SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

平成27年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 業務委託管理システムの導入に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 D社は中堅のソフトウェアベンダであり,ソフトウェア開発業務の一部を,協力会社に委託している。D社では,社内で管理システムを使用して,見積り,発注及び検収を行っている。現在,協力会社への業務委託で直面している問題を解決するために,管理システムを拡充し,協力会社と情報を共有するために双方で利用する業務委託管理システム(以下,新システムという)を構築することにした。 〔現在の業務委託管理に関する業務の概要〕 D社では,業務委託に関する社内規程に基づき,まず,継続的に取引可能と判断した協力会社(以下,委託先という)と基本契約を締結する。次に,業務委託を行う個別案件ごとに個別契約を締結する。個別契約は,D社が注文書を発行し,委託先から注文請書を受領することによって成立することが,基本契約書に記載されている。 また,個別案件ごとに,案件に責任をもつ部署の部長(以下,管理責任者という)と,案件の委託に責任をもつ社員(以下,委託責任者という)が定められる。 D社では,業務委託管理に関する業務を次のように実施している。 (1)見積依頼:委託責任者は,案件番号,案件名,委託期間,委託内容,納品物,納品場所,納期,発注部署,委託責任者名及び管理責任者名を管理システムに登録し,見積依頼書を出力して委託先に提示する。委託先は,見積依頼書の内容を確認し,見積書を作成して提出する。 (2)見積受領:委託責任者は,委託先から受領した見積書の内容を確認し,見積内容及び確認結果を管理システムに登録する。見積内容を承認しない場合は差し戻し,再度見積書の提出を求める。見積書を差し戻した場合でも見積内容及び確認結果の履歴は残す。 なお,見積依頼及び見積受領の過程で,案件が中止になることもある。 (3)注文:委託責任者は,見積内容を承認すると,見積書に基づいて注文書を作成する。注文書には,見積依頼書及び見積書に記載された内容に,委託金額,検収予定日及び支払予定日が追記され,この内容は管理システムに登録される。その後,管理責任者が,見積り及び注文の内容を審査し,承認又は否認を行う。否認した場合は,委託責任者に見積内容を再度確認させる。承認した場合は,注文書を発行し,委託先に注文する。委託先は注文書の内容を確認し,注文請書を発行して開発に着手する。委託責任者は,注文請書を受け取ると,委託先が開発に着手したとして,納品を待つ。 (4)納品受領:委託先は,開発作業が完了すると納品する。委託責任者は,納品物を受領し,確認を行う。注文書に記載された納品物と一致していれば,承認して納品年月日を管理システムに登録し,一致していなければ差し戻す。納品物を差し戻した場合でも納品の履歴は残す。納品物の内容,品質などの確認は,次工程の検査以降で行う。 なお,D社では個別契約は納期ごとに締結し,納期が異なる場合は別の個別契約を締結する。 (5)検査,検収,請求及び支払についての記述は省略する。 (6)各書類には,作成者が日付を記入し,署名する。承認が必要な書類には,承認者も日付を記入し,署名する。 〔新システムの業務要件〕 D社では,業務委託管理に関する業務を改善するために,情報システム部のE課長に,現在の業務の課題を整理した上で,新システムの業務要件をまとめるように指示した。 そこで,E課長は,関係部署にヒアリングを行い,その結果を基に,新システムで新たに実現すべき業務要件を次のようにまとめた。 (1)委託先とは郵送で書類をやり取りしており,最速でも1日掛かる。そのため,書類の再提出などがあると,案件の開始が遅れることがあるので,書類のやり取りに掛かる時間を短縮する。 (2)見積書から注文書への転記作業,注文書から注文請書への転記作業でミスが発生しているので,転記作業を削減する。 (3)案件の開始から完了までの経緯について追跡調査を行いたい場合,全ての書類の日付及び署名を確認しなければならないので,新システムで追跡できるようにする。 (4)新システムでは委託先と情報を共有することになるが,社内の手続の状況は委託先に開示されないようにする。 E課長は,これらの業務要件を満たすよう,新システムの設計に着手した。 〔新システムの設計〕 E課長は,新システムを,D社と委託先とをネットワークで接続したオンラインシステムとし,委託先に表示するトップ画面(以下,委託先トップ画面という)を最初に設計した。設計した委託先トップ画面のイメージを,図1に示す。委託先トップ画面には,委託先が遅滞なく手続を進められるように,次の一覧を表示する領域を設けた。 (1)通知案件一覧:ある案件に対して,D社が処理を完了したことによって委託先が対応すべき作業が発生した場合,そのことを委託先に知らせるために,委託先に電子メール(以下,メールという)を送信し,当該案件を通知案件一覧に表示する。例えば,D社が見積依頼入力を完了すると,委託先にメールを送信し,同時に通知案件一覧の欄に当該案件を表示する。 (2)未済案件一覧:委託先が作業を行うべき状態になっている案件で,通知案件一覧に表示されていない案件を,未済案件一覧に表示する。 図1 委託先トップ画面のイメージ 新システムでは,案件の開始から完了までの作業の進捗状況をステータスで管理し,案件ごとにD社と委託先にそれぞれステータスを設ける(以下,それぞれをD社ステータス,委託先ステータスという)。それぞれの作業の進捗状況は別々に管理され,委託先トップ画面に表示するステータスは,委託先ステータスである。 D社ステータス及び委託先ステータスの遷移とそれぞれの遷移の契機となるイベントを,状態の遷移として図2に,新システムの主要ファイルの主な属性を表1に示す。ここで,図2では案件中止,納品差戻し及び検査以降の遷移は省略している。また,図中の状態番号は,D社ステータスと委託先ステータスの組合せによる一意の状態に対して,1から昇順に付与した番号である。 図2 状態の遷移(一部省略) 表1 新システムの主要ファイルの主な属性 設問1 委託先トップ画面の設計について,(1)~(4)に答えよ。 (1)新システムでは業務上のある目的から,委託先トップ画面では,ステータスについては委託先ステータスしか表示しないように設計している。その目的を30字以内で述べよ。 (2)委託先トップ画面の通知案件一覧には,ある状態番号に該当する案件を表示する。図2中の状態番号のうち,該当する二つのうちの一つは,〔新システムの設計〕の(1)で例示している状態番号2の案件である。該当するもう一つの状態番号を答えよ。 (3)委託先が対応すべき作業が発生した場合,通知案件一覧にも表示するように設計したのは,どのようなケースを想定したからか。その内容を40字以内で述べよ。 (4)委託先トップ画面の未済案件一覧には,図2中のどの状態番号に該当する案件を表示すべきか。該当する六つの状態番号を全て答えよ。 設問2 図2について,(1),(2)に答えよ。 (1)[a]~[e]に入れる,適切なステータス又はイベント名を答えよ。 (2)図2では,納品差戻しのイベントと,それに伴う状態の遷移の矢印を省略している。矢印の始点と終点に当たる状態番号を答えよ。 設問3 表1について,(1)~(3)に答えよ。 (1)[f],[g]に入れる適切な属性名を答えよ。 (2)見積ファイルの属性に見積履歴番号を設定し,同一見積依頼番号に対する見積履歴を把握できるように設計している。これは,業務上発生するどのようなケースを想定したものか。その内容を25字以内で述べよ。 (3)見積依頼から納品までのファイルに,作成者コードと作成日を属性として設定した目的を40字以内で述べよ。また,その他にも同様の目的で設定した属性が二つある。その属性名を答えよ。
図1 委託先トップ画面のイメージ。委託先向けトップ画面の構成を示す図。通知案件一覧、未済案件一覧、案件照会の検索欄などを配置している。
図1 委託先トップ画面のイメージ。委託先向けトップ画面の構成を示す図。通知案件一覧、未済案件一覧、案件照会の検索欄などを配置している。
図2 状態の遷移(一部省略)。D社ステータスと委託先ステータスの組合せによる状態番号1~15と、見積依頼、注文、納品などのイベントによる遷移を示す図。
図2 状態の遷移(一部省略)。D社ステータスと委託先ステータスの組合せによる状態番号1~15と、見積依頼、注文、納品などのイベントによる遷移を示す図。
表1 新システムの主要ファイルの主な属性。案件管理、見積依頼、見積、注文、注文請、納品、検査、検収の各ファイルと主な属性を一覧化した表。
表1 新システムの主要ファイルの主な属性。案件管理、見積依頼、見積、注文、注文請、納品、検査、検収の各ファイルと主な属性を一覧化した表。
解き方のヒントを見る

用語の意味と対象範囲をそろえる

検討を始める前に、記述されている用語が何を指すのかに注目しましょう。同じ言葉でも、文脈によって対象の範囲が違うことがあります。自分の経験で意味を補わず、与えられた条件の中で捉えることが大切です。

この問題で問われていること

この分野では、複数の情報を関連付ける際に、同じ対象を指しているつもりで別の範囲を捉えていないかを確認します。まず一つの用語に絞り、その意味を与えられた条件に沿って説明できるか考えてみましょう。

視点

用語を見慣れていることと、その場での意味を把握していることは別です。一つの用語に注目し、何を指す言葉として扱っているかを短く整理すると、考える途中で対象の範囲がずれていないかを確認しやすくなります。

確認ポイント

  • 注目する用語が指す対象を意識したか
  • その対象の範囲を途中で広げたり狭めたりしていないか
  • 意味の説明に、与えられた条件にない前提を加えていないか
正解と解説を見る

解説

業務委託の手続を基に、社内状況の非開示、作業の見落とし防止、当事者別の状態遷移、書類間の関連付け、差戻し履歴と追跡調査のための属性を設計する問題です。

問題の全体像

D社は、社内だけで使っていた管理システムを拡充し、開発業務の委託先と共有するオンラインシステムを構築します。課題は、郵送による遅延、転記ミス、案件経緯の調査負担です。同時に、社内手続の状況を委託先へ開示しない要件もあります。出題趣旨では、利用者の業務要件を理解し、外部設計と内部設計へ具体化する能力を評価するとしています。画面の表示条件、イベントによる状態遷移、ファイルの関連と履歴管理を、本文の業務に結び付けて読むことが要点です。

設問1(1)

〔新システムの業務要件〕(4)の「社内の手続の状況は委託先に開示されないようにする」に着目します。図2のD社ステータスには、見積内容確認中や注文承認待ちなどの社内手続が表れます。委託先ステータスだけを表示すれば、その詳細を委託先に示さずに済みます。公式解答例では「社内の手続の状況が委託先に開示されないようにするため」としています。30字以内の答案では、非開示の対象が社内手続の状況であることを明記します。

設問1(2)

通知案件一覧の条件は、D社の処理完了によって委託先の作業が発生することです。状態2では、見積依頼入力の完了により、委託先の見積依頼確認が必要になります。もう一つは、管理責任者の注文承認によって注文書が発行され、委託先が注文内容を確認する段階です。図2では状態9から状態10へ遷移し、委託先ステータスが注文確認待ちになります。したがって、公式解答例では「10」です。

設問1(3)

〔新システムの設計〕(1)では、作業の発生をメールで知らせると同時に、通知案件一覧にも表示します。この併用が必要になるケースを答えます。公式解答例では、委託先がメールを見落とし、対応すべき作業の発生に気付かないケースを挙げています。40字以内では「メールの見落とし」と「作業発生に気付かない」を結び付けます。採点講評では、差戻し時にメールが送られない、オンライン化後も郵送に時間が掛かる、といった問題文にない想定への注意を示しています。

設問1(4)

未済案件一覧は、委託先が作業を行うべき状態にあり、通知案件一覧には表示されていない案件が対象です。図2の右側にある委託先ステータスを追うと、状態3は見積入力待ち、4は見積入力中、11は注文請入力待ち、12と13は委託開発中、14は納品入力中です。状態2と10は通知案件一覧の対象なので除きます。状態12ではD社が注文請の確認を待っていても、委託先は既に開発を行う段階です。公式解答例では「3、4、11、12、13、14」です。

設問2(1)(a)

図2の凡例では、斜線の左がD社ステータスです。状態3から状態4へのイベントは、委託先による見積入力です。その間、D社は見積りの提出を待っており、状態5へ進む見積入力完了までは確認作業を開始できません。したがって、状態4のD社ステータスについて、公式解答例では「見積待ち」としています。

設問2(1)(b)

空欄bは状態4の委託先ステータスです。直前の状態3は見積入力待ちで、見積入力のイベントによって状態4へ進みます。その後、見積入力完了によって状態5の見積送信済へ進むため、状態4は入力作業を行っている途中です。公式解答例では「見積入力中」としています。

設問2(1)(c)

空欄cは、状態9の注文承認待ちから、状態10の注文請待ち/注文確認待ちへ進むイベントです。〔現在の業務委託管理に関する業務の概要〕(3)では、管理責任者が承認すると注文書を発行し、委託先へ注文するとあります。この承認が、委託先の注文確認を開始させる契機になります。公式解答例では「注文承認」としています。

設問2(1)(d)

空欄dの矢印は、状態9から接続記号Bを経由し、状態6の見積内容確認中へ戻ります。本文の注文業務では、管理責任者が注文を否認した場合、委託責任者に見積内容を再度確認させるとあります。図の戻り先がこの業務に対応するため、公式解答例では「注文否認」としています。委託先に見積りを再提出させる見積差戻しとは区別します。

設問2(1)(e)

状態11から状態12へ進むイベントは注文請入力完了で、状態12から状態13へ進むイベントはD社による注文請確認です。したがって、状態12では委託先が注文請書を提出して開発に着手していても、D社はまだその確認を待っています。公式解答例では「注文請確認待ち」としています。採点講評では「納品待ち」という誤答が多かったとし、次のイベントがD社の注文請確認であることに着目するよう示しています。

設問2(2)

納品差戻しは、D社が納品物を確認し、注文書に記載された納品物と一致しない場合に行います。確認を行っているのは状態15の納品物確認中なので、矢印の始点は15です。差戻し後は委託先が再び作業を行い、D社は納品を待つ段階へ戻ります。この組合せは状態13の納品待ち/委託開発中です。公式解答例では、始点を「15」、終点を「13」としています。

設問3(1)(f)

本文の注文業務では、承認した見積書に基づいて注文書を作成します。表1の注文ファイルには、その注文がどの見積りに基づくかを関連付ける属性が必要です。見積ファイルの主キーは見積番号なので、これを注文ファイルに持たせることで、元の見積内容を参照できます。公式解答例では、空欄fを「見積番号」としています。

設問3(1)(g)

納品受領では、納品物が注文書に記載された納品物と一致するか確認します。そのため、納品ファイルには、どの注文に対する納品かを関連付ける属性が必要です。表1の注文ファイルの主キーは注文番号であり、納品ファイルにこれを持たせれば対象の注文を参照できます。公式解答例では、空欄gを「注文番号」としています。

設問3(2)

本文の見積受領では、見積内容を承認しない場合に差し戻し、再提出を求め、差戻し前の内容と確認結果も履歴として残します。同じ見積依頼に対して提出が繰り返されるため、見積履歴番号が必要になります。公式解答例では「見積りの差戻しによって再提出が発生するケース」としています。25字以内では、差戻しによる再提出という具体的なケースを示します。採点講評では、納期や見積条件の変更は新たな案件番号や別レコードにつながるとして、この履歴の説明と混同しないよう示しています。

設問3(3)

〔新システムの業務要件〕(3)では、案件の開始から完了までの経緯をシステムで追跡できるようにするとあります。現在は書類の日付と署名を確認する必要があるため、作成者コードと作成日を保存し、誰がいつ作成したかを追えるようにします。公式解答例では、目的を「案件の開始から完了に至るまでの経緯についてシステムで追跡調査を行うため」としています。40字以内では、案件全体の経緯をシステムで追跡する目的を示します。同様に、誰がいつ承認したかを残す属性として、公式解答例では「承認者コード」と「承認日」を挙げています。

学習のポイント

業務要件と図表を対応付け、作業主体、遷移の契機、履歴を残す理由を区別して読み取ることが重点です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成27年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

関連する過去問一覧

IPA Advancedは非公式の学習サイトです。解説にはAIによる補助生成を含む場合があります。公式の問題冊子・解答例・採点講評を優先し、誤りは確認後に訂正します。運営・編集方針