PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

令和2年度10月 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 システム開発プロジェクトにおける,プロジェクトチームの開発に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 P社は,ソフトウェア企業である。P社は,主要顧客であるE社から消費者向けのサービスを提供するシステムの機能追加・改善を行うプロジェクトを受託している。 このプロジェクトは,期間は2年間,12名の要員で,4か月間に1回のリリースを合計6回実施するものである。E社は,各リリースで実現したい機能追加・改善の要件を抽出して,当該リリースに向けた作業の着手前にP社に提示している。 プロジェクト開始から10か月たった頃に,E社から“ビジネス環境が目まぐるしく変化している。この状況に適応するために,もっと迅速にサービスを改善して,時間を含めた投下資源に対して十分な価値を提供できるようにしたい。次回委託する予定の2年間のプロジェクトでは,優先的に実現する要件を現在よりも厳選するので,徐々に各リリースの間隔を短縮して,最終的には1~2か月程度でリリースできるようにしてほしい。E社のサービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めていくためにも,長期的な協力をお願いしたい。”との要望が上げられた。 アジャイル開発の経験が豊富なP社のQ課長は,E社からの要望を実現することを使命として4か月前に現在の部署に着任し,プロジェクトマネージャ(PM)の補佐としてE社向けシステム開発プロジェクトチーム(以下,E社PTという)に加わった。Q課長は,このプロジェクトのリリース間隔の短縮を実現するための開発技術面での計画を作成し,その適用についてPMと協議してきた。 プロジェクトのスケジュールを図1に示す。現在は,4回目のリリースが目前となり,5回目のリリースに向けた作業の準備に取り掛かったところである。 図1 プロジェクトのスケジュール ところが,PMが急きょ,介護のために休職することになった。そこでQ課長が,このプロジェクトのPMに任命され,5回目のリリースに向けた作業から指揮をとることになった。任命に当たってP社経営層からは,“重要な顧客であるE社の顧客満足を,しっかり獲得し続けてほしい。現状のプロジェクトチームは今後も維持していく方針なので,長期的な視点で,プロジェクトチームの開発にも取り組んでほしい。”との言葉があった。 〔Q課長の観察〕 Q課長は,リリース間隔の短縮を実現し,E社のサービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めていくという期待に応えるためには,開発技術面での改善に加えて,E社PTの生産性の向上が不可欠だと考えていた。ここでQ課長が認識している生産性とは,“投入工数に対する開発成果物の量”といった開発者の視点から捉えた狭義の生産性ではなく,①顧客の視点から捉えた広義の生産性である。この生産性の向上のためには,E社PTの仕事のやり方とメンバの意識を変えることが必要であり,それらを実現する過程で,成長し続けるプロジェクトチームに変わる可能性も見えてくると考えていた。 E社PTは,仕様管理・検証チームと開発チームの二つのサブチーム(ST)で構成されており,それぞれのSTにリーダ(以下,STリーダという)が配置されている。Q課長は着任後,仕事のやり方とメンバの意識に着目して,E社PTの状況を観察してきた。その内容を整理すると,次のようになる。 ・STリーダ同士,ST内のメンバ同士は1年にわたり一緒に仕事をしてきており,スキルや任務の遂行に関しては互いに信頼がある。 ・過去の開発では,PMの強力なリーダシップとSTリーダをはじめとするメンバの頑張りで,QCDの目標を何とか達成してきた。 ・これまで行動の基本原則について議論したことはなく,PMやSTリーダが都度,状況に応じた判断を下してきたので,ST内のメンバは,自律的に自ら考え判断して行動するよりも,PMやSTリーダの指示を待って行動する傾向が強い。PMやSTリーダの指示は,失敗を回避する意図から,詳細かつ具体的な内容にまで踏み込む傾向がある。 ・STリーダやST内のメンバは,PMが決めた役割分担に基づいてその任務を忠実に遂行しているが,役割分担にこだわりすぎる面もあり,ST間の稼働が不均衡になることがある。例えば,上流工程での仕様の確定に手間取ると仕様管理・検証チームの稼働は高いのに開発チームが待ち状態になったり,テスト工程で不具合の改修が滞ると開発チームの稼働は高いのに仕様管理・検証チームは待ち状態になったりする。また,STを横断したメンバ間のコミュニケーションは少ない。 ・E社PT全体として,直近のリリースのQCDの目標達成に有効な活動は積極的に行われるが,チームワークの改善やメンバの育成など将来に資する活動に使われる時間が少ない。 Q課長は,これらの状況について,メンバはどのように認識しているのか,個別にヒアリングすることにした。その際に,②それぞれの状況に対してQ課長が抱いている肯定や否定の考えを感じさせないように気をつけることにした。 [メンバへのヒアリング] Q課長は,PM着任の挨拶で,“QCDの目標達成は非常に重要だが,一方で次年度からはリリース間隔を短縮する要望に応える計画や,サービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めてほしいという顧客の期待もある。これらについて,まずは一人一人の考えをじっくり聞かせてほしい。”と話し,ヒアリングを開始した。 全てのメンバとのヒアリングを終えて,Q課長は,自分が観察した状況とメンバの認識が合致していたことを確認した。一方,ヒアリング結果から判明した新たな状況があり,それらを次のように整理した。 ・現在の固定化した役割分担は自分の成長につながるのか,このままでリリース間隔の短縮に対応できるのか,という不安をもっているメンバが多かった。 ・上流工程での認識合わせが不十分だったことが原因で手戻りが発生するなど,ST間のコミュニケーションに問題があると考えているメンバがいた。 ・ST内のメンバ同士が,相手の仕事に口を挟むことを遠慮してタイムリに意見交換をしなかったことによって,手戻りが多くなった,という意見があった。 ・メンバがPMやSTリーダの指示を待って行動する傾向は,生産性の向上を妨げる原因になっているようだという認識が,ほぼ全員にあった。 Q課長は,ヒアリング結果を整理した内容をメンバに示し,“顧客の期待に応えるためには,皆で一緒に考え,③ともに学び続けながら,成長し続けるプロジェクトチームになる必要があると思う。そのためには,E社PTの行動の基本原則を全員で議論して合意し,明文化して共有することが大切だと思う。その行動の基本原則に従って,具体的な活動についても検討し,実践していくことにしたいがどうだろうか。”と問いかけた。その問いかけに対する全員の同意を確認した上で,“1週間の期間を設けて何度かミーティングを開催し,今後のE社PTの行動の基本原則と実践する具体的な活動について議論しよう。”と告げた。 〔ミーティングでの議論〕 初回のミーティングはぎこちない雰囲気だったが,Q課長が発言や意見交換を和やかに促していったことで,回を追うごとにメンバは,自分が大切だと思うE社PTの行動の基本原則と実践する具体的な活動についてオープンに議論するようになった。 その結果,メンバの総意として次に示すE社PTの行動の基本原則を決定した。 (i) 顧客の視点から捉えた広義の生産性の向上に継続的に取り組む。そのためには,指示を待つのではなく自律的に行動すること,役割分担にこだわらずに自由にコミュニケートすること,そして全ての機会を捉えて学び続けることを重視する。 (ii) チームワークの改善やメンバの育成など将来に資する活動の時間を確保する。このことは,プロジェクトチームやメンバのためになるだけでなく,生産性の向上を通じて,顧客満足を獲得し続けることにつながる。そして,サービスの提供価値をE社と共創し向上させることは,最終的にE社PTの外部の④ある重要なステークホルダへの提供価値を高め続けることにつながる。 また,次に示す,実践する具体的な活動についても併せて決定した。 (イ)E社PT内では互いに遠慮せず,必要なときにいつでも声を掛け合って,コミュニケーションの質と量を改善する。 (ロ)連携する他のSTの仕事を理解するためと,⑤ある具体的な課題を解消するために,ST間での役割分担を,プロジェクトの途中でも必要に応じて見直す。 (ハ)相互理解を更に深化させて役割の固定化の解消へつなげ,異なる視点から改善のアイディアを得ることを目的として,ST間で【a】を行う。 (ニ)ST内の他のメンバの仕事の内容,進め方及び考え方の理解に努める。ST内で役割の相互補完ができるように努める。 (ホ)行動の基本原則に従って,自律的に,失敗を恐れずに行動し,さらにその結果に責任をもつことに挑戦する。PMやSTリーダはこの挑戦を支援するに当たり,⑥メンバー一人一人の成長のために,これまでとは異なる方法で対応する。 Q課長は,これらの具体的な活動を実践していけば,プロジェクトチームの活動がスムースになり,生産性も向上して,8か月後にはリリース間隔の短縮への見通しも十分に立ってくるだろう,と考えた。 設問1〔Q課長の観察〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)Q課長が認識している本文中の下線①の顧客の視点から捉えた広義の生産性とは,どのようなものか。“【ア】に対する【イ】の大きさ”と表現するとき,【ア】,【イ】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)Q課長は,本文中の下線②で,肯定や否定の考えを感じさせないように気をつけることで,どのようなヒアリング結果を得ようと考えたのか。30字以内で述べよ。 設問2〔メンバへのヒアリング〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)Q課長が,本文中の下線③で“学び続けながら”,“成長し続ける”という方針を示したのは,E社PTをどのような期待に応えるプロジェクトチームにするためか。25字以内で述べよ。 (2)Q課長が,E社PTの行動の基本原則について,全員で議論して合意し,明文化して共有することにしたのは,どのような意図からか。全員で議論して合意することにした意図と,明文化して共有することにした意図を,それぞれ30字以内で述べよ。 設問3〔ミーティングでの議論〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の下線④の重要なステークホルダとは誰か,答えよ。 (2)本文中の下線⑤の課題とは,どのような課題か。15字以内で答えよ。 (3)本文中の【a】に入れる,ST間で行うことを,15字以内で答えよ。 (4)本文中の下線⑥について,どのような方法で対応するのか,30字以内で述べよ。
図1 プロジェクトのスケジュール。前年度から次々年度にわたる現在のプロジェクトの6回のリリース予定と、次回受託予定プロジェクトのリリース間隔短縮を示したスケジュール図。
図1 プロジェクトのスケジュール。前年度から次々年度にわたる現在のプロジェクトの6回のリリース予定と、次回受託予定プロジェクトのリリース間隔短縮を示したスケジュール図。
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与えられた情報と推測を分ける

チーム育成や生産性向上を検討するときは、与えられた情報と、自分が経験や印象から補った推測を分けて整理しましょう。もっともらしさだけで判断せず、考えの根拠がどの情報にあるかを確かめることが大切です。

この問題で問われていること

判断の根拠として使おうとしている内容が、与えられた情報なのか、自分で追加した前提なのかに注目してください。現場での経験や一般的な印象を持ち込んでいないか、判断に使う情報の出どころを一つずつ確かめましょう。

視点

明示された内容と、そこから自分が想像した内容は区別して扱います。判断を整理する際は、推測をいつの間にか事実に置き換えていないかを点検しましょう。

確認ポイント

  • 判断の根拠にした情報の出どころを確認したか
  • 明示された内容と自分の推測を区別したか
  • 経験や印象から前提を付け足していないか
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解説

本問は、サービスの提供価値を継続的に高めるために、指示待ちや役割の固定化を改善し、学び続けるチームを育てる問題です。顧客の視点での生産性を軸に、率直なヒアリング、基本原則への合意と共有、役割の見直し、ローテーション、自律的な行動への支援を結び付けて理解する。

問題の全体像

P社は、E社の消費者向けサービスを改善するシステム開発を受託している。E社は、サービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めるため、次のプロジェクトでリリース間隔を4か月から最終的に1~2か月へ短縮することを求めている。PMに就任したQ課長は、技術面の改善に加え、指示待ち、役割の固定化、コミュニケーション不足、育成時間の不足を改善しようとする。出題趣旨では、チームの状況を的確に把握し、メンバの能力獲得と成長を促す活動を計画する実践的な能力を問うとしている。各設問は、顧客への価値を起点として、現状把握から自律的に学び続けるチームづくりへ進む考え方を確認している。

設問1(1)(ア)

冒頭のE社の要望にある「時間を含めた投下資源に対して十分な価値を提供できるようにしたい」に着目する。「アに対するイの大きさ」のアは、価値を得るために投入する資源に当たる。顧客は改善の迅速さも求めているので、費用や工数だけでなく時間を含めて捉える必要がある。公式解答例では「時間を含めた投下資源」としている。

設問1(1)(イ)

E社が「サービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めていく」ことを求めている点に着目する。イは、投下資源によって得られる成果を顧客の視点で表す部分です。本文は、開発成果物の量による狭義の生産性と区別しているため、作成した機能や成果物の量ではなく、それらが生み出す価値を捉える。公式解答例では「サービスの提供価値」としている。

設問1(2)

Q課長は、自分が観察した状況をメンバがどのように認識しているかを個別に聞こうとしている。ここでQ課長の肯定や否定の考えが伝わると、メンバがPMの意向に合わせて回答し、本来の考えを把握できなくなるおそれがある。そのため、評価を感じさせず、本人の率直な認識を引き出そうとしている。公式解答例では「PMの考えに引きずられないメンバの真の考え」としている。30字以内では、PMの考えに影響されないことと、メンバの真の考えを得ることを押さえる。

設問2(1)

下線③の直前の「顧客の期待に応えるためには」と、E社の「サービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めていく」という要望を結び付ける。学習と成長を続けるのは、変化する状況の中でもサービスの価値を高め続けられるチームにするためです。リリース間隔の短縮は、その期待に応えるための手段として位置付けられる。公式解答例では「提供価値を継続的に高めるという期待」としている。25字以内では、提供価値と継続的な向上を中心にまとめる。

設問2(2)(合意)

Q課長が一方的に基本原則を決めるのではなく、全員で議論し、メンバの総意として決定した点に着目する。メンバ自身が考えを出し合って合意することで、原則の必要性を納得して受け止め、実践に移りやすくなる。公式解答例では「メンバ全員が納得した上で行動に移れるようにするため」としている。30字以内では、全員の納得と、それに基づく行動への移行を押さえる。

設問2(2)(明文化・共有)

観察結果にある、行動の基本原則を議論したことがなく、PMやSTリーダが都度判断していたという状況に着目する。合意した原則を明文化して共有すれば、メンバ全員が共通の基準を参照し、自ら考えて判断できるようになる。公式解答例では「メンバ全員が自律的に行動するための基準とするため」としている。30字以内では、自律的な行動のための基準という目的を示します。合意の目的である納得とは区別して答える。

設問3(1)

冒頭に、E社のシステムが「消費者向けのサービスを提供する」とある点に着目する。P社のチームがE社とサービスの提供価値を共創して高めると、その価値は最終的にサービスを利用する人へ届く。したがって、下線④のステークホルダは「消費者」であり、公式解答例も同じ内容です。採点講評では、顧客や自社の経営層と答えた例に触れ、社会に価値を提供するというプロジェクトの本質的な目的を意識することを求めている。

設問3(2)

観察結果にある、役割分担にこだわりすぎて「ST間の稼働が不均衡になる」という記述に着目する。仕様確定が遅れると開発チームが待ち、不具合改修が滞ると仕様管理・検証チームが待つため、一方に仕事が集中しても他方が支援しにくい。活動(ロ)で必要に応じて役割分担を見直すのは、この偏りを解消するためです。公式解答例では「ST間の稼働の不均衡」としている。15字以内では、稼働の不均衡という具体的な課題を端的に示す。

設問3(3)

活動(ハ)の目的である、相互理解の深化、役割の固定化の解消、異なる視点からの改善アイディアの獲得をまとめて満たす施策を考える。メンバがSTを移って別の仕事を経験すれば、他のSTの仕事を理解し、役割の固定化を緩め、これまでと異なる視点で改善を考えられる。公式解答例では「メンバのローテーション」としており、15字以内に収まる。採点講評では、自由なコミュニケーションやタイムリな意見交換という解答が見られたことに触れ、役割の固定化の解消につながる抜本的な施策が必要だとしている。

設問3(4)

従来のPMやSTリーダが、失敗を回避するために詳細かつ具体的な指示を出していた点と、活動(ホ)がメンバの自律的な行動と結果への責任を求めている点を結び付ける。成長を支援するには、メンバ自身の判断と行動を尊重し、その経験から学ぶ機会を与える必要がある。公式解答例では「自律的な判断と行動を尊重して,学びの機会を与える」としている。30字以内では、自律的な判断・行動の尊重と、学びの機会の提供という二つの要素を押さえる。

学習のポイント

本文の課題と施策の目的を対応付け、合意による納得と明文化による判断基準の共有を区別する。顧客の先にいる消費者への価値と、メンバの自律性を育てる支援にも着目する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和2年度10月 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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