SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

令和元年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 サービスデザイン思考による開発アプローチに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 総合家電メーカのR社は,“健康”をテーマとした製品として,体組成計,活動量計,ランニングウォッチなどの健康機器を製造,販売している。 〔新製品に係る取組〕 R社は,人々が重視する価値が“モノ”から“コト”へとシフトしている近年の状況を踏まえて,自社の製品を通じた人々の生活のディジタル化の取組を推進しており,スマートフォン用のアプリケーションソフトウェア(以下,スマホアプリという)を開発している。スマホアプリの利用者は,体組成計で測定した体重,体脂肪率,筋肉量などのデータをスマートフォンに転送して,測定結果の履歴を閲覧することができる。スマホアプリは,体組成計の購入者のうち,個人情報,趣味・嗜好,健康に関するアンケートに回答した者に対して,無料で提供している。 R社は,体組成計の新製品を半年後に発売することを決定した。併せて,現在提供しているスマホアプリを刷新して,日々の健康に関わる活動データ(以下,健康活動ログという)を登録できる新たなスマホアプリ(以下,健康管理アプリという)にすることにした。健康活動ログには,体組成計から取得するデータに加えて,活動量計で計測する歩数,脈拍,睡眠時間などの活動量,食事内容,運動記録などが含まれる。また,健康管理アプリは,これまでの個人に限定した利用に加えて,利用者同士のコミュニティ活動にも利用できる方針にした。具体的には,健康管理アプリの利用者が記録した健康活動ログをインターネット上のコミュニティ(以下,オンラインコミュニティという)で共有し,お互いの記録にコメントを付けたり,オンラインコミュニティ内で順位を競い合ったり,専門家が有料で指導したりといった,多様な方法でコミュニティ活動ができることを目指すことにした。 R社は,健康管理アプリとオンラインコミュニティを融合したサービス(以下,新サービスという)を活用してビジネスを拡大するために,自社でオンラインコミュニティを運営し,次に示す関連部署で新サービスの開発,運営を行うことにした。 (1)健康増進事業部 従来から行っていた体組成計,活動量計を含む健康機器の商品企画,開発に加えて,新たにオンラインコミュニティを企画,運営し,利用者が継続的にコミュニティ活動を行うことを支援する。 (2)ディジタル戦略部 R社が提供するスマホアプリ,Webサイトなどの開発を行い,その一環として健康管理アプリ及びオンラインコミュニティサイトの開発,サービス開始後の追加開発などを行う。 (3)営業推進部 従来から行っていた健康機器の販売促進に加えて,新たにオンラインコミュニティを利用し,R社の商品,有料サービスなどの販売促進活動を行う。 (4)マーケティング部 従来から行っていた健康機器の購入者情報,アンケート情報,市場調査結果などの管理,分析に加えて,新たにオンラインコミュニティで得られる新サービスの利用者情報,健康活動ログなどのうち,利用許諾を得たデータを分析し,マーケティング施策を検討する。 R社は,健康増進事業部とディジタル戦略部から担当者を集めたプロジェクトチーム(以下,PTという)を立ち上げ,新サービスの企画,開発を行うことにした。 〔新サービスの開発方針〕 現在提供しているスマホアプリは,利用者のスマートフォン内でデータを管理,閲覧するだけのものであったので,体組成計との無線通信の方式,機能の実用性など,提供する“モノ”としての品質を重視した開発を行っていた。一方で,新サービスの開発では,従来のスマホアプリの機能の提供にとどまらず,利用者の体験価値に着目し,新サービスを通じて利用者の健康意識を高め,生活習慣の改善などの健康づくりにつながることを重視することにした。また,新サービスとして提供する機能を一度に全て開発するのではなく,実際の利用者からのフィードバック内容を分析し,改善と軌道修正を繰り返すことで,段階的に新サービスの機能を拡充させ,利用者が継続的にコミュニティ活動を行えることを目指すことにした。 これらの方針に基づき,利用者の視点を中心にサービス及び業務を設計する“サービスデザイン思考”のアプローチによる開発を行うことにした。 〔新サービスを利用するペルソナの作成〕 新サービスは,R社の従来の商品企画,開発とは異なるので,新サービスで提供する機能は,ふだんから健康機器の開発などに関わっている提供者側の視点だけでなく,想定される利用者の人物像を念頭において,利用者側の視点から具体的に考え出す必要があった。 そこでPTは,まず,想定される基本機能を列挙した。さらに,PT内だけでは想定できない利用者の潜在的ニーズを抽出するために,R社の体組成計の主な購入者層である“健康意識の高い20代女性”と,体組成計の購入者数に占める割合は低いものの新たなターゲット層としたい“健康に問題意識を持つ40代男性”を,仮想的な利用者であるペルソナとして分析することにした。 ペルソナは,実際に体組成計を購入,利用している代表的な人物像に近づけるために,PTのメンバの想像だけで作成するのではなく,[a]に協力を依頼し,より具体的な人物像を設定した。新サービスを利用するペルソナを表1に示す。 表1 新サービスを利用するペルソナ 〔カスタマジャーニマップの作成〕 ①PTのメンバに加えて,社内のペルソナに近い人物を集めて議論し,それぞれのペルソナがどのように体組成計及び新サービスを利用し,その際,どのような思考・感情を持つかなどを時系列で整理したカスタマジャーニマップを作成した。カスタマジャーニマップで挙がった主な内容を表2に示す。 表2 カスタマジャーニマップで挙がった主な内容 〔新たな機能の抽出〕 PTでは,当初想定していた新サービスの基本機能に加えて,カスタマジャーニマップによる分析結果を基に,機能を新たに抽出した。新たに抽出した機能を表3に示す。また,健康増進事業部と営業推進部からの提案で,ある狙いから健康ポイントに関する機能を提供することにした。健康ポイントは,オンラインコミュニティの利用頻度,目標の達成,順位などに応じて付与する。また,獲得したポイントは,R社の商品,オンラインコミュニティ上の有料サービスなどの購入時に使えることにした。 表3 新たに抽出した機能 〔新サービスの機能のリリース方針〕 新製品の体組成計の発売日に合わせて短期間で新サービスをリリースする必要があるので,PTは,開発機能に優先順位を設定し,初期リリースの機能を絞り込むことにした。 まず,利用者情報及び健康活動ログの管理,情報セキュリティ対策,プライバシー管理など,新サービスを提供する上での必須機能を初期リリースの対象とした。一方で,一定量のデータの蓄積と有効性検証を行わないと誤った情報の提供をしかねない機能については,初期リリースの対象外とした。 その他の機能については,機能が新サービスの開発方針である[c]に寄与するかどうかの観点で分析し,優先順位を設定し,優先順位の高い順に,開発量が開発期間及び予算内に収まる機能を初期リリースの対象とした。 その上で,短期間で開発可能で,変更がしやすいシステム構造を採用することにした。 設問1 〔新サービスを利用するペルソナの作成〕について,代表的な人物像に近いペルソナにするために協力を依頼した部署はどこか。本文中の[a]に入れる部署名を答えよ。また,その部署に協力を依頼した理由を35字以内で述べよ。 設問2 〔カスタマジャーニマップの作成〕について,本文中の下線①のような議論を行った狙いを40字以内で述べよ。 設問3 〔新たな機能の抽出〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)健康増進事業部と営業推進部が提案した健康ポイントに関する機能には,それぞれ狙いがある。一つは,営業推進部の狙いとして,ポイントを利用してR社の商品,有料サービスなどを多くの利用者に使ってもらうことである。もう一つの健康増進事業部の狙いを30字以内で述べよ。 (2)表3中のA-4の機能について,計算根拠のデータになる,[b]に入れる字句を答えよ。 (3)表3中のB-6の機能を新たに抽出した理由を,30字以内で述べよ。 設問4 〔新サービスの機能のリリース方針〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)一定量のデータの蓄積と有効性検証を行わないと誤った情報の提供をしかねない機能として初期リリースの対象外とした機能はどれか。表3中の機能IDを用いて答えよ。 (2)優先順位の設定の観点として,本文中の[c]に入れる観点を15字以内で答えよ。 (3)短期間で開発可能で,変更がしやすいシステム構造を採用することにした,新サービスの開発方針上の理由は何か。30字以内で述べよ。
表1 新サービスを利用するペルソナ。新サービスを利用するペルソナAとペルソナBについて、年齢、職業、家族構成、趣味、食生活、健康状態と意識を比較した表。
表1 新サービスを利用するペルソナ。新サービスを利用するペルソナAとペルソナBについて、年齢、職業、家族構成、趣味、食生活、健康状態と意識を比較した表。
表2 カスタマジャーニマップで挙がった主な内容。ペルソナの接点、利用者の行動、思考・感情を、計測、記録、閲覧・分析、コミュニティ活動のフェーズ別に整理した表。注記を含む。
表2 カスタマジャーニマップで挙がった主な内容。ペルソナの接点、利用者の行動、思考・感情を、計測、記録、閲覧・分析、コミュニティ活動のフェーズ別に整理した表。注記を含む。
表3 新たに抽出した機能。健康管理アプリとオンラインコミュニティについて、新たに抽出した機能を機能IDと概要で整理した表。
表3 新たに抽出した機能。健康管理アプリとオンラインコミュニティについて、新たに抽出した機能を機能IDと概要で整理した表。
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判断の根拠と前提を整理する

この分野を考えるときは、判断を支える根拠と、その根拠から置いた前提の関係に注目しましょう。何が直接示されていて、どこからが自分の解釈なのかを区別しておくと、検討の出発点を整理できます。

この問題で問われていること

考える際は、ある判断が何を根拠に成り立っているかを確かめてください。根拠として与えられた情報と、自分で補った前提を分け、その前提を置いた理由を言葉にすることに集中してみましょう。

視点

根拠は判断を支える情報、前提はその情報を考える際に置く条件です。両者のつながりを短く書き出し、自分の解釈が入り込んでいる箇所を確かめると、考えの土台を見直せます。

確認ポイント

  • 判断の根拠として、どの情報を使っているか
  • その情報に、自分でどのような前提を補っているか
  • 補った前提を置く理由を説明できるか
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解説

利用者の体験価値に着目し、購入者情報やアンケート情報に基づくペルソナと、利用者側の視点を取り入れた議論から必要な機能を考える問題です。健康づくりへの貢献、活動の継続、共有範囲の選択、データの有効性検証を踏まえて、段階的なリリースにつなげます。

問題の全体像

R社は、体組成計の測定結果を管理・閲覧するスマホアプリを、健康活動ログの記録とオンラインコミュニティ活動に利用できる新サービスへ刷新します。半年後の新製品発売に合わせ、初期リリースの機能を絞り、その後は利用者のフィードバックを基に改善と機能拡充を進める方針です。公式の出題趣旨では、機能の実用性などの品質に加えて利用者の体験価値に着目し、サービス及び業務の設計や機能リリースの方針を決定する能力を問うとされています。各設問では、利用者の実像を捉える情報、利用者側からの機能抽出、健康づくりという目的、段階的な開発方針を結び付けて読むことが重要です。

設問1(a)

〔新サービスを利用するペルソナの作成〕の「実際に体組成計を購入,利用している代表的な人物像に近づける」という目的に着目します。次に各部署の役割を見ると、マーケティング部は健康機器の購入者情報やアンケート情報を管理・分析しています。これらの情報は、PTの想像にとどまらず、購入者の特徴に基づいて人物像を具体化する根拠になります。したがって、公式解答例では[a]を「マーケティング部」としています。

設問1(理由)

協力を依頼する理由は、マーケティング部がペルソナの具体化に必要な情報を保有していることです。本文では、従来のスマホアプリを個人情報、趣味・嗜好、健康に関するアンケートへの回答者に提供し、マーケティング部が購入者情報とアンケート情報を管理するとしています。公式解答例では「体組成計の購入者情報及びアンケート情報を管理しているから」と示しています。35字以内では、この二つの情報と、それらを管理していることを押さえます。採点講評では、アンケート情報を管理していることを理由に記載していない解答が散見されたと指摘しています。

設問2

下線①でペルソナに近い人物を議論に加えた狙いは、利用者の立場から必要な機能を具体化することです。〔新サービスを利用するペルソナの作成〕には、PTのメンバは健康機器の開発に関わっており、提供者側の視点だけでなく利用者側の視点から機能を考える必要があると記されています。そのため、実際の利用場面での行動や思考・感情を議論し、潜在的なニーズを機能につなげます。公式解答例では「利用者側の視点から新サービスで必要とされる具体的な機能を考え出すため」と示しています。40字以内では「利用者側の視点」と「必要な具体的機能の抽出」を押さえます。採点講評では、ペルソナやカスタマジャーニマップの作成自体に関する解答が多かったと指摘しており、作成の先にある目的まで述べることが重要です。

設問3(1)

健康増進事業部の役割として、オンラインコミュニティを企画・運営し、利用者が継続的にコミュニティ活動を行うことを支援すると記されています。健康ポイントは利用頻度、目標達成、順位などに応じて付与されるため、活動を続ける動機につながります。公式解答例では、同部の狙いを「利用者に継続的にコミュニティ活動を行ってもらうこと」としています。30字以内では、誰に何を続けてもらうのかを明確にし、利用者によるコミュニティ活動の継続を押さえます。

設問3(2)

表3のA-4は、基礎代謝量と当日の[b]から消費カロリを推計し、体重の増減目標を踏まえた摂取カロリの目安を通知する機能です。表2の「閲覧・分析」には、ペルソナBが「活動量などから摂取カロリをどの程度にすべきなのかを知りたい」と考えていることが示されています。また、健康活動ログには活動量計で計測する歩数などが含まれます。この対応から、当日の活動に伴う消費を計算する根拠として、公式解答例では[b]を「活動量」としています。

設問3(3)

表3のB-6は、健康管理アプリからオンラインコミュニティへアップロードするデータを任意に選択できる機能です。根拠は表2の「コミュニティ活動」にあるペルソナAの思考・感情で、ランニングの記録は共有したい一方、体重など一部のデータは共有したくないとしています。このニーズを満たすには、共有するデータを利用者が選べる必要があります。公式解答例では「利用者によっては,一部のデータは共有したくないから」と示しています。30字以内では、一部のデータの共有を望まない利用者がいることを理由として述べます。

設問4(1)

初期リリースの対象外となる条件は、一定量のデータの蓄積と有効性検証がないと、誤った情報を提供しかねないことです。表3のB-4は「膨大な健康活動ログとAI分析技術を利用した無料の生活習慣改善助言機能」であり、助言の根拠となるデータを蓄積し、その有効性を確かめる必要があります。したがって、公式解答例では「B-4」としています。AIを使うという点だけで判断せず、膨大な健康活動ログを基に利用者へ助言する機能であることを、対象外の条件と対応させます。

設問4(2)

[c]には、各機能が何に寄与するかを判断する、新サービスの目的が入ります。〔新サービスの開発方針〕には、利用者の健康意識を高め、生活習慣の改善などの健康づくりにつながることを重視すると記されています。公式解答例では「利用者の健康づくり」と示しており、15字以内でこの目的を答えます。採点講評では「利用者の体験価値」や「サービスデザイン思考」といった解答が散見されたと指摘しています。ここでは、開発で用いるアプローチや広い概念ではなく、新サービスが実現しようとする具体的な成果を読み取ることが重要です。

設問4(3)

〔新サービスの開発方針〕には、全ての機能を一度に開発せず、利用者からのフィードバックを分析し、改善と軌道修正を繰り返して段階的に機能を拡充すると記されています。この方針を実行するには、リリース後の変更や追加に対応しやすいシステム構造が必要です。公式解答例では「段階的に新サービスの機能を拡充させることにしたから」と示しています。30字以内では、段階的な機能拡充という開発方針を押さえます。新製品の発売日に間に合わせる事情だけでなく、継続的な改善と追加開発につながる理由を述べます。

学習のポイント

本文の部署別の役割と表中の利用者ニーズを根拠に、機能の目的を説明する練習が重点です。開発のアプローチと、新サービスが利用者にもたらす成果を区別して読み取りましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和元年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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