SC情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅰ

平成30年度春期 情報処理安全確保支援士 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 LAN分離に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。 N社は,新薬創出を事業内容とする,いわゆる創薬ベンチャ企業である。従業員は10名で,研究開発員が5名,その他の事務員が5名である。N社のネットワーク構成を図1に示す。図1中の全ての機器には固定のIPアドレスを割り当てている。また,インターネット経由でN社が利用しているクラウドサービスを表1に示す。 図1 N社のネットワーク構成(問題冊子15ページ参照) FW:ファイアウォール L2SW:レイヤ2スイッチ 表1 利用しているクラウドサービス 電子メールサービス:社内PCにインストールされた電子メールソフトからのアクセスに応じて,電子メールの送受信を行う。 Webプロキシサービス:社内PCと社内のサーバからインターネット上のWebサイトへのアクセスを中継する。FW1では,社内PCと社内のサーバから,Webプロキシサービスを経由しないでインターネット上のWebサイトへアクセスすることを禁止している。 更新ファイル提供サービス:社内PCと社内のサーバに,脆弱性修正プログラム(以下,パッチという)とマルウェア定義ファイル(以下,パッチとマルウェア定義ファイルを併せて更新ファイルという)を提供する。更新ファイルは,社内PC又は社内のサーバが,HTTP通信を利用し,Webプロキシサービスを経由してこのサービスへアクセスし,取得する。 [リスクアセスメント] N社は,事業拡大のために,研究開発員を30名程度に増員する計画を立てた。これまで,情報管理を従業員の裁量に任せていたが,増員に伴い,社内の情報管理方法,特にファイルの漏えい防止対策を強化することになり,B取締役がその責任者に,ネットワーク管理に最も詳しいRさんが担当者に,それぞれ指名された。社外の情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)であるA氏の支援を受けることにし,漏えい防止対策の強化について検討を開始した。 次は,その時の会話である。 B取締役:当社では情報資産の漏えい防止が重要な課題ですが,まずは有望な新薬候補に関するファイル(以下,新薬ファイルという)の保護に絞って見直そうと思います。 A氏:分かりました。新薬ファイルは,どこに保管しているのですか。 Rさん:主に研究開発用ファイルサーバに保管していますが,一部は研究開発員が使用する社内PCにも保管しています。 A氏:保護の見直しの最初に,サーバや社内PCに保管中の新薬ファイルについてリスクアセスメントを行うことが必要です。JIS Q 31000:2010及びJIS Q 31010:2012では,リスクアセスメントは,[a],リスク分析,[b]の三つのプロセスの順に進めると定義されています。まず,[a]のプロセスですが,ファイルに影響を及ぼす一般的なリスクの一覧を私から提供しますので,これを基に進めるとよいでしょう。 B取締役とRさんは,A氏の支援の下で[a]のプロセスを完了した。その結果,新薬ファイルに影響を及ぼすリスクの一覧として表2が得られた。 表2 リスク一覧(抜粋) リスク1:インターネットからの不正侵入による新薬ファイルの漏えい。 内容:インターネット経由で,ファイルサーバに侵入されることによって,新薬ファイルがインターネットに流出する。 リスク2:標的型攻撃による新薬ファイルの漏えい。 内容:電子メールによってN社を標的としたマルウェアが送り込まれ,社内PC又は社内のサーバがマルウェアに感染することによって,新薬ファイルがインターネットに流出する。 リスク3:従業員の故意又は過失によるインターネット経由の新薬ファイルの漏えい。 内容:従業員の故意又は過失によって,新薬ファイルが不適切な宛先に電子メールで送信される又はSNSに書き込まれることによって,インターネットに流出する。 続いて,リスク分析のプロセスとして,JIS Q 31000:2010及びJIS Q 31010:2012に沿って,[c]と,[d]を組み合わせてリスクのレベルを決定した。最後に,[b]のプロセスとして各リスクへの対応の要否を検討した。その結果,B取締役は,表2のリスク2への対応が必要と判断した。 [LAN分離案の検討] B取締役とRさんは,表2のリスク2への対応として,新薬ファイルを保管している機器を収容するLAN(以下,研究開発LANという)と,それ以外の機器を収容するLAN(以下,事務LANという)に分離するLAN分離案を検討することにした。事務LANはインターネットとの通信を許可するが,研究開発LANはインターネットとの通信を一切許可しない。このLAN分離に伴い,社内PCは,研究開発LANだけに接続する研究開発用の研究開発PCと,事務LANだけに接続する一般事務用の事務PCに分かれる。研究開発員は,事務PCと研究開発PCの2台を利用する。 Rさんは,業務遂行のために必要な要件を研究開発員から聞き,図2にまとめ,ファイル転送のための中間LANを加えた図3のLAN分離案を作成した。 図2 業務遂行のために必要な要件 1.社外から届いた電子メールの添付ファイルを,研究開発PCに転送できること 2.社外の共同研究者とデータを共有するために,社外のファイル交換用Webサイトから事務PCにダウンロードしたファイルを,研究開発PCに転送できること 3.研究開発用ファイルサーバ内の新薬ファイルのうち,社外の共同研究者と共有するために承認を受けた新薬ファイルを研究開発PC上で編集した後,編集結果を事務PCに転送し,事務PCからインターネット上のファイル交換用Webサイトにアップロードできること 図3 LAN分離案(問題冊子17ページ参照) 注記:(あ),(い)は,新たに機器を設置する接続点を示す。 この案では,研究開発LANと事務LANとの間のファイル転送を行うために,ファイル転送サーバとして広く利用されているU社製の製品Zを導入する。図3中のFW1とFW2の設定内容を表3に示す。また,ファイルを転送する際の操作手順を図4に示す。 表3 FW1とFW2の設定内容 FW1が許可する通信:事務LAN上の機器からN社が利用しているクラウドサービスへの必要な通信。事務PCからファイル転送サーバへの必要な通信。 FW1が禁止する通信:他の全ての通信。 FW2が許可する通信:研究開発PCからファイル転送サーバへの必要な通信。 FW2が禁止する通信:他の全ての通信。 注記1:研究開発LAN上の機器は,内部DNSサーバを利用していない。 注記2:FW1及びFW2は,ステートフルパケットインスペクション型である。 図4 ファイルを転送する際の操作手順 研究開発PCから事務PCへのファイル転送時の操作手順 1.研究開発PCのWebブラウザからファイル転送サーバのアップロード用URLにアクセスし,表示される画面で利用者ごとに異なる利用者ID及びパスワードを入力してログインする。 2.ログイン後に表示されるアップロード画面で,研究開発PC内のファイルを一つ選択して,アップロードする。アップロードが正常に完了すると,完了メッセージとともにアップロード画面が再度表示される。ここで次のファイルを続けてアップロードすることも,ログアウトボタンをクリックして,ログアウトすることもできる。 3.事務PCのWebブラウザからファイル転送サーバのダウンロード用URLにアクセスし,表示される画面で利用者ごとに異なる利用者ID及びパスワードを入力してログインする。 4.ログイン後に表示されるダウンロード画面では,その利用者IDでアップロードされたファイルの一覧が表示されるので,ファイルを一つ選択してダウンロードする。ダウンロードが完了すると,サーバ内のダウンロードされたファイルが削除され,完了メッセージとともにダウンロード画面が再度表示される。ここで次のファイルを続けてダウンロードすることも,ログアウトボタンをクリックして,ログアウトすることもできる。ダウンロードされなくてもアップロードしてから4時間たつとファイルは削除される。 注記:事務PCから研究開発PCへのファイル転送時の操作手順は,図中の研究開発PCを事務PCに,事務PCを研究開発PCに,それぞれ置き換えて読むものとする。 LAN分離を進めると,研究開発PC及び研究開発用ファイルサーバは更新ファイルの提供を受けられなくなるので,新しい仕組みが必要になる。Rさんは,更新ファイル提供サービスと同じ動作をするパッチ配信兼マルウェア対策管理サーバ(以下,配信サーバという)を用意することにした。 図3,表3及び図4を見たA氏は,幾つかのシナリオを仮定して図3のLAN構成で想定されるマルウェア感染被害について表4のとおり評価した。表5に,各OSを利用している機器を示す。 表4 マルウェア感染被害の評価(抜粋) 項番1 仮定したシナリオ:HTTP通信を悪用して管理者権限を窃取できる脆弱性vが発見されたが,パッチはリリースされていない。事務PC,研究開発PC及びファイル転送サーバには,脆弱性vが存在している。事務PCが,脆弱性vを利用して能動的に感染を広げるマルウェアαに感染した。 想定される被害:事務PCからファイル転送サーバが感染する。脆弱性vを利用して,ファイル転送サーバから①研究開発PCが感染する可能性は低い。配信サーバの設置位置によっては,配信サーバが感染する可能性がある。 項番2 仮定したシナリオ:攻撃者が,N社が製品Zを使用していることを知っており,製品Zのアクセス手順を組み込んだマルウェアβを作成して,電子メールを利用してN社に送り込んだ。事務PCが,マルウェアβに感染した。マルウェアβが,[e],[f],[g]の情報を窃取して,ファイル転送サーバにアクセスした。 想定される被害:ファイル転送サーバに不正なファイルがアップロードされる。その不正なファイルが原因となって②研究開発PCが感染する可能性は低い。 項番3 仮定したシナリオ:ファイル共有プロトコルを悪用して管理者権限を窃取できる脆弱性wが,OS-Pで発見される。OS-Qは,脆弱性wは存在しない。事務PC,研究開発PC又は配信サーバのいずれかが,脆弱性wを利用して能動的に感染を広げるマルウェアγに感染した。更新ファイルの提供に使用するプロトコルは,ファイル共有プロトコルではない。 想定される被害:配信サーバの設置位置によっては,脆弱性wを利用して,事務PC,研究開発PC及び配信サーバの間で感染が拡大する可能性がある。 表5 各OSを利用している機器 OS-P:事務PC,研究開発PC,配信サーバ,内部DNSサーバ OS-Q:研究開発用ファイルサーバ,一般事務用ファイルサーバ,ファイル転送サーバ この結果から,図3のLAN分離案は研究開発LAN内の新薬ファイルの漏えい防止に有効だとの結論を得て,B取締役は社内ネットワークの変更を進めることにした。さらに,表4の項番3について,マルウェアの感染が広がることを防ぐために,Rさんは配信サーバの設置位置を,表6を用いて検討した。検討の際に,FW1とFW2の設定は必要最小限の通信だけを許可するものとした。 表6 配信サーバの設置位置の検討内容 感染経路:事務PCから配信サーバへ 図3中の(あ)に設置した場合:(省略) 図3中の(い)に設置した場合:結論:感染する可能性が低い。理由:FW1によって感染活動を遮断できるから。 感染経路:研究開発PCから配信サーバへ 図3中の(あ)に設置した場合:結論:感染する可能性が[h]。理由:[i] 図3中の(い)に設置した場合:結論:感染する可能性が[j]。理由:[k] 感染経路:配信サーバから事務PCへ 図3中の(あ)に設置した場合:(省略) 図3中の(い)に設置した場合:(省略) 感染経路:配信サーバから研究開発PCへ 図3中の(あ)に設置した場合:(省略) 図3中の(い)に設置した場合:(省略) 検討の結果,RさんはB取締役に配信サーバの適切な設置位置を提案して,社内ネットワークを変更した。 [不審な操作ログ] 社内ネットワークの変更から半年ほどたったある日,ファイル転送サーバのログを調べていたRさんが,研究開発員のSさんの研究開発PCがファイル転送サーバへ頻繁にアクセスしていることを発見した。Sさんの研究開発PCを調査したところ,規程で利用を禁止しているリムーバブルメディアを利用した形跡があった。そのリムーバブルメディア経由で研究開発PCがマルウェアに感染し,Sさんが研究開発PCを操作していない時に,マルウェアが研究開発PC内のファイルをファイル転送サーバにアップロードしていたことが分かった。ただし,ファイル転送サーバからダウンロードされてはいなかった。 このマルウェアの情報を調べたところ,次の機能をもっていることが分かった。 ・図4の操作手順による,ファイル転送サーバへのファイルのアップロード ・図4の操作手順による,ファイル転送サーバからのファイルのダウンロード 今回,インターネットへのファイルの流出には至らなかったが,Sさんの事務PCもマルウェアに感染していた場合は直ちにインターネットへのファイルの流出に至るので,Rさんはファイル転送サーバに何らかの対策が必要だと考えた。 RさんがA氏に,この対策について相談したところ,“製品Zには,正当なファイル転送であることを確認するために,図4の手順2の後に[l]の手順を追加し,その手順の完了をもってダウンロードが可能となる拡張機能が用意されているので,それを利用してはどうか”との回答を得た。Rさんは,この拡張機能は効果があると考え,B取締役の承認の下,導入した。 その後,N社では情報管理上の大きな事故もなく,順調に事業を拡大している。 設問1 [リスクアセスメント]について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の[a],[b]に入れる適切な字句を,解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア リスク回避 イ リスク対応 ウ リスク特定 エ リスク評価 オ リスク保有 カ リスクモニタリング (2) 本文中の[c],[d]に入れる適切な字句を,解答群の中から選び,記号で答えよ。 解答群 ア リスクが顕在化したときの結果 イ リスク対応の実践の優先度 ウ リスクの起こりやすさ エ リスク保有の利点 設問2 [LAN分離案の検討]について,(1)〜(3)に答えよ。 (1) 表4中の下線①で,A氏が低いと判断した理由は何か。40字以内で述べよ。 (2) 表4中の[e]〜[g]に入れる適切な字句をそれぞれ15字以内で答えよ。また,これら全ての情報をまとめて窃取する方法を,30字以内で具体的に述べよ。 (3) 表4中の下線②で,A氏が低いと判断した理由は何か。50字以内で述べよ。 設問3 表6中の[h]〜[k]に入れる適切な内容を,[h]及び[j]については“低い”又は“高い”のいずれかで答え,[i]及び[k]についてはそれぞれ30字以内で述べよ。 設問4 本文中の[l]に入れる適切な手順を,15字以内で答えよ。
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問03:安全にファイルを受け渡すには?

FW2で通信の向きが制限されているから、ファイルを“押し込む”のではなく、研究開発PC側からファイル転送サーバへ取りに行ってダウンロードする形にするのがポイントだよ。あわせて、事務PCからのHTTPリクエストを監視したり、利用者ID・パスワード・アップロードURLをきちんと管理したり、上長承認を入れたりして、勝手な持込み・持出しが起きないようにしよう。

この問題で問われていること

単にファイルを渡せればOKではなく、通信制限に合った安全な受渡し方法と、上長承認などの業務上のチェックをセットで組み込めるかが問われているよ。

Secure Cross-Network File Transfer

safe transfer across separated networks relies on pull-based download from the protected side、 monitored HTTP uploads、 and approval workflow control

pull from research PC side\nmonitor HTTP upload requests\nmanage IDs/passwords/URLs\nrequire manager approval

確認ポイント

  • どちら側から取得するかを押さえる。
  • 通信監視も要件に入れる。
  • 承認統制まで見る。
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解説

情報システムのセキュリティ対策として,ネットワーク分離の仕組みを導入する例が増えている。しかし,ファイル転送や脆弱性対策,マルウェア対策などのために何らかの接続が必要である場合が多い。ここで接続の仕組みが不適切であると有効なセキュリティ対策にならないおそれがある。本問では,創薬ベンチャ企業のネットワーク分離を題材に,機密性の高い情報を保護しながらも,分離したネットワーク間で安全にファイル転送ができる仕組みを設計する能力を問う。

公式問題冊子

問題冊子: https://www.ipa.go.jp/shiken/mondai-kaiotu/gmcbt8000000fabr-att/2018h30h_sc_pm1_qs.pdf

公式解答例

解答例: https://www.ipa.go.jp/shiken/mondai-kaiotu/gmcbt8000000fabr-att/2018h30h_sc_pm1_ans.pdf

採点講評

採点講評: https://www.ipa.go.jp/shiken/mondai-kaiotu/gmcbt8000000fabr-att/2018h30h_sc_pm1_cmnt.pdf

学習のポイント

公式問題冊子、解答例、採点講評を併読して要点を整理してください。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成30年度春期 情報処理安全確保支援士試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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