SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

平成26年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 遠隔操作可能な手術支援システムに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 E社は医療機器メーカであり,医師が手術室内で内視鏡からの映像を確認しながら手術ができる手術支援システムを開発し,販売している。このシステムを用いた手術では,医師の手が直接患者に触れることがないので,環境などの条件が整っていれば,離れた場所からでも遠隔操作で手術ができる。 離島,沿海地域など,陸上からのアクセスが困難な地域における医療の質を向上させるために,医療機器を装備した船舶(以下,病院船という)を巡回させて医療を提供する構想の具体化が予想される。E社は関連メーカとして,病院船に搭載することを想定した,遠隔操作可能な手術支援システム(以下,遠隔手術システムという)の実証システムを新たに開発することになった。 〔現在の手術支援システムの概要〕 最近の手術では,患者の負担を減らすために,内視鏡を用いた方法が普及している。この方法は,患者の身体の表面に小さな穴を数か所開け,内視鏡と医療器具をそれぞれ別の穴に挿入し,医師が内視鏡からの映像をモニタで確認しながら医療器具を操作して手術を行うというものである。 E社の手術支援システムは,内視鏡と医療器具の操作をマニピュレータで行う。医師は,内視鏡からの映像を表示するモニタ(以下,内視鏡モニタという)で確認しながら,マニピュレータを操作する。医師が操作する側のマニピュレータをマスタマニピュレータ,患者の身体に挿入する側のマニピュレータをスレーブマニピュレータと呼び,スレーブマニピュレータの先端部には,内視鏡,メス,鉗子などが取り付けられている。マニピュレータの操作には専門の高度な技術が必要で,操作できる医師は限定される。 〔遠隔手術システムの開発目標〕 遠隔手術システムの開発は,E社のシステムアーキテクトであるF氏が担当することになった。F氏は開発に当たり,医療機関の要望を調査・検討し,開発目標を次のようにまとめた。 ① 手術を担当する医師(以下,執刀医師という)が病院船内にいなくても,患者に対して手術ができる。 ② 病院船内の手術室にはサポートの医師,看護師,助手を配置し,通常の病院と同じように執刀医師とコミュニケーションをとりながら手術を進めることができる。 ③ より正確な手術がしやすいように,内視鏡モニタは3D化する。 ④ 映像,データなどの通信を必要とするので,病院船と地上との間は無線による通信回線を利用する。 ⑤ 執刀医師のストレスを減らすために,マニピュレータの操作が内視鏡モニタに表示されるまでの遅延時間が短くなるようにする。 ⑥ 病院船に設置するので,手術時の揺れ,振動の影響をできるだけ少なくする。 〔遠隔手術システムの概要〕 F氏は,遠隔手術システムの概要を次のように考えた。 ① 現在の手術支援システムを基に,遠隔手術システムを開発する。病院船から離れた場所(以下,遠隔オペレーション室という)でも手術ができるように,必要な装置・器具を手術室と遠隔オペレーション室に装備し,両者を連携させる。遠隔オペレーション室と連携させない場合は,手術室内だけで手術ができる。 ② 操作卓(執刀医師が使用する装置・器具を一体化したもの)は,マスタマニピュレータ,内視鏡モニタ,生体データモニタ,手術室モニタなどで構成する。内視鏡モニタは,新たに開発する3D内視鏡モニタとする。 ③ 遠隔オペレーション室には操作卓を設置する。 ④ 手術室には,ベッド,スレーブマニピュレータなどで構成する手術台及び操作卓を設置する。さらに,手術室内のスタッフが内視鏡からの映像,生体データなどを見る統合モニタも設置する。 ⑤ 手術室のスタッフと遠隔オペレーション室の執刀医師とのコミュニケーションをとるために,それぞれの室内映像と音声を相手側に送る。 ⑥ 手術室に設置された操作卓と手術台はLANで接続し,データをやり取りする。 ⑦ 遠隔オペレーション室に設置された操作卓と手術台を接続する通信回線を確保する。 ⑧ 執刀医師は,遠隔オペレーション室に設置された操作卓の3D内視鏡モニタを確認しながら,マスタマニピュレータを操作して遠隔手術を行う。手術室では,スタッフが遠隔オペレーション室の執刀医師の指示に従い,スレーブマニピュレータに器具を取り付けて患者の体内に挿入したり,患者の生体データを得るための処置を行ったりする。 ⑨ 遠隔オペレーション室の操作卓と手術室の操作卓の両方が手術台と接続されたとき,2台のマスタマニピュレータからは同時に操作できないようにする。 〔遠隔手術システムの構成と機能〕 F氏は,遠隔手術システムの構成と機能について検討した。F氏が検討・整理した遠隔手術システムの構成を図1に,操作卓の構成と機能を表1に示す。 図1 遠隔手術システムの構成 表1 操作卓の構成と機能 ・遠隔オペレーション室には,操作卓,及び室内の映像を撮るためのカメラを設置する。執刀医師は,遠隔オペレーション室から操作する。 ・手術室には,手術台,操作卓及び統合モニタを設置する。手術台の構成と機能を表2に示す。統合モニタは,内視鏡からの映像,遠隔オペレーション室の映像,及び生体データの各モニタを一体化したものであり,手術室のスタッフが利用する。統合モニタには,手術室を撮影するカメラ,音声を入力するマイク,及び執刀医師の音声を流すスピーカも組み込まれている。 表2 手術台の構成と機能 〔通信回線の検討〕 遠隔手術で必要とする通信データの種別と内容を,表3に示す。 なお,伝送データ量については,これまでの実験結果から推定できる。 表3 通信データの種別と内容 遠隔手術は,港湾内又は陸地に近い場所に病院船を停泊させて行う。この条件に適合する通信回線の検討では,執刀医師の操作に大きく影響する[c]の伝送遅延及び操作コマンドの伝送遅延を重視した。そのため圧縮処理は,ハードウェアで行うことにする。検討結果は次のとおりである。 ・地上側で高速通信回線を利用できる場合は,屋外用無線LANブリッジを用いて病院船と対向でリンクさせることによって,数km以内での高速無線LAN接続が可能である。 ・地上側で高速通信回線を利用できない場合は,地上波の無線データ通信サービスを利用する。 ・通信速度と遅延時間に相違があるものの,いずれの通信サービスも利用できることが分かった。通信速度の相違については,圧縮方法及び圧縮率を変えないで,伝送データ量を変動させる方法も検討する。 〔3D内視鏡モニタの検討〕 内視鏡からの映像を3D化する方法を検討した。検討結果は次のとおりである。 ・左右の目に相当する二眼のカメラで撮影した左右一対の映像を,3Dモニタで見る。このとき,専用の眼鏡を使用して見る方式と裸眼で見る方式があるが,専用の眼鏡は手術に支障を来すので,裸眼方式とする。ただし,裸眼方式の3Dモニタは,見る位置が特定の距離と角度に限定される。 ・裸眼での3D化を実現するためには,映像に画像処理を行ってから3Dモニタに入力する必要がある。ハードウェアによる3D化画像処理ユニットを,データ圧縮処理ユニットとともに手術台の制御部に設置する。 〔安全性及びセキュリティ面の検討〕 緊急時にも患者の安全を確保するほか,操作卓は,第三者が容易に映像を見たり操作したりできなくする対策が必要である。 ・[d]中は,遠隔オペレーション室のマスタマニピュレータを優先する。 ・通信が中断した場合は,制御部からスレーブマニピュレータへの出力を停止して遠隔手術を止め,手術室のマスタマニピュレータの操作を有効にする。 ・緊急時には,手術室のスタッフの判断で,遠隔オペレーション室からの操作を無効にできるようにする。 ・遠隔手術では,患者の身体・健康に関する情報を通信回線上で伝送するので,情報セキュリティ対策として暗号化処理が必要である。 設問1 遠隔手術システムについて,(1),(2)に答えよ。 (1) 表2中の[a],[b]に入れる適切な字句を答えよ。 (2) 遠隔手術の場合,手術室内で操作する場合と比較して執刀医師の操作に影響を与えることになる要因を,40字以内で述べよ。 設問2 〔通信回線の検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の[c]に入れる適切な字句を答えよ。 (2) 画像の伝送データ量を削減する方法として,1秒当たりのフレーム数を減らす方法と,1フレーム当たりの画素数を減らす方法を比較検討する。遠隔手術システムで用いることを考慮して,フレーム数を減らす方法の有利な点及び不利な点を,それぞれ15字以内で述べよ。 設問3 ハードウェアによる3D化画像処理ユニットを,データ圧縮処理ユニットとともに手術台に設置することにした。手術台に設置する利点を25字以内で述べよ。 設問4 〔安全性及びセキュリティ面の検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の[d]に入れる適切な字句を答えよ。 (2) 遠隔手術の場合,手術室のマスタマニピュレータを遠隔オペレーション室のマスタマニピュレータの状態に常に追随させるようにしている。その理由を,50字以内で述べよ。
図1 遠隔手術システムの構成。遠隔オペレーション室(カメラ、モニタ部・マスタマニピュレータ・操作処理部・ペダルを備えた操作卓)と、手術室(操作卓、統合モニタ、スレーブマニピュレータ・内視鏡・ベッド・制御部から成る手術台)を示す構成図。各室内はLANで結ばれ、両室間は通信回線で接続されている。
図1 遠隔手術システムの構成。遠隔オペレーション室(カメラ、モニタ部・マスタマニピュレータ・操作処理部・ペダルを備えた操作卓)と、手術室(操作卓、統合モニタ、スレーブマニピュレータ・内視鏡・ベッド・制御部から成る手術台)を示す構成図。各室内はLANで結ばれ、両室間は通信回線で接続されている。
表1 操作卓の構成と機能。操作卓の装置の機能一覧。モニタ部(3D内視鏡モニタ、生体データモニタ、手術室モニタ、マイク、スピーカ)、マスタマニピュレータ(移動量を検出)、ペダル(器具のスイッチ操作)、操作処理部(絶対位置情報の算出とペダル状態の入力を行い、操作コマンドとして手術台へ送信)。
表1 操作卓の構成と機能。操作卓の装置の機能一覧。モニタ部(3D内視鏡モニタ、生体データモニタ、手術室モニタ、マイク、スピーカ)、マスタマニピュレータ(移動量を検出)、ペダル(器具のスイッチ操作)、操作処理部(絶対位置情報の算出とペダル状態の入力を行い、操作コマンドとして手術台へ送信)。
表2 手術台の構成と機能。手術台の装置の機能一覧。スレーブマニピュレータ(制御部からの信号で器具を動かす)、内視鏡(照明と二眼カメラでの撮像)、ベッド(患者の保持)、制御部(空欄aを受信し、空欄bを動作させる信号とON/OFF制御信号を出力。映像の3D化処理やデータ圧縮処理も行う)。
表2 手術台の構成と機能。手術台の装置の機能一覧。スレーブマニピュレータ(制御部からの信号で器具を動かす)、内視鏡(照明と二眼カメラでの撮像)、ベッド(患者の保持)、制御部(空欄aを受信し、空欄bを動作させる信号とON/OFF制御信号を出力。映像の3D化処理やデータ圧縮処理も行う)。
表3 通信データの種別と内容。通信データ4種の方向と内容。3D内視鏡映像(手術室→遠隔オペレーション室)、操作コマンド(遠隔オペレーション室→手術室、絶対位置情報とペダル状態)、生体データ(手術室→遠隔オペレーション室)、室内映像・音声(双方向、圧縮処理済み)。
表3 通信データの種別と内容。通信データ4種の方向と内容。3D内視鏡映像(手術室→遠隔オペレーション室)、操作コマンド(遠隔オペレーション室→手術室、絶対位置情報とペダル状態)、生体データ(手術室→遠隔オペレーション室)、室内映像・音声(双方向、圧縮処理済み)。
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与えられた条件と前提を分ける

設計を検討するときは、与えられた条件と、自分で補っている前提を区別しましょう。普段の知識や経験から当然だと思った内容でも、その場の条件として確かめられるかを意識すると、判断の根拠を整理しやすくなります。

この問題で問われていること

注目したいのは、判断に使う前提がどこから来ているかです。結論を急ぐ前に、根拠としている内容が与えられた条件なのか、自分が補った想定なのかを確かめ、両者が混ざったまま考えていないかを振り返りましょう。

視点

知識から思い浮かぶ想定と、与えられた条件は分けて扱います。判断の根拠を整理するときは、それぞれの前提の出所を意識してください。

確認ポイント

  • 判断に使う前提の出所を確認したか
  • 与えられた条件と自分の想定を区別したか
  • 当然だと思った内容を条件として扱っていないか
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解説

遠隔手術の装置構成とデータの流れを基に、操作から映像表示までの遅延、解像度と動きの滑らかさの両立、3D化処理装置の共有、緊急時の操作継続を考える問題です。

問題の全体像

E社は、既存の手術支援システムを基に、病院船の患者を地上の遠隔オペレーション室から手術できる実証システムを開発します。執刀医師は3D内視鏡映像を見ながら操作し、病院船のスタッフが手術を支援します。公式の出題趣旨では、医療支援機器の機能性、安全性、効率性などを考慮し、アーキテクチャと機能仕様を策定する能力を評価するとしています。装置の役割、双方向の通信、処理装置の配置、操作権の切替を関連付けて読むことが重要です。

設問1(1)(a)

表2の制御部は、[a]を受信して、患者側の装置を動かす信号を出力します。表1の操作処理部には、スレーブマニピュレータの絶対位置情報とペダルの状態を「操作コマンド」として手術台に送信するとあります。送信側と受信側の機能を対応付けると、[a]は「操作コマンド」です。公式解答例でもこの字句が示されています。

設問1(1)(b)

表2のスレーブマニピュレータは、制御部からの信号によって器具の移動、回転、挟む動作を実現し、器具へのON/OFF制御信号も伝えます。したがって、制御部が動作させる対象である[b]は「スレーブマニピュレータ」です。公式解答例も同じです。医師が動かすマスタ側と、患者側で器具を動かすスレーブ側を区別して読みます。

設問1(2)

開発目標⑤の「マニピュレータの操作が内視鏡モニタに表示されるまでの遅延時間」に着目します。遠隔手術では、操作コマンドが手術室へ伝わり、器具が動き、その結果の映像が遠隔側へ戻って表示されます。採点講評では、単なる「伝送遅延」という記述が散見され、双方向で遅延が生じることを問題文の表現で記述してほしかったとしています。公式解答例に沿った40字以内の答案は「マスタマニピュレータの操作が3D内視鏡モニタに表示されるまでの遅延時間」です。

設問2(1)(c)

表3では、操作コマンドは遠隔オペレーション室から手術室へ、3D内視鏡映像は手術室から遠隔オペレーション室へ伝送されます。執刀医師はこの映像を確認しながら操作するので、映像の到着が遅れると操作結果の確認も遅れます。操作コマンドと対になる重要な伝送データは「3D内視鏡映像」であり、公式解答例でも[c]にこの字句を挙げています。

設問2(2)(有利な点)

比較対象は、フレーム数を減らす方法と、1フレーム当たりの画素数を減らす方法です。フレーム数だけを減らせば、各画像の画素数を保てるので、器具や患部の細部を確認するための解像度を維持できます。公式解答例に沿った15字以内の答案は「解像度を維持できる。」です。採点講評では「画像がより鮮明になる」などの記述が指摘されています。減らす前より画質が向上するのではなく、解像度を保てる点を説明します。

設問2(2)(不利な点)

1秒当たりのフレーム数を減らすと、映像が更新される間隔が長くなり、器具や患部の動きが連続的に見えにくくなります。映像を見ながら細かく操作する遠隔手術では、この動きの見え方が不利になります。公式解答例に沿った15字以内の答案は「動きがスムーズでなくなる。」です。有利な点の解像度と、不利な点の動きの滑らかさを分けて捉えます。

設問3

遠隔オペレーション室と手術室の両方に操作卓があり、それぞれに3D内視鏡モニタがあります。手術台の制御部で内視鏡映像を3D化すれば、その処理結果を両方の操作卓で利用でき、各操作卓に処理ユニットを設ける必要がありません。公式解答例に沿った25字以内の答案は「3D化画像処理ユニットが1台で済む。」です。採点講評では、単に「送信データ量が削減できる」とする解答が目立ったとしています。手術台への配置によって処理装置を共有できる利点を明確にします。

設問4(1)(d)

概要⑨では、2台のマスタマニピュレータから同時に操作できないようにするとあります。安全性の検討では、通常の遠隔操作中は遠隔側を優先し、通信中断や緊急時には遠隔側の操作を無効にして手術室側へ切り替えます。したがって、遠隔側を優先する期間を示す[d]は「遠隔手術」です。公式解答例でもこの字句が示されています。

設問4(2)

通信中断時には手術室側の操作を有効にし、緊急時にはスタッフが遠隔側の操作を無効にできるという記述に着目します。手術室側のマスタマニピュレータを遠隔側の状態に追随させておくことで、切替時に操作状態を引き継ぎ、手術室で操作を継続できます。公式解答例に沿った50字以内の答案は「遠隔オペレーション室からの操作が無効になったとき、手術室で操作を継続する必要があるから」です。遠隔操作が無効になる条件と、手術室で継続する目的を押さえます。

学習のポイント

表の機能と通信方向を結び付け、構成上の判断が応答性、設備数、安全性に与える影響を具体的に説明する力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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