SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

平成25年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 食品製造業の基幹システムの改善に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 食品の製造を行っているF社では,売上拡大への対応,顧客満足度の向上並びに業務の効率化及び省力化を目指し,基幹システムの改善に取り組んでいる。 〔改善対象となった現行の業務及び関連する基幹システムの概要〕 改善対象となった現行の業務及び関連する基幹システムの概要は,次のとおりである。 (1) 受注処理 (a) 得意先からの注文は,翌日出荷分から数週間先の出荷分までまとめて送られてくるが,翌日出荷分の注文だけをシステムに受注登録している。翌々日以降の出荷分の注文(以下,先日付の受注という)は人手で台帳管理している。先日付の受注は,生産計画に反映させるために,受注部門から生産管理部門に集計表が渡されている。 (b) 受注登録時にシステムで与信限度のチェックを行う。与信限度のチェックは,得意先ごとに次の計算式で行っている。 ①今回受注登録額≦与信限度額-前月末売掛金残高-当月売上額+当月入金額 (c) 受注登録後,受注受付順にシステムで製品在庫を引き当てる。製品の欠品時は,受注を一旦取り消し,得意先との間で受注数量変更,納期変更などの調整を行った後,再度受注登録している。 (2) 出荷処理 (a) 製品在庫引当処理後,在庫が引き当てられた注文の出荷伝票を発行している。 (b) 得意先へは,工場内に1か所ある製品倉庫から,製品在庫として先に入庫されたものから先に出荷している。出荷に当たっては,前回出荷した製品の賞味期限は考慮していない。 (3) 製品在庫管理 (a) 製造された製品は,製品倉庫に入庫される。工場部門での製品製造実績登録によって,実在庫及び引当可能在庫の入庫計上をシステムで行う。 (b) 製品在庫引当処理時に引き当てた分について,引当可能在庫の出庫計上をシステムで行う。また,出荷実績登録によって実在庫の出庫計上をシステムで行う。 (c) 製品の賞味期限は,人手で台帳管理している。 (d) 工場での製品の1回の製造単位を,製品ロットという。製品ロットには,一意な製品ロット番号が付与され,システム上で管理されている。 (4) 原材料在庫管理 (a) 原材料は,購買先からの納品・検品の後,工場内に1か所ある原材料倉庫に入庫され,製造現場からの払出し要求によって出庫される。 (b) 原材料の在庫は,原材料倉庫での入出庫実績を登録することによってシステムで管理している。製造現場に未使用分の原材料が残ることがあり,それは人手で台帳管理している。 (c) 購買先からの1回の納品単位を,原材料ロットという。原材料ロットには,一意な原材料ロット番号が付与され,人手で台帳管理している。 (d) 原材料の賞味期限は,人手で台帳管理している。 〔現行システムに対する改善要件〕 業務の改善を検討した結果,現行システムに対して次のような改善を行うことにした。 (1) 受注処理 (a) 先日付の受注もシステムに登録し,未出荷分の受注に対して受注残高管理を行う。受注残高は,得意先ごとに,前回までに入力された受注のうち未出荷分の受注金額合計として算出する。 (b) 今回受注した,先日付の受注も含む金額を,今回受注登録額として,前回までに入力された先日付の受注も加味した与信限度のチェックを行う。 (c) 受注登録されたデータは,基幹システムを構成する既存の生産管理システムに渡す。 (d) 受注に対する製品の引き当ては,翌日出荷分について製品ロット別に行う。 (2) 出荷処理 (a) 賞味期限が逆転するような出荷を防止するために,得意先ごとに,前回出荷した製品よりも賞味期限の日付が新しい製品を出荷する。 (b) 受注数量に満たなくても,在庫がある分だけでも出荷できるような出荷指示を行う。 (3) 製品在庫管理 (a) 製品ロット別の入出庫処理及び在庫管理を行う。 (b) 製品の賞味期限は,システムで管理する。賞味期限切れの製品は処分され,システムの管理対象から除外される。 (4) 原材料在庫管理 (a) 購買先からの入荷検品時に,原材料ロット単位での入庫実績を登録すると同時に,現物と原材料ロット情報を照合できるように,入荷ラベルを発行する。 (b) 原材料倉庫から製造現場への払出し時に,原材料倉庫からの出庫実績を登録する。 (c) 製造現場では,原材料の使用実績と未使用残実績を登録する。 (d) 原材料在庫は,在庫場所ごとに原材料ロット別にシステムで管理する。賞味期限もシステムで管理する。賞味期限切れの原材料は処分され,システムの管理対象から除外される。 〔改善対象システムの主要なファイル一覧〕 現在設計中の主要なファイルの一覧を表1に示す。 表1 主要なファイルの一覧(設計中) 〔製品ロット別在庫引当処理〕 製品ロット別の在庫引当について,図1の製品ロット別在庫引当処理フローに示すような処理を検討している。 図1 製品ロット別在庫引当処理フロー 〔ロット追跡〕 ロット追跡に関して,次の点を検討している。 (1) 出荷実績から,ある製品ロットについて,その製品に使用した原材料ロットの全ての購買先を抽出する手順 手順1:出荷実績から,該当する製品ロット番号のレコードを抽出 手順2:原材料使用実績から,手順1で抽出した製品ロット番号に使用した原材料ロット番号のレコードを抽出 手順3:[c] (2) ある原材料ロット番号について,その原材料を使用した製品を出荷した全ての得意先を抽出する手順 手順1:原材料使用実績から,その原材料ロット番号を使用した製品ロット番号のレコードを抽出 手順2:[d] 設問1 受注処理の改善について,(1),(2)に答えよ。 (1) 先日付の受注を登録するのは,与信管理強化の目的以外に,生産管理システムと連携させ,ある目的を達成するためである。その目的を,15字以内で述べよ。 (2) 先日付の受注を取り込むことによって,本文中の下線①に示す与信限度チェックの計算式を変更する必要がある。計算式の右辺にどのような計算を追加すべきか。15字以内で述べよ。 設問2 原材料在庫管理の改善について,(1),(2)に答えよ。 (1) 改善後のシステムにおいて,管理対象として,ある場所の在庫が追加になる。どの場所のどのような在庫が追加になるか。20字以内で述べよ。 (2) 管理対象となる在庫の追加によって,現在設計中の原材料ロット別在庫マスタに追加すべきキーとなる属性が一つある。その属性を答えよ。 設問3 〔製品ロット別在庫引当処理〕について,図1中の[a],[b]に入れる適切な処理内容をそれぞれ30字以内で述べよ。 設問4 〔ロット追跡〕について,本文中の[c],[d]に入れる適切な手順内容を,表1のファイル名,属性を用いてそれぞれ45字以内で述べよ。
表1 主要なファイルの一覧(設計中)。改善対象システムで使用する受注、出荷、原材料受入、在庫マスタなどの主要ファイルと属性を一覧化した表。
表1 主要なファイルの一覧(設計中)。改善対象システムで使用する受注、出荷、原材料受入、在庫マスタなどの主要ファイルと属性を一覧化した表。
図1 製品ロット別在庫引当処理フロー。翌日出荷予定の受注を読み込み、賞味期限と引当可能在庫数量を確認して製品ロット別に出荷指示または欠品処理を行うフロー図。
図1 製品ロット別在庫引当処理フロー。翌日出荷予定の受注を読み込み、賞味期限と引当可能在庫数量を確認して製品ロット別に出荷指示または欠品処理を行うフロー図。
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明示された条件に立ち返って考える

システム改善の要件を考えるときは、判断の根拠が与えられた条件にあるかを確認しましょう。業務について知っていることと、その場で明示されたことを分けて整理すると、思い込みを抑えて考えられます。

この問題で問われていること

この問題では、要件に関する判断を支える条件がどこにあるかに注目してください。明示された範囲を超えて業務の事情を補っていないかを確かめ、根拠のある理解と自分の仮定を区別することが検討の手掛かりになります。

視点

要件を読む際には、経験や知識から補った事情を、与えられた条件と混同することがあります。考えた内容が何に基づいているのかを振り返り、明示された内容と自分が補った仮定を区別して整理しましょう。

確認ポイント

  • 判断の根拠となる条件を確認したか
  • 明示された内容と自分の仮定を区別したか
  • 要件の意味を根拠のない解釈で広げていないか
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解説

先日付受注を生産計画と与信管理に反映し、製造現場の未使用原材料を在庫場所別に管理する設計を読み解く問題です。製品ロット別の引当てでは在庫不足時の分納に対応し、ロット追跡では実績ファイルをロット番号で結び付けます。

問題の全体像

F社は、売上拡大への対応、顧客満足度の向上、業務の効率化・省力化を目指して基幹システムを改善しています。先日付受注や製造現場の未使用原材料など、台帳管理していた情報をシステムに取り込みます。また、在庫不足時の分納に対応し、賞味期限逆転を防ぎ、製品と原材料のロットを追跡できるようにします。在庫不足時には在庫分だけ出荷指示を行い、残数を欠品として扱う要件です。公式の出題趣旨では、現状と改善要件を正しく理解し、処理設計やファイル設計を行う能力を問うとしています。

設問1(1)

現行の受注処理(1)(a)では、先日付受注を生産計画に反映するため、受注部門から生産管理部門へ集計表を渡しています。改善要件(1)(c)では、登録した受注データを既存の生産管理システムに渡します。この連携の目的は、先日付受注を生産計画へ反映することです。公式解答例では「生産計画へ反映させること」としています。15字以内では、この具体的な目的を押さえます。採点講評では、効率化、省力化、精度向上といった抽象的な解答が散見されたとしています。

設問1(2)

改善要件(1)(a)にある受注残高の定義に着目します。受注残高は、前回までに入力された受注のうち、未出荷分の受注金額合計です。未出荷分は売上として計上されていないため、従来の計算式だけでは、その受注分が与信枠を使うことを反映できません。そこで、右辺から受注残高を追加で差し引きます。公式解答例の「受注残高分を減算する。」は15字以内です。今回受注登録額は左辺に含まれるので、追加で減算する対象は既存の受注残高です。

設問2(1)

現行の原材料在庫管理(4)(b)では、原材料倉庫の在庫をシステムで管理する一方、製造現場に残る未使用分は人手で台帳管理しています。改善要件(4)(c)(d)では、製造現場で使用実績と未使用残実績を登録し、在庫場所ごとに管理します。追加される管理対象は、製造現場の未使用原材料です。公式解答例の「製造現場に未使用で残った原材料在庫」は20字以内で、場所と在庫の内容の両方を示しています。

設問2(2)

表1の原材料ロット別在庫マスタでは、原材料コードと原材料ロット番号が主キーです。改善後は同じ原材料ロットでも、原材料倉庫にある分と製造現場にある分を区別して管理する必要があります。そこで、在庫の所在を識別する属性をキーに追加します。公式解答例では「在庫場所コード」としています。採点講評では、原材料倉庫と製造現場の両方を総称する解答を求めており、「製造現場コード」とした解答が多かったと指摘しています。

設問3(a)

図1では、Xは未引当受注数量を表します。aのYes側は、X全量を出荷指示数量にし、引当可能在庫数量からXを減算して、未引当受注数量を0にする処理です。したがって、Yesとなる条件は、当該ロットの引当可能在庫数量がX以上であることです。公式解答例の条件は「X≦製品ロット別在庫マスタのレコードの引当可能在庫数量」です。30字以内では「X≦製品ロット別在庫マスタの引当可能在庫数量」とまとめられます。採点講評でも、等しい場合を含む「≦」を「<」とした誤りを指摘しています。

設問3(b)

aのNo側は、当該ロットの引当可能在庫数量がXより少ない場合です。改善要件では、受注数量に満たなくても在庫分だけ出荷指示を行います。そのため、bには当該ロットの引当可能在庫数量が入ります。図1の後続処理も、その数量をXから差し引き、当該ロットの引当可能在庫数量を0にして次のロットへ進む流れです。公式解答例では「製品ロット別在庫マスタのレコードの引当可能在庫数量」としています。30字以内では「製品ロット別在庫マスタの引当可能在庫数量」と表せます。

設問4(c)

手順2までに、対象の製品ロットに使用した原材料ロット番号が分かっています。表1で、原材料ロット番号と購買先コードを持つファイルは原材料受入実績です。したがって、このファイルから、手順2の原材料ロット番号に対応する購買先コードを抽出します。公式解答例もこの対応を示しています。45字以内では「原材料受入実績から、手順2の原材料ロット番号に対応する購買先コードを抽出」とまとめられます。対象となる全ての原材料ロットについて抽出する点を押さえます。

設問4(d)

手順1で、対象の原材料ロットを使用した製品ロット番号が分かっています。求めるのは、その製品を実際に出荷した得意先です。表1の出荷実績には、製品ロット番号と得意先コードがあるため、両者を対応付けて抽出できます。公式解答例では、出荷実績から手順1の製品ロット番号に対応する得意先コードを抽出するとしています。45字以内では「出荷実績から、手順1の製品ロット番号に対応する得意先コードを抽出」とまとめられます。対象の全ての製品ロットの出荷実績をたどります。

学習のポイント

改善要件を具体的な計算式、在庫マスタのキー、引当ての分岐条件、実績ファイルの抽出手順へ落とし込む力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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