SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

令和5年度春期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 ホテルチェーンを展開する事業者向けの顔認証システム,及び顔認証を提供する基盤システムに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 生体認証は,人間の身体的特徴や行動的特徴を用いて本人であることを認証する仕組みであり,暗証番号やパスワード,又はカードなどの物による認証に代わり忘却や紛失のおそれのない認証方式として実用化が進められてきた。 生体認証機器メーカーであるF社は,指紋,虹彩,静脈紋,顔などを利用した様々な生体認証端末を開発している。F社はこれらの機器を販売するとともに,システムインテグレーターとして,単一事業者向けに生体認証端末と制御用PCを利用したシステムの開発も行っている。今般,ホテルチェーンを展開する事業者(以下,ホテル事業者という)からF社に対して,顧客体験価値向上のため,ホテルの利用者が顔認証だけで系列ホテルが提供する様々なサービスやホテル事業者と提携する事業者のサービス(以下,提携サービスという)を受けられるシステム(以下,本システムという)の開発が打診され,F社で検討を行った。 〔開発を打診された本システムの主な機能〕 本システムの主な機能を次に示す。 ・ホテルの利用者は,事前に顔認証に必要な情報(以下,顔情報という)を登録して宿泊予約を行えば,宿泊日に各ホテルのチェックインカウンターに設置された顔認証端末で顔認証を行うだけでチェックインが可能となる。 ・チェックイン完了後,宿泊ルームの開錠やホテル内施設の利用など,各ホテルが提供する様々なサービスの利用が顔認証だけで可能になる。 ・上記サービスは系列ホテルの全てで利用可能である。 ・ホテルの利用者は,レンタカーや宅配サービスなど,提携サービスも顔認証だけで利用することができる。 F社において自社開発の実現性を検討した結果,これまで開発してきた単一事業者向けのシステムに比べて規模は大きくなるが,F社の自社保有技術をコアとする新たなアーキテクチャを構築することで対応可能であると結論付け,本システムの開発を進めることになった。本システムのサービスの概要を図1に示す。 図1 本システムのサービスの概要 〔本システムの要件検討〕 F社のシステムアーキテクトであるG氏は,本システムの開発に当たり,開発要件の検討を行い,次の機能要件及び非機能要件を抽出した。 (1) 機能要件 ・ホテルの利用者が事前に顔情報を登録する際に,運転免許証,パスポート,マイナンバーカードなど,利用者の顔写真付きの公的証明書との照合によって,本人であることを確認する手段(以下,本人確認という)を提供する。 ・ホテル内施設の店舗での決済を顔認証で行う場合など,精度の高い認証が求められるサービスに対しては,顔認証に加え,ワンタイムパスワードによる追加の認証もサポートする。 ・ホテル事業者のシステムだけでなく,提携する事業者のシステムに対しても共通の顔認証機能を提供する(以下,マルチサービスという)。 ・本システムは,宿泊予約などを登録,管理するシステム(以下,会員管理システムという),及び提携する事業者のシステムと連携して動作する必要がある。これをシステム間連携という。 (2) 非機能要件 ・本システムに登録可能な顔情報の件数は,ホテルチェーンへの全展開や提携する事業者の拡大などを考慮し,最大100万人分を想定する。また,顔情報を入力してから認証結果が得られるまでの実用的な時間は1秒以内とする。 ・ホテルの利用者の顔情報などの個人情報を扱うので,その保管や通信に高度なセキュリティが要求される。 ・将来的にホテル事業者以外の様々な事業者のシステムに適用できるよう,汎用性・拡張性の高いアーキテクチャとする。 〔本システムの開発方針〕 G氏は抽出した要件に基づき,次のように開発方針を整理した。 (1) アーキテクチャ構築方針 本システムのアーキテクチャを,顔認証機能を提供する基盤システム(以下,顔認証基盤という)とホテル事業に依存するシステムとに分離することで,ホテル事業者だけでなくほかの事業者のシステムへの適用を容易にする。また,顔認証基盤の拡張によって,将来的に顔認証だけでなく,様々な生体認証機能を提供できるようにする。 (2) サーバ構築方法の選択 利用者の顔情報の登録,管理及び顔認証処理をサーバに集約する。このサーバを顔認証サーバという。さらに,顔認証サーバは次の理由から,クラウドサービス上に構築することとする。 ・初期費用及び維持管理費用の削減を図ることができる。 ・セキュリティを確保するための機能が充実している。 (3) マルチサービスの実現 マルチサービスを実現するために,事業者が利用者を識別するための情報(以下,識別情報という)を利用者の顔情報と関連付ける仕組みを開発する。識別情報の例としては,ホテル事業者であれば,会員管理システムにおける会員番号が該当する。このような関連付けによって,顔認証によって個人を特定し,その識別情報を事業者に提供することができる。 (4) 利用者のスマートフォンの活用 利用者のスマートフォン(以下,スマホという)を使用して顔認証に必要な情報を入力するため,顔情報の登録,本人確認,追加の認証などを行うスマホのアプリケーションプログラム(以下,アプリという)を開発する。 (5) システム間連携の実現 システム間連携を実現するために,顔認証サーバを利用する顔認証APIを開発し,事業者が利用できるようにする。また,事業者のシステムと顔認証端末及び利用者のスマホとを連携させるため,事業者のシステムにアクセスする事業者システムAPIをF社が定義し,事業者で実装後,F社が利用できるようにしてもらう。 〔顔認証基盤のアーキテクチャ〕 G氏は顔認証基盤のアーキテクチャ構築が最も重要であると考え,顔認証基盤の検討から着手した。顔認証基盤の概要を図2に,顔認証基盤が提供する機能を表1に示す。 図2 顔認証基盤の概要 表1 顔認証基盤が提供する機能 〔本システムへの顔認証基盤の適用性検討〕 G氏は,ホテルの利用者が本システムを利用して,予約からホテル内施設及び提携サービスが利用できるようになるまでのシナリオを想定し,処理を明確にすることで,本システムへの顔認証基盤の適用性の検討を行った。 ・本システムを利用するホテルの利用者がスマホで顔を撮影すると,アプリは顔情報を顔認証サーバに送信する。さらに,ホテルの利用者が会員管理システム及び提携する事業者のシステムにスマホからサインインして顔を撮影すると,顔認証サーバで顔情報と識別情報との関連付けが行われる。 ・ホテルの利用者は会員管理システムにサインインして宿泊予約を行う。 ・宿泊日当日に,ホテルの利用者がホテルのチェックインカウンターに設置された顔認証端末で顔を撮影すると,顔認証サーバが顔認証を行い,認証結果として識別情報を顔認証端末に送信する。 ・顔認証端末は受信した識別情報を[a]することで,チェックインを完了する。 ・以降,ホテルの利用者がホテル内施設を利用する際,同様に顔認証端末で顔を撮影すると,[b]であるかどうかを判定し,ホテル内施設でのサービスの可否を決定する。 ・提携サービスでは,ホテルの利用者が顔認証端末で顔を撮影すると,本システムは提携サービスの利用者として顔認証を行い,識別情報を用いてホテルの利用者にサービスを提供する。 検討の結果,顔認証端末,会員管理システム及びアプリからの顔情報の送信頻度が非常に高く,顔認証サーバでの認証に影響することが想定された。これに対して,顔認証サーバをクラウドサービス上でスケールアウトしただけでは,非機能要件で規定した性能要件を達成できないことが判明した。そこで,G氏は顔認証端末だけでローカルな認証を行うエッジ認証機能が必要であると考え,実装することにした。具体的には,チェックインを予定しているホテルの利用者の認証に必要な情報を,会員管理システムからの要求によって,毎日,顔認証サーバから顔認証端末にダウンロードし,顔認証端末だけでローカルな認証を行うなどの機能である。 設問1 〔本システムへの顔認証基盤の適用性検討〕について答えよ。 (1) 本文中の[a]に入れる適切な字句を答えよ。 (2) 本文中の[b]に入れる,会員管理システムが行う確認内容を20字以内で答えよ。 設問2 顔認証基盤について答えよ。 (1) 利用者が顔情報を登録する際,アプリが行う本人確認の内容を30字以内で答えよ。 (2) 事業者のシステムから顔情報と識別情報を受信したときに,顔認証サーバが行う処理内容を40字以内で答えよ。 (3) 顔認証端末が利用者の顔認証を行う際,顔情報に加え,事業者の情報を顔認証サーバに送信する目的を20字以内で答えよ。 設問3 エッジ認証機能について答えよ。 (1) エッジ認証を行うために,顔認証サーバから顔認証端末に最低限ダウンロードすべき情報を二つ答えよ。 (2) エッジ認証機能を有効に機能させるために,エッジ認証はどのような場合に使用すべきか。本システムにおける具体例を挙げて40字以内で答えよ。 (3) エッジ認証を行う顔認証端末は,遠隔からの指示で保持している情報を消去できるようにした。その理由を30字以内で答えよ。
図1 本システムのサービスの概要。顔情報を基に顔認証を行い、その顔認証によってチェックイン、宿泊ルーム開錠、ホテル内施設利用、提携サービス利用の四つのサービスが受けられることを示す概要図。
図1 本システムのサービスの概要。顔情報を基に顔認証を行い、その顔認証によってチェックイン、宿泊ルーム開錠、ホテル内施設利用、提携サービス利用の四つのサービスが受けられることを示す概要図。
図2 顔認証基盤の概要。クラウドサービス上の顔認証サーバが顔認証APIを持ち、事業者のシステム(事業者システムAPIを持つ)、顔認証端末、利用者のスマホと矢印で接続されている構成図。事業者のシステム、顔認証端末、利用者のスマホはそれぞれ複数台として重ねて描かれ、スマホからは事業者システムAPIへの接続線もある。
図2 顔認証基盤の概要。クラウドサービス上の顔認証サーバが顔認証APIを持ち、事業者のシステム(事業者システムAPIを持つ)、顔認証端末、利用者のスマホと矢印で接続されている構成図。事業者のシステム、顔認証端末、利用者のスマホはそれぞれ複数台として重ねて描かれ、スマホからは事業者システムAPIへの接続線もある。
表1 顔認証基盤が提供する機能。構成要素(利用者のスマホ、顔認証端末、顔認証サーバ、事業者のシステム)ごとに、顔情報の取得・送信、公的証明書による本人確認、ワンタイムパスワードによる追加認証、顔情報の登録・管理、識別情報との関連付け、認証結果に基づくサービス提供などの機能を説明した表。
表1 顔認証基盤が提供する機能。構成要素(利用者のスマホ、顔認証端末、顔認証サーバ、事業者のシステム)ごとに、顔情報の取得・送信、公的証明書による本人確認、ワンタイムパスワードによる追加認証、顔情報の登録・管理、識別情報との関連付け、認証結果に基づくサービス提供などの機能を説明した表。
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判断の前提となる条件をそろえる

この分野の設計を考えるときは、判断の前提となる条件に注目しましょう。扱う範囲や想定する状況が異なると、同じ言葉でも意味が変わることがあります。まずは、何を前提として考えるのかを整理することが出発点です。

この問題で問われていること

設問で扱われている内容について、判断がどの条件の下で成り立つのかを意識してみてください。自分が普段想定する条件を無意識に足していないか確かめ、示されている前提と自分の思い込みを分けて整理しましょう。

視点

前提とは、考える際に置いている条件のことです。明示された条件と、自分が経験や印象から補った条件を区別すると、判断の根拠を整理しやすくなります。

確認ポイント

  • 判断の前提として示されている条件は何か
  • 自分の経験から条件を付け足していないか
  • 検討の途中で前提を変えていないか
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解説

共通の顔認証基盤で個人を認証し、事業者ごとの識別情報を返すことで、ホテルや提携サービスと連携する。性能要件への対応では、認証対象を絞ったエッジ認証による負荷分散と、端末に保持する個人情報の保護が要点となる。

問題の全体像

F社は、顔認証だけでホテルのチェックイン、施設利用、提携サービスの利用を可能にするシステムを開発する。顔認証基盤とホテル業務に依存するシステムを分離し、事業者ごとの識別情報を顔情報に関連付けて連携する構成です。最大100万人分、認証結果取得まで1秒以内という要件に対しては、端末で認証するエッジ認証も検討する。出題趣旨では、基盤の処理内容、個別システムへの適用シナリオ、エッジによる負荷分散を理解する能力が問われている。

設問1(1)

表1の「事業者のシステム」が、端末から認証結果を受信し、識別情報から利用者を特定してサービスを提供する点に着目する。ホテルでは宿泊予約を管理する会員管理システムがこの役割を担うため、端末は認証結果の識別情報をそこへ渡す。公式解答例では、aは「会員管理システムに送信」です。顔認証で得た識別情報を宿泊予約などの業務情報につなぐ処理と捉える。

設問1(2)

主な機能に「チェックイン完了後」、宿泊ルームの開錠やホテル内施設を利用できるとある。顔認証で個人を特定した後、会員管理システムはサービスの利用条件としてチェックインの完了を確認する。公式解答例では「チェックイン完了後のホテルの利用者」です。20字以内ではこの条件を表し、会員登録済みや宿泊予約済みという確認だけで終わらせない。

設問2(1)

機能要件の「顔写真付きの公的証明書との照合」と、表1のスマホによる本人確認に着目する。アプリは、撮影した利用者の顔と、公的証明書の顔写真を顔認証によって照合し、証明書の本人であることを確認する。公式解答例では「公的証明書の顔写真と撮影した顔画像とで顔認証を行う。」です。30字以内で、照合する二つの対象と顔認証を行うことを押さえる。

設問2(2)

事業者にサインインした利用者の顔情報と、その事業者での識別情報が送られる場面です。開発方針のマルチサービスと、表1の顔認証サーバによる関連付けを結び付けて読む。公式解答例では、受信した顔情報で認証し、一致した顔情報に識別情報を関連付ける。40字以内でも、認証による一致の確認と、その顔情報への識別情報の関連付けという二段階を含める。採点講評でも、関連付けの方法の理解が課題として挙げられている。

設問2(3)

識別情報は、ホテルでは会員番号に当たるなど、事業者ごとに利用者を識別する情報です。さらに表1には、端末を複数の事業者で共有でき、サーバが事業者に関連付く識別情報を返すとある。そのため顔情報に加えて事業者の情報を送り、今回必要な事業者の識別情報を特定する。公式解答例では「当該事業者の識別情報を特定するため」です。20字以内では、この具体的な目的を示します。採点講評でも、目的を具体的に記述できていない解答が指摘されている。

設問3(1)

エッジ認証では、顔認証サーバに問い合わせず、端末だけで認証する必要がある。照合には登録済みの顔情報が必要であり、認証後に事業者のシステムへ結果を渡すには、対応する識別情報が必要になる。公式解答例の二つは「顔情報」と「識別情報」です。認証対象者について、両者の対応が分かる状態で端末に保持することで、本人の認証から業務システムへの連携まで行える。

設問3(2)

本文では、チェックイン予定者の認証に必要な情報を毎日ダウンロードするとある。採点講評では、端末のハードウェア制約により保持できる情報が限られるため、認証対象を絞って端末内の情報を限定することが説明されている。公式解答例でも、チェックイン予定者など、認証対象を絞り込める場合を挙げている。40字以内の答案では「チェックイン予定者など,認証対象を絞り込める場合」のように、具体例と適用条件の両方を含める。

設問3(3)

非機能要件では、顔情報などの個人情報の保管に高度なセキュリティが要求される。エッジ認証を導入すると、端末にも利用者の顔情報や識別情報を保持するため、端末を紛失した場合などに情報を消去する手段が必要になる。公式解答例では「紛失などの場合に,利用者の個人情報を消去するため」です。30字以内で、紛失などの状況と、個人情報を消去する目的を結び付けて示す。

学習のポイント

認証とサービス利用条件の確認を区別し、情報の関連付けと受渡しを追う。エッジ認証は対象を絞る理由まで理解する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和5年度春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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