設計をしないことと受注高を伸ばすことの両方を含めます。

設問1(1)②方法

「設計部門の改革」にある、顧客のニーズに合わせて基本構成とオプションを組み合わせ、製品仕様を決めるという記述が根拠です。営業もこの組合せによって受注することで、個別の追加設計を不要にできます。公式解答例では「製品を基本構成とオプションの組合せによって受注する。」としています。30字以内では、基本構成とオプションを組み合わせて受注することを具体的に示します。

設問1(2)

現状では部品ごとに加工内容が異なり、外注のたびに図面を渡して見積りを取るため、発注事務が複雑になっています。改革後は、外注対象を加工図面が確定した標準部品に限ります。公式解答例では、図面の確定による発注事務の簡素化と外注費の低減を理由としています。40字以内では「加工図面が確定し、発注事務を簡素化して外注費を低減できるから。」のように、変更点と費用削減のつながりを示します。

設問2

受注番号が同じでも、製品ごとに設置作業日時と設置場所が異なる点に着目します。受注単位でまとめて完成させると出荷待ちが生じるため、各製品が設置予定に間に合うよう、配送に必要な時間も考慮して組立日程を決める必要があります。公式解答例では「個々の製品が店舗等に作業予定日時までに届くように指示を出す。」としています。35字以内では、個々の製品、設置先への到着、作業予定日時までという要素を押さえます。

設問3(1)

現状では加工方法が似た部品をまとめて加工していますが、組立順序の変更による加工の割り込みや、必要部品の未到着による組立待ちが発生しています。改革後は、組立工程が必要とする順番に合わせて部品を供給する指示が必要です。公式解答例では「組立ての順に必要な部品を供給できるように指示を出す。」としています。35字以内では、加工効率だけでなく、組立順序と必要部品の供給を結び付けます。

設問3(2)

部品の標準作業時間だけでは、加工に何時間かかるかは分かっても、いつ加工すべきかは決まりません。組立開始時に必要な部品をそろえるには、部品が必要となる時刻から加工日程を逆算する必要があります。本文では、ユニット組立ての着手時刻に部品が届かず作業待ちが発生しています。公式解答例では、追加で必要な情報を「ユニット組立ての着手時刻」としています。答案では、この具体的な時刻情報を挙げます。

学習のポイント

営業戦略と業務改革の因果関係を読み取り、後工程の必要日時から生産指示に必要な情報を導く練習をしましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成21年度秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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