SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

令和7年度春期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 営業活動を支援するシステムに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 医療機関向けに医療機器の販売と導入支援サービスを提供するE社は,営業活動の拡大に追随するために,営業活動を支援する営業支援システム(以下,新システムという)を新規に構築することにした。 〔現行の業務とシステムの概要〕 E社では,表計算ソフトと共有のファイルサーバに配置した簡易データベースを組み合わせた簡易的なツール(以下,商談ツールという)で商談に関する情報(以下,商談情報という)を管理している。商談ツール作成以来約10年分の商談情報を蓄積しているが,主に利用するのは直近5年間の情報である。利用者の情報は人事システムから取得しているが,所属組織と役職は取得せず,全ての利用者に同一の権限を付与している。利用者は全ての商談情報を閲覧可能であり,機密性が高い情報は登録されていない。 商談に必須である顧客情報は顧客管理システムで管理している。商談ツールには,顧客管理システムから顧客情報を取り込む機能(以下,顧客情報取込機能という)があり,顧客情報取込機能をRPAによって毎日1回実行し,顧客情報を取り込んでいる。顧客情報取込機能は簡易データベースに大きな負荷を与えるので,他の処理との競合を避けるようにしている。処理時間は約30分掛かる。実行する端末やネットワークの状況,簡易データベースの負荷状況などによって,まれに顧客情報の取込みに失敗することがあり,失敗した場合には商談ツールの運用担当者(以下,運用担当者という)が手動で再実行する。再実行してもE社の業務時間内に完了するように,顧客情報取込機能の実行タイミングを調整している。 商談時に取り交わした名刺情報は外部の名刺管理SaaS(以下,名刺サービスという)を利用して管理しており,名刺サービスの利用権限を営業担当者に付与している。複数の営業担当者が同一の名刺情報を登録できるが,名刺サービスは名刺交換日を基に名刺情報の新旧を判断している。新しい名刺情報が登録されると,利用権限のある人に電子メール(以下,メールという)で周知し,共有する。名刺サービスは利用者が直接操作する画面のほかに,他システムから呼び出せるAPIを公開している。 E社の営業活動の主な流れは次のとおりである。 (1)見込客の確認・新規登録・更新 既存顧客からの声掛け,協業先からの紹介などで新たな取引の可能性のある顧客(以下,見込客という)との商談の機会を得ると,営業担当者は商談ツールを利用し,見込客の会社情報,連絡先,過去の商談概要などを確認する。見込客が新規の場合はホームページなどから会社情報などを入手し,顧客情報を顧客管理システムに新規登録する。見込客が既存顧客で会社情報,連絡先などに更新がある場合には,顧客管理システムの顧客情報を更新する。 (2)顧客訪問 営業担当者は見込客と訪問の日程を調整し,見込客を訪問して要望を確認する。見込客への訪問は複数回にわたることもあり,商材に詳しい商品担当者を同席させることもある。訪問内容を営業日報としてまとめ,上司にメールで報告する。 (3)名刺情報の登録 営業担当者は顧客訪問時に入手した名刺をスキャンし,名刺交換日を指定し,名刺サービスに登録する。 (4)商談概要の登録 顧客訪問を重ねて入手したE社に期待する商品やサービス内容,顧客の予算,プロジェクト期間などの商談概要を,営業担当者は登録済みの顧客情報にひも付けて商談ツールに登録し,商談状況を“商談登録”にする。 (5)提案・見積りの作成 営業担当者は商品担当者とともに提案内容を検討し,見積りを作成する。作成した提案・見積りを基に,見積額,受注確度及びリスクレベルを商談ツールに追加登録し,商談状況を“提案書作成中”にする。営業担当者が所属する課の課長,副部長,部長など組織内で連なる役職者の中から,見積額とリスクレベルに応じて決裁規定に定められた承認者に承認を依頼する。承認はメールで取得する。本来の承認者が不在の場合は,承認者の上司が代行することがある。承認を得られず,提案を見送った場合には,商談状況を“辞退”にする。 (6)商談結果登録 社内承認を取得した提案・見積りを営業担当者は見込客に提示し,商談状況を“提案書提出済”にする。受注に至らなかった場合には商談ツールの商談状況を“失注”にする。内示をもらった場合には,商談状況を“契約交渉中”にする。契約審査部で提案内容と契約書を審査する。審査の結果,問題がなければ契約処理を行い,契約締結後に商談状況を“契約済”にする。審査の結果,問題があった場合には,契約に至らないことがある。その場合,商談状況を“取消”にする。 営業担当者は,他の営業担当者から商談内容の詳細についての問合せがあった際には,問い合わせてきた営業担当者の所属組織と役職によって商談内容の機密性を考慮して,メール及び口頭で共有する。 (7)商談分析 営業担当者は,商談ツールが提供する商談状況を分析する帳票を利用し,商談を分析して営業活動に役立てている。例えば,商談の見積額によってどのくらいの割合で提案書提出に結び付けられたかを分析するために,終了した商談のうち①ある商談状況に該当する商談の割合を出力する帳票がある。 〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕 E社情報システム部のF課長は,新システムの構築に向け,運用担当者,営業部及び契約審査部の代表からヒアリングを行い,次のような現行の業務とシステムにおける課題及び要望を収集した。 ・顧客訪問の内容を共有し,他の営業担当者の営業活動を参考にして営業活動の質を高めたい。 ・顧客管理システムの画面が複雑で使いづらい。 ・営業担当者と承認者とのメールでの承認証跡を基に契約審査部の審査担当者が承認状況を確認しており負担が大きい。また,メール上の承認者が営業担当者の所属組織に所属しているかどうかと,見積額とリスクレベルに応じて定められた役職者であるかどうかを確認するために,審査担当者は営業担当者の組織情報を商談ごとに逐一参照しており,大きな負担となっている。 ・商談ツールでは,専門知識を有する情報システム部で事前に作成した定型分析帳票でしかデータを分析できない。商談情報を多角的に分析するために,営業担当者が,新しい分析帳票を作成できるようにしてほしい。 ・新規顧客の場合,見込客の顧客情報を顧客管理システムに新規登録した時間帯によっては,当日中に商談概要を商談ツールに登録できないので,利用者から運用担当者への問合せが多くなる。 ・顧客情報の入力をミスすることがある。名刺サービスの情報から自動的に顧客情報を反映してほしい。 ・顧客の担当者と名刺を交換した日を正しく思い出せないときがある。 ・所属組織と役職で権限を管理し,機密性が高い情報でも商談内容を登録できるようにしてほしい。 〔新システムの開発方針〕 情報システム部のG部長は,新システムの効果を早期に確認して改良を続けていけるようにするために,ローコード開発機能を有する営業支援プラットフォームを採用し,毎年改良を重ねていく方針とした。営業支援プラットフォームは主要なSaaSとの連携を強化しており,名刺サービスとの連携機能を標準装備する予定である。 また,新システムをフロントシステムとして位置付け,顧客管理システムへの登録を新システム経由に集約する方針とした。将来的には,社内の他システムのフロントシステムとしても活用することを想定している。 G部長はF課長に,〔現行の業務とシステムの概要〕と〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕を踏まえ,1年目に実現する新システムの要件定義の着手を指示した。 〔新システムの要件〕 要件定義の結果,F課長は1年目に実現する新システムの主な機能を表1のとおりとし,商談ツールを廃止して表2のとおり新システムにデータを移行することを,G部長に報告した。 〔G部長のレビュー結果〕 G部長は要件定義の結果をレビューし,次の指摘をした。 ・③新システムに顧客情報を新規登録して顧客管理システムに連携する際に,顧客管理システムに当該顧客情報が存在している場合がある。その場合は登録しようとしている顧客情報と顧客管理システムの顧客情報とを比較できるようにするべきである。 ・名刺サービスのデータを活用する上で,④検索結果が最新のデータか否かは営業担当者の登録内容に依存するので,営業担当者の責任で確認することを営業部に申し入れる必要がある。 ・名刺サービスの検索結果を新システムの顧客管理画面に表示する機能については,新システムに関わる今後の変化を踏まえ検討するべきである。 ・商談ツールは参照専用のツールとして残しておくべきである。 設問1 〔現行の業務とシステムの概要〕について,本文中の下線①のある商談状況とは何か。全て答えよ。 設問2 〔現行の業務とシステムにおける課題及び要望〕について,どのような時間帯に見込客の顧客情報を顧客管理システムへ新規登録すると,新規顧客との商談概要を当日中に登録できなくなるか。25字以内で答えよ。また,その理由を35字以内で答えよ。 設問3 〔新システムの要件〕について答えよ。 (1)表1中の下線②のある項目とは何か。全て答えよ。 (2)利用者の情報を商談ツールから移行せずに人事システムから取得することとした理由を,取得する項目を用いて25字以内で答えよ。 設問4 〔G部長のレビュー結果〕について答えよ。 (1)本文中の下線③に該当するのはどのような顧客か。20字以内で答えよ。 (2)G部長が本文中の下線④のように考えた理由を30字以内で答えよ。 (3)G部長が指摘した新システムに関わる今後の変化を45字以内で答えよ。
表1 1年目に実現する新システムの主な機能。
表1 1年目に実現する新システムの主な機能。
表2 新システムへのデータ移行内容。
表2 新システムへのデータ移行内容。
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要件と連携を見極める視点

営業支援システムの要件を考えるときは、現場業務の目的と情報の流れを分けて整理し、誰が何を判断するためにどのデータを使うのか、その関係と境界を段階的に確認しましょう。

この問題で問われていること

一つの機能や画面だけで判断せず、業務上の出来事がどの情報を生み、次の担当者や処理へどう受け渡されるかという連続性を軸に、要件同士のつながりを確認してください。

視点

業務の流れを起点に、情報が発生してから利用・更新されるまでのつながりを整理し、要件間の役割分担や境界を確認します。

確認ポイント

  • 業務上の目的と扱う情報の関係を確認する
  • 情報が発生し利用される順序を整理する
  • 担当者や処理の間で受け渡す範囲を確認する
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解説

営業支援システムの再構築を題材に、現行業務の状態遷移、データ連携のタイミング、利用者情報の移行方針、外部SaaS連携を読み取る問題です。

問題の全体像

E社は、表計算ソフトなどで管理していた商談情報を、新しい営業支援プラットフォームへ移行しようとしている。本文では、顧客管理システムや人事システム、名刺管理SaaSとの連携、商談状況に応じた承認・分析などが示されている。出題の狙いは、現行業務の流れと課題を正しく把握し、新システムの機能要件やデータ移行要件を本文の根拠から導くことです。

設問1

下線①は、商談分析の対象となる「終了した商談」の商談状況を問うている。本文の商談結果登録では、受注に至らない場合は「失注」、審査後に契約を締結した場合は「契約済」、審査上の問題などで契約に至らない場合は「取消」となる。これらが終了状態なので、公式解答例は「失注、契約済、取消」としている。

設問2

顧客管理システムに新規登録した顧客情報は、商談ツールへ毎日1回取り込まれる。したがって、顧客情報を取り込んだ後の時間帯に新規登録すると、次の取込みまで商談ツールで利用できず、商談概要を当日中に登録できない。字数内では、時間帯と、取込みが1日1回である理由を簡潔に示す。

設問3(1)

表1の提案りん議では、承認者の選定や審査担当者による承認者の妥当性確認に、商談情報のうち見積額とリスクレベルを利用する。したがって、下線②の項目は公式解答例のとおり「見積額、リスクレベル」です。

設問3(2)

商談ツールから利用者情報を移行すると、現行ツールに存在する情報だけを引き継ぐことになる。しかし、新システムで権限管理に必要な所属組織と役職は、現行では取得されておらず、人事システムにある。よって、公式解答例は「所属組織と役職が人事システムにしかないから」としている。

設問4(1)

新システムで顧客情報を登録して顧客管理システムへ連携する際、既存情報との重複確認が必要になる顧客を問うている。移行対象は直近5年間に商談のあった顧客であり、それ以外の顧客情報は新システム側に存在しない可能性がある。そのため、公式解答例は「5年以内に商談がなかった顧客」としている。

設問4(2)

名刺サービスは名刺交換日を基に情報の新旧を判断するが、その日付は営業担当者が登録する。したがって、検索結果が最新かどうかは、登録された名刺交換日が正しいかに左右される。公式解答例の「営業担当者が指定する名刺交換日が正しいとは限らないから」という因果を、30字以内で押さえる。

設問4(3)

G部長が指摘した将来変化は、営業支援プラットフォームと名刺サービスの連携に関する開発方針です。本文には、名刺サービスとの連携機能を標準装備する予定とあるため、公式解答例ではその予定を記述している。論述では、名刺サービスとの連携機能が標準装備される予定である点を中心に、45字以内でまとめる。

学習のポイント

業務フローを時系列で整理し、要件の根拠を本文中の事実に結び付けて答える力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和7年度春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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