SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

平成25年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 銀行のATM(現金自動預払機)サービスに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 E銀行は,このたび,国内普通預金口座を対象にした海外ATMサービスを実施することにした。 〔海外ATMサービスの概要〕 (1) 海外ATMサービスを利用できる時間は,24時間365日である。 (2) 海外で共通にATMサービスを提供する国際ネットワーク(以下,海外共通ネットワークという)を使用することによって,世界各国にある海外共通ネットワーク加盟店のATMを利用できる。 (3) 海外ATMで利用できる取引は,現金の出金だけである。現地通貨で払い出し,即時に円に換算して,円貨で口座から引き落とす。 〔E銀行の勘定系システム及び海外ATMサービスのシステム概要〕 (1) E銀行の勘定系システム(以下,E銀行システムという)は,システムメンテナンス時間を除いて常時稼働している。システムメンテナンス時間は,毎週日曜日の23:00から翌月曜日の6:00までである。 なお,曜日・時間は全て日本を基準に示す。 (2) 国内ATMでは,現金の入出金,振込及びカード暗証番号変更サービスが利用できる。国内ATMは,毎週日曜日の21:00から翌月曜日の7:00まで停止している。 (3) 口座の開設,及び顧客名,顧客住所,顧客電話番号などの顧客属性の変更は,平日の8:00から21:00まで支店窓口で受け付けている。 (4) 国内ATMからの出金については,次の条件を全て満たしたときに実行している。海外ATM利用時の出金についても,同様の処理を行う。 ① ATMから送信された出金取引の情報と口座元帳データベース(以下,E銀行元帳という)の店番号,口座番号及びカード暗証番号が一致すること ② カードの盗難又は紛失の設定(以下,事故カードの設定という)がないこと ③ 出金額が支払可能残高の範囲内であること (5) 海外ATMサービスを利用するには,事前に支店窓口又はWebでの申込みが必要である。申込みの受付は,平日の8:00から21:00までとする。 (6) 海外ATMサービスでは,リアルタイムで海外ATMからの出金取引を可能にする。ただし,日曜日の21:00から翌月曜日の7:00までについては,業務提携会社D社に海外ATMサービスの業務代行を委託する。D社は,既に海外でのATMサービスの業務代行を24時間365日実施するシステム(以下,D社システムという)を稼働させている。 (7) D社で代行処理する出金取引の場合も,(4)と同じチェックを行う。 (8) D社で代行処理した出金取引については,代行処理時間終了後に,E銀行システム宛てに送信し,E銀行元帳に反映する。この元帳反映時には,E銀行で(4)のチェックを再度行う。 (9) キャッシュカードを保有している全口座(約5百万口座)のうち,3年間で約5%の25万口座が海外ATMサービスの対象になると予測している。また,海外ATMの1日の出金取引件数は約2、400件,全時間帯でほぼ同様な取引件数になると予測している。 〔ATMヘルプデスクの業務〕 (1) E銀行では,国内ATMサービス稼働時間帯は,ヘルプデスクで,顧客の入出金状況の照会対応,事故カードの設定など各種届出の受付・設定を実施している。事故カードの設定の受付時は,店番号,口座番号,顧客名,顧客住所及び顧客電話番号を確認した上で,設定処理を行っている。 (2) 代行処理時間帯については,ヘルプデスクの業務もD社に委託する。委託内容は,海外ATMサービスを申し込んだ顧客だけについて,D社のヘルプデスクで出金状況の照会及び事故カードの設定を行うこととし,事故カードの設定の受付時は,E銀行と同じ確認をした上で,設定処理を行う。 〔海外ATM利用時の処理概要〕 海外ATM利用時のデータの流れを図1に,曜日・時間帯ごとの処理概要を図2に示す。海外ATMの利用時は,海外共通ネットワーク及びD社システムを経由して,E銀行元帳を更新する。時間帯によって,D社システムで代行処理を行い,D社の代行口座元帳データベース(以下,D社元帳という)を更新する。 図1 海外ATM利用時のデータの流れ 図2 曜日・時間帯ごとの処理概要 代行処理した取引の件数が増加した場合,図2の処理3の開始時刻の見直しを行う。見直しを行わない場合,E銀行元帳に不整合が生じる可能性がある。 〔D社元帳の更新処理の概要〕 D社で代行処理を行うために,海外ATMサービス対象口座(以下,対象口座という)について,E銀行元帳の情報を基に,D社元帳の更新を行う。 E銀行からD社への送信データ及びD社元帳の属性を表1に,D社元帳の更新処理の概要を表2に示す。 表1 E銀行からD社への送信データ及びD社元帳の属性 表2 D社元帳の更新処理の概要 D社元帳は,次の2種類のタイミングで更新を行うことにし,D社元帳の整合性を確保する対応をD社で実施する。 (1) E銀行がバッチ処理で送信したデータについては,全データ受信後にD社元帳を更新する。全データ受信の終了予想時刻は2:00,D社元帳の更新処理性能は3、000件/分である。 (2) E銀行がリアルタイムで送信したデータについては,受信後,即時にD社元帳を更新する。 〔商品企画部からの追加要望〕 商品企画部からの追加要望とその対応を表3に示す。 表3 商品企画部からの追加要望とその対応 設問1 〔海外ATM利用時の処理概要〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 図2中の処理3の開始時刻を見直す必要があるのは,1日の代行取引件数が何件を超える場合か。その件数を答えよ。 (2) 図2中の処理3の開始時刻の見直しを行わない場合,E銀行元帳に不整合が生じる可能性がある。その理由を35字以内で述べよ。 設問2 〔D社元帳の更新処理の概要〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) リアルタイムでの送信時に送信を省略した属性は何か。三つを全て答えよ。また,省略しても問題がないと判断した理由を25字以内で述べよ。 (2) D社元帳の整合性を確保する対応をD社で実施する必要がある。どのような対応が必要か。40字以内で述べよ。 設問3 〔商品企画部からの追加要望〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 表3中の要望1の対応によって,E銀行元帳の更新に影響が出る口座はどのような口座か。35字以内で述べよ。また,影響を回避するために行ったチェック方法の変更内容を25字以内で述べよ。 (2) 表3中の要望2については,当初の仕様のままとした。全口座を海外ATMサービス付与の対象とした場合,どのような問題が発生するか。D社元帳の更新処理の観点から40字以内で述べよ。
図1 海外ATM利用時のデータの流れ。海外ATMは海外共通ネットワークを経由してD社システムにつながる。リアルタイムでの取引はE銀行システムを経てE銀行元帳を更新し、代行処理時間中の取引はD社元帳を更新する。代行処理した取引はD社からE銀行元帳へ反映される。
図1 海外ATM利用時のデータの流れ。海外ATMは海外共通ネットワークを経由してD社システムにつながる。リアルタイムでの取引はE銀行システムを経てE銀行元帳を更新し、代行処理時間中の取引はD社元帳を更新する。代行処理した取引はD社からE銀行元帳へ反映される。
図2 曜日・時間帯ごとの処理概要。曜日・時間帯ごとの処理割当て表と処理概要表。処理1(月7:00~日21:00)はリアルタイムでE銀行元帳を更新。処理2(日21:00~月6:30)はD社が代行処理しD社元帳を更新。処理3(月6:30~7:00)は代行取引を1件/秒で送信し、7:00までに完了させる。注1)①の送信時間は②の処理の影響を受けない。
図2 曜日・時間帯ごとの処理概要。曜日・時間帯ごとの処理割当て表と処理概要表。処理1(月7:00~日21:00)はリアルタイムでE銀行元帳を更新。処理2(日21:00~月6:30)はD社が代行処理しD社元帳を更新。処理3(月6:30~7:00)は代行取引を1件/秒で送信し、7:00までに完了させる。注1)①の送信時間は②の処理の影響を受けない。
表1 E銀行からD社への送信データ及びD社元帳の属性。送信データの属性は店番号、口座番号、顧客名、顧客住所、顧客電話番号、事故カードの設定情報、支払可能残高、カード暗証番号、抽出日時。D社元帳は同じ属性に代行処理中の取引明細を加える。主キーは店番号、口座番号(下線)。注1)抽出日時はE銀行が送信データを作成した日付・時刻。
表1 E銀行からD社への送信データ及びD社元帳の属性。送信データの属性は店番号、口座番号、顧客名、顧客住所、顧客電話番号、事故カードの設定情報、支払可能残高、カード暗証番号、抽出日時。D社元帳は同じ属性に代行処理中の取引明細を加える。主キーは店番号、口座番号(下線)。注1)抽出日時はE銀行が送信データを作成した日付・時刻。
表2 D社元帳の更新処理の概要。土曜日と日曜日の0:00~2:00は、E銀行元帳から対象口座をバッチで抽出して送信する(土曜日は全件、日曜日は土曜日の更新分)。日曜日の0:00~21:00は、属性の変更をリアルタイムで送信し、電文長の制約のため三つの属性を省略する。
表2 D社元帳の更新処理の概要。土曜日と日曜日の0:00~2:00は、E銀行元帳から対象口座をバッチで抽出して送信する(土曜日は全件、日曜日は土曜日の更新分)。日曜日の0:00~21:00は、属性の変更をリアルタイムで送信し、電文長の制約のため三つの属性を省略する。
表3 商品企画部からの追加要望とその対応。要望1は、事故カードの設定を代行処理時間の終了後すぐにE銀行元帳へ反映することで、事故カードの設定を出金取引より先に送信し、チェック方法も変える。要望2は全口座への海外ATMサービス付与だが、大幅な設計の見直しが必要なため当初の仕様のままとした。
表3 商品企画部からの追加要望とその対応。要望1は、事故カードの設定を代行処理時間の終了後すぐにE銀行元帳へ反映することで、事故カードの設定を出金取引より先に送信し、チェック方法も変える。要望2は全口座への海外ATMサービス付与だが、大幅な設計の見直しが必要なため当初の仕様のままとした。
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評価に用いる前提をそろえる

処理の仕組みを検討するときは、評価の前提がそろっているかに注目しましょう。対象とする範囲や状況が途中で変わっていないかを確かめ、同じ条件の下で考えられるように情報を整理することが出発点です。

この問題で問われていること

この問題では、評価の対象にしている範囲や状況を、自分の思い込みで補っていないか確認しましょう。ある条件での判断を別の条件へそのまま広げず、与えられた条件に立ち返って考えることが検討の軸になります。

視点

前提とは、判断を行うときに置いている条件です。考えがまとまらないときは、根拠として与えられた条件と、自分が追加した想定を分けて整理し、評価の途中で前提が変わっていないか確かめましょう。

確認ポイント

  • 与えられた条件と自分の想定を区別できているか。
  • 判断の途中で、対象の範囲や状況を変えていないか。
  • 判断の根拠を、与えられた条件に結び付けられるか。
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解説

海外ATMサービスを継続するための代行処理を題材に、取引の反映順序、バッチとリアルタイム更新の競合、事故カード設定の優先反映による影響、対象口座拡大時の処理能力を検討する問題です。

問題の全体像

E銀行は、国内普通預金口座に24時間365日の海外ATMサービスを追加します。国内ATMの停止時間帯にはD社が出金や事故カード設定を代行し、後からE銀行元帳へ反映するため、二つの元帳の整合性を保つ設計が必要です。図2は代行取引をE銀行へ戻す処理、表1・表2は代行に備えてD社元帳を更新する処理、表3は追加要望による変更を示しています。公式の出題趣旨では、業務要件を踏まえた機能配置とシステム間連携、処理能力を考慮した設計が問われています。どちらの元帳を、いつ、どの順序で更新するかを分けて読むことが解答の軸になります。

設問1(1)

図2の処理3①では、代行処理した取引を月曜日6:30から7:00までに送信し、D社からの送信時間は1件/秒とされています。利用できる時間は30分なので、送信できる件数は30×60×1=1、800件です。したがって、1日の代行取引件数が1、800件を超える場合に開始時刻の見直しが必要となり、公式解答例も「1、800」です。図2の注記により、①の送信時間は②の処理の影響を受けないので、②の処理量を差し引く必要はありません。

設問1(2)

着目するのは、代行取引の送信を完了させる期限と、国内ATMが再開する時刻がともに月曜日7:00である点です。代行取引の反映が7:00以降まで残ると、後から発生した国内ATM取引が、先に発生した代行取引より先にE銀行元帳へ反映される可能性があります。この順序の逆転が、元帳の不整合につながります。公式解答例では「代行処理した取引と国内ATM取引の順序が逆転する可能性があるから」としています。35字以内の答案では、二種類の取引と順序の逆転を押さえます。採点講評では、単に「処理時間内に終了しないから」とする解答が見られたと指摘しており、時間超過が起こす具体的な影響まで説明する必要があります。

設問2(1)属性

表2では、日曜日0:00~21:00に変更が発生した対象口座のデータをリアルタイム送信し、その際に三つの属性を省略するとしています。本文の〔E銀行の勘定系システム及び海外ATMサービスのシステム概要〕(3)と照合すると、顧客名、顧客住所、顧客電話番号の変更は平日の支店窓口でだけ受け付けられます。日曜日には変更されないため、この三つが省略対象となり、公式解答例も「顧客名,顧客住所,顧客電話番号」です。支払可能残高やカード暗証番号、事故カードの設定情報は日曜日にも変わり得るため、同じ理由では省略できません。

設問2(1)理由

省略できる理由は、三つの属性が不要だからではなく、リアルタイム送信を行う日曜日には更新されないからです。顧客名、顧客住所、顧客電話番号は、D社ヘルプデスクが事故カード設定を受け付ける際の確認にも使うため、D社元帳には必要です。ただし、日曜日の変更通知で再送しなくても、既に保持している値を使えます。公式解答例では「三つの属性は,日曜日には更新されないから」または「三つの属性の変更は,平日だけ可能だから」としています。25字以内では、属性が変わらない曜日の条件を簡潔に示します。採点講評でも、関係のない時間帯を理由に記述した解答が指摘されています。

設問2(2)

表2のバッチ送信データは、抽出日の0:00時点の取引までを反映した情報です。一方、日曜日0:00以降の変更はリアルタイムで送信され、受信後すぐにD社元帳へ反映されます。このため、先にリアルタイム更新した口座を、後からバッチで届いた0:00時点の情報で更新すると、新しい情報が古い情報で上書きされます。公式解答例では「リアルタイムで更新した口座は,バッチ処理で受信したデータで更新しない」としています。40字以内では、対象口座とバッチによる上書きの防止を示します。採点講評では、バッチ終了後にリアルタイム処理を行うなど、本文で定めた更新タイミングを変更する解答が指摘されています。指定されたタイミングを保ったまま、古いデータによる更新を防ぐ対応が必要です。

設問3(1)口座

表3の要望1への対応では、取引発生順の送信から、事故カードの設定を出金取引より先に送信する方式へ変更しています。影響を受けるのは、代行処理時間中に出金が成立し、その後で事故カードが設定された口座です。実際の出金時点では事故カードの設定がなくても、E銀行元帳には設定が先に反映されるため、出金取引の再チェック時には事故カードありと判断されてしまいます。公式解答例は「代行処理時間中に出金,事故カードの設定の順で取引をした口座」です。35字以内の答案では、代行処理時間中という条件と、出金から事故カード設定へ進む順序を明記します。

設問3(1)変更内容

本文では、D社で代行処理した出金取引をE銀行元帳へ反映する際にも、暗証番号などの一致、事故カード設定の有無、支払可能残高のチェックを再度行うとしています。しかし、事故カード設定を優先して反映すると、D社で既に成立して現金が払い出された出金まで、再チェックで拒否される可能性があります。その影響を避ける変更として、公式解答例では「事故カードの設定の有無をチェックしない」としています。25字以内では、このチェックの省略を示します。変更の対象は、代行処理済みの出金をE銀行元帳へ反映する際の再チェックであり、出金を受け付ける時点の事故カードチェックとは区別して理解します。

設問3(2)

表2では土曜日に全ての対象口座を抽出し、D社では全データ受信後の2:00から、3、000件/分で元帳を更新します。当初の25万口座なら更新時間は250、000÷3、000≒83分ですが、全500万口座を対象にすると5、000、000÷3、000≒1、667分、約27時間47分となり、更新処理だけで24時間を超えます。したがって、対象口座の拡大によってD社元帳の更新処理が1日では完了しなくなることが問題です。公式解答例では「D社元帳の更新処理時間が大幅に増加し,1日では更新できなくなる」としています。40字以内の答案では、更新処理時間の増加と1日以内に完了できない結果を押さえます。設問が指定するD社元帳の更新処理に焦点を合わせて説明します。

学習のポイント

業務上の変更可能時間とシステムの処理時間を区別し、元帳の更新順序と処理能力から整合性を判断する力を身に付けます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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